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16.

 来る時にいちゃもんをつけられた門では、ギルドカードを提示する事で特に問題もなく外に出してもらえた。

 なんかあまりにも呆気なくって、いいのか、と思ったのはここだけの話だ。

 俺はとりあえず門の右手に向かって、塀沿いに森に向かって歩いていく。

 まぁ右だろうと左だろうと、塀沿いに門から離れていけば森につくんだけどな。

 とりあえずの行き先は森だが、奥の方に入るつもりはない。

 スキルを使う場所が欲しいだけだから、奥の方に入り込んで魔獣に襲われたりする心配をしないで済むような場所を見つけたいのだ。

 村の裏手に出るとそこに門があった。

 あれ? あそこからも出る事ができたのか?

 なんか遠回りして損した気分になったが、それはそれ、と気持ちを切り替えて森沿いに村から遠ざかるように20分ほど進んだところで方向を森に変更。それから5分ほど森に入った辺りにあったちょっとだけ拓けた場所で周囲を見回した。

 「多分・・誰もいない、よな?」

 いてもきっと俺には気づけないだろうな、と苦笑いを浮かべる。

 それから少し大きな木に背中を凭れさせて座り込んだ。

 「さて、っと。じゃあ・・・多次元プリンター・スクリーン、オープン」

 現れたスクリーンのスキルという文字に触れると、飛び出すようにスミレが飛んできた。

 『コータ様、ずっと待ってましたっっ』

 「おっ」

 顔に直撃するんじゃないかと思うほどの勢いで飛んできたスミレは、そのまま俺の顔の真ん前でホバーリングしながらも、どことなく怒った表情をしている。

 『もう3日以上ですよ。どうして呼んでくれなかったんですか』

 「あ〜・・・悪かったよ。けど、村に住んでるボン爺の家に居候させてもらってたんだよ。流石にそこでスキルを使うわけにはいかなかったんだ」

 『それでもっ・・・今まで何してたんですかっっ』

 「だからさ、スキルが使えなかったんだって。あっ、もしかして、このスクリーンって他の人には見えないのか?」

 『それは・・・判りません』

 スミレでもそれは判んないのか。

 もしボン爺に見えないって言うんだったら、こっそり夜にでもしようかなって思ったんだけどな。

 「試してみるかなぁ・・・いや、でもなぁ・・・う〜ん。こんな事なら神様(カー⚪︎ルおじさん)に聞いとけばよかったかなぁ」

 まあ今更だ。

 「ま、とにかく、スミレ」

 『はい?』

 急に俺に名前を呼ばれて、きょとんとした表情で俺を見返すスミレ。

 「会えて嬉しいよ」

 『コータ様・・・はいっ、私も嬉しいです』

 ああ、これこれ。

 こんなスミレを見ると癒されるよ。

 俺はとりあえずスミレに結界を出てからの話をする。

 村に着いた時の事、ボン爺の家に厄介になっている事、そのボン爺に頼んでいろいろとこの世界の常識を教えてもらっている事、そして昨日ハンターズ・ギルドに入った事、などなど。

 「で、とりあえず今日は常時依頼の薬草を見つける事ができれば持って帰る、っていう理由で村を出てきたんだよ。あそこじゃあスキルをオープンする訳にもいかなかったからさ」

 『・・・いろいろあったんですね、コータ様も』

 「うん。まぁな。だけどスミレがいろいろと考えてくれてたおかげで、ほんっとうに助かったんだ。何度かボロが出そうになったけど、その度にスミレが考えてくれてた設定を思い出しながらなんとかピンチを乗り越える事ができたんだよ、ありがとな」

 『いいえ、微力ながらもコータ様の手助けができたという事は嬉しいです』

 ニコニコと笑みを振りまくスミレは、本当に嬉しそうだ。

 「でもここもいくら森の中だって言っても人目があるだろうし、魔獣とかもいるだろうから、あんまりのんびりとスミレと話してる時間はないよなぁ」

 誰かに見つかると面倒だし、魔獣なんかが出てきたら俺なんかは瞬殺だよ。

 『大丈夫ですよ、コータ様』

 「スミレ?」

 『コータ様がスキルを展開して私がそばにいる間は、私の探索機能で誰かが来ればすぐに判るようになってます。それに狭い範囲ながらも結界を展開する事もできますので、魔獣の心配をする必要はありません』

 「そ、そうなんだ?」

 『はい、ですのでご安心ください』

 胸を張ってぽんとその胸を叩くスミレ。

 そっか、じゃあ安心だな、うん。

 「んじゃさ、これからどうする?」

 『どうする、とは?』

 「だからさ。とりあえずあの結界があった場所から一番近い村にやってきただろ? ハンターズ・ギルドに登録してギルド・カードを手に入れたから、これからはどこの村や町に行っても今回みたいに入れてもらうのに苦労する事はないと思うんだ」

 『コータ様はどうしたいのですか?』

 「う〜ん・・・とりあえず移動、かなぁ。この村もいいんだけどさ、ちょっと田舎すぎんだよ、俺にはさ」

 別に田舎が悪いっていうわけじゃない。ボン爺だって良くしてくれたし、ケィリーンさんもギルドの件では本当にお世話になった。

 いい人がそれなりにいていい村だと思うんだよな。

 「田舎すぎて変化がないって言うか・・・まぁ、もう少し人が多い場所がいいなぁって思うんだけどさ、スミレはどうしたらいいと思う?」

 『私はコータ様がいいと思うようにするのが1番だと思いますけど? それにあちこちを見て回りたいっておっしゃられていましたよね。でしたらとりあえず1年ほどは色々な場所を見て回って、その中で気に入った場所があればそこに落ち着くという事でどうでしょう?』

 「そうだよなぁ・・・とりあえず1年って言う期限をつけて見て回るのがいいかな。もしその間に気に入った場所が見つからなかったら、その時はもう少し見て回ればいいんだし」

 『はい、急いで決める事はないと思いますよ』

 急ぐも何も、俺がこの村に来てまだほんの数日だ。

 まだまだこの世界には俺の知らない場所ばかりだから、どんどん見て回ればいいか。

 「スミレ、この周辺の地図を出せるか?」

 『はい、少々お待ちください・・・はい、これです』

 スクリーンに浮かんできたのは古い時代の地図、といったようなものだった。

 どう見たってこれをみてきちんとした距離を出す事はできないだろう、っていうレベルのものだが、それでもこの世界というものを全く知らない俺には十分だ。

 今はどこにどんな名前の町があるかが判ればそれだけで助かる。

 「え〜っと・・・ここがジャンダ村、だな。って、 ジャンダ村からは道は1本しかないのかよ」

 『そうですね。ここはアーヴィンの森の入口と言われる村ですから。ここより先に進むという事はアーヴィンの森の奥へ行くという事になりますね』

 「じゃあ、この街道を進むと・・・・真っ直ぐ左に行ったところにあるでっかい町は?」

 『それは大都市アリアノですね』

 「大都市?」

 東京みたいなもんか?

 いや、でもあそこまでの人口はいないだろう。

 「そういや、ジャンダ村って、どこの国なんだ?」

 『国、ではないですね。この世界には国という概念はないようです。あえて言うなら自治国家、でしょうか? 大都市を中心として都市、市、町、村となり、それぞれの村や町はいずれかの都市に所属するようです』

 「でもそれだと大都市を中心とした国、なんじゃないのか?」

 『いいえ、村や町や市はいつでも自分が所属する都市、または大都市を変更する事ができます。村や町や市は所属する都市または大都市に税を払う事によってその庇護下に入り、その恩恵として魔獣襲撃時の応援や飢饉の時には食料を配備してもらいます。しかし都市または大都市がそれを怠ると、かれらは違う都市または大都市に鞍替えをするんだそうです』

 スミレも知識として知っているだけの事だからか、きっぱりと言い切るような言い方はしない。

 「でもさ、ジャンダ村みたいな場所だと、都市の鞍替えとかってできないんじゃないの?」

 『そうですね。でもジャンダ村から供給されるアーヴィンの森で取れるものは貴重ですから、ここが所属している都市ケートンはこの村が離れるような真似はしないのではないか、と思います』

 ふぅん、なんか面白い仕組みだな。

 『ちなみに人口が500人以下だと村、1000人以下だと町、5000人以下だと市、10000人以下だと都市、そして50000人以上になると大都市と名称を変えていきます』

 「ジャンダ村の人口は?」

 『375人ですね。ただ、ハンターが常時やってくるので人口は約450人から780人となります』

 「ああ、そういやボン爺が多い時は人口の半分はよそ者だって言ってたな」

 『そうですね、ハンターたちがアーヴィンの森の恵みを求めてやってきますからね』

 つまりそれだけアーヴィンの森の恵みは金になるって事なんだろうな。

 「ここから大都市アリアノまでの間に幾つの町がある?」

 『そうですね・・・主要の町や村は5箇所ですね。ジャンダ村から近い順に、ハンソン村、ニド村、都市ケートン、スペンス町、ポクラン市、それから大都市アリアノ、となります』

 「結構あるんだな」

 『はい、ただ人口が100人以下の村は地図には乗っていませんけどね。一般的な旅人が地道に歩いての移動となると約2ヶ月の道のりだと思いますが、コータ様は歩いての移動は慣れていないでしょうし立ち寄った町に数日滞在されたいでしょうから、3ヶ月ほどはかかると思います。まぁ馬を使えば1ヶ月もかからないと思いますが、コータ様は乗れないんですよね?』

 うん、普通の一般的な日本人は馬なんかに乗れるわけないから、当然一般的な日本人だった俺も歩きになる。でもそうなると半年くらいかけての移動って事だな。

 ってか馬がいるのか、この世界。

 『乗合馬車もありますが、あいにくこの村からは定期便は出ていないようです。ですので、タイミングが悪ければ1ヶ月ほど待たされる事もあるみたいですね。それでも都市ケートンまで出れば大都市アリアノ行きの定期便がありますので、そこまで移動してしまえば手段はいろいろとあります』

 「街道は1本だけ?」

 『そうですね、都市ケートンとジャンダ村を繋ぐ街道は1つだけですが、都市ケートンからは3方向に街道が分かれています。これは都市ケートンに連なる町と村に行く街道ですね。そしてスペンス村まで行けば、都市ゲィランに向かう街道があります。これはスペンス村が都市ケートンに所属しているからです』

 つまり、町や村が所属している都市や大都市と繋がる街道はある、という訳か。

 ただジャンダ村は僻地なので所属できる都市は限られているって事か。

 ま、確かに遠くの都市に所属したら、いざという時の助けが間に合わない事もあるだろうからな。

 「ふぅん、じゃあまあとりあえず行き先は大都市アリアナにしようか。そこまで行く道中にいい場所があればそこに暫く滞在してもいいんだしさ。その間に評判のいい都市を見つけたら、そっちに行き先を変更したっていいんだし」

 『そうですね、私もそれでいいと思います』

 「じゃあさ、いつ出発すればいい? もし明日って言うんだったら、これからすぐに村に戻って準備をするけど?」

 どうせギルドで依頼は受けていないから、もしすぐに異動になっても気楽なもんだよ。

 常時依頼だけを確認しておいてよかった。

 『いいえ、できればコータ様のスキルレベルをあげてから出発していただきたいと思います』

 「俺のスキルレベル? なんで?」

 「今、コータ様のスキルレベルは2ですよね」

 『うん、スミレがそう言ってなかったっけ?』

 スミレがいないと俺には自分のスキルレベルを確認する術はないのに、なんでそんな事を聞いてくるんだろう?

 『それで、ですね。以前説明をしたので覚えていると思いますが、コータ様の多次元プリンターのスキルレベルが3になれば、コータ様は常時スキルを展開しておく事ができるようになります』

 「ああ、うん。そんな事言ってたな」

 でも、それがどうしたっていうんだろう? 

 『つまり、コータ様のレベルが3になれば、私は常にコータ様の傍に姿を現わす事ができる事になります』

 「えっ?」

 『今はコータ様がスキルをオープンした時しかこうやって話をする事はできませんが、レベルが3になれば常時展開が可能なので、いつでも話をする事ができるんです』

 すぐにスミレの言っている事が理解できなくて変な声をあげた俺に、スミレは少し焦れたように説明をしてくる。

 「つまり、何か困った時にいつでもスミレが助けてくれる、って事?」

 『助けられるかどうかは判りませんが、データバンクの知識を利用して助力はできると思います』

 「いやいやいや、それで十分だよ。今だって無理してここまでやってこないとスミレと相談ができないんだから、それを思えばすっごい進歩だよ」

 知らない世界に来たんだよ、俺。1人じゃどうしようもないって判ってる。

 「判った、今から頑張るよ、俺」

 俺は大きく頷いた。






 読んでくださって、ありがとうございました。


Edited 11-19-2017 @ 13:14CT

大都市アリアナへの到達日数を間違えていたので訂正しました。


Edited 04/10/2017 @ 03:41

 俺には自分のスキルレベルを確認する術はないのに →  スミレがいないと俺には自分のスキルレベルを確認する術はないのに

コータはスクリーンがないと確認できないので、ボン爺の前ではスクリーンをだして確認できませんので、上記に変更しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界には国という概念はないって言ってるけど、2話前のダンジョン話でこの国にはダンジョンが無いって言ってたよ?
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