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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 腕試し?
134/345

133.

 上から垂れ下がっている輪っか型の罠はなんとなく俺には絞首台の輪っかに見える。

 でも地面スレスレにあるから、あんなので首を吊られても死ねないけどさ。

 俺はそんな意味のない事を考えながらパチンコ弾を狙ったマーキーナめがけて放つ。

 マーキーナっていうのはザリガニみたいな魔物だけあって実に殻が硬い。

 弱点は目と目の間、つまり眉間部分の殻が柔らかい場所か、頭の後ろ側にある殻の繋ぎ目の2箇所だけだ。

 つまりパチンコを使う俺と弓を使うミリーが狙えるのは眉間だけ、ジャックは頭の後ろの繋ぎ目だけ、となる訳だ。

 それでもなかなか大変で、うまく当てられないんだよな。

 マーキーナは歩く時に両手の鋏を持ち上げて歩く。

 するとその鋏がぶら下がっている輪っかに引っかかる。

 輪っかを外すためにその場に足止めされるから、その間に弱点を狙って仕留める事になってる。

 でもだ、いくらデッカいザリガニとはいえ、眉間の大きさは10センチ程度。おまけに輪っかを外そうとじっとしてないからその場にいる事はいるんだけど、小刻みに動くから狙いが定まらない。

 今のところパチンコ弾を3個から5個ほど消費して、やっとマーキーナ1匹仕留める事ができている。

 そんな俺の斜め前には弓を構えたミリーがいる。ミリーも狙いが難しいらしくて矢を何本も撃ち損じている。

 そしてジャックだけど、こっちも大苦戦だ。結界があるから近づくのは難しくないようだ。だけど、暗闇の中で頭の後ろの殻の繋ぎ目を狙うっていうのは、いくら夜目が利く猫族のケットシーとはいえ完全に見えている訳じゃないみたいで、剣を振り下ろしては微妙に外して鋏攻撃を受けないように後ろに下がる。

 スミレの結界があるからその場でじっとしていても大丈夫なんだけど、至近距離からデッカい鋏が振り回されてくる視覚だけでビビってしまうのは仕方ないだろう。

 まぁ本人はビビってました、なんて事、認めないだろうけどさ。

 「スミレ、ミリーの矢が無くなる前に少し補充してやってくれ」

 『判りました』

 「ついでに俺の弾も少し作ってくれるかな?」

 『はい、すぐに作りますね』

 今までだったら俺はミリーの矢だけをスミレに頼んで、自分のパチンコ弾は自分で作ったと思う。

 でもさ、あの晩以来ちょっとした事でもスミレに頼むようになった。

 面倒かな、大変かな、って思うけど、頼んだ時にスミレがすごく嬉しそうにするからさ。

 今だってにっこりと笑みを浮かべてすぐにスクリーンも陣も無しで作り始めた。

 これ、レベルが5になったスミレのできるようになった事だ。

 今のスミレは過去に作ったものであれば、それをスクリーンでセッティングする事なく作る事ができるようになった。しかも陣を展開しないで白い光も無しで、スミレが思った場所に作り出せるようになったんだから凄いよな。

 ただそれでも大きいものになると陣を展開して、今まで通りに白い光を放ちながらじゃないと作れないらしいんだけどさ。

 でも過去に作ってデータをセーブしてあれば、それはいつでもいくつでも材料さえあれば作れるんだから、今までよりもグッと楽になった事は否めない。

 ここに来る前に寄った林で棒を見繕った時に、木の枝や石ころ、他にも手当り次第に物を集めておいて良かったよ。あそこで集めた物や今まであちこちで拾い集めた物は全てスミレのストレージに突っ込んであるから、ある意味無尽蔵に矢を作る事ができるんだよな。

 なので俺が頼んだミリーの矢は、彼女が背負っている矢筒が一杯になるのが見えた。

 「ミリー、スミレが矢を作ってくれたぞ」

 「えっ? あっ、スミレ、ありがと」

 『どういたしまして、それからこれがコータ様の弾ですよ』

 言われていつもの袋を見ると、その中も弾で一杯になっている。

 「さんきゅ、スミレ」

 んじゃ、さっさと仕留められるだけ仕留めますかね。

 あんまりのんびりしてて数が揃わなかったなんて羽目にはなりたくない。

 なんせ今のところ俺が仕留めたのは4匹だからさ。






 罠の下に仕留めたマーキーナがいると、湖から上がってくるマーキーナたちは進路を変えて罠を避けていくようになる。

 なので俺はパチンコを使うのをやめて、いくつか溜まったところでスミレの結界に守られながら仕留めたマーキーナに触ってポーチに仕舞っていく。

 「よ〜し、今ので19匹だぞ」

 「あと、6ぴ、き」

 「まかせとけっ」

 マーキーナ狩りをはじめてそろそろ2時間が過ぎようとしている。

 思ったより時間がかかっているんだよな。

 もっと簡単だと思ってたのに、弱点が小さいからなかなか仕留められない。

 俺たちがもたもたしている間に、罠に引っかかっていたマーキーナはさっさと罠を外してエサを食べるために草地に行ってしまうんだよ。

 仲間が俺たちに仕留められた事なんて、全く気にしていないみたいだしなぁ。

 スミレは魔物だからそういうものだ、なんて言ってたけどさ。

 群れをなすタイプの魔物や魔獣であれば、仲間を殺されることで激昂するものもいるらしいけど、マーキーナは単独行動をとるタイプらしい。

 んで、食事の時間だから湖から出てくるだけで、別に示し合わせて行動を共にしている訳じゃないから、自分のすぐ隣でいきなり攻撃されて死んだとしても感知しないんだそうだ。

 それはそれでなかなか怖い気がするんだけどね。

 俺はミリーとジャックの様子を見てから、もう少しだと言い聞かせてパチンコを構える。

 今のところ俺とミリーが仕留めた数は7匹ずつで、ジャックだけが未だ5匹だ。

 まぁ今回の相手はジャックの剣とは相性が悪いから仕方ないだろう。

 ジャックもその点は判っているようで、実際にマーキーナを見てその殻が堅い事を実感してからは無理をしようとはしなくなった。

 ヒット・アンド・アウェイを繰り返してなんとか頭を落とす、という事をしているようだ。

 俺は丁度輪っかにひっかっかったマーキーナを見つけて、それめがけてパチンコ弾を撃ち込む。

 「ちぇっ」

 けど眉間よりも体の下に飛んで行った弾は見事に外れ、俺は弾を袋から取り出すと手早く設置する。

 それからもう一度ぐいっと引くとそのまま狙いを定める。

 よく考えたらさ、スミレの結界があるんだからもっとぐぐっと近づいてから狙ってもいいんだけど、あまり近づくと集団の敵とみなされて引き車の方に向かってくるかもしれない、とスミレに釘を刺されているのだ。

 俺たちなら走って逃げてしまえばいいが、パンジーは引き車をその場に残して逃げるという事はしないかもしれない、とスミレが言うんだよ。

 確かにさ、自分の引き車を守るようになるとは聞いてたけど、危急の時まで守るものなんだろうか?

 疑問がない訳じゃないけど、それでも確信がないからには無理はしたくない。

 だから、どうしても30メートルほど離れた場所から狙う事になる。

 でもさ、堅い殻は2個目の弾も弾いてしまった。

 おまけにそうしているうちに輪っかが外れたマーキーナはそのまま草むらに入ってしまった。

 「あ〜あ・・・」

 「コータ、もういない、よ?」

 どうやらさっきやってきたので最後だったみたいで、罠は輪っかをブラブラさせているだけでそこに引っかかるマーキーナは1匹もいない。

 ミリーも仕留め損ねたようで、尻尾が力なく垂れ下がっている。

 ジャックは、と思ってそっちを見ると、どうやら彼は最後の1匹を仕留めたみたいで、頭を切り落としたところだった。

 「スミレ、もう来ないかな?」

 『もう上がってきてないですね』

 「そっかぁ・・・んじゃあ、明日もう一晩頑張るのかぁ」

 俺はジャックのところに歩いて行くと、そのまま彼が頭を落としたばかりのマーキーナをポーチにしまう。

 「そういや、マーキーナは解体しなくてもいいのか?」

 『解体はしないみたいですね。エビやカニと同じと思えばいいでしょう』

 「ああ、なるほどね」

 確かにカニやエビは解体、なんて事はしないな。エビはせいぜい頭を落として背中を切り開いて背わたをとるくらいだし、カニはまるまる食っちゃうもんな。

 俺はポーチの中に入っているマーキーナの数をもう1度確認する。

 うん、やっぱり20匹だ。

 「ジャックが仕留めたのを入れて20匹だな」

 「5匹、足りない?」

 「うん、足りないな」

 って事はだ、明日の晩もここでお泊まり決定だ。

 「明日の夜も、マーキーナ、取るの?」

 「依頼は25匹だからな」

 「じゃあ明日の夜も仕留められるだけ仕留めようぜ」

 「その方がお金、余分にもらえる、ね」

 俺としては、だ。めんどくさいから明日の夜は5匹だけ仕留めてあとはのんびりしたいんだけどなぁ。

 「スミレ、今何時?」

 『午後の7時半を過ぎたところですね』

 「マジかぁ・・・」

 って事はやっぱり3時間はマーキーナ狩りをしていた事になる。

 明日もこの調子で狩りをするのかと思うと、俺は思わず溜め息を吐いてしまった。

 「コータ?」

 「おい、大丈夫か?」

 「コータ、疲れた? なら、明日、ミリーたちだけで、大丈夫だ、よ?」

 「おう、あと5匹だからな。コータが寝てても俺たちだけで十分だぜ」

 いや〜、さすがにそうはいかないぞ。

 「お前ら、俺が寝たら誰がマーキーナをしまうんだ?」

 「あっ」

 「うっ」

 「全く考えてなかっただろ?」

 「じゃ、じゃあさ、マーキーナを仕留め終わったら起こすから、それまでは休んでていいぞ」

 「あ〜、はいはい。罠の周囲に仕留めたマーキーナが溜まってたら、それ以上狩れないだろう? ちゃんと考えて喋ろうな、ジャック」

 「うっ、うるさいっっ」

 地団駄を踏むジャックを無視して、俺はスミレを振り返る。

 「この罠、このままでいいのか?」

 『そうですね・・・一応外して地面に置いておいた方がいいかもしれませんね。湖に戻るマーキーナが此処を通るかもしれませんから』

 「あれ、今上がってきたヤツらは同じ場所から湖に戻らないのか?」

 「この部分の湖の岸が一番なだらかなんです。ですから水から上がる時は此処が一番楽でしょうけど、戻る時は飛び込めばいいだけですからここに拘る必要はありません」

 なるほどな。

 「ま、今夜はここまでだ。パンジーのところに戻ろうか」

 俺は棒を地面に引き倒してからミリーとジャックを従えてパンジーのところに戻ったのだった。

 





 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/07/2017 @17:37 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

 スミレの決壊があるんだからもっと → スミレの結界があるんだからもっと

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