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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
ポクラン市脱出、そして移動
164/345

163.

 すみません、今日もネカフェです。

 誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 ただ訂正するまでにもう少し時間をいただければと思います。

 街道に戻らないでそのまま並走するように、ガタガタとパンジーを進める事約2時間。

  俺たちは林と呼ぶには木がまばらな場所にやってきた。

 「あそこにチンパラがいますね」

 「うん、わたしもわかる、よ」

 スミレの声にミリーも頷く。

 「2人ともよく判るなぁ。俺にはさっぱりだよ」

 「お、俺だって判ってたぞっっ」

 「あ〜はいはい」

 おざなりに返事をしたからか、ジャックは引き車の上で地団駄を踏んでいる。

 「コッ、コータッ、ホントだぞっっ!」

 「ほらほら、大声を出すとチンパラが逃げるぞ?」

 「ほんと、ジャック、うるさい、よ」

 「はい、すみません」

 俺にはデカい態度のくせに、ミリーに言われると途端に腰が低くなるジャック。

 相変わらずだよ、こいつは。

 「んじゃ、この辺でパンジーを止めようか」

 「わかった」

 手綱を握っていたミリーはパンジーを停めると、素早く御者席から降りてきた。

 そしてその手には既に弓が握られている。

 る気満々だなと苦笑いを浮かべていると、屋根からジャックが飛び降りてきた。

 こちらも既に手には剣を持っている。

 「ジャック、それじゃないだろ? 水鉄砲を試しに来たんだからさ」

 「おっ、おう」

 慌てて剣を鞘に仕舞い、ジャケットの内ポケットから水鉄砲を取り出した。

 色はスミレの好みで水色www

 大きさは長さ10センチほどの本当に手のひらサイズだ。

 それでもジャックが握るとそれなりの大きさに見えるから、どれだけ彼の手が小さいかが判る。

 「スミレ、結界を頼むよ」

 「既に張ってます」

 「さすが、ありがとな、スミレ」

 「どういたしまして」

 既に結界を張っているって事で、じゃああとは俺たちの準備ができれば狩りを始められるって事だな。

 「何匹いる?」

 「12匹です」

 「小さな群れだな」

 「はい。でもジャックの水鉄砲を試すだけですから十分ですよ」

 「そりゃそうだな」

 とりあえず電撃弾がちゃんと発動するのかどうかを確認するためだから、確かにそんなに数は必要ないか。

 「ミリー、まずはジャックにやらせろよ? そのために来たんだから」

 「・・・わかった」

 「12匹いるんだからさ、ジャックが最初の2−3匹でちゃんと使えるかどうかを確認したら、あとは好きにすればいいんだよ」

 「うん」

 いつものように最初の1匹を仕留められないのが不満のようだけど、いつだって最初の1匹目を仕留めているんだから、今回くらいはジャックに譲ってもらいたいよ。

 でもジャックが上手く扱えるようになれば、もしかしたらミリーと競うようになるかもしれないな。

 競う中に自分が入れない事は、まぁ仕方ない。

 なんせ獣人は反射神経が良すぎるんだよ。

 普通の人間である俺がついていける訳がない。

 「よっし、みんな準備できたか?」

 「うん」

 「おうっ」

 「じゃあ、スミレ、結界を小さくしてくれるかな」

 「判りました」

 周囲を見回して、2人ともる気満々なのを見てスミレに声をかける。

 普段は目では見えないチンパラたちを取り囲んだ結界だけど、この時は薄く白い色をつけて俺たちにもどこに結界があるのかを見せてくれる。

 よく判らないプレッシャーを感じて俺たちの方に誘導されてくるチンパラは、俺たちの姿に気づくと動揺したようにその場で足踏みをしたり警戒の鳴き声をあげるが、この状況は変えられないと理解した途端俺たちに向かって走ってくる。

 「みんなっっ来たぞっっ」

 「みゃかせるっ」

 「おうよっっ!」

 俺たちより1歩前に立つジャックは左手で水鉄砲を構え、その左手を支えるように右手を添えてから照準を合わせる。

 ジャックは右利きなんだけど、右手は剣を握るために空けておきたいというから、それなら左手で構えて剣を持っていても右手で銃を支える事で狙いが定まる、という形をとる事にした。

 「ジャック、お前からだぞっっ」

 「判ってるっっ」

 チンパラがこちらに向かって3秒、それでもまだジャックからは最初の1発が放たれない。

 振り返って見ると、ようやく安全装置を外して構えたところだった。

 あの馬鹿、なんで安全装置を外しておかないんだよ。

 それでもグイッと引き金を引くと、勢い良く水がチンパラめがけて飛び出していく。

 名前は水鉄砲だけど、どっちかっていうとカーウォッシュのプレッシャーノズルを使った感じだな。

 弾はその水に紛れて飛んで行ったのか、俺には見えなかった。

 それでも水が飛んで行った方を見ると丁度水がチンパラにかかるところで、電撃が放たれたのか水が光ったかと思うとそのまま1匹のチンパラが硬直してそのまま倒れた。

 「ジャック、続けて撃てっっ! ミリーも矢を放てっっ!」

 電撃に驚いたのか尻尾を膨らませて硬直しているミリーと、威力に驚いて硬直していたジャックの2人に声をかけると、俺も既に構えていたパチンコの1発目を撃つ。

 ここは俺の新しいパチンコを試す場でもあるから、って事で自動で装填されていく弾を次々と撃っていく。

 ちなみに俺の使っている弾もジャックとは違うけど電撃弾だ。

 こっちは飛んでいく弾だけで水鉄砲のように水は飛んでいかない。

 でも弾が当たったと同時に水が弾けてすぐに放たれる電撃によってチンパラは簡単に倒されていく。

 ミリーとジャックも俺がパチンコでチンパラを仕留め始めたのを見て、慌ててミリーは弓を構えてジャックは銃を構える。

 そうしてほんの5分も経った頃だろうか、全てのチンパラは地面に倒れてしまった。

 「スミレ、これで全部かな?」

 「はい、12匹全て仕留め終えてます」

 「んじゃ、回収」

 俺の言葉でスミレが俺たちを守るように展開していた結界を解除すると、俺は一番近くに倒れているチンパラを拾い上げる。

 ポーチに入れてもいいんだけど、やっぱり死んで血が流れているのをポーチに入れるのはちょっと抵抗があるんだよな。だからどうしても手に下げるようになってしまう。

 重さは30キロくらいなんだけど、それでもこうやってひょいっと持ち上げる事ができるのは、それだけ身体能力が上がっているって事なんだろうな。

 とはいえ、俺よりもはるかに小さいミリーやジャックの方が軽々と持ち上げているのは納得いかないんだけど、まぁ2人は獣人とケットシーだからただの人である俺が敵う訳ないと諦めるしかない。

 3人で手分けして拾い集めてきたチンパラを持ってパンジーのところに戻ると、早速ミリーが主体になって解体を始める。

 俺も今ではそれなりにできると思うんだけど、それでもやっぱりミリーの方が手際がいいんだよ。

 でも次は俺だ。ジャックが一番解体は下手だ。

 ま、ジャックの手が猫の手だから、っていうのが理由なんだろうけどさ。

 「もうそろそろ昼だから、チンパラ食べるか?」

 「いいの?」

 「いいよ。特に依頼を受けている訳じゃないからさ。売れるなら売ればいいって程度なんだから、俺たちが食べるのになんの問題もないよ」

 「だったら、嬉しいか、な」

 途端に嬉しそうに左右に揺れるミリーの尻尾は、遠慮がちな返事をした彼女の本音をしっかり表している。

 「で、ジャック」

 「なんだよ」

 「水鉄砲の調子はどうだ?」

 「調子?」

 「使い勝手が悪いとか、狙いが定まらないとか、一応お前でも扱いやすいようにスミレが考えて作ってくれたんだけどさ」

 「お、おう・・・剣じゃないから、ちょっと戸惑ったけどだ、その・・ちゃんと仕留める事ができたから、いいんじゃないかな」

 ちら、とスミレを見てから、俺に頷きながら感想を喋るジャック。

 「いいんじゃないかな、って事はそれほど使い勝手が良くなかったって事か?」

 「そ、そんな事言ってないだろ。悪くなかったよ、うん」

 なんだよこいつ、相変わらず素直じゃねえなぁ。

 全くはっきり言えよ、と俺が言おうとしたら、スミレがずいっと前に出てきた。

 「悪くなかったという事は、良くもなかったという事でしょうか? もしそうでしたら、作り直さなければならないので渡してくれますか?」

 「えっ?」

 「ジャックが使いやすいように手を入れたいと思います。ただどうしても改良ができないようであれば、今回の武器は諦めようと思っています」

 出してください、と手を差し出すスミレだけど、ジャックは後ろに後ずさってる。

 ばっかだな、こいつ。

 「ジャック、素直に使い勝手が良かった、って認めろよ。スミレもあんまりジャックを苛めるな」

 「でもですね、悪くなかった、なんて言われたらせっかく作ったのに・・・」

 悲しそうな顔をして俯くスミレを見て、ウッとジャックが唸ってから目を彷徨わせる。

 うん、スミレって演技が上手いんだ。

 「あの・・その・・」

 「スミレはさ、ジャックが剣だけだと接近戦しかできないだろうから、ってなんとか遠くにいる獲物を仕留める事ができるようになればいいって、一生懸命頑張って考えてくれたんだよな」

 「そ、そうだったのか?」

 「うん、スミレ、仲間になったジャックの事を気にしてたんだよなぁ」

 ま、嘘だけどさ。

 気にしてたのはどっちかっていうと俺で、スミレは仕方ないって感じだったよ。

 でも興が乗って色々考えてくれたのは本当だからさ。

 「だから、ジャックが使いやすい武器を考えてくれた訳だ」

 「うっ・・・」

 「それを悪くない、っていう程度の感想しかもらえなかったら、そりゃあスミレも苦労が報われないよ」

 「そっ、その・・・凄く使いやすかったですっ」

 「本当ですか?」

 顔をあげて、じっとジャックを見るスミレに、彼はこくこくと頭を上下に振る。

 「うんっ、ほんっとうに使いやすかったですっっ。そのっ、今まで剣だけだったから、なかなか獲物を仕留められなくって、その、ずっと焦ってたから、だから・・・」

 「だから?」

 「これで遅れを取らなくても済むって、その、足手纏いにならないで済むんだ、って嬉しかった」

 尻尾が揺れているのを見ると、本当に嬉しかったんだろうなって判る。

 「だったら最初っから素直にそういえばいいんだよ」

 ぽかっと頭を叩くとバッと俺を振り返るジャック。

 「なんだよ。文句あんのか?」

 「おっ・・ねえよっ」

 「じゃあ、素直にスミレにお礼を言えよな」

 「そっ、そんな事お前にいわれなくったって言うつもりだったっっ」

 すぐにスミレに顔を向けたジャックは、そのまま90度の角度まで頭を下げた。

 「ありがとうございましたっっ」

 「じゃあ、そのままでいいんですね?」

 「はいっ、もちろんですっっ」

 「では、そのままお使いください」

 顔を上げたジャックに、にっこりと笑みを浮かべて告げたスミレ。

 それを見て、ブンブンっと尻尾を動かして嬉しそうに頷くジャック。

 あ〜・・・きっとこのままずっとスミレには頭が上がらないだろうなぁ。

 簡単に手玉に取られてるし、自分のために武器を作ってくれたって言葉で大感謝している様子も見て取れる。

 って事は、どうやらジャックが今後強気に出られるのは俺だけらしい。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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