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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 腕試し?
125/345

124.

 慌ただしく出て行ったミルトンさんは、部屋のドアを開けっ放しで行ってしまったので通路がよく見えるよ。

 「俺、申請するとは言ってないんだけどなぁ・・・」

 そりゃそのうち申請するつもりだったんだけどさ、でも今日申請まで話が進むとは思わなかったよ。

 思わず溜め息を吐いたけど、その辺は仕方ないよな。

 そういや宿にミリーとジャックを置いてきちゃったな。

 「スミレ、ミリーとジャック、大丈夫かな?」

 『大丈夫だと思いますよ。もしかしたらミルトンさんがコータ様を引っ張っていくところを見たかもしれませんしね』

 「だといいけど・・・まぁ、こうなったらとっとと済ませよう」

 宿に残っているのがあまり仲良くない2人という事に不安がないでもないけど、こうなったらなるようになれ、という心境になる。

 スミレは俺のスキルだからいつだってそばにいてくれる事に安心だけどな。

 ちょっとした距離なら俺のレベルが上がった事で離れていられるようになったけど、さすがに蒼のダリア亭から生産ギルドまでは距離がありすぎるから俺のそばにいるようだ。

 いつもみたいにギルドの外に止めた引き車で待っててくれっていう風にはいかないって事だな。

 「お待たせしましたっっ」

 息を切らせて戻ってきたミルトンさんはさっきまで座っていた席に戻ると、テーブルの上に紙の束を置いた。

 「ミ、ミルトンさん、それは?」

 「ああ、これですか? これは前回までにコータさんが申請した商品の登録証明書ですね。それも全て通りました。あっ、あのボールペン、ですか? あれは良い、って事で既に生産に入っています。それからライターでしたっけ? あれも生産に入ろうかという話が出ています」

 ニコニコと笑みを浮かべて報告してくれるミルトンさんは、本当に自分の事のように喜んでくれているようで何よりだよ、うん。

 「ボールペン、ですか?」

 「はい、インク壺のいらないペン、というのはすごく便利ですからね。特に馬車や車で移動中に書く必要がある時なんか、インク壺の心配がいらないというのは本当に助かります」

 「ああ、なるほどね」

 確かに馬車なんかだとちょっと揺れるとインク壺が倒れるかもしれないもんな。

 だったら、あれも売れるかな?

 「あれ、じゃあ、これなんかはどうでしょう?」

 「これ、とはなんでしょう?」

 「これ、です」

 俺はポーチから1本の鉛筆を取り出した。

 「これは棒ですか?」

 「いいえ、えっと、これをですね、こんな風に削ると真ん中に挟んでいる芯が出てきて・・・このように書く事ができます」

 俺は手早くかなり荒くだけど鉛筆を削ると、そのまま紙に書いてみせる。

 「これはペンと違って、これを使えば消せるんです。ですので正式書面には使えませんが、文字の練習とか下書きなんかを作成する時に便利だと思いますね」

 言いながら鉛筆を差し出すと、ミルトンさんはバッという音がする勢いで俺の手から鉛筆をとると、早速持ってきたばかりの紙の裏に線を書いている。それから俺が差し出した消しゴムを使って消して、それからまた書いて、と消したり書いたり忙しい。

 暫く書いて消して、としてから、にっこりと満面の笑みを浮かべて顔をあげる。

 どうやら気に入ったようだな。

 「こちらも登録申請、されますよね?」

 「えっ・・はい」

 有無を言わさぬ雰囲気を漂わせたミルトンさんに、ノーと言えるだけの度胸は俺にはないから素直に頷いた。

 「あの、でも登録申請用の設計図はないので、後日、という事でもいいですか?」

 「あら? それならもし予備がもう数本あるのでしたら、それを登録申請書に添付してくだされば大丈夫ですよ。まずは登録だけして、もし職人に任せるのであればその時に設計図を提出していただければ十分です」

 「はい」

 すっとテーブルの上を滑って俺の目の前に登録申請書がきた。

 あれ?

 「ミルトンさん、余分に登録申請書を持ってたんですか?」

 「もちろんですよ。コータさんは色々と隠しだねを持っている気がしましたからね」

 「ははは・・・」

 はぁ・・・

 「あ、この鉛筆ですけど、他の色とかありませんか?」

 「色ですか?」

 ある事にはあるんだけどさ。

 なんせ、鉛筆と言えば次に来るのは色鉛筆じゃん。

 ミリーにあげようと思って作ったのがあるんだよ。結局機会がなくてさ、まだあげてないんだよな。

 だから、ミリーにあげてからの方がいいかな、と思うもののミルトンさんの無言の圧力は感じないでもない。

 なので俺は素直に頷くと、ポーチから12色セットの色鉛筆の入った木箱を取り出した。

 「これは・・・・素晴らしいですねぇ」

 ミルトンさんは木の蓋を開けて中を見て、そのうちの1本を取り出した。

 これはすでに削った状態にしてあるので、どれが何色なのか一目で判るようになっている。ただちょっと芯の強度の関係で元の世界の色鉛筆よりも5割り増しの太さになっているけど、それはまあご愛嬌だ。

 「こちらも預からせていただいても?」

 「えっと・・・はい」

 「他に何かありませんか?」

 おおぅぅっっ

 ぐいぐい攻めてくるミルトンさん。

 そんな彼女になす術もない俺。

 「その・・大したものはないんですけど台所用品ならいくつかあります。でも、本当に大した事ないんですよ?」

 俺は目を期待にキラキラさせているミルトンさんの前に、以前サイモンさんに売りつけた事のある穴あき鍋を取り出し、泡立て器、ゴムヘラ、茹でたスパゲッティを取り出す杭のついたようなパスタレードル。

 あとは何があったっけ? と考えるものの思い出せない。

 俺のポーチはスクリーンを展開できるんだけど、まさかミルトンさんの前で展開するわけにもいかないから、今はこれで我慢してもらおう。

 「こんなものです。ほら、大したものないでしょう?」

 「いえいえ、面白いものがたくさん出てきましたねぇ」

 ミルトンさんは俺が取り出したものを1つずつ手にとって説明を求めてくる。

 俺は聞かれるままに1つずつ用途を説明し、いつの間にかミルトンさんはそれを登録申請書に書き込んでいる。

 どうやらこれらは俺が細かく説明書きをしなくてもいい、と判断したようだ。

 説明に疲れて椅子の背もたれに背中を預けている俺の目の前で、ミルトンさんはせっせと登録申請書に書き込んでいる。

 あれ、1つずつ書かないといけないから、今出したキッチン用品4つ分を書いているんだよな。

 ご苦労様です。

 って、俺も色鉛筆の分を書かないといけないのか。

 きっと書き上げるまでは帰らせてもらえないだろうなぁ。

 俺は背もたれから体を起こして、目の前の登録申請書に書き込みを始めたのだった。






 そうして鉛筆と色鉛筆の分を書き終えた時には、ミルトンさんは既に書き終えていた。

 「お疲れ様でした」

 「ははは・・・」

 力なく笑う俺の目の前の登録申請書を取り上げると、記入漏れやミスがないかを確認している。

 「はい、これで大丈夫ですね。それからこちらの私が仕上げた登録申請書ですけど、この部分にサインをお願いします・・・はい、ありがとうございました」

 う〜む、手が痛い。

 久しぶりたくさん書いたからか、ちょっと指と手のひらが痛いぞ。

 「そういえば、コータさんってポーションも作るんでしたよね? 薬師ギルドに登録されましたか?」

 「えっ? ああ、そういう話をしましたね」

 「はい、うちでも登録はできるんですけど、都市によって規制が違ってきますからねぇ。無事にできました?」

 「いえ、登録は保留にしました」

 「そうなんですか?」

 ちょっと驚いた顔を俺に向けてくるミルトンさん。

 「丁度薬師ギルドからの依頼を受けて、依頼品を届けるために行ってきたんですけど、なんとなく俺の肌に合わない雰囲気の場所だったんです。なのでですね、別にポーションで生計をたてる予定はないので、今はいいかなぁ、と」

 「あ〜・・そうですね。あそこは独特の雰囲気がありますものね」

 苦笑いを浮かべるミルトンさんだけど、それを聞いて俺はちょっとだけホッとする。

 俺だけじゃないんだな、って思うと安心じゃん。

 薬師ギルドは、なんていうか根暗の集まり、みたいな場所だった。

 そのくせ選民意識は高くってさ。自分たちはこんなすごいポーションを作っているんだ、っていう自慢がすごかったんだよ。

 俺なんか依頼品を持って行っただけなのに、この依頼を受ける事ができて光栄だろう、って感じ?

 あ〜、鬱陶しい、って本気で思ったよ。

 なのでギルド参加はご遠慮しました。

 もう俺たちのためだけのポーション作りで十分だよ、うん。

 「まぁ、その、この都市ケートンの薬師ギルドだけかもしれませんので、気が向いたら他の都市に行った時によってみられてはいかがでしょう? あれだけのポーションを作る腕があるんですからね、やっぱりもったいないですよ」

 「いえいえ、そんな大したポーションは作ってないですよ。ただの手慰み、といったところです。それに俺としてはこういったものを作る方が楽しいですから」

 うん、これは本当だ。

 元の世界にあった便利グッズを作る方が、ポーションを作るより楽しいよ。

 そりゃさ、元の世界にはポーションなんてものはなかったから、物珍しさで色々作ったしそれはそれで楽しかった。

 でも、無理に売る気はないし、そこまで金に困ってないんだよ、俺は。

 「コータさん、それでももしポーションを売る気があれば、この都市ケートンであればハンターズ・ギルドで買ってもらえますよ。この都市ケートンでは生産ギルドに入っていれば、ポーションを作る事は違法ではありませんから」

 「そうなんですか?」

 「はい、といっても基本ポーションのみですけどね。体力回復ポーション、魔力回復ポーション、といったものでしたら、いつでも買い取ってもらえると思います。他の特殊なポーションになると薬師ギルドのメンバーでなければダメだと言われる事がありますので、その点はご注意ください」

 なるほど。

 じゃあ、また今度ハンターズ・ギルドに行った時に覚えていたら聞いてみよう。

 「さて、コータさん」

 「はい?」

 「これからは商談タイムです。どの商品をどのくらい納品できるか、大体の数でいいので教えていただきたいですね。それからコータさんではなくてどこかの職人に頼むつもりのものがあるようでしたら、どの商品の事かなども教えていただきたいです」

 「えっ、俺、まだ帰れないんですか?」 

 登録申請書を書き上げたから帰れるって思ってたよ、俺?

 「この辺りの数字を話し合えばすぐにでも帰れますよ。それから、早速ですけど鉛筆とボールペンに関しては注文したいと思っていますので、よろしくお願いしますね」

 「えっ? でもたった今申請用紙を書いたばかりですよね?」

 「はい。申請用紙はその通りです。ですが既に見本をいただいて試験的に使わせていただいたので性能は判っていますし、類似商品はない事も確認済みです」

 マジか。

 んじゃ、とっとと終わらせよう。

 きっとミリーとジャックが心配してるぞ、多分だけどさ。





 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/07/2017 @ 17:28CT  誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

いるだってそばにいてくれる事に安心 → いつだってそばにいてくれる事に安心

俺が差し出した消しゴムを使って決して → 俺が差し出した消しゴムを使って消して

なんせ、鉛筆言えば次に来るのは色鉛筆 → なんせ、鉛筆と言えば次に来るのは色鉛筆

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