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12.

 さて、ギルドの前にやってきた。

 確かに大きな2階建ての建物だった。

 殆どの家が木造なのに、なぜかギルドの建物石造り。

 ボン爺も大きな建物って言わないで石造りの2階建ての建物、って言えばすぐに判ったのにな。

 ボン爺の話では昨日俺はこの前を通ったらしいんだが、全く記憶に残っていない。

 まぁあの時はちょっとテンパっていたから仕方ないか。

 入り口に手をかけてからふと考える。

 これがラノベとかだったら、荒くれ男たちに絡まれるのがフラグなんだが、ここはどうなんだろう?

 俺は恐る恐るギルドのドアを開けて中を覗くと、意外と整理整頓されている。

 キョロキョロと見回しても荒くれ男たちはいなかった。

 ホッと小さく息を吐いてから、俺はゆっくりと中に入る。

 「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょう?」

 声をかけられた方を見ると、カウンターの向こう側に女性が立っているのが見える。

 そちらに向かいかけて、俺は足を止めてしまった。

 だって、彼女、どうみたって人間じゃねぇもん。

 ボン爺は、性格は妖怪だけど見た目は人間だ。

 村の門のところで番をしていた連中も、見た目は人間だった。

 だから生活様式はともかく、あんまり異世界に来たっていう実感は湧いてなかった。

 けどさ、今俺に声をかけてきた女性はどう見ても妖怪だ。

 なんていうの、蛇女ヘビオンナ? それが一番彼女を表している言葉だと思う。

 体型は人間そのものなんだけど、顔が蛇そのもの?

 正直ちょっと怖い。

 「あの?」

 「あっ、はっ、はいっっ」

 固まった俺に訝しげな声をかけてきた彼女のおかげで俺は我に返ると慌ててカウンターに向かった。

 近くで見ると縦に伸びた瞳孔が目立って更に迫力が増すが、そこは大人の男としてビビったところを見せる訳にはいかない、というなけなしのプライドをかき集めて、なんでもない風を装う。

 「ご用件は?」

 「あっ、えっと、その、ハンター登録をお願いしたいと思ってきました」

 「それではこちらの用紙にご記入お願いします」

 「・・・えっと、字が書けないんですけど」

 よく考えたら俺、日本語しか書けないよ。それ以外だとアルファベットくらいは書けるけど、異世界に日本語やアルファベットが通用するかどうかも判らない。

 けど、たまに字が書けないっていうヤツがくるんだろうか。目の前の蛇さんはうんと頷いただけで特に気にしていないようだ。

 「ああ、それでしたら私が代筆いたします。名前を教えてください」

 「はい、幸太です」

 「コータ、と。出身はどこですか?」

 「ローデン、です」

 「えっ?」

 それどこ? と顔に書いてある。

 「えっと、ですね。ここから更に森沿いに遠くへ行ったところにあった集落の名前です」

 俺が自分がやってきたであろう方角を指差しながら説明すると、何か思い当たる節があったのか彼女は申込用紙とペンをカウンターに置いた。

 「ちょっと待ってください」

 「あっ・・・はぁ」

 それから俺の返事を聞く前に、彼女は奥へと足早に歩いて行ってしまった。

 一体どうしたんだろう?

 状況が全く判っていない俺はその場でぼーっと突っ立ったままだが、彼女はすぐに上司と思しき男性を連れて戻ってきた。

 「はじめまして、ボーライトと申します。ここのギルドの責任者をしております」

 「あ、はじめまして、幸太と言います」

 「ローデンの出身とお聞きしましたが?」

 「あのローデンの事・・知っているんですか?」

 あれ、誰も知らない集落、じゃなかったっけ?

 「はい、私はここの責任者ですし、ローデンの者も3人ほどハンターとして登録されていましたから。まぁ村の人間は殆ど知らないと思います」

 「ああ・・・」

 「しかし、この数年ローデンからの方を見かけなかったので、ちょっとどうされているかをお聞きしたかったんです」

 俺は困ったような表情を浮かべて俯いた。

 もちろんそれは演技とかじゃなくって、なんて言えばいいのか判らなくてだったのだが、男性は俺のその態度を見てハッと息を飲んだ。

 「もしかして・・・・」

 「その・・・ローデンは魔獣の襲撃を受けて壊滅しました」

 「やはり・・・ハンター登録をしていた方が最後に来られた時に、魔獣の襲撃回数が増えた、と仰られていたのでもしかして、と思っていたのですが・・・・」

 「あの・・・ローデンの集落の人間を知っているんですか?」

 俺は恐る恐る尋ねる。

 もしよく知っていると言われたら、ハンター登録してすぐにでも村を出よう。

 「知っているというか、顔見知り程度でしょうか? 年に1−2回ほど来られてこの辺りでは珍しい素材を持ち込んでくださるので助かっていました」

 ああ、どうやら素材を売って生活に必要なものを買い出しに来ていたのか。

 「彼らは自分たちが集落から来た事を隠したがっていたので、ローデンという集落があった事を知っていた人間は村に2−3人いただけですけどね」

 「そうですね・・・・あまり外の世界と交流を持ちたくないと言ってましたから」

 「その・・それで、どうしてここに?」

 「俺とおばあの2人だけ運良く助かったんです。でもおばあが集落を離れたくないと言ったから、ずっと2人きりで暮らしていました。そのおばあが先日亡くなったので、1人ではさすがに生活もできないから、あそこを離れる事にしたんです」

 「それはご愁傷さまでした」

 ああ、罪悪感がっっ。

 目の前の男性と蛇女さんの申し訳ないという表情を見ると、俺の罪悪感が軋んだ音を立てる。

 「いえ、これから暫くは旅をして、新しく生活していく場所を探そうと思って出てきたんです。それで今は門番の人が連れて行ってくれたボン爺のところに厄介になっています。そのボン爺が旅に出るんだったらハンター登録をした方がいいと言ったんで、登録にきたんです」

 「なるほど、ボン爺ならローデンの集落の事を知ってましたからね。門番もいい判断しましたね。それに確かに旅をするのであれば、何か身分を証明するようなものがあった方が町や村に入る時に楽ですから」

 「はい、ただ、その・・・俺には自分の事を証明してくれる人がいないので、登録できるかどうか心配なんですけどね」

 「ああ、それは大丈夫ですよ。ローデンの集落の人なら、私たちも安心してハンター登録できます」

 どうやら彼にとってローデン出身者は信頼できる人間だったようだ。

 「そうだ、あの、俺、あまりお金を持っていないんです。でも売れそうなものは少しですけど持っているので、ここで買い取りをしてもらえますか?」

 「買い取りですか? もちろんですよ。この村には商人ギルドがありませんから、うちでも買取りができる事になってますので大丈夫です。ただ適正価格での買い取りですので、村にある店に持って行って売る方が高く買ってもらえると思いますが」

 「いいえ、俺が集落を出るのはこれが初めてなんです。なので物の値段っていうのが全く判らないんです。だから商人相手だと自分が騙されてるかどうかも判らないので、ギルドで買ってもらうのが一番だと思います」

 頭を掻きながらそう言うと、彼はにっこりと笑みを浮かべて頷いた。

 「そうですね。ローデンでずっと暮らしていたんだったら値段とか判らないでしょうから、確かにうちで買い取りをした方が確実ですね」

 「はい、なのでお願いできますか?」

 「はい、任せてください。とりあえず、ハンター登録を済ませましょう。ケィリーン、登録を頼むよ」

 「お任せください」

 ぽん、と蛇女さんの肩を叩いてから、男は小さく俺に会釈をして奥に戻っていく。

 「じゃあ、ケィリーンさん、よろしくお願いします」

 「あら? 私の名前をご存知ですか?」

 「いいえ、その、さっきボーライトさんがそう呼んでいたので・・・・」

 ちょっと馴れ馴れしかったかな?

 少し不安になったが、彼女は気にした風もなく笑みを浮かべている。

 「いえいえ、名前で呼んでいただいて結構です。それじゃあ、登録を終わらせましょう」

 「はい、お願いします」

 「名前はコータ。出身はローデン、と。何か魔法とか使えますか?」

 「魔法、ですか? いいえ、多分使え無いと思います」

 「それじゃあ、武器は?」

 「武器も・・・その・・・」

 魔法はスキルだから、多分使えないと思う。使えるんだったら神様(カー⚪︎ルおじさん)からスキルにするかって、聞かれなかったと思うしな。

 で、だ。パチンコ、って武器になるのか?

 「武器になりそうなものといえば、その・・・このナイフと、これ、ですね」

 「それは?」

 「パチンコって言うんですけど、知りませんか?」

 アルファベットのYに似た形状のそれをポーチから取り出して、ケィリーンさんの前に置いた。

 彼女はそれをまじまじと見て、頭を傾げている。

 「これ、武器なんですか?」

 「そうです。まぁ、武器というか遠距離から獲物を狙って仕留めるためのものです」

 「はぁ・・・」

 ケィリーンさんの反応を見ている限りでは、どうやらこの世界にはパチンコはないらしい。

 「時間があるようでしたら、裏にある練習場で使って見せてもらえませんか?」

 「いいですよ」

 「すみません。ハンターと言っても採取専門の人もいるので、それほど攻撃力はなくてもいいんですけど、少なくとも自分の身を守れる程度の武器は携帯してもらう事になっているんです。一応自己責任という事になってはいるんですが、それでもハンターになってすぐに事故に遭って廃業、というのも問題ですからね」

 済まなさそうに言われたが、当たり前だな、と思う。

 この村が面している森には魔獣が出るんだ。そんなところに武器を持っていない人間を送り出すなんて、死んでも構わないって言っているようなもんだもんな。

 「では先に武器を確認してもいいでしょうか? それが武器として使い物になるかどうかを確認してから登録完了とギルドカードの発行となります」

 「判りました」

 確か石ころはポーチの中に結構な数が入っている筈だから弾の方は大丈夫だな。

 「それでは私についてきてください」

 俺はケィリーンさんに案内されるまま、彼女の後ろをついて行った。





 読んでくださって、ありがとうございました。

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