14.
ケィリーンさんと一緒にギルドに戻った時、なぜか俺は先ほどのカウンターの前ではなく、ギルドに右隅の備え付けられているテーブルと椅子が置かれている一角に案内された。
「さて、ではハンター登録の続きを済ませてしまいましょう」
「は、はぁ・・・」
にっこりと笑いかけてくるケィリーンさんの笑顔が怖く見えるのは俺だけだろうか?
なんかさっきのパチンコのデモンストレーションを終えた辺りから、なんとなくケィリーンさんの態度がおかしいと思うだけどさ。
「身を守るための武器という事ですが、コータさんが使用したパチンコは武器と認めます」
「あっ、ありがとうございます」
「弓矢を使うハンターの皆さんもいますから、それと同様の武器という事になりますね」
なるほど、そう言われると確かに弓矢みたいな飛び道具というか、遠距離攻撃手段と言えない事もないか。
弓の代わりがパチンコで、矢の代わりが鉄の弾って事だな、うん。
「ですが遠距離はあれでいいとして、接近戦用の武器は使われないんですか?」
「えっと、俺は、その・・採取系を任されていたので、そこまで武器を使いこなせないんです」
「なるほど。確かに採取を専門としていたのであれば、接近戦をする機会はありませんものね」
はははっっ。なんとかごまかせたか?
大体現代日本で暮らしていた人間が接近戦とかできるか、つーの。
そんな俺の動揺に気づいていないらしいケィリーンさんは、視線をテーブルの上のパチンコに向ける。
「それにしても不思議な武器ですね、その・・パチンコ、でしたっけ、は」
「そうですか? 俺としてはそんなに珍しいものじゃないんですけどね」
ま、田舎のじいちゃんのところに行った時くらいしか見た事なかったんだけどさ。
「弓だと弓そのものと弦を弾くためにある程度周囲に空間が必要ですが、パチンコだと本当に少しの空間で十分ですし、それに矢のようにかさばらなくてすみますから持ち運びを考えると楽ですしね」
「そうですね、弾もなくなったらその辺の小石を代用に使う事もできますからね」
「とはいえ、引き絞る力が半端ないですから、コータさんくらいしか使えないでしょうけど」
「えぇ〜〜〜」
俺しか使えない、なんて事ないと思うんだけどさ。
たかがパチンコ、子供にも使えるものだと思ってたんだよ。
なのに、試させてくださいっていうケィリーンさんに貸したら、彼女、引く事もできなかった。
あれ、おかしいなぁって思って俺が引いてみたけど、いつもどおりに引く事ができたから、ケィリーンさんに力がないんじゃないのかな、って思ったんだよ。
「いいえ、パチンコは力が強い人でなければ使いこなせません。でもだからこそあれだけの威力を発揮したんでしょうね」
「はぁ・・・」
「それに、まさか私の的をあんなに簡単に粉砕するような武器だとは・・・見た目では判らないものですね」
俺が紙皿みたいな的と言っていたものは、実はかなりの強度があるものらしい。おまけに防御の魔法をケィリーンさんが掛けていたので、その場から弾かれる事もない筈だったそうだ。
弓矢なら刺さる事もなく弾かれて地面に落ちていた筈、だそうだ。
なのに、俺のパチンコの弾として使った小石は、それを吹っ飛ばした。
2回目の30メートルからの距離の時は、距離があるからと思って俺は鉄の弾を使ったんだけど、そのせいかどうか判らないが防御魔法など最初からなかったかのように的に命中して、そのまま的を粉砕してしまったのだ。
穴を開けた訳じゃないぞ、文字どおり粉々に的が吹き飛んだんだよ。
さすがにそれには俺もびっくりした。
最初の的を吹き飛ばした時のケィリーンさんみたいに、ポカンと口を開けて的があった場所を向いたまま、少しの間固まっていたんだよな。
先に我に返ったケィリーンさんが俺の肩を叩いてくれたから我に返ったようなもんだ。
パチンコって、あんなに威力あったっけ?
そういやさ、初めてウサギを狩った時、後ろの木にパチンコの弾がめり込んでいたっけ。
あれってやっぱり俺の力が強くなっていた、からなんだろうか?
自分では自覚がないから判らないが、どうやら今の俺は力が強いらしい。
神様が、転生してすぐに死ぬなんて事にならないように頑丈な体にしてやる、と言ってたけどまさかこんなに頑丈になってるなんてねぇ。
いや〜、びっくりだ。
「先ほど記入させていただいた申し込み用紙はすでに提出してますので、もう少しお待ちいただければカードができます」
「えっ、もう?」
「はい。ですのでカードが来るまでギルドについての説明をしましょうか?」
「あ、はい。判らない事ばっかりなのでお願いします」
さっき聞かれた事って、名前と出身地、年齢、それに使用武器くらいなもんだったんだけどなぁ。
「ではハンターズ・ギルドでは、採集を基本とした行動をする者が登録するギルドです。薬草などの採取系、毛皮や牙といったものを採集してくる狩猟系の2つが基本ですが、ほかにもダンジョンなどでの討伐によるドロップ品取得系もありますが、この国にダンジョンはありませんので、狩猟系と採取系があると覚えておいてください」
「ダンジョンもあるんですか?」
「それほど数は多くありませんが、国によって管理されているダンジョンは10箇所あります」
ダンジョン!
なんだかゲームの世界に迷い込んだみたいだな。
ダンジョンを踏破しようとは思わないけどさ、1度くらいは行ってみたいかも。
「さて、採取系と狩猟系があると説明しましたが、これらはハンターのみなさんのレベルによって受けられる仕事が決まってきます。基本ハンターのランクの星から前後2つまでの星の依頼は受けられますが、依頼失敗となると罰金を支払ってもらう事になるので気をつけて下さい。失敗が続くとランクが下がる事もありますので、その点も留意しておいてください」
「・・・ランク、ですか? それに星って?」
「はい、ハンターのランクは全部で6つあります。下から黄色、オレンジ、赤、紫、青、そして黒ですね。登録した方は一律黄色から始めてもらいます。それから星というのは・・・ああ、丁度いいところでカードができたようですね。ちょっとお待ちください」
ケィリーンさんが星の説明をしようとしたところで、どうやら俺のカードができてきたようだ。
カウンターの向こうから黄色いカードをもった女性がやってきた。
「お待たせしました。こちらがコータさんのカードになります」
そう言って俺の目の前においてくれたのは、免許証よりも一回りほど大きな黄色のカードだった。上側4分の3の部分に俺の名前である幸太、いやコータと刻まれており、その下に年齢と使用武器が書かれているのが読める。
そして下の部分4分の1のところには横1列に星形が5つ並んでいて、今はその星のうちの1つが赤く染まっている。
「コータさんは登録したばかりですので、黄色の星1つとなります。これは依頼を受けてランクアップしていくたびに星の数が増えていき、採集的には星が5つ並んでから次のランクアップでオレンジになります」
「なんか、カードっていう割に中に液体か何かが入っているみたいですね」
俺はカードを手にとって目の前に翳すと、厚さ3ミリ程度のカードなのだが中身が動いたように感じた。
「はい、その通りです。今は黄色の特殊な液体が入っていますカードについているこれらの星が5つ全部赤になり、さらにランクをあげるとこの星の中の赤が黄色に混ざりオレンジに変わるんです。そして次はオレンジに赤の星が5つ並んでからのランクアップの時にこの赤がカードに移動して黄色を抜いて赤のカードにします。赤になると今度は星の色は青になります。そして同じように星5つで青が赤に混ざって紫になり、それからランクが上がると赤を抜いて青のカードになります。最後は黒の星が並んでからカードが黒になります」
へぇ〜、面白いシステムだな。
「これ、割れたりして中身が溢れるとかって事はないんですか?」
「どうでしょう? 今まで割れた、という話は聞いた事ないですね。このカードはギルドにある魔法具によって作られているので、少々の衝撃ではヒビ1つ入りません。多少の擦り傷くらいは入りますけどね。それにもしそのような事態になっても、ギルドの方にはハンターの記録が残っていますから、1からやり直しという事もないですよ」
「ふぅん」
俺は黄色のカードを窓から差し込む明かりに照らしてみるが、表面はクリアなんだが裏側は金属っぽいので透けて見える筈もなく、結局はよく判らないままだ。
「ランクって、どうやってあげていくんですか?」
「依頼を受けるんですよ。赤までは依頼を受ければあげる事ができます。けれど、紫以上になると依頼をこなす事だけではなく、ハンターとしての資質も問われてくるようになりますので、ランクをあげるのが難しくなってきますね」
「そうなんですね。でも、ランクは低くてもこのカードが俺をハンターだと証明してくれるから、町から町への移動も少しは楽になるって事ですよね?」
「その通りですね。ただ、無くさないでくださいね。登録初回のカード発行は無料ですが、次回からは1000ドラン、大銀貨1枚いただく事になります」
「えっ、高いですねぇ・・・」
げっ、大銀貨1枚って言ったら1万円くらいだったよな。
「はい、カードを無くさないように気をつけてもらうために値段設定は高めです。それにこれも一応魔法具になりますから、どうしても高くついてしまうんです」
「魔法具、ですか?」
「身分を証明するだけじゃなくて、狩猟や採取の記録を取ってくれますからね。同時に悪事を働けばその記録もとりますので。行動には十分気をつけてくださいね」
つまり、何をしてもギルドには筒抜けだぞ、って事だな。
まぁ悪い事をしようとは思わないけど、気が付いたら片棒を担がされていたなんて事がないように気をつけよう、うん。
「それから初回登録料金として100ドラン必要ですが、もしお金がない場合はギルドが立て替えて依頼をこなす度に1割ずつそこから天引きさせてもらう事もできますが、どうしますか?」
「100ドラン、って事は小銀貨1枚ですか?」
「はい、申しわけありません。ハンター登録に来られる方の中にはお金を持っていない人もいるので、そのための救済措置として天引きというシステムがあるんです」
「あの、お金は持っていないんですけど、売れそうなものは持ってきているので、それを売ったお金で登録料金を払う、って事でいいですか?」
「はい、もちろんです」
ボン爺、金がいるって言わなかったぞ。
知ってたら考えたかもしれない・・・って、それはないか。金がかかっても身分証代わりになるギルドカードは欲しいからな。
「あの、ですね。どこか違うところで売り物をだしていいですか?」
「どうして、でしょうか?」
「俺、魔法のポーチを持っているんですけど、ボン爺が人前で使うなって言ったんで」
「ああ、そうですね。では買い取りデスクに行きましょうか」
ケィリーンさんは納得したように頷いて、俺に壁で囲まれた小さな個室のような場所を指さした。
「毛皮、ですけど、買ってもらえますか?」
「大丈夫ですよ」
個室に入ってとりあえず聴いてみた。
ケィリーンさんが大丈夫って言うんだったら、って事で俺はポーチの中から毛皮を取り出した。
ポーチの開口部から出てきたとはとても思えないでかい毛皮に、ケィリーンさんは眉をぴくりと動かしたが何も言わずに毛皮を受け取った。
実はこの毛皮の主、結界に体当たりして中に入ろうとしていたのだ。でもさすが神様
の結界、頑丈でさ。最初はドカンドカンという体当たりの音にビビっていた俺だったが、そのうち慣れてきていつまで頑張るか眺めてたんだよ。そしたら力尽きて倒れちゃってさ。スミレの指示に従ってトドメを刺したってわけだ。もちろん皮剥ぎはスミレの指示で素人の俺がしたからあんまり綺麗にできなかった。
「これは・・・クマ系の魔獣のものですね」
「あ、はい。多分そうだと思います」
「おかしな切り傷はありませんが・・・剥ぎ取りがそれほど丁寧ではないので、そうですね・・・2000ドラン、小金貨といったところでしょうか」
2000ドラン、って事は2万円くらい?
うん、十分じゃん。
「はい、それでお願いします。あっ、できれば小金貨じゃなくって、細かい硬貨でもらえますか?」
「判りました」
ケィリーンさんは両手で毛皮を抱えてカウンターの奥にあるドアに入っていく。
それからすぐに戻ってきたかと思うと奥にいる女性のデスクに行って、小さなメモくらいの大きさの紙とマスみたいな箱を手に戻ってきた。
「こちらが売買証となります。それからこの中からハンターズ・ギルド登録料として100ドランをいただきますので、こちらが残りの代金ですね。大銀貨15枚、小銀貨44枚、そして大銅貨50枚ですが、これでよろしいですか?」
「あ、はい、助かりました」
俺はポーチから皮でできた袋を2枚取り出した。
1つに小銀貨10枚と大銅貨を全部入れて、残りをもう1つの袋に全部入れた。
これなら不用意に全財産を人前で取り出すような事をしないで済む。
「以上で、よろしいでしょうか? 他にご用件は?」
「いいえ、お世話になりました」
俺はぺこり、と頭を下げる。
「あっ、この村にお酒を売ってる店、ありますか?」
「お酒、ですか?」
「はい、ボン爺に土産で買って帰ろうかと思って」
「ああ、それなら、この前の通りを門に向かって4軒目が雑貨屋です。そこに行けば大抵のものを買う事ができますよ」
「ありがとうございました」
俺はもう一度頭を下げて礼を言ってから、ギルドを後にした。
読んでくださって、ありがとうございました。
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Edited 04/10/2017 @03:34 JT 間違いの指摘をいただきました。ありがとうございました。
2000ドラン、って事は20万円くらい? → 2000ドラン、って事は2万円くらい?




