161.
パチパチと薪が爆ぜる音がする。
それを聞きながら、俺は展開したスクリーンを眺めながら、指先だけを使って時々訂正したり付け足したりしている。
そんな俺の横からスミレがグイッと頭を突っ込んで覗き込んでくる。
「スミレ、そんな風に覗き込まれるとやりにくいんだけど」
「大丈夫ですよ、コータ様」
「いや、俺が大丈夫じゃないんだけどなぁ」
ニコニコしながら俺を見上げるスミレを見ると、それ以上文句は言えない。
思わず小さくため息を吐いてから、俺は最後の仕上げとして機動確認のボタンを押す。
これを使えば出来上がったものを試すんじゃなくて、出来上がる前に実際に使えるかどうかを確認できるんだよ。
これもレベルアップのおかげでできるようになった仕様だ。
「それ、何発組み込めるんですか?」
「ん? 一応5発かな? でも最初の1発分を自分でセットしておけば全部で6発撃てるようになる」
「6発ですか。今までが単発だったから仕留める数が増えそうですね」
「うん、多分ね。それにさ、ちょっと面白い仕様を足そうと思ってるんだ」
「仕様、ですか?」
へらへら〜っと締まらない笑みを浮かべてスミレを見下ろすと、彼女は不思議そうに俺を見上げている。
俺は今、俺が持っている唯一の武器であるパチンコを改良しているんだ。
なんせ俺が使っているのはこの世界に来て最初に作ったパチンコで、あの時の俺のレベルはたったの2。
だけど今の俺はレベル5だから、あの時にはできなかった改良されたパチンコが作れるんじゃないかな、って思ったんだよ。
スクリーンを展開して作るものにパチンコを設定して、それからつけたいな〜って思う機能をいろいろと検索してみたら、それもうパチンコって呼べねえんじゃね? って思うようなものまでできるんだよ。
なので、試しに連発できるような機能を付ける事にしたんだ。
形が今までのY型のV型ではなくて、持ち手となっているIの部分を長くしてその半ばから90度ほど折れ曲がった形にする。パッと見は小さなクロスボーって感じだな、うん。
そして折れ曲がった部分をパチンコの弾を置く場所にして、その下から予備の弾がせり上がってくるようにした。
そのおかげで持ち手の部分に弾を5個詰める事ができるようになった。
それからそのVになったところの下部分から、照準を合わせるための赤い点がついたものが出せるようになり狙いを定めやすくした。これで目で見定める時間が短縮される。
そして、なんと照準ロックシステムまで付ける事ができた。
つまり照準ロックシステムを使い、更に追尾システム自動発動の魔法陣が刻まれた弾を使えば絶対に外さなくなる、って寸法だ。
いっや〜、自分でいうのもなんだけどさ、いいものを作り上げる事ができそうだよ、うんうん。
これなら弾を無駄にする事もないし、なんといっても一発必中だから確実に仕留める事ができる。
「でもコータ様のパチンコの弾だと仕留めきれない獲物もいますよね?」
「うん、まあそうなんだけどさ。でも仕留めきれなかったとしても足止めはできるだろうから、時間稼ぎはできるだろ?」
「まあ、そうですね」
少し考えてから頷くスミレを横目に、俺はパチンコのゴムの強さや長さを調節していく。
なんせゴムは弾を置いた位置まで届くように長めにしないといけないからさ。
「ついでにいろいろな種類の弾も用意しておくか」
「殺傷能力の高い弾も用意した方がいいでしょうね。狙った相手の体の中に入ったら弾けるとか、燃やしつくすとか、確実に仕留められる弾も必要でしょうからね」
「・・・・スミレ、お前一体俺に何と戦わそうとしているんだ?」
体内を燃やし尽くさないと倒せないような獲物ってなんだよ。そんなのが相手になったりしたら、俺なんか1発でやられちゃうぞ、ったく。
「ってかさ、スミレ。お前、一体どんなものを獲物として考えてんだよ」
「えっ? だって、いろいろな獲物がいますよね?」
「いやいやいやいや、だってさ、今までのパチンコを使ったってゴンドランド程度だったら十分殺れたぞ?」
「もっと大きな獲物だっていろいろいますよ? それにダンジョンとかに潜れば威力が強い武器は必須です」
「だ〜か〜ら〜、俺はダンジョンなんかに行く気はないぞ。ってか、なんでそんなヤバいところに行くみたいな話をしているんだよ、全く・・」
スミレは俺に何を望んでいるんだか。
俺はジト〜っとした視線をスミレに向けるが、彼女は俺の方なんか全く見てないから俺の視線に気づいていない。
思わず俺の口から溢れた溜め息すらスミレには聞こえていない。
それどころか、なぜかすごく楽しそうにスクリーンを覗いているんだもんなぁ・・・はぁ。
あまりにも楽しそうだからそれ以上文句をいう事もできず、俺はポチポチと指一本でタイピングを進める。
以前にいろいろな変わった弾を作ったから、そのデータを呼び出せばすぐに作れる。
材料も今までにストレージに貯めたもので作れそうだしな。
「それなんですか?」
「ん〜? これは粘着弾、これが当たるとネバネバした粘着液が飛び出してきて動きを封じ込めるんだ」
「じゃあ、こちらの魔法陣は?」
「そっちは弾が5メートルまで標的に近づくと網が飛び出るようになってる。捕獲用の弾だな」
パチンコの弾自体は大きさが俺の親指の先くらいなんだけど、魔法陣によってそれ以上の大きさのものが飛び出してくる仕掛けを作る事ができるんだよ。
粘着弾は2リットル分くらいの粘着液が出るようになっているし、捕獲網は直径が5メートルほど広がるからそれなりの獲物に使えそうだ。
「それは?」
「うん? ああ、それは水が出るんだ」
「水、ですか?」
「うん、まずは2リットル分くらいの量の水が獲物を濡らすんだ。それから電撃を発するんだよ」
つまり、電気ショックを与える事ができる弾、って事だ。
これは獲物を傷つけずに仕留める事ができないかな、って思って考えついたものなんだ。
「他にもいろいろな弾を考えられているんですね」
「まあな。俺の武器はパチンコだけだからさ、接近戦ができないんだったら接近されないように仕留めなくっちゃって考えたんだ」
「でも私の結界がありますよ?」
「うん、判ってるって。スミレはいつだって俺たちを守ってくれるもんな。でもさ、それでも接近を許さず仕留められるだけの武器は欲しいんだよ」
「なるほど」
まだ完全に納得していないような表情を浮かべているけど、まぁスミレとしては自分を頼って欲しいと思ってるから仕方ないな。
「今夜は無理だけど、ミリーの矢じりも同じような効果の魔法陣を刻んだものを作ろうと思ってるんだ」
「ミリーちゃんには要らないんじゃないんですか?」
「ミリーは俺よりもいると思うぞ?」
「そうでしょうか」
「うん。俺はさ、ほら、神様に普通の人より丈夫な身体を貰ったし、大人だから体力も抵抗力もそれなりにあると思ってる。でもミリーはまだまだ身体も小さいから、確実に獲物は仕留められるようにしないと、もしも、って事があるかもしれないだろ?」
「・・・私の結界は信用できませんか?」
声のトーンが落ちているのに気づいてスミレを振り返る。
「スミレ?」
「私の結界はちょっとやそっとの攻撃ではビクともしませんよ? それでも心配ですか?」
「違うって。スミレの結界は信頼してるよ。なんせライティンディアーの攻撃すら簡単に跳ね除けてたじゃん。あの時より更にレベルが上がっているんだ、って事は結界だってパワーアップしているんだろ? じゃあ、結界が丈夫だって事はわざわざ言われなくったって信じられる」
「でも・・・」
どうやらスミレは俺やミリー武器を強化する事を誤解しているみたいだ。
「俺たちはスミレの結界が安全だって思ってるよ。だけどさ、それはあくまでも結界の中に入っていれば、だって事も判ってる。俺が言いたいのはさ、つい夢中になって結界の外に出てしまう事だってあるかもしれないから、その時にきちんと自分の身を守れるだけの武器を手に持ちたいから強化しているんだよ」
「それは・・でも、私がちゃんと気をつければ大丈夫ですよ」
「うん、そうだよな。スミレは頼りになるよ。だっていつだって助けてもらってるもんな。でもさ、それなりに俺たちが自分を守れるようになればスミレも楽になるだろ? だからさ狩りの時くらいは自分たちで少しは頑張るから、それ以外の時にスミレに頑張ってもらいたいなって」
どう思う? といった視線を向けると、スミレは俺を見上げながら考えているようだ。
以前スミレにもっと頼りにして欲しいと叱られた事もあったけど、でもやっぱり何でもかんでもスミレを頼るのは駄目だと思うんだ。
「だから狩りがスムーズにできるようにするためにも、今スミレに手伝ってもらいたいな」
「えっ?」
「なんかいいアイデア出してくれよ。俺のパチンコの弾とミリーの矢じり用に何かいいアイデアないかな? あっそうだ、ついでにジャックの剣の事でもいいアイデアがあれば出してもらえると嬉しい」
俺の粘着弾とか捕獲弾とかだけじゃなくって、何かもっと面白そうなネタがあれば出せばいいんだよ、うん。
もちろん面白そうなネタものだけじゃなくって実用的なものの方がいいんだけどさ。
「ジャックは剣だからあんまりこういうネタ的な能力をつける事はできないかなぁ。あっ、でも、投げナイフとか作ったらどうかな? 投げナイフに何か仕掛けをつければ、ジャックだって剣が届かないところにいる相手にも何かしらダメージを与える事ができるようになるんじゃないかな?」
投げナイフっていうとサーカスとかで的になっている女性に投げるものしか思いつかない。
でもあの手のナイフだとジャックにはデカすぎるのか?
じゃあサイズを縮小させればなんとかなるか?
粘着弾、捕獲弾、それから電撃弾の3種類の弾をとりあえず100個ずつ作るように設定しながら、ジャックでも使えるような武器を考える。
でもさ、なんにも思いつかないんだよなぁ。
大体さ、ジャックの手は猫と同じなんだよ。あの手でどうやって剣を握る事ができてるのか俺には本当に謎なんだけど、前に作った剣もちゃんと使う事ができてた。
なのでとりあえず今は何かジャックでも使えるようなものを考え付くのが一番で、実際にそれが使えるかどうかはその時に試すしかないって事だ。
ポチッとスクリーンに浮かんだ作成開始のボタンを押すと、目の前に陣が現れていつものように白い光が集まり始める。
「よっし、と。よろしく」
それぞれ100個ずつ皮袋に入った形で出来上がるように設定したので、それまでは手持ち無沙汰だ。
それまで何をするかなと考えていると、そんな俺を見上げるスミレと目があった。
「あの」
「なにかな〜」
「ジャックの武器なんですけど」
「おっっ、なんかいいアイデアあるのか?」
さすがスミレ、すごいじゃん。
「いいアイデアかどうかは判らないんですけど、コータ様の記憶のデータバンクの中に使えるんじゃないかなってものがありました」
「なになに?」
「銃、というものはどうでしょう?」
「銃?」
思ってもいない言葉がスミレから出てきた。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。
Edited 05/05/2017 @ 12:42 誤字の指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
これで目で見定める時間が単勝される。 → これで目で見定める時間が短縮される。
弾けるとか、燃やすつくすとか → 弾けるとか、燃やしつくすとか
思わない言葉がスミレから出てきた。 → 思ってもいない言葉がスミレから出てきた。




