166.
翌日早めに起きて朝飯を食ってから、パンジーの引き車で3時間ほど移動。
まだ草がまばらに生えている草原の切れ目辺りにパンジーを停めて、そこからは俺たちは徒歩で更に3時間ほど移動する事になっている。
「1日移動する距離、って言ってたけどさ、本当に1日かかるんだなぁ」
「24時間といった方が良かったですか?」
「いやいや、20時間だろ?」
いくら俺でも覚えてるぞ。スミレ、こっちの世界では元の世界の24時間が20時間で表されてるって説明してくれたじゃん。
まぁ俺としては24時間の方が馴染みがあるんだけどさ。
そんな俺たちの会話に耳を傾けながら、ミリーとジャックは周囲をキョロキョロ見回しながら歩いている。
一応スミレが探索をしてくれているんだけど、2人は自分で確認したいらしい。
ま、索敵のいい勉強になっているみたいだからそれはそれで有りなんだろうな。
「それで、この先にいるんだよな?」
「はい、卵の方は探索に引っかからないので確認できませんが、グランバザードは1羽確認できています」
「なんで卵は探索できないんだ?」
「卵はその場を動かないので、そういう意味での探索には引っかからないんです。生命反応探索にすればかかるかもしれませんが、殻の中という事で反応が弱い上に使用魔力が半端ないのでやりません」
動くものを探索するのであればそれほど大変じゃあないけど、動かないものの生命反応を探すとなると魔力がしこたまいるって事か。
そう言われるとやらないのは判るよ、うん。
なんせ使用する魔力って俺のだもんな。
「なあ、グランバザードってさ、いきなり飛んでくる、とかってないよな?」
「こちらに飛んできても判りますよ」
「まあそうなんだろうけどさ」
でも心配なんだよ。
「スミレ、俺たちはちゃんと結界の中を歩いているんだよな?」
「もちろんです」
「ミリー、ジャック、あんまり俺たちから離れるなよ?」
「わかった」
「知ってるよっっ」
素直なミリーの返事と偉そうなジャックの返事。
ま、この辺もいつも通りだな。
「あとどのくらいで接触する?」
「そうですね・・・今のペースでの移動ですと、1時間ほどでしょうか?」
「なんだ・・・まだ結構距離があるんじゃん」
言ってくれればいいのに、と思ったけど、よく考えると聞いてなかったよ、俺。
「で、グランバザードってさ、岩に紛れているって事か?」
「いいえ、岩の隙間などに卵を産むというだけで、通常はその上空を旋回していたり地面に降りて死骸などを漁っていますね」
「げっ・・・死骸を食うのかよ」
「グランバザードは死肉を好むので、自分で獲物を仕留めるよりはその辺で死んでいる肉の方がいいらしいです。それでも餌が見つからない時は自分で仕留めてから数日放置して食べるようですね」
「マジかぁ・・・・」
「それ、クサい?」
「鼻が曲がるというほどではありませんが、それでもかなりの異臭は覚悟しておいた方がいいでしょうね」
「えぇぇ・・・」
「うげっっ」
がっくりと肩を落としたミリーは、尻尾も力なく垂れ下がってしまった。
ジャックも嫌そうな声をあげて尻尾がヘニョンとしている。
「あ〜・・まあ死骸だもんな、多少臭うのは仕方ないな」
「そうですね。ですが、その臭いがグランバザードがそこにいるという事を教えてくれると思うので、今回は目印の代わりと思うしかないですね」
「うぅぅぅ・・・・わかった」
「仕方ねえなぁ」
ま、この2人が乗り気だったからここまで来てるんだもんな、諦めてもらうしかないさ。
苦笑いを浮かべて2人を振り返る。
「見つからないように結界の中を遮音してるんだろ?」
「もちろんです。ですが、あまり強くすると魔力の歪みが生じますので軽いものに止めてますから、できるだけ音を立てないように気をつけてくださいね」
「それって、今すぐ?」
「いえ・・・音がばれそうなほど近づいたら教えますので、それから気をつけてください」
「おっけ」
「ミリーちゃんとジャックは猫系獣人とケットシーですから大丈夫でしょうけど、コータ様はくれぐれも気をつけるんですよ」
「なんだよ、それ」
「わかった。コータに注意する、ね」
「任せましたよ、ミリーちゃん」
「みゃかせる」
力強く頷くミリーを見て、俺はがっくりと肩を落とした。
なんかさ、このメンバーで俺の扱いがちょっとひどい気がしたのは俺の気のせいだろうか?
まあそれだけ俺の能力が低いと思われてるって事だよな。
う〜〜む。
スミレは言っていた通り、そろそろ音を立てないように、と忠告してきた。
俺たちはスミレ、ミリー、ジャック、そして俺の順で縦に1列に並んで歩き出す。
とはいえそこからでも更に30分は歩く事になると判っていたからか、スミレは疲れない程度のペースで先に進む。
周囲は岩がゴロゴロしていて、なんか殺伐とした雰囲気の風景が広がっている。
「くさい、よ」
「うん、なんかすげえ臭いがしてきた」
足を止めてミリーとジャックが訴えてきた。
「スミレ?」
「かなり近づいたので、餌の臭いがしてきたんだと思いますね」
「ふぅん」
ま、それほど鼻が良くないただの人である俺にはまだなんにも臭わない。
「コータ、くさい、よ?」
「えっ、俺、臭いのか?」
思わず腕を鼻の前に持ってきて、ふんふんと嗅いでみる。
「ちがう、くさいのはあっちだ、よ」
ミリーの言い方はまるで俺が臭いみたいだったけど、聞き直したら臭いがしてくる方向を指出した。
ま、それは俺たちの進行方向だな、うん。
「スミレ、あとどのくらいでグランバザードの姿を確認できる?」
「そうですね・・・もうそろそろ見えてもいいと思いますよ。ちょうどいいタイミングで、今食事中のようです」
「そのどこがいいタイミングなんだよ」
「こちらに意識を向けてないので、近づきやすいんですよ」
ああ、なるほどね。
確かに気づかれずに近づけるのが一番だもんな。
それにしても、食事中、ねぇ。
先を飛ぶスミレの後ろを先ほどよりもゆっくりとしたペースで並んで進む。
「見えましたよ」
「うん、見える、ね」
「でっけぇ」
「あれか・・・マジでヤバそうじゃん」
かなり距離は離れているのに、ゴロゴロ転がっている岩の向こうに食事中のグランバザードが見える。
食事のメニューは知りたくないから口元は目にしないようにする。
「あれはオークでしょうね」
「えっ」
だから何食ってんのか知りたくなかったのに、と思ったと同時に、スミレの言葉に反応して声が漏れてしまった。
「スミレ、オークなんかいるのか?」
「いますね」
今までそんなファンタジー魔物、出てこなかった気がするんだけど?
「場所によりますけど、コータ様からのデータバンクからの知識でいうところのファンタジー魔物は地域限定ですけどいますよ。ただ、ジャンダ村の辺りには住み着いていなかっただけです」
なんだよ、その地域限定って。
お土産じゃないんだからさ。
思わずそんなくだらない文句を言おうとしたその時、視線を感じた俺はグランバザードの方に顔を向けた。
「やべっ」
目が合ったよ。
「こちらに気づいたようですね」
「マジか」
さすがデッカい鳥型魔物だけあって、その眼光は鋭い。
「俺たちは獲物か敵か・・・どう思う?」
「その見極めをしているんでしょうね。獲物と判断すればすぐにでも襲ってくると思います」
「マジか・・あれ、でも獲物と判断したら、あのまま地面を走ってくるのか?」
「いいえ、空に上がってから止めを刺しにくるでしょうね。まあ、それは敵と判断しても同様だと思います。どちらにしても一度上空に上がってからこちらに向かってくるでしょう」
上空に上がられるのはちょっとマズいな。
今はまだ距離が遠すぎて、俺たちが用意した武器は使えそうにないのに、更に距離が遠くなる上空となると俺たちには為す術がなくなるぞ。
それでもすぐに弓を構えるミリーと、銃を構えるジャック。
俺もポーチからでっかい打ち上げ花火の筒を取り出した。
「コータ?」
「なんだよ、それ」
「グランバザード対策の武器だよ」
俺が取り出した筒のデカさに、2人がこんな状況だっていうのに目を丸くして聞いてきた。
「ほら、それよりちゃんと構えとけって」
「わかった」
「お、おう」
聞きたそうにしていたけど、今はそれどころじゃないっていう判断はできるようで、2人はグランバザードの方に体を向き変えてそれぞれの武器を構える。
そんな俺たちの目の前で、グランバザードが大きく翼を羽ばたかせ、それと同時に助走をつけて空へと飛び上がっていった。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。
Edited 05/05/2017 @ 12:22CT 誤字のご指摘を受け訂正しました。ありがとうございました。
草原に切れ目辺りにパンジーを停めて → 草原の切れ目辺りにパンジーを停めて
思わずそんなくだらにあ文句 → 思わずそんなくだらない文句




