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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 腕試し?
129/345

128.

今回は超シリアスです。きっと今までで一番?

 ビュッと音がする勢いで飛んできたスミレは、そのまま俺の顔の前でホバリングをしてじろっと俺を睨みつけている。

 「ス、スミレ・・?」

 『コータ様はどうしてそうなんですかっっ!』

 「ど、どうしてそう、って、何が?」

 下ろした両腕で脇を締めて、その格好のまま両手を握りしめてプルプルと震えているスミレを見て、これはヤバイ、と思うものの彼女が何を怒っているのか俺にはさっぱり判らない。

 『私はなんですか?』

 「そ、それってどういう意味?」

 『ですから、私はコータ様のにあたりますか?』

 何にあたるのかって聞かれても、なんて答えればいいんだ?

 「えっ? えっと、スミレは・・」

 『私は?』

 「えっと、俺の・・スキルのサポートをしてくれ--」

 『その通りですっっ!』

 サポートをしてくれる大切な仲間、と言おうとして途中で遮られてしまった。

 『私は、コータ様の、スキルの、サポートをする、AIです』

 一言一言ひとことひとこと区切るながら言うスミレは、なんていうか鬼気迫った感じがして怖い。

 『AI、とワザと言いました。その方がコータ様にも判りやすいと思ったからです』

 「う、うん」

 まあ確かにこの世界で言うようなスキルなんてのは、元いた世界では存在してなかったもんな。

 だからスミレのいう通り、人工知能《AI》と言って貰った方がすんなりと頭に入る。

 『私がコータ様のサポートである、という事は理解できましたか?』

 「理解って、ずっとそう思ってたよ」

 うん、これは本当だよ。スミレがいたから今日まで何事もなく頑張ってこれたんだからさ。

 その返事が正しかったのかどうかは俺には判らないけどね。

 そんな俺を半目で見ながら、スミレは言葉を続ける。

 『では、ここから本題です』

 「えっ?」

 『コータ様はスキルをどのように考えていますか?』

 「スキル? スキルは・・・生きていく上で便利な技能?」

 『そうですね。スキルはこの世界に住んでいる種族全てに1つずつ与えられている特別な才能タレントです。それを上手く使いながら生活していく事で、自分の特性を理解し進む道を見つけるんです。もちろん全員が全員、自分のスキルを使いこなそうと考える訳ではありませんけどね。自分のしたい事と持っているスキルが上手く重ならなければ、スキルとは関係のない仕事についてスキルを全く使う事のない 人生を送る人もいますから』

 少し淋しそうな口調になったスミレは話しているうちに冷静になってきたのか、先ほどまでの鬼気迫るといった雰囲気は消えてしまっている。

 それだけでもホッとする。

 「うん、だから俺は自分が欲しかったスキルを貰う事ができて嬉しかったんだよな。全く使い道のないスキルだったら、こんな知らない世界でどうすれば判らなかったからさ」

 『という事は、コータ様は私がサポートするスキルを持つ事ができてよかった、という事ですね』

 「もちろん。じゃなかったら今頃野垂れ死んでるかもしれない」

 その事が判る程度に、この世界が元の世界とは全く違うんだって事は理解できたと思う。

 『では、どうしてその欲しかったスキルを活用されないんですか?』

 「へっ? それ、どういう意味?」

 『ですから、どうしてコータ様が望んだというスキルをきちんと活用しないんですか、と聞いているんです』

 「俺、使ってるじゃん?」

 何でもかんでもスキルで作ってると思うぞ?

 ってかさ、貰ったスキルがなかったら作れなかったものの方がはるかに多いし、大体多次元プリンターっていうスキルを貰ったからこそ、元の世界の知識も役に立っていると思うんだ。

 『ものを作ってレベルをあげた、という点では使ったと言えますけど、活用はされてません』

 「いやいや、ちゃんと活用してるから、ものをいろいろ作ってるんじゃないかよ」

 この世界に来た日にいろいろ作ったじゃん。

 ちゃんと活用してるよ?

 『そうですね、コータ様はスキルそれ自体はそれなりに活用されてますね』

 それなりって、なんか引っかかる言い方だけどさ、まあ今はいいや。

 『でも、スキルでものを作るという点では活用されていても、サポートシステムは全く活用されてないです』

 「えっ? スミレにはすごく助けられているぞ?」

 『いいえ、全く活用されていません。今のコータ様のサポートシステムの活用方法は、ただデータバンクの延長としての使い方です』

 いや、そんな事言われてもさ。俺としてはスミレにはいろいろ手助けしてもらってると思うんだけど。

 『あのですね。どうも判っていないようなのではっきり言わせてもらいますけど、いいですか?』

 「あ・・はい」

 『私はコータ様のスキルのサポートシステムです』

 「うん、知ってる」

 『サポートシステムという事は、生きている訳じゃないんですよ? コータ様のように食事が必要な訳でも睡眠が必要な訳でもありません』

 それは知ってる。だってスミレが何か食べるところなんて見た事ないもんな。

 2人でいた頃だってご飯を食べるのは俺だけで、ミリーやジャックが一緒に旅をするようになっても、食事はこの3人でしているんだしさ。

 なのでスミレの言いたい事がなんなのか、未だに俺には判ってない。

 「あのさ、スミレ。その・・・それがどうしたっていうんだ? スミレがご飯を食べないって事くらい、俺にも判ってるぞ?」

 『ではなぜコータ様は、私をコータ様たちのような生きている種族のように扱うのですか?』

 「え・・・・」

 『私をまるでコータ様と同じような人のように扱ってくれる事は嬉しいですけど、そういった気遣いは私には不要なんですよ?』

 「それは・・・」

 『コータ様は私によく「疲れただろ、休んでいいよ」「1人でできるから大丈夫」「無理するなよ」、そういった言葉をかけてくれますよね。でも、私は人工知能《AI》なんです。休む必要はありませんし、疲れる事もありません。コータ様が寝ている間も作業を続ける事はできるんです』

 少し哀しそうな表情を浮かべて話すスミレ。

 「いや、だってさ、その・・・確かにスミレは俺のスキルだけど、これから一生俺と付き合う訳だから、今から無理をさせていたらどこかでスミレが駄目になるんじゃないかって・・・」

 『なりませんよ』

 「でも・・」

 どんな機械だっていつかは壊れるんだよ。

 そんな言葉を飲み込んで俯いた。

 スミレはスキルで機械じゃない。だから壊れる事はないのかもしれない。

 でも、もし壊れたら?

 そうなったらそこから先俺は1人じゃん。

 今はミリーとジャックが一緒にいる。でも、いつか2人はそれぞれの道に進むために俺とはたものを分かつだろう。

 その時、俺は1人になるんだ、この知らない世界で。

 そこまで考えて、俺はようやく気がついた。

 パッと顔を上げると、目の前を飛んでいるスミレは慈愛に満ちた笑みを浮かべている。

 『コータ様、私はコータ様のスキルです。スキルというのは、その持ち主が死ぬまで決して消滅する事はありません』

 「スミレ・・・」

 『コータ様がいらした元の世界にはスキルというものがなかったので、考え方をすぐに変える事が難しかった事は承知しています。ですが私の事は、生きているもの、もしくは壊れるもの、ではなくコータ様が持っている能力の1つだと考えてくれませんか?』

 「だけどさ・・・」

 『スキルは使ってこそ、なんですよ? 使わないスキルはスキルである意味がない。それはスキルにとって一番避けたい事なんです』

 使ってこそのスキル。 

 スミレの言いたい事は判るけどさ。

 『まだ納得してもらえませんか? ではこう言えばどうでしょう? 例えばコータ様が買おうとしていたプリンターですが、もしあれがどこかの倉庫の片隅で埃を被って忘れ去られていたら、どう思います? ああ無理に使われなくてよかった、って思いますか? それとも出番がなくて可哀そうだ、と思いますか?』

 「そりゃ、機械は使ってこそだから、使う事もなくほったらかしていたら勿体無いし可哀そうだy・・ああ、そうか」

 ストン、と何かが心に落ちてきた。

 「つまり、スミレもスキルとして活用すればするほど磨きがかかるって事か」

 『はい、そのとおりです』

 嬉しそうな顔で頷くスミレ。

 『私は学習型スキルなんですよ? だからデータバンクを持っているし、作り上げたもののセッティングをセーブできるんです。そしてそれを応用して更に進化したものを作れるんです』

 「進化、かぁ・・カッコいいなぁ、スミレ」

 『ありがとうございます。ですので、コータ様が眠っている間も何を作ればいいのか申しつけてください。私は勝手に判断してあれこれする事に制限が付いています。ですが、コータ様が申しつけてくだされば、一晩中でもものを作り続ける事ができるんです』

 「いや、でも、さすがに一晩中は、なぁ」

 『作り続ける事でレベルが上がっていくんですよ? そして今はレベルが5まで上がったのでレベルとしては上がる事はありませんが、スキルそのものの熟練度が上がっていくので、制作時間短縮などの能力値が上がりますよ』

 「えっ、そうだったんだ?」

 『はい』

 「じゃあ俺が寝ている間もスミレが頑張ればそれだけ早くレベルが上がったって事か?」

マジかぁ・・じゃあさ、もしかしたらもっと早くにレベルが5になっていた可能性もあったって事か?

 「早く言ってくれよ」

 『言いましたよ。スキルをどんどん使ってものを作ってください、と』

 「いやいや、それじゃあ俺には伝わってなかったよ。はっきりと今みたいに説明してくれればよかったのに」

 『それは申し訳ありません。ですが私もレベルが低かった頃はそこまでの思考はなかったので、あの当時だとあの説明がせいぜいだったと思います』

 「あ〜、そっか・・・そうだな」

 今説明受けたばかりなのに、全くそこまで考えが及ばなかったよ。

 『その様子だと、どうして私がミリーちゃんを構っていたのかも判ってないみたいですね?』

 「えっ、気に入ったから、じゃないのか?」

 『確かにいい子ですから嫌いじゃないですよ? でも私の一番はコータ様です。その事は忘れないでくださいね』

 「えぇぇ・・それにしては俺の扱いはそれほど良かったとは思えない時だってあったぞ?」

 ミリーが仲間に加わってから、スミレは俺よりもミリーの世話の方が忙しかったような気がするんだけどさ。

 それなのに一番だって言われても、素直に頷けないぞ。

 そりゃ、スミレに一番だって言われると嬉しいんだけどな。

 『コータ様の手を煩わせたくなかったから、私が彼女の面倒を見ていました』

 「そ、そうなんだ?」

 『はい、コータ様がミリーちゃんの面倒をみると、その分スキルを使う機会が減りますよね? スキルは使ってこそです。ですから私が彼女を構う事で、コータ様にとって自由になる時間を増やしたかったんです』

 「そっか・・確かに、スミレがミリーの面倒を見てくれてたから、俺は好き勝手にものを作る時間を取る事ができてたよなぁ」

 もし俺がミリーの世話を1から10まで自分でしていたら、今まで作ったものの半分くらいしか作れてなかったかもしれない。

 「で、でもさ、それは別にしても、スミレは結構俺に意地悪だったじゃん?」

 『あれは・・もしかしたら、と思ったからです。コータ様を邪険に扱えば、腹を立てて腹いせに仕事を多めに申しつけてくるのではないか、と考えていたんですけど・・・そんな事は全くありませんでした。われながら浅慮だったと反省しています』

 「マジかぁ・・・じゃあ、なんだ。全部俺の身から出た錆ってヤツかよ」

 スミレの俺が一番、っていう言葉は本物みたいだ。

 なんかさっきから話を聞いていると、俺にとって何がいいか、を一番に考えて行動してくれていたって今更ながら感じるよ。

 まぁ、今更、なんだけどな。

 『という事で、私が言いたい事は理解していただけたでしょうか?』

 「あ〜・・・うん。まぁな」

 『では、コータ様はそろそろ寝てください。残りは私が朝までに片付けておきます』

 「えっ? でもさ、残りって数が半端じゃないだろ?」

 『大丈夫です。私には今夜一晩まるまる時間がありますから』

 つまり、寝ないから一晩中作業を進めるって言ってんだな。

 「あ〜・・・あのさ、まだ全部は納得できてないんだ。でも、その、なんだ。今夜のボールペン作りと鉛筆作りは任せるよ」

 どうせ俺の分はあと3時間、いやこうやって話している間も作っていたから2時間ちょっと分だし、スミレの方も同時進行で進めていけば2−3時間で終わるだろう。

 それなら何もしない時間っていうのができる筈だ、うん。

 そう考えれば、それほど罪悪感も感じないで済む。

 「判った。じゃあ、俺はそろそろ寝るよ」

 『判りました。それではまた明日』

 「うん・・・あのさ、スミレ」

 『はい?』

 「その・・ありがとな」

 『・・どういたしまして』

 ふふふっというスミレの笑う声を聞きながら、俺は後ろを振り返らずに手を振って引き車に向かったのだった。






 という理由で、スミレはミリーを構いコータに対しての態度が悪かったんです。(ということにしておいてください)


 読んでくださって、ありがとうございました。


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