125.
あ〜、疲れた。
昨夜は結構遅くまで頑張ってたんだよ、俺。
ふわぁっと欠伸をしながらも、周囲の警戒を怠らない。
いくらスミレの結界の中とはいえ、獲物が来た事に気付かなかったら狩りに来た意味ないもんな。
俺の右にミリー、左にジャック、それぞれ剣と弓を構えて獲物がやってくるのを待っている。
今日来ているのは以前ゴンドランドを狩りに来た草原で、獲物はもちろんゴンドランドだ。
とはいえ依頼として来ている訳じゃないから、とりあえずウサギ1匹分をミリーがあちこちに呼び餌として前回同様2メートルちょっとの木の棒に刺している。
「おい、こんなのでゴンドランドが来るのかよ」
「くる。前もこれで、仕留めた」
キッパリと言い切ったのがミリーだったので、ジャックは数回口をパクパクさせてから黙る。
ったく、もし俺がエサに寄って来るって言ったら信じてないだろ、お前。
あからさますぎて文句を言う気にもならないよ、んとに。
「コータ、来た」
「ん? もうか?」
「うん」
ミリーは凛々しく矢を番えて弓を構える。
それを見て、ジャックが慌てて剣を構えている。
ジャックはミリーの騎士らしいけど、どう見たってミリーの方が凛々しい。
プププっと笑いそうになるのをぐっと我慢して、俺もパチンコを構えた。
ヒュンっと音がしてミリーが矢を放つが、俺にはまだなんにも見えない。
矢が飛んで行った方を見ると、次の瞬間に草の向こうにゴンドランドが姿を現した。
と同時にぐらっと羽が左右に振れてそのままバランスを崩して滑降してくる。
俺がスミレの結界に突っ込む寸前のゴンドランドにパチンコ弾を飛ばすと、遠目にも複眼が吹き飛ぶのが判った。
「うえぇぇ」
なかなかグロい。
ゴンドランドはそのままスミレの結界にぶつかって尻尾が上に飛び上がり、結界のこちら側からジャックが剣を振って頭を切り落とした。
「コータ」
「はいはい」
俺はミリーの呼び声に従って、そのまま結界に向かう。
「スミレ〜、開けてくれ〜」
『判りました』
前回同様に結界の一部が解消されると、俺はそこから出てゴンドランドの羽を掴む。
それを見てジャックも慌ててやってきて、反対側に回って羽を掴んで結界の中に引き摺り込む手助けをしてくれた。
「早速1匹だな」
「すぐに次、が来る」
「なんかミリーにかかるとゴンドランドもあっという間に狩れちゃうな」
あとで知ったんだけど、どうやら普通のハンターはミリーのようにエサを用意してゴンドランドを呼び寄せるというやり方はしないようだ。
というか、エサでおびき寄せる事ができる、という事を知らないんだろう。
ミリーは父親から狩り方を聞いたと言ってたけど、俺やスミレだけだったらきっと1匹狩るのも大変だったに違いない。
「次、来た」
俺が羽を切り取る間もなく、ミリーが弓を構える。
それを見て俺も慌ててパチンコを構える。
ミリーはさっきゴンドランドが飛んできた方向より少しばかり左を向いているけど、やっぱり俺にはゴンドランドの姿は見えないし、もちろん何も聞こえない。
ヒュンッッ
ミリーが矢を放つと同時に、ゴンドランドは姿を現した。
俺もパチンコ弾を放つが、あいにく左に逸れてしまって当たらなかった。
ちっと舌打ちをしてからポーチから次の弾を取り出してすぐに構えるけど、その時にはすでにゴンドランドはスミレの結界にぶつかっていた。
「きええええぇぇぃぃぃぃっっ」
大きな奇声をあげてジャックが剣を振り下ろすけど、ゴンドランドの前足(?)に邪魔されて届かなかった。
それを見たミリーは既に構えていた矢を放ち、俺も同時にパチンコの弾を放った。
耳障りな悲鳴がゴンドランドから上がり、そのまま崩れ落ちるように上体を地面に落とした。
そのタイミングでジャックが剣を振り下ろして頭を斬りとばす。
うん、なかなかの3人の連携ではないだろうか?
まぁこれを連携と言っていいのかどうか判らないけどさ。
俺がミリーに呼ばれる前にとっとと結界の前に移動すると、スミレも俺が頼む前に結界に穴を開けてくれる。
しかも以前頼んだ結界の視覚化を覚えていたのか、穴の開いた部分が白っぽくよく判るようになっている。
これで3匹目のゴンドランドだ。
鉛筆の大量受注のせいで急遽ゴンドランド討伐に来たんだけど、これだけあれば十分だ。
「もう十分じゃないかな?」
「もう2匹は、仕留めたい」
「そ、そうか?」
「ギルドで依頼、出てた、よ」
あれ、そうだったっけ?
俺は採取系の依頼しか見なかったから知らなかったぞ。
「うん、多分、この前と、同じ人」
「ああ、あの建築業者か」
確かいつでも持って来いって言ってたな。
『今回はゴンドランドの羽30枚でしたね。それ以下でも大丈夫だとありましたけど、30枚納品すればボーナスが付くとあったので、30枚まとめて納品したいんでしょうね』
「それであと2匹か。判った」
スミレはボーナスを狙っているミリーを苦笑いで見ている。でもまぁ俺もボーナスが貰えるんなら頑張るぞ。
でもさ、前回は10枚の依頼だったんだけど今回は多いな? それだけ建築の仕事が忙しいって事かな?
ゴンドランドの羽は窓ガラス代わりに使われるから、家の建築の仕事が増えたんだろう。
「まぁ余ったゴンドランドはスミレのストレージに入れておけば、いつだっている時に使えるもんな」
『コータ様のポーチではないんですか?』
「えっ? い、いや。だってさ、その、量が多いからスミレにも手伝って貰わないと間に合わないだろ?」
ここで正直に虫の死骸を入れたくないといえば叱り飛ばされる。
なので言い訳を考えながらの返事だったわけだが・・・
『ああ、そうですね。確か20000本の注文でしたね』
「うん、そうそう。だからさ、俺1人じゃあ無理かなぁって」
『判りました。お手伝いしますね』
俺の仕事を押し付ける話なのに、嬉しそうに答えてくれた。
良かったよ。
まぁ仕事も手伝って貰いたいっていうのも本当だけど、本当は虫の死骸をポーチに仕舞うのが嫌だっていうのが1番なんだけどさ。
『でしたら余計にもう少しゴンドランドは仕留めておいた方がいいですよね?』
「うっ、ごめん、そこまで考えてなかったよ。でもさ、今の2匹でも十分なんとかなるかなぁって」
『今回の注文分は大丈夫ですけど、そうしょっちゅうゴンドランドばかり狩りに来ないでしょうから、余分に狩れる時に買っておけばらくです』
はい、その通りです。
「うん、でもまぁいざとなればさ、ゴンドランドを狩るハンターに低額だけど本体も持ってくれば買うってギルドに言っておけばいいかなぁ、なんて思ったんだよ」
ゴンドランドの羽の依頼はそれなりにあるようなので、都市ケートンにいる間はそれを受けるハンターから買ってもいいかなぁ、って甘い事を考えてたんだよ、俺は。
『まぁそれもありですけどね。でもとりあえず今日はここにゴンドランド狩りに来ているんですから、頑張って予備を蓄えましょう』
「はい」
スミレのいう通りなので言い返せない自分が情けない。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、スミレは話し続ける。
『それで鉛筆ですが、期限はないんですよね?』
「うん? あ〜、そうだね。期限はないかな? でもできるだけ早めにって言われたよ。あっ、それとボールペンも10000本だってさ」
『でしたら、また沼の方にも行かないといけないですね』
「うっ・・・」
『ボールペンを作るんでしたら、アメーバが必要ですよね?』
「うん・・・そういやそうだったよ」
実はボールペンに使ったプラスチックもどきは、アメーバから作られているんだよな。あれ、空気に触れると硬くなるんだよ。その特性を使う事でボールペンができたんだけど、前回のスライムボールの事があるから正直気が乗らない。
ゴンドランドの体を使った鉛筆もよく判らないけど、1匹分で作れる鉛筆は7000から8000本だ。大きさの割に数が取れないのは、スミレの話だと圧縮するとか成分を抽出するか、なんかそういう説明があった。
なので今回2匹もあれば、前の残りもあるから20000本は軽く作れるかなって思ったんだよな。
「だったら今日は沼よりの草原で野営がいいのか・・・」
『そうですね、アメーバは夜活動するので、どうしても夜に集めに行く事になりますからね』
そうだよなぁ。
この前も夜だったよなぁ。
な〜んか気が乗らないぞ。
ってか、俺、なんでこんな大切な事忘れてたんだ?
憶えていたらなんだかんだと理由をつけてボールペンの依頼は受けなかったぞ。
「コータ、来た」
ブツブツ文句を言っていた俺に、ミリーが次のゴンドランドがやってきた事を告げる。
「おっけー」
俺は気を取り直ししてから、パチンコを構えた。
ミリーのボーナスのために頑張って羽30枚集めないとな。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。




