151.
さて、やってきましたハンターズ・ギルド。
俺たちは早速明日の依頼を探すために真っ直ぐ依頼掲示板に向かう。
「今日はどっちが決めるんだったっけ?」
依頼掲示板に視線を向ける前に、俺は両隣に立っている2人に尋ねる。
この2人、何かと言うと張り合うんだよ。
それで自分の見つけた依頼の方がいいって言い合うんだよなぁ。
普段はミリーの事を姫と呼んでは叱られてしょんぼりするヘタレのくせに、こういう時はミリー姫に譲れないんだから仕方ない。
2人はお互いの顔を見合わせてから、ジャックが嬉しそうに手を上げる。
「俺の番っっ!」
「おっけ、とっとと決めろよ」
嬉々として掲示板を見上げるジャックを見てから反対側にいるミリーを見ると、悔しそうな表情のまま掲示板を見上げている。
今朝の事もあるからミリーに選ばせてやりたかったんだけど、仕方ないか。
ちゃんとそう説明すればジャックの事だからミリーに譲ってくれたかもしれないけど、それじゃあ不公平だもんな。
「コータ」
「ん?」
ジャックが依頼を決めるまでとりあえずする事のもないので、ボーッと掲示板を見ていると、ミリーが俺のシャツの裾を引っ張ってくる。
「あれ」
「あれ? なんだよ、あれって」
「ほら、あれ。あのいらい、マーキーナ」
「マーキーナ?」
ミリーが指差す辺りの依頼を見ると、赤の掲示板の紫の掲示板よりに確かにマーキーナの依頼がある。
でも、だ。あれは受けられない。
「あの依頼は受けさせてもらえないよ」
「なんで?」
「あれを受けるには俺たちのランクは低いんだよ。ほら、紫のすぐそばだろ? って事は多分最低でも赤の星1つはないと駄目じゃないかな? 俺たちは2人ともオレンジ色だから、力が足りないって言って受けさせてもらえないと思うな」
「でもわたしたち、いらいうけた、よ?」
「うん、あれば指名依頼だったからさ。あんなところに貼ってあるって事はもともと赤の星4つくらいの依頼だったって事なんだろうな」
しょぼんと尻尾が垂れ下がったミリーの頭をポンポンと叩く。
そしてはた、と気がついた。
オレンジ色のランクのチームになんであんな依頼をしたんだ?
もしかして俺たちが失敗するのを期待していたって事か?
いくらなんでもそれはないだろう。
どの依頼を受けるかは自己責任だけど、指名依頼はそうじゃない筈だ。
依頼指名をするチームには力が足りなくて成功しないだろう、というような依頼と判断されればそもそもギルドが依頼を受けないだろう。
なんせ依頼達成率はハンターズ・ギルドにとってとても重要な数字だからだ。
だったら俺たちに依頼が来たって事は、俺たちからこなせると判断した、って事か?
それなら、もしかしたら俺たちでも依頼を受けられるかもしれない。
「ジャック、決まったのか?」
「も、もうちょっと待ってくれよっ」
まだ決めかねているらしいジャックの返事に、俺はニンマリとする。
「おまえ、昨日パーティーで食ったマーキーナ、美味かったか?」
「なんだよ、いきなり」
「いやさ、昨日聞いてなかったな〜って思ってさ」
「美味いって言ったぞ、俺」
「そうだったっけ?」
「おうっ。全部売らなきゃ良かったって思ったくらいさ」
なるほど、どうやら気に入っっていたようだ。それなら話は早い。
「じゃあさ、マーキーナ狩りに行かないか?」
「そんな依頼、あったっけ?」
「ほれ、あそこだ」
頭を傾げて俺を見上げるジャックに、俺はさっきミリーがしたように依頼書を指差した。
「ホントだ。マーキーナの依頼だ」
「コータ? でもさっき、あれ、できないって言った、よ?」
うん、言ったな、俺。
ミリーは俺がさっきの言葉を否定するような事を言うからさっきのジャックのように頭を傾げている。
そりゃそうだろう、俺が依頼は受けられないって言ったんだもんな。
「あの依頼は、今の俺たちのランクじゃあ受けさせてもらえない」
「なんだよ、じゃあ受けずにマーキーナだけ持って帰るのか?」
「いらい、を受けないとランク、上がらない、よ?」
ミリーの心配はランクアップの依頼にならないって事かよ。
だが任せろ。俺は依頼として受けるつもりだからな。
「うん、ジャックの言う通りオレンジ色のランクのハンターだと依頼は受けられないだろうな」
「ふんっ、ぬかよろこびさせんなよっ」
「でもさ、その、オレンジ色ランクが受けられない依頼を俺たちは指名依頼で受けた訳だ。で、それをちゃんと成功させている。忘れたのか?」
「でもそれ、しめいだったか、ら?」
うん、ミリー。良いポイントだ。
「それもあるかもしれないけど、俺は違うと思うな。指名依頼って事はギルドの面子もあるから、成功する確率が高いものしか受けないと思うんだ。それにそうじゃないハンターを指名に推薦なんてしないだろうな。だってさ、考えてみろよ。指名したのに失敗した、あのギルドはだめだ、なんて評判が上がる事は避けたい筈だ。だからさ、ギルドは俺たちだったら依頼達成できるって思ったから、俺たちを指名してきたんだと俺は思うけど、2人はどう思う?」
「ちゃんとできた、よ」
「10匹以上余分に仕留めたぜ」
う〜ん、2人とも微妙に俺の質問の答えにならない返事をしてるけど、一応内容的には俺の質問の答えになってるな。
「そうだろ。今の俺たちのランクより上の依頼だったけど成功させた、それってギルドも知ってる筈だ。つまり俺たちならできるって評価したんだって思ってる。だからさ、依頼書持ってカウンターに行こう。もし駄目だって言われたら、指名依頼の事を持ち出せばいい」
それでも駄目だっていうんだったら、どうしてそんな受けられないような依頼を指名してきたのか、って問い正せばいいさ。
できないと判ってて指名したのか、とか、なんで掲示板で受けられないような依頼を指名してきたのか、とかさ。
こちとら元の世界で客のクレームには慣れてんだ。いろんなクレーマーの手口を見てきてる分、どうやってクレームをつければいいのかにも精通している。
ミリーとジャックのためにも、この依頼、絶対に受けてみせるぜ。
と、決意を固めている俺のシャツの裾が引っ張られた。
見下ろすとミリーが心配そうに俺を見上げている。
「どうした、ミリー?」
「コータ・・・なんか、こわかった、よ」
「へっ?」
「そっ、そうだよっ。なんかすっげー怖かったぞ、おまえ。ほら、俺たちの尻尾が逆立ってる」
同じように少しビビりながら一気に話すジャックの背後を見ると、彼の尻尾がピンと立って毛が逆立っているのが見える。
反対側のミリーを見てみると、同じようにピンっと立って毛が逆立ってる。
2人とも、俺の黒いオーラに当てられたのか。
「悪い悪い、ちょっと色々考えてたんだ」
「わるだく、み?」
「捕まるような事、すんなよ」
「なんだよおまえら、酷い事言うな。ってか、ジャック、捕まるって?」
「警備団に捕まるなって言ってんだよ」
警備団? 警察みたいなもんか?
「コータ・・つかみゃる?」
「ミリー」
「だめだ、よ。コータつかみゃる、とわたしどうしよ、う・・」
「おいおいミリー」
「そっ、そうだぞっ。おまえが捕まったらみんなが困るんだぞっ」
不安で泣きそうになっているミリーと、俺が捕まったらどうしようと焦るジャック。
「全く・・・おまえら、人を勝手に犯罪者にするなよな」
「だ、だって・・」
「おまえらが俺の事をどう思ってるのか、よーっく判ったよ」
「コータ・・・」
なんか無性に腹が立ってやさぐれた返事をすると、俺を見上げるミリーは目にいっぱい涙を浮かべる。
ありゃ、言い方がきつかったか?
泣きそう、じゃなくて既に泣いているミリーを見ると、これ以上やさぐれていられない。
「ほら、泣くなよ、ミリー」
「ぐすっ」
「おまえらやスミレのためにも俺が捕まるような事する訳ないだろ」
「コータぁ・・・」
「マーキーナの依頼、受けたいんだろ?」
「でっでも、そのせいでコータ、が・・・」
なんでこんな話になったんだかさっぱり判らないが、俺は2人を安心させるために、にっこりと笑みを浮かべてみせる。
「そんなに心配するなって。大丈夫だからさ」
2人の頭をガシガシと撫でてやると、ミリーは少しだけホッとした表情になると、俺に背中を押されるまま掲示板に向かって依頼書を剥がす。
「コータ、ホントに大丈夫なのか?」
「なんだ、ジャック。心配してくれてんのか?」
「ちっ、違うぞっっ。俺はだなっっ、おまえが俺たちに迷惑をかけんじゃねえかって気になってるだけなんだからなっっ」
「あ〜、はいはい」
「ホントだぞっっ」
尻尾が左右に動くのを見て、彼が照れてそう返事をしたのが判った。
だてにジャックやミリーと一緒に旅をした訳じゃないからな。
だが断るっ!
男のツンデレには1ミリだって俺の心は動かないぞ。
「コータ、持ってきた、よ」
「おっけ、じゃあ、カウンターに行くか」
「でも、ほんとにだいじょ、ぶ?」
「おう、任せとけ」
俺はミリーから依頼書を受け取りながら軽くウィンクをする。
それをとりあえずポーチに突っ込んで両手でミリーとジャックの手を握るとカウンターに向かった。
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