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158.

 朝食を食べてから、俺はミリーとジャックを連れて町に繰り出す。

 昨日の夕食の時にシェリーさんにはもう1泊増やす事を伝えて、その場でお金を払ってあるから今日も1日観光を兼ねてウロウロしようと思っている。

 ま、時間が余ったら昨日の噴水に2人を連れて行けばいっか。

 スミレも見てないから、見せたいしな。

 「コータ、今日はどこ?」

 「ハンターズ・ギルドに行くんだよ。とりあえず何か受けられるような依頼がないか見てみようかなって思ってるんだけど、どうかな?」

 「いらい? うける、よ」

 「おうっ、俺も頑張ってランク上げないとな」

 「まぁ依頼を受けるかどうかはものによるぞ」

 変な依頼を受けても意味ないしな。

 ただまぁいつまでここにいるかは決まってない。

 昨夜、お子ちゃまたちが寝た後でスミレと話し合ったんだよ。

 大都市アリアナにはミリーの叔母がいるという。

 ミリーはまだ叔母に会うかどうか決めかねているんだよな。

 だからスミレと相談して、彼女がどうするかを決めてから大都市アリアナに行った方が良いんじゃないかって事になったんだよ。

 でもまぁいつまでもここにいても仕方ないから、1週間と期限は決めているんだけどさ。

 昨日もミリーにそれとなく聞いたけど、戸惑いの方が大きくて決める事ができなかった。

 「今日の依頼はオレンジ色の依頼掲示板から決めるんだぞ」

 「えぇぇぇ、赤がいい、な」

 「駄目だ。ジャックが黄色だからな。形だけでもジャックに合わせないと駄目だろ?」

 特に規約はないんだけど、黄色のジャックを赤の依頼に連れて行って何かあったらなんて心配するよりは、とりあえずオレンジの依頼を受けた方が俺も楽だからさ。

 「お、俺、大丈夫だぞっ」

 「うん、知ってる。でもな、とりあえずギルドの手前、オレンジにしような」

 「うぅぅ〜・・・わかった」

 「オレンジでがみゃんする、よ」

 とりあえず納得してくれた2人は少しだけ尻尾が垂れて耳もなんとなくへなっとしている。

 ネコミミと尻尾って隠そうとしている感情もバレバレだから、俺的に見ているだけで癒される。

 思わずつつきたい衝動に駆られながらも、遠目に見えてきた石造りの建物についているハンターズ・ギルドの看板が見えてきた。

 「ほら、ついたぞ」

 「ホントだ」

 「さ〜て、どんな依頼があるか楽しみだぜ」

 へっと格好つけて鼻を擦るジャックだけど、ケットシーの彼がするとコメディにしか見えないのは何故なんだろうなぁ、ぷぷぷっ。

 ハンターズ・ギルドの建物は周囲の建物と同じ3階建てだけど、道路に面する幅は倍ほどありそうだ。

 入り口も観音開きのドアで、中に入ると今までのギルドでの閑静さが嘘のようにたくさんの人がいた。

 都市ケートンのギルドの倍ほどの長さのカウンターに並ぶ人の列はどれも10人ずつほど並んでいて、話し声がザワザワとこちらにまで響いてくる。

 人の多さにビビってしまったミリーは俺の手を握ったまま後ろに隠れるから、掴まれていた右腕はまるで犯罪を犯した人が後ろに捻り上げられているような感じになって痛い。

 「ミリー、痛いって」

 「えっと、えっとごめん、ね。でもこわい、よ」

 「うん、判ってる。でも手は離してくれ。捻り上げられると痛い」

 ミリーは俺の手と顔を何度も見てから、ゆっくりと離してくれた。

 でもそのまま彼女の手は俺のシャツの後ろをギュッと掴んでいる。

 ジャックは、と思って見下ろすと尻尾が足の間に入りきっていて、前からでも尻尾が見える。

 「ほらジャック、入るぞ」

 「お、おう・・・」

 俺はジャックの背中に手を当てて中に入るように促して、少し考えてから依頼掲示板に向かう事にする。

 「なんか依頼の数は少ないんだな」

 「そ、だね」

 「お、おう」

 多くのハンターがカウンター並んでいるのを見た感じだと、もっと依頼があってもおかしくないんだけどな。

 俺は2人を連れてオレンジの依頼掲示板に行くと、そのままのんびりと上から順番に依頼を見ていく。

 「チンパラかぁ・・これってオレンジランクの依頼なのか?」

 「ラッタッタある、よ」

 ラッタッタって確かネズミだったよな、あれはできればパスしたい。

 スミレの結界はあるけど、それでもあんまり楽しい狩りにはならないもんな。

 チンパラは小さな鹿って感じの動物で、ミリーが肉が美味しいって喜んでいたやつか。

 でもさ、これってオレンジランクていうより黄色ランクのような気がするのは俺だけか?

 ミリーなんか結構あっさりチンパラ狩ってたぞ?

 でもまあギルドの決めた事に文句は言わないけどさ。

 「薬草は・・あんまりないな。それに知らない薬草の名前しか並んでない」

 「えぇ〜、薬草集めなんかつまんねえよ。やっぱハンターってのは、こう、バシーッと狩りで仕留める獲物が一番だぜ」

 「ばーか、何仕事選んでんだよ。お前は黄色ランクだろ? 黄色は薬草採取がメインなんだよ」

 「うるせえよっ。俺は実力はあるんだよ。ただ今までハンターに登録できなかっただけだろっっ」

 うん、知ってる。

 ただ言ってみただけだ。

 でもさ、態度がデカいジャックをスミレが俺の肩の上から冷ややかに見下ろしている。

 うん、スミレの気持ちも判るんだ。

 だから、俺はスミレが切れる前にジャックの頭に手を置いた。

 「ジャック」

 「な、なんだよっ」

 「おまえがギルドに登録できたのは、俺たち(・・・・)が倒したパラリウムのおかげだ。でも、だ。実際おまえは倒してないよな?」

 「うっ、そ、それは・・・」

 偉そうに胸を張っていたジャックが途端に視線を横に逸らす。

 「俺たちがおまえを見つけたのは、パラリウムを倒した後だもんな。でもだ、俺たちにとってジャックは仲間なんだよ。だから俺はおまえも一緒(・・・・・・)だったからって言ったんだ。本来なら認められなかったって事は判ってるだろ。そのおかげで登録できたんだから、その事に感謝はしても仕事の選り好みはするなよ」

 「判ったよ・・・」

 渋々返事をするジャック。

 「薬草採取だって馬鹿にするもんじゃないんだぞ? 集めた薬草を使えばいろいろなポーションが作れるんだ。あの坑道でおまえが助かったのもそういった薬草採取で集めて作ったポーションなんだぞ」

 「コータに感謝するべ、き。あの時のジャック、とてもえらそうだった、よ」

 そうだったな、俺たちの後をつけてこなかったら、あのままあの場所に放置予定だったよ。

 俺とミリーの両方に言われたせいか、ジャックは少し神妙な顔になる。

 スミレもきっと何か言いたかっただろうが、スミレの体はパンジーの引き車に置いてきている上に、今は人目につかないように姿を消した状態なので言えないんだよな。

 俺はスミレを刺激しないように話題を変える事にする。

 「で、ミリー。なにかいいのがあったか?」

 「なにもない、よ」

 「う〜ん、やっぱりハンターが多すぎるからかな?」

 ポクランは都市ケートンよりもずっと規模が小さいのに、ギルドの大きさだけで言えば倍はあるのだ。

 よく判らないけど、それだけ依頼に対しての競争が激しいんだろう」

 「ま、無理に依頼を決めなくてもいいよ。イヤイヤするくらいなら常時依頼でもこなす方がいい」

 「そ、だね。じゃあ、じょうじいらいさがす、ね」

俺を見上げていたミリーはくるっと体を回してまた依頼掲示板に向き直る。

 常時依頼はそれぞれのランクの掲示板の一番下に1列に並べられる事になっている。それに依頼用紙にほんのりとピンク色が入っているんだ。

 だからすぐにどれが常時依頼なのか判るようになっている。

 「おっ、イズナがある」

 『本当ですね』

 「これ、スミレがいなかったら見つけられなかったんだよなぁ」

 懐かしいぞ。

 この世界に来たばかりの頃はイズナばっかり集めてた気がする。

 それもスミレの手助け付きじゃないと見つけられなかったんだよな。

 「他には・・薬草が4種類ほどあるのか。それに、なんだよ、チンパラも常時依頼なのか」

 薬草はイズナ以外はどんな場所に生えてるのか判らないけど、行ってみて見つけられたら集めればいい。

 ついでにチンパラを狩って帰れば、それなりの収入になるんじゃないかな。

 「スミレ、この辺の薬草のデータあるかな?」

 『はい、ありますよ』

 「そっか、んじゃもし依頼を受けるんだったら、その時は頼むな」

 『はい』

 スミレのおかげで凄く楽をさせてもらえるのは本当に助かるよ。

 「ミリー、何か興味のあるもの見つけたかな?」

 「ん〜・・・わかんない、よ」

 「判らないって、依頼されてるものの名前か?」

 「それもある。でも、受けたいいらいない、ね」

 ミリーとしては物足りない依頼しかないみたいだな。

 「ん〜、そっか。じゃあ、どうするかなぁ。とりあえず常時依頼でも受けるか? それだったら無理に受付しなくてもいいしな」

 「うん、それでいい、よ」

 「じゃあ、一泊野営をするつもりで必要なもの買っとくか。どうせ大都市アリアナに行くんだったらある程度補充しなくちゃいけないからさ」

 「わかった」

 「ジャックもそれでいいか? それともなんかいい依頼でもあったか?」

 「お、おう。依頼はないぞ。ってか、大した依頼ないぞ、ここ--」

 おいっ、何言ってんだよ。

 俺は慌ててジャックの口を塞いだ。

 「大きな声で何言ってんだよ、おまえ。敵を作りたいのか?」

 「なんだよ」

 ディスるな、この馬鹿ケットシー。

 「とにかく、行くぞ」

 俺は片手でジャックの口を塞いだまま、そそくさとギルドの建物を出るのだった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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