156.
ようやく帰国のバタバタから落ち着いてきましたので、なんとか1話。
でも明日から東北旅行なんです。旅行中、浮かれているだけじゃなくて話の続きもできるだけ頑張りますっっ!
・・・多分
ビビった。
もう、ほんっとうに超ビビった。
とりあえず旅の間に貯めた新しい商品(?)の登録申請を優先、という事で最初に行ったのは生産ギルドだった。
中に入るとカウンターの中に座って書類仕事をしていた女性の職員さんからチラリと向けられ、そしてすぐに仕事中の手元に落とされた視線はすぐに俺たちに戻ってきたかと思うとん丸に目が見開かれた。そしてそのまま職員さんは慌てたように立ち上がったかと思うと、俺たちは有無を言わさず2階の個室に連れ込まれた。
うん、言葉通り連れ込まれたんだよな。
ミリーとジャックなんか職員さんの迫力にビビっちゃってさ、尻尾が足の間に入り込んでしまってる。
いつもならそれを見て笑って揶揄うところだけど、俺だって彼女の勢いにビビっちゃって尻尾があったら股に入り込んでるよ。
「それではすぐにお茶をお持ちしますので、適当にお座りになってくださいね」
「は、はいっ」
俺は敬礼するように背筋を伸ばして返事をして出て行く彼女を見送った。そして彼女が出て行くのを見送ってから、ゆくりと部屋の中を見回した。
中は畳8畳くらいの広さで、長方形のテーブルに椅子が6脚置かれている。
「えっと、この椅子に座っていいのかなぁ?」
「俺・・・もう帰りたい」
「コータぁぁ・・」
相変わらず尻尾が足の間に巻き込まれている2人を見て、俺は小さな溜め息を吐いた。
いや、俺だって帰りたいよ?
でも今ここで逃がしてもらえると思うか?
「まあまあ、新しいものの登録申請もする予定だったから、ここで良かったんじゃないかな?」
「でも・・こわい、よ」
「そうだな、ま、ほらここに座ろう」
「ん・・・」
2つ並んだ椅子の1つを引いてミリーを座らせ、俺はその左隣に座る。それから俺の左角にジャックを座らせた。
ジャックとしては俺の隣に座りたかったようだけど、このテーブルは長い方に2つ短い方に1つの椅子が並んでいるんだよ。
だからジャックには申し訳ないけど、ミリーを俺の隣に座らせたんだよ。
『コータ様、どうなっているんでしょうね』
「ん〜、さっぱり見当もつかないな」
姿を消していて俺にしか見えないが、俺の肩にはスミレが座っている。
「まぁ俺たちに何か用があるんだろうな」
『面倒ごとじゃないといいですね』
「ホント、トラブルは嫌だぞ」
俺はいろいろと頭の中でどんな展開になるか考えてみるけどさっぱり思い浮かばない。
とにかくとりあえずは座って待とう、という事で椅子に納まったところで、ドアがノックされ先ほどの職員さんが手にお盆を持ってドアを開ける。
「お待たせしました。お茶を持ってきました」
そう言って中に入ってきた彼女の後ろから年配の男性が入ってきた。
「こちらはポクラン市の生産ギルドのギルド・マスターをしているケンドールさんです」
「はじめまして、コータくん、ミリーくん、そしてジャックくん」
「初めまして・・あの、俺たち自己紹介しましたっけ?」
俺たち、着いてすぐにここに連れ込まれたよな?
なんで俺たちの名前を知ってるんだ?
「ひとめで判ったよ。ケットシーと猫系獣人を連れている人種がコータくんだと聞いていたからね」
「はぁ・・・」
ひとめでって、俺たちここにきたの初めてなんだけど。
「ああ、言い方が悪かったね。君たちの事は都市ケートンの生産ギルドから聞いていたんだ。近年稀に見る若手精鋭生産ギルド・メンバーだ、ってね」
「へっ?」
「いやはや、コータくんの新しい商品や発明品の登録申請は全て通ったと聞いている。素晴らしいよ。おかげでケートンの生産ギルドと職人たちはホクホクだっていうじゃないか」
そうなのか?
そんな話は聞いてないぞ?
でもまぁ確かに行く度に何か新しく登録申請するものはないか、って聞かれてたけどさ。
ミルトンさんは全くそんな事言ってなかった気がするんだけど。
俺がハテナマークを頭を捻っている俺の前で、俺たちをここに案内した女性がうんうんと頷いている。
「私たちの方にもコータさんたちには失礼のないように歓待するように、と指示が降りておりました。ですのですぐにこちらに来ていただいた訳です」
「えっと・・・ありがとう、ございます?」
そのおかげでうちのお子ちゃまたちが超ビビったんですけど、でもあれ、好意だったんですね。
「そうそう、お礼も言いたかったんだよ。君の好意で鉛筆やペンの設計図を安価で使えるおかげで、都市ケートンからの輸入に頼らずに各都市でも多少は作れる事になった。おかげで職人たちの仕事も増えてね、とても助かっているんだ、ありがとう」
「はぁ・・」
「おまけに主材料は今まで狩っても捨てていた部位だっていうじゃないか。ハンターズ・ギルドの方もそのおかげでハンターたちの収入が増えたって喜んでいたよ」
それって、ゴンドランドの体部分の事だよな?
それはまあ結構な事だ。少しでも収入が増えるっていうのは生活が楽になるもんな。
でも今は聞きたい事がある。
「あの・・安価で提供って、どういう事ですか? その、設計図使用料は1パーセントと決まっているんですよね?」
俺はそう説明受けたぞ。
「おや? その辺の説明は受けてなかったのかね? 設計図の使用料1パーセントというのは一応基準ではあるんだが、使用料設定は開発者のさじ加減なんだよ」
「って事は、増やす事もできるし減らす事もできる、という事ですか?」
「そうだね。と言っても一応制限があってね、最高で売値の10パーセントまでと決まっているんだ。ケートンで君が登録してくれた商品は、売値が安いものもあるがどれも数が出る事が確実なものばかりだ。おかげで職人たちも作るのに力が入るようだね」
「なるほど・・・」
「いや〜、本当に助かっているよ。あのペン、というヤツはいいねぇ。私も早速使っているんだよ。それに鉛筆とか言うヤツは職人たちが使うようだね。消せるというのが良いらしい」
うん、って事は消しゴムもちゃんと売れてるって事だな。
「それに魔石コンロ、あれもいいね。あれは部品を君に納品してもらわないといけない訳だが、それでもその使い勝手の良さにかなりの予約が入っていると自慢していたよ」
「・・・・」
「そして、なんと言っても魔力充填装置、あれはすごい発明だよ。今までも考えられなかった訳じゃないが、どうしても設計図を完成させるところまでいっていなかったんだ。理論としては成立したんだが、どうしても形にはできなかった。それを君は作り上げたんだからな、大したものだよ」
鉛筆が1本につき売上の1パーセントがもらえるというのはいいんだ。
あれは庶民でも使えるようなもの、って思ってたからさ。
それに魔石コンロだって、良しとしよう。あれも元々俺が簡単に調理するための道具が欲しかったからだし、あれなら庶民だってちょっと無理をすれば買えるだろうから、その売上の1パーセントもらえれば世の中に普及するだろうから、薄利多売でそれなりの収入になると思った。
でも、だ。
いくら俺がそう思っていたとしても、もう少しきちんと説明しておいてくれたら、と思わないでもない。
ミルトンさんは最初から俺に使用料は1パーセントです、と言い切ったんだよ。
なのに本当は10パーセントまで上げる事ができた訳だ。
まぁ無理にそこまで売上を貰う必要はないんだけど、なんかモヤモヤするものが残る。
俺がそんな事を考えてる間もケンドールさんの話は続く。
でもなんかどうでもよくなってる、とっとと帰りたいよ。
「ケートンの職員からコータくんたちが大都市アリアナを目指していると聞いていたからね、もしかしたらポクランにもよるんじゃないか、と期待していたんだよ。いや〜、来てくれて良かった良かった。何か新しい登録申請するようなものがあればうちでしていってくれると嬉しい。登録申請には多少の時間がかかるものだが、うちでしてくれるならできるだけ優先的にしてもらえるように手を尽くすつもりだよ」
「・・・・」
「それにうちでも魔力充填装置を作りたいと思っているので、できれば装置に必要な『ぶらっくぼっくす』とかいうものを納品してもらえると助かるよ。もちろん、君たちが忙しいのは判っているからね、できるだけでいいんだよ、できるだけ、でね」
できるだけ、と言ってるけど、その目はたくさん納品しろよ、と言っているのが見て取れる。
だけどさ、今の俺にそんな気は全くない。
スミレがたくさん作ってくれているけど、今までの話を聞かされた後となってはそれを納品しようなんていう気にはならないよ。
「コータくん?」
「話はそれだけですか?」
「どうしたのかね?」
「そろそろ帰らせてもらえますか?」
不機嫌な声になるのは許してもらおう。
だって、不機嫌なんだからさ。
「何か気を悪くさせるような事を言ったかね?」
「いえ、ケンドールさんはそんな事言ってませんよ。ただ、これからは何か新しいものを登録申請をするかどうかはじっくりと考えさせていただきます。というか、その前に生産ギルドについての事を勉強させていただきますね」
「それはどういう意味かな?」
「俺が初めて登録申請をした時に言われたのは登録申請には時間が掛かる、という事だけでした。そしてそれが無事に通った時、自分で作って売るのではなく職人に任せて設計図の使用料を稼ぐなら1パーセントの使用料が受け取れる、それだけしか教えてもらってません」
まぁ他にもちょっとした事は聞いたけど、大まかなところはこんなもんだ。
「俺もその辺をきちんと説明されて、その上で使用料設定の時に使用料は1パーセントが望ましい、って言われたら納得してそれで設定をお願いしたと思います。でもね、全く説明も無しに1パーセントの使用料、っていうのはなんか納得いかないです。っていうか正直不愉快です」
俺は右隣に座っているミリーと左角に座っているに視線を向ける。
「さ、もう用は済んだみたいだから帰ろうか」
「ちょ、ちょっと待ってもらえないかね」
「もう話す事はないですよ。もし今後登録申請をする気になったら、ちゃんと勉強してから来ます」
「いっ、いやいや、待ってくれたまえ。コータくん、本当に全く説明を受けてなかったのかね?」
「はい、全くさっぱり」
「なんて事だ。これはきっちりと文句を言わなければならない事案だ」
「その辺はそっちで勝手にやってくださいね。俺はどうでもいいですから」
投げやりな気分で俺は椅子から立ち上がる。
ミリーとジャックはそんな俺を心配そうに座ったまま見上げている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。せ、せめてぶらっくぼっくすとかいうものだけでも納品してくれないかね?」
「ほら、ミリー、ジャック、行くぞ」
「コータ・・」
「い、いいのか?」
「いいよ、俺には話はない」
きっぱりと言い切って、俺はミリーとジャックの手を握って部屋から出て行く。
後ろからはまだ魔力充填装置に必要なブラックボックスの事を言っているケンドールさんの声が聞こえてきたけど、もう無視無視。
今は何も話を聞く気にもならない。
俺は2人を促してそのまま生産ギルドの建物をあとにした。
読んでくださって、ありがとうございました。
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Edited 05/07/2017 @18:15CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
投げやりは俺は椅子から立ち上がる → 投げやりな気分で俺は椅子から立ち上がる




