168.
少し気持ちに余裕が出てきたので、感想返信をする時間が持てるようになりました。
今一生懸命返信しているところなので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。 m(_ _)m
まだ翼を動かしてなんとか粘着液を取り外そうとしているグランバザードが見えてきた。
「あそこまで行くのか?」
「そうですね。できれば気絶させたいですね」
「気絶って・・・スミレ、簡単に言うけどさぁ」
「電撃弾や電撃矢を使えば簡単ですよ」
「ああ、そっか」
そういやそうだな、うん。
電気ショックで気絶させるってか。
「グランバザード相手に使えば、データ収集もできますしね」
「あれ? もうデータは十分集めたんじゃないのか?」
「いえいえ、データは集められるだけ集めた方がこれからの研究や開発に役立ちますからね」
ああ、はいはい。
つまりもっともっとデータが欲しい訳ね。
「って事で、ミリー、ジャック、それぞれ電撃用の矢じりと弾を用意しろよ〜」
「わかった」
「俺があっという間に仕留めてやるぜっ」
素直に頷くミリーと、やる気だけは満々なジャック。
それぞれが弓と水鉄砲を構えるのを見て、俺もパチンコ弾の電撃バージョンを取り出した。
「こちらに気づいたようですよ」
3人で準備をしていると、冷静なスミレの声がした。
「もう?」
「こちらを睨んでますよ」
「じゅんびできた、よ」
「俺もだっっ」
2人は殺る気満々。
「おまえら、殺すなよ?」
「痺れさせるんだろっっ」
「だいじょぶ、殺らない、よ」
たぶんね、とちょっと不安な言葉を付け足すミリーと、どう考えても殺ってやると言わんばかりのジャックを見ているとかなり心配なんだけど、まあなんとかなるだろう。
グランバザードは顔の粘着液を半分ほど取り除く事に成功していて、目だけはギラギラさせて俺たちを睨んでいる。
「スミレ、粘着液が結構取れてんだけど、大丈夫なのかな?」
「大丈夫ですよ。まだ自由を取り戻せてませんから、今のうちにやっちゃいましょう」
スミレの軽い“やっちゃいましょう”が“殺っちゃいましょう”に聞こえた俺は、別に聞き間違ってないと思う。
「よ、よし。じゃあ、3人で攻撃するぞ」
「じゃあ、私がカウントダウンしますね。みんな3、2、1、ゴー、ですよ〜。じゃあいきますよ。さん・・にー・・いち・・っっ!」
「伏せろっっっ!」
スミレの号令に合わせて構えてすぐにでも撃つ準備はできていた俺たちは、グランバザードが翼を震わせた瞬間に飛んできた羽から逃れようとその場に倒れ伏した。
もちろん、スミレの結界があるから安全なのは判っているけど、視覚的に飛んでくる鋭利な羽を見ると伏せずにはいられなかった。
キンキンっと羽が結界に当たって弾かれる音を聞きながらも、弾かれる音が聞こえなくなるまでその場に身体を伏せる。
音が鎮まってから、俺はゆっくりと頭をあげる。
「スミレ?」
「大丈夫です。結界が全ての羽を防ぎました」
顔を上げてグランバザードの方を見ると、俺たちとグランバザードのちょうど中間くらいにキラキラと金属のように陽の光を反射する羽が散乱しているのが見える。
「あれ、全部ヤツの羽?」
「そうです。でも余力はありますから、まだまだいくらでも飛ばせるでしょうね」
「スミレ・・・あれ、もしかしてすっごくヤバい魔物だよな?」
「そうですね。おそらくは・・・でも、私の結界がありますから、コータさまたちは安全ですよ」
「スミレ・・・」
「それより、電撃攻撃をした方がいいと思います」
しれっとして安全だと言い切るスミレだけど、どう考えてもグランバザードは俺たちのレベルじゃあ太刀打ちできないレベルの魔物だよな。
ジロリ、と睨んでみるがスミレは俺と目を合わせない。
「ああ、はいはい。ミリー、ジャック、やり直しだ」
「お、おう」
「うん・・わかった」
ちょっと覇気がない2人だけど、さっきの攻撃に度肝を抜かれたままなんだろうな。
「ほら、スミレの結界が俺たちを守ってくれるって判っただろ? ここからなら安全だからさ、頑張ろう」
「うん」
「仕留めるぞ」
「おうっっ」
不安そうなミリーには安心させるように声をかけ、ジャックには気合を入れるように声をかけた。
もたつきながらもミリーが弓を構え、ジャックが銃を構えたところで、スミレが警告する。
「グランバザードが羽を飛ばしてきますっ!」
「2人ともしゃがめっっ! 攻撃が終わったところでこっちからもやり返すぞっっ!」
「わかった」
「おうっ」
3人でそのまましゃがみ込もうとしたところで、スミレの結界が何か金属を跳ね返すような音を立て始める。
金属製の羽がキンキンと音を立てて結界に当たり、カチャンカチャンという地面に落ちていく音。
「スミレ、攻撃が終わったら教えてくれ、こっちも反撃する」
「判りました」
頭を下げたままスミレに頼む。
彼女は自分の結界が鉄壁だという自信があるのか、その場に浮かんだままグランバザードを見ているんだ。
これくらい頼んでも大丈夫だろう。
そのうちキンキンカチャンカチャンが疎らになってきた頃、スミレが俺たちに声をかけた。
「攻撃終了。反撃してください」
「おっけ。ミリー、ジャック、すぐにやれるな?」
「みゃかせる」
「おうよっ」
「よし、いち、にの、さん、ゴーッッ!」
ガバッという擬音が聞こえる勢いで立ち上がると、ミリー、ジャック、それから俺の順で、それぞれの電撃の矢や弾をグランバザード目掛けて放つ。
ミリーの矢はグランバザードの顔に当たり、鳥顔を顰めさせた。
ジャックの水はクチバシに当たりそのままその周辺に電撃を与え、グランバザードのクチバシが電撃でブルブル震えるのが見えた。
そして俺の弾だ。
俺はパチンコじゃなくて打ち上げ用の筒に込めた電撃玉を使ったので、でっかいのがグランバザードにぶつかるのがちゃんと見えた。
一応眉間を狙ったんだけど2人の攻撃が不快だったのか、顔を左右に動かしていたので、左のこめかみ部分に命中した。
途端にバリバリっという電撃の音が響いた。
そして飛び散る火花。
「うぉおわっっ」
「ギュゥウィエエエェェッッッ!」
あまりの火花に驚きの声をあげてしまう。
おそらくそれはグランバザードも同様だったんだろう、同じように悲鳴というか奇声というか、とにかく変な声をあげたかと思うと、そのまま硬直して頭から地面に倒れこんだ。
「や・・やったのか、な?」
「確認します・・・心肺活動は弱くなってますが異常ありません。電撃ショックにより意識は失っているようです」
「そ、そっかぁ・・・」
ああ、なんかマジで疲れたよ。
結構緊張していたみたいで、スミレが意識不明だというのを聞いた途端にその場にへたり込んだ。
「コータ様、用意した粘着縄を出してください」
「あ、ああ、判った」
俺はポーチに触れて束になった粘着縄を取り出した。
これも俺の魔力(?)でできているらしくて、スミレが捕獲後の拘束用に作ったものだ。
「手伝おうか?」
「大丈夫ですよ。それよりも少し休んでから来てくださいね」
「ありがとな」
手伝おうかって声をかけたけど、本当のところそんな元気が残っていなかった俺は、スミレの言葉に甘える事にする。
数回深呼吸をしてからミリーとジャックの様子を見ると、2人とも何かもの言いたげに俺を見ている。
「ミリー?」
「コータ、ずるい」
「へっ・・?」
とりあえずミリーに声をかけると、そんな言葉が返ってきた。
「何がズルいって?」
「あんな武器、ずるい、よ。わたしの矢がヘロヘロに見えた、ね」
「そっ、そうだぞっっ、なんだよあれっっ、ズリいじゃねえかよっっっ」
口々に文句を言うお子ちゃま組。
「ああ、あれか? あれはグランバザード対策としてスミレと作ったんだよ。ほら、グランバザードってデッカいだろ? だからさ、もしかしたら俺たちのいつもの武器だと仕留められないかもしれない、って思ったんだよ」
「聞いていない、よ」
「うん。だってさ、昨日の夜作ったばかりだからさ」
「なんだよっ、俺たちに言えなかったってか?」
「いやいやいや、違うだろ? お前たちはあっという間に寝たじゃん」
うん、いつだって2人は晩飯食って風呂入ったら寝るじゃん。
「そ、それはさ、仕方ないだろっ。お、俺たちだって疲れてんだからさっっ」
「うん、毎日2人とも頑張るもんな、だから寝ればいいんだよ」
「でもコータは、わたしたちが寝たあとも忙しかった、ね?」
「あ〜・・別に忙しかった訳じゃないぞ? ただ、いろいろとちょっとした事をしてただけだよ。今回はスミレが大きくて強力な武器があった方が安全だろうっていうから、スミレに頼んで作ってもらったんだよ」
「そ、なの?」
「うん、そうだよ。だってさ、俺が作ったのは最初の目くらましに使った花火玉だからな」
あれは武器じゃない、ただの目くらましだ。
それにスミレと2人で考えたものだけど、作ったのはスミレだからさ。
「スミレ、すごい、ね」
「うん、さすがスミレさんだ」
なぜか俺がスミレが作ったんだと言ったら、途端に2人は俺に文句を言うのを止めてスミレを褒め始める。
う〜む、なんか納得がいかないぞ。
でもまぁ2人の追求の矛先をよそに向ける事に成功したので良しとするか。
「ほら、そろそろスミレのところに行って手伝おうか」
「みゃかせる」
「わかった」
俺はゆっくりと立ち上がると、2人を促してスミレとグランバザードのところへ行く事にした。
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