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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 腕試し?
133/345

132.

 晩飯は予定どおりチンパラの肉を焼いたものとスープ、それにいつもの硬いパン。

 それを食べ終わった頃に周囲が暗くなってきた。

 「すぐに来るのか?」

 『そうですねぇ。日が暮れてから1−2時間といったところですね』

 「んじゃ、まだ時間があるのか」

 『今のうちに生産ギルドで受けた依頼を片付けますか?』

 「あ〜・・そうだな」

 めんどくさいけど、とっとと片付けた方がいいんだよな。

 「じゃあさ、俺がそれを作るから、スミレは頼まれていたサスペンションとタイヤの設計図を作ってくれるかな?」

 『アメーバクッションも、ですよ。それから手動式洗濯機もですね』

 「あ、そうだった・・めんどくせえなぁ」

 そういやそういうのもあるんだった。

 すっかり忘れてたよ。

 スミレが言う手動式洗濯機っていうのは、10リットルほどの樽の形のフタ付きの入れ物にハンドルがついたもので、水と洗濯物、それに洗剤を入れてからグルグルと手で回す事で洗う事ができるという魔石要らずの人力洗濯機の事だ。

 この前頼まれていた鉛筆とボールペンを卸した時に、魔石を必要としないものの方が助かるんだと言われて、それならって出したら申請書用の設計図を持ってきてくださいって言われたよ。

 もちろん、俺の手からボールペンと鉛筆の設計図をひったくった後の話だ。

 一体いくつ特許、っていうか申請書を出さないといけないのか。

 俺とスミレがそんな話をしている焚き火の横で、ミリーとジャックがそれぞれの武器の手入れをしている。

 「2人とも狩る気満々だな」

 「当たり前だろ、俺たちへの指名依頼なんだからな」

 「俺たち、にジャックは、入ってない。チームメンバー、はわたしとコータ、ジャックは使役獣」 

 「うぐぐぐっっっ」

 冷静に突っ込むミリーに、言い返せないで唸っているジャック。

 ま、2人は平常運転だな。

 「指名依頼、ちゃんとこなせ、ば報酬、2割アップ」

 ミリーは言いながら尻尾をひゅんひゅんと左右に揺らす。

 「ああ、まぁ、確かに指名依頼だな・・・」

 「そう、これ成功さ、せて、どんどん指名、もらう」

 ふんっと見えない力こぶを作って、ミリーはやる気満々だ。

 でもさ、どうして指名されたか、覚えてないのかな?

 「なぁ、スミレ、俺たちに指名依頼が来た理由、言ってなかったっけ?」

 『いえ、ちゃんとコータ様は説明されてましたよ』

 「だよなぁ・・・」

 実は今回のマーキーナ狩り、これはハンターズ・ギルドに顔を出した俺たちに気づいた受付の職員さんに手招きをされてカウンターに行った時に、指名依頼が入っていますけど、って言われたんだよな。

 今のところ依頼は100パーセント成功だもんな〜ってニマニマしながら話を聞いたんだけど、その内容を聞いて苦笑いを浮かべるしかなかったんだよ。

 なんせ俺たちを指名した理由が『引き車を自前で持っているから』だったんだからさ。

 俺たちの依頼達成率とかじゃなかったから思わずガックリきたが、多分よく話が判っていなかったミリーとジャックは俄然張り切ってしまった。

 おかげで2人して指名依頼だから、を合言葉に力を合わせるようになった。

 もちろん、さっきみたいなやりとりもあるんだけどさ。

 「まさか一晩中、って事、ないよな?」

 『マーキーナ次第ですね』

 「マジか」

 『と言ってもマーキーナは集団で行動する魔物ですから、罠の前を通る集団が行ってしまえばそれで終わり、ですけどね』

 「そうなんだ?」

 『ですからその集団をいかに上手く仕留めるか、ですよ。今夜中に数が揃わなかったら、明日もここで野営ですから』

 キッパリと言い切るスミレの言葉に、ミリーとジャックは力強く頷いた。

 「がんばる」

 「任せとけ」

 「おまえら・・・まぁ、力まず頑張ろうか」

 「俺1人で10匹仕留める」

 「じゃあ、わたしは15匹」

 「おいおい、競争じゃないんだからさ」

 ジャックが10匹仕留めるというと、弓を掲げて15匹仕留めるといい、そのまま2人で睨み合うから俺が間に入るしかない。

 なんか気分は保父さんだよ。

 『ミリーちゃんとジャックが2人で25匹仕留めるんでしたら、明日には帰れますね』

 「スミレぇぇ」

 依頼は25匹だから、確かにスミレの言う通り2人で25匹取れればそれで終わりだけどさ。

 これも俺たちが指名を受けた理由の1つだ。

 依頼はマーキーナ25匹を週末のパーティーの前日までに納品する事。

 25匹となるとかなりの量になる。だからこそ自前の引き車を持っている俺たちなら運べるだろう、って事で声がかかった訳なんだよ。

 別に俺たちの依頼達成率100パーセントが理由じゃない。

 いや、別に悔しい訳じゃないからな。

 指名依頼っていうのは依頼料金プラス20パーセントの報酬なんだ、嬉しくない訳じゃない。

 たださ、すこ〜し、そう、ほんの少しだけ納得がいかない、それだけさ、ふんっ。

 俺が1人でやさぐれている間も、スミレはミリーやジャックと話している。

 『ただ、五体満足なマーキーナが2体は要りますからね、その事は忘れないように』

 「は〜い」

 「判ってるって」

 『それから爪を取りこぼすとその分数が減る事になりますから、25匹以上仕留めた方がいいですよ』

 マーキーナはぱっと見ザリガニの魔物で、濃厚なエビ味の身が好まれるのだそうだ。

 ただ魔物だから値段も張るので、パーティーなどといった特別な時に使われる食材だそうだ。

 特に右爪が大きいのが特長だ。左爪に比べると長さだけで倍、量でいうと3−4倍の大きさになるだろう。だから値段は体が400ドラン、右爪400ドラン、左爪200ドランの1匹1000ドランという高級食材だ。だってさ、でっかくてもザリガニが1匹1万円なんだぞ、俺だったら買えないな。

 そんな高級食材を25匹も使うパーティーなんて、想像もつかないぞ。

 おまけに5匹から10匹なら余分に買い取ってくれるとの事だ。

 その分も20パーセントのボーナスをつけてくれるらしい。

 『結界はいつも通り張っておきますけど、だからと言って気を抜いていたら怪我をしますからね』

 「だいじょぶ、スミレのいう事、ちゃんと聞いてる、よ」

 『困った事があったらコータ様に頼むんですよ』

 おいっ。

 「うん、いつも、たのんでる、よ」

 『怪我をしないのが一番ですからね』

 「わかってる」

 なんかここにいる本人を無視して、勝手に話が進んでいる気がするんだが・・・うん、気のせいだな。

 俺は多少の現実逃避をしながら、スクリーンを展開して魔力充填装置の魔法陣が入っているブラックボックスを作る。

 これが、すっごく楽チンなんだよ、今。

 レベルが5になってから、作業がものすごく自動化されてきたんだ。

 おまけに作成時間も大幅短縮。

 まだ機会がないからあまり試してないけど、これからはなんでも作れると思うとワクワクするよな。

 もちろん、材料はいるんだけどさ。

 「そういや、スミレの結界もレベルアップしたんだっけ?」

 『私の結界がレベルアップしたんじゃなくて、コータ様のスキルがレベルアップしたから、能力が上がったんですよ』

 「いやいや、それ、スミレのレベルアップって言っていいと思うぞ」

 確かにスミレは俺のスキルのサポートだからその通りなんだけど、俺的にはスミレの能力がレベルアップ下っていう感覚なんだよ。

 特に結界は俺には展開できないからさ。

 「んで、結界は新しい事ができるんだっけ?」

 『個別結界が可能になりました。もちろん数に限りはありますけどね』

 「個別結界?」

 『はい、大きさにもよりますけど、最高で20の結界を個別に展開できるようになりました。ですので今回はコータ様、ミリーちゃん、それからジャックの3人には個別に結界を展開します。その方が自由に動けますからね。それからパンジーちゃんにも結界を展開します』

 って事は、俺たち3人がバラバラに動いても結界からはみ出てしまうなんて事はないって訳だな。

 『今は大型の結界を1つ展開しているだけですけど、マーキーナがやってきたら個別結界に切り替えます。それとは別に大型の結界を展開して、中でまた個別に結界を張る事もできますので、戦闘中であればその方が安全かと思います』

 それって以前の二重結界って奴の上位版って感じかな?

 「便利になったもんだな」

 『はい、コータ様のおかげです。ありがとうございました』

 「へっ? 俺のおかげなんかじゃないよ。スミレのおかげだよ」

 『いいえ、コータ様がレベルアップしたから、私の結界能力も上がったんです』

 「そっか。でもさ、スミレしか使えないんだから、俺たちとしてはスミレのおかげ、って感じるんだけどな」

 俺がそう言うと、スミレは嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべて俺の前をホバリングする。

 それを見て、俺はもう1つ気になっていた事を口にする。

 「そう言えばさ、前にレベルが5に上がったら、スミレは自分の体を作れるようになるって言ってなかったっけ?」

 『はい、作れるようになりますね』

 「じゃあさ、この依頼が終わったら、スミレの体作りに必要な材料を集めにいこうか」

 『え? わざわざ行かなくても大丈夫ですよ? 時間がある時に少しずつ集めれば私は十分ですから』

 「スミレはさ、もう十分待ったじゃん。俺のスキルのレベルが5になるまでずっと待ってたんだからさ、俺としてはこれ以上待たせたくないんだよ」

 『コータ様・・・』

 スミレの体を作るのにどれだけの種類の材料がいるのかなんて想像もつかないけど、できれば都市ケートンにいる間になんとか作りたいもんだよ。

 『って事で、次の依頼は受けないからな』

 俺はじろり、と2人を見ながらキッパリと言い切ると、2人とも素直に頷いた。

 「スミレの、からだ、楽しみ」

 「そのままだと不便だもんな」

 『ミリーちゃん・・ジャック・・』

 「って事だからな、スミレは都市ケートンに戻るまでに、どんな体が欲しいのかを決める事。そうしないと材料集めができないからさ」

 「・・ありがとうございます」

 くしゃっと泣きそうな顔をしたスミレを見て、俺は自分の考えが間違ってなかった事に安堵する。

 ほら、やっぱり自分の体が欲しいんじゃん、スミレ。

 今はスミレの体に触れられないけど、体ができたら真っ先にデコピンをしてやろう。





 読んでくださって、ありがとうございました。


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