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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 腕試し?
131/345

130.

 ガラガラ ガタゴト ガックン

 という車輪の音を聞きながら、俺はパンジーの手綱を手に草原を進ませる。

 アメーバタイヤなのに、結構音がしてうるさいんだよな、意外だ。

 でも振動はアメーバが吸収してくれるし、サスペンションも引き車につけてるから俺のケツのダメージは昔の引き車に比べるとはるかにマシだ。

 それでも特製クッションを御者台に敷いてなかったら、休憩の時にガニ股歩きになってたとは思うけどさ。

 『あと30分も進むと湖が見えてきますよ』 

 「あれ、もう?」

 思ったより早いんだけど、俺の気のせいかな? もうそんな時間だっけ?

 俺が空を仰いで太陽の位置を見ていると、スミレがクスッと笑うのが聞こえた。

 『パンジーちゃんが元気に歩いてくれましたからね。それに車輪をタイヤに換えたから引きやすくなったんじゃないんですか?』

 「そっか? まぁ、それならいいんだけどさ」

 タイヤにしたのは俺たちの乗り心地の問題もあったけど、やっぱり一番はパンジーの負担を減らしたいって事だったからさ。

 『それにコータ様が毎日体力回復ポーションを飲ませてますからね』

 「それは別にいいだろ。うちのメンバーの中じゃあ移動中はパンジーが一番大変なんだからさ」

 『駄目だとは言ってませんよ。ヒッポリアにそこまでする飼い主っていませんからね、コータ様は良い飼い主さんですよ』

 揶揄うようなスミレの言葉に、俺は照れ隠しのためにフンと鼻を鳴らす。

 「いいんだよ。ヒッポリアの体調管理も飼い主の責任だからな。無理をさせながら歩かせるより、ちゃんと面倒を見ていた方が効率だっていいんだぞ。俺はパンジーを使い潰す気はないしな」

 『その通りですね。だから、うちのパンジーちゃん、よそのヒッポリアたちに比べると毛並みもいいですよね』

 「毛並みはミリーのおかげだろ。毎日夕方になるとブラッシングしてやってるのはミリーだからな」

 そうなんだよなぁ。

 野営の時にパンジー用のブラシを作ってくれって言われてさ、その時作ったブラシを使ってミリーは毎日パンジーのブラッシングをするようになったんだ。

 もちろんパンジーだって喜んでいるし、スミレのいう通り毛並みも良くなったんだよ。

 「で、今回は夜なんだよな?」

 『はい、そうなりますね』

 「あ〜、俺、夜の狩りって好きじゃないんだけどなぁ」

 『夜といっても着いてすぐに罠を設置して、それを確認するのが夜って事じゃないですか』

 「でもさぁ、2時間ごとに罠を確認するんだろ? で、掛かっていたら罠をかけ直す、と」

 『そうなりますね』

 「じゃあ今夜はのんびり寝てられないって事だなぁ」

 なんか、既に憂鬱になってきた。

 「っていうかさ、俺、できれば薬草採取とかだけをしたいんだけど」

 『そうですね、2人で旅をしていた頃は薬草採取しかしてませんでしたからね』

 「そうなんだよなぁ・・あの頃唯一狩った事があった獲物ってさ、確かウサギだけだったよな」

 イズナを集めていたあの頃が無性に懐かしいぞ。

 といってもそんなに昔の話って訳じゃないんだけどさ。

 でも冒険に次ぐ冒険の連続の新・異世界生活だから、なんかほんの数ヶ月っていうよりも数年って感じるよ。

 「結構大きな湖なんだよな」

 『そうです。エスピラナーダ湖、と呼ばれていますね。地図を出しましょうか?』

 「うん」

 頷く俺の前にスミレがスクリーンを展開してくれる。

 俺たちがさっきまで進んでいたのは、都市ケートンから南に伸びる街道を3時間ほど進んで、それから道を東南東に外れて進む事3時間の場所にある、地図で見る限りではかなり大きな湖だ。

 都市ケートンの周囲にはかなりの広さで穀物畑が広がっていて、この湖の間にもちょっとした穀物畑が広がっているんだけど、湖近くには畑はない。

 というのも湖に生息する魔物のせいなんだそうだ。

 都市ケートンの外れを流れる河の源泉はこの湖で、途中までは街道沿いに見る事ができる。

 幅は広くないんだけど、とにかく流れが早い。

 かといって勾配がきつい訳じゃない。

 スミレのデータによると、魔物のせいらしい。

 「それにしても、なんで魔物のせいで流れが早いのか、俺にはさっぱり判らないよ」

 『湖の底に住んでいると言われているアケスピラナーダは水魔法を操るんですよ。そのアケスピラナーダが湖底から地下水脈を引き出して、それにより増えた水を魔法で河に流しているんです。それも湖の水を交換するように流すので、湖の水は常に新鮮な地下水なので綺麗だと言われているようです』

 「その辺が判らないよ。魔物が水魔法を使うっていうのは眉唾もんだけど、使えると前提しよう。でもさ、さすがに魔法で水を河に押し出しているっていうのはなぁ、ちょっと無理がないか? だって、俺たちも川沿いに移動してきたけど、あれだけのスピードで水を動かすってできるのか?」

 『ですから、そういう話だと申し上げました。ですが魔法というのは不思議なものですよ? コータ様が想像もしないような事ができますから』

 「そりゃそうだけどさぁ」

 『魔法を使わない世界からきたコータ様には、なかなか理解できない事かもしれないですね』

 諭すようなスミレにちょっとだけ悔しい思いがするぞ。

 スミレだって俺のスキルなんだからこの世界は初めてだろうに、いかにもなんでも知ってますよ〜って言うのがなんか悔しい。

 「でも俺たちはアケ、なんとかっていうのを相手にするわけじゃないんだろ? 確かザリガニだったよな?」

 スミレに見せてもらった絵は片方の爪がでかいザリガニだったぞ?

 『マーキーナ、ですよ。確かに見た目はコータ様が知っているザリガニかもしれませんけどね』

 「名前はおいおい覚えるよ」

 多分、とつくけどさ。

だって名前を覚えるのって大変なんだよ。なんか外国に行って自分が知っているものの名前を、1から外国の言葉で覚え直している感じだ。

 俺は叔父がアメリカに住んでいるから学生の頃何度か行った事があったけど、その時も単位や単語で苦労したんだよな。

 まさかこんな異世界でも同じような苦労をするなんて、あの頃の俺は夢にも思ってなかったよ、うん。

 「その、マーキーナ、だったけ? それを罠にかけるって言ってたけど、デカイんだろ?」

 『平均的な大きさは1メッチから1メッチ半くらいですね』

 「なんだよ、ジャックよりデカイのか」

 まぁ魔物だからな、スミレの話だと魔物は総じて大きいらしい。

 なので大抵の魔物はジャックやミリーよりデカイんだよな。

 「おいっ、聞こえてるぞっっ!」

 頭の上から声がして見上げると、引き車の屋根の上から顔を出しているジャックがいる。

 ミリーの姿は見えないからきっと引き車の後ろ部分の屋根にいるんだろう。

 なんでも2人は『見張り』なんだそうだ。

 この前、チンパラ(鹿もどき)の依頼を受けた時に近くにいたハンターたちと話していて、本人たち曰く色々と教えてもらったんだそうだ。

 その時にミリーはやんわりと『仲間といがみ合っていたら依頼のミスに繋がる事もある。時には死傷者が出る原因にもなるんだよ』と言われたらしく、それ以来あからさまにジャックを避けるような事はしなくなった。

 できれば俺がなんとかしたかったんだけど、まあこればっかりは仕方ない。

 それに俺としても双方に気を使わなくて済むのなら何よりだしな。

 「別に何も言ってないぞ?」

 「嘘つけっっ、全部聞こえてたぞっ! ケットシーの耳を舐めんなよっ」

 「ネコミミを舐める趣味はないぞ?」

 「俺の言いたい事判っててバカな事言うなっっ!」

 プリプリとむくれるジャックを見て、俺は思わずぷっと吹きだした。

 「そう怒るなって」

 「誰が怒らしているんだよっっ!」

 「ん〜・・俺か?」

 「お前以外におらんわっっ!」

 屋根の上で地団駄を踏みそうなジャックの後ろに影が落ちる。

 「うるさい・・」

 そして小さいけど低いミリーの不機嫌そうな声が聞こえた。

 「はい、すみませんでした」

 慌てて顔を引っ込めたジャックだけど、きっと後ろに立っているミリーに謝っているんだろう。

 「騒ぐから獲物、が逃げた、よ」

 「すみません」

 「獲物? ミリー、獲物って?」

 目を半目にしてジロリとジャックを見下ろしていたミリーは、俺の問いかけに答えるように進行方向の左手を指差した。

 「あの辺に、チンパラの群れ、がいた」

 「チンパラ?」

 「うん。でも、騒がしい声で、逃げてった」

 「そりゃ・・ごめんな」

 「いい、弓だとちょっと、遠かったから」

 多分晩飯用に狩ろうとしたたんだろうな。

 ミリーもジャックも肉の方が好きだからさ。

 でもな、野菜も少しは食べないと体に良くないんだぞ。

 「悪かったな。他に何もいないのか?」

 「わかんない」

 「スミレ、探索してくれるかな? どうやら2人は今夜のご飯のおかずを狩りたいみたいだからさ」

 『判りました、探索開始、します・・・・湖の手前左側に林があります。そこであればチンパラも狩れるのではないか、と思います』

 「おっけ、ありがと。ミリー、ジャック、そこまで待てるか?」

 「もちろん、スミレ、ありがと」

 『どういたしまして、ミリーちゃん』

 「その、スミレ、さん。ありがとう」

 『どういたしまして、ジャック』

 すぐに礼が言えるミリーと、未だに少しぎこちないジャック。

 それでもミリーが礼を言うと、自分も言わなくちゃって思うだけ良くなった。

 「コータ、パンジーの背中、乗りたい」

 「ん? いいと思うぞ。でも一応パンジーに聞けよ」

 「わかった」

 ピョンっと引き車の屋根から飛び降りたミリーは、そのままパンジーの傍に駆けて行く。

 その後ろ姿を淋しそうに見送るジャックをみて思わず笑いそうになったが、ここで笑ったらまた怒り出すだろう。

 そうなるとまた2人ともミリーに叱られるだろうから、俺はぐっと我慢して俺の肩に座っているスミレを見下ろした。

 「罠は簡単に作れるのか?」

 『簡単ですよ。10個くらいなら1時間もあれば作れると思います。ただ罠を作る材料は湖から取らないといけないので、そちらにも1時間はかかると思います』

 「うん、まぁそれは仕方ないよ。始める前にスクリーンで俺たち3人にもう1度おさらいさせてくれよな」

 『もちろんです。最初は集める材料を見せて確認するつもりです』

 ああ、それなら多分大丈夫だ。

 まぁどうせスミレも俺たち3人の間を飛び回って、間違えたものを集めた時に指摘するだろうしな。

 なんでもかんでもスミレ任せだけど、当のスミレがそれがいいと言っているんだから、それなら甘えさせてもらおう。

 俺はそんな事を考えながら、無事にパンジーの背中に乗せてもらえたミリー越しに進行方向を見るのだった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/07/2017 @17:35CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

俺はパンジーを使う潰す気はないしな → 俺はパンジーを使い潰す気はないしな

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