121.
パンジーのところに戻った時には既に日も暮れかけていて、とりあえず手を洗ってから俺はミリーと一緒に晩飯を作った。
その間ジャックは仕留めたラッタッタの解体をしてもらった。
でもかなり苦戦したせいで肉も状態がいいとは言い切れないものがいくつかあり、結局明日もラッタッタを狩りに行く事になった。
ま、これは仕方ないだろうな。
なんせ苦労したもん。
なのでせめて明日の狩りでの苦労が少しでも減るように、って事で俺はミリーが引き車の裏で風呂に入っている間にジャックの新しい剣を作る事にした。
「う〜ん、でもなぁ・・・」
どんな剣がいいんだろうか?
ジャックは小柄だから大きな剣を作ってみても使いこなせない事は判ってんだよね。
でもだからってレイピアのままだと切る事に苦労する事は目に見えてる訳で。
「ここでラノベなら日本刀! って事になるんだろうけどさ、ジャックは両刃剣しか使った事ないみたいだから、今から片刃剣を使えって言われても使いこなせないだろうしなぁ・・・」
う〜む、と腕組みをした俺は、目の前のスクリーンに映っている剣の写真を睨みつける。
ある程度の長さは必要だけど、長すぎるとジャックには扱いきれない。それに重さも考慮しなくちゃいけないだろう。
「って事は長さはレイピアと同じにした方がいいのか。じゃあ、大剣をベースにして縮小させてみるか」
俺はシンプルでなんの飾り付けもない大剣を選ぶと、それをベースに定める。
それからとりあえず大きさを75パーセントまで縮小させてみる。
「75パーセントにしたら剣の部分の長さは1メートルか。んで刃幅は12センチねぇ・・・って一体どんだけでかいんだよこの剣は」
剣の長さを80センチにするとなるともう少し縮小させる必要があるけど、剣幅はそれよりも細めの方がいいかもしれない。
という事で今度はスクリーンに現れた剣をパーセントで縮小するんじゃなくて、勝手に左右上下を動かして縮小してみる。
するとベースになった大剣よりは細身の剣ができあがる。
「ん〜・・大きさ的にはこんなもんか。んじゃ剣の厚みはどうかな? あまり分厚くても重い、でも薄すぎると耐久性がなくなるんだよな。あれ、でも鉄じゃない金属を使えばもっと耐久性があがるのか?」
この辺の知識はさっぱりないのでよく判らないけど、金属の配合を変えればそれで耐久性も上がる気がする。
う〜ん、と唸っている俺の横で、黙って見ているのはジャックだ。
自分の新しい剣、という事で気になっているらしいのだけど、俺が何をしているのかがよく判ってないから黙って見ているしかないんだろう。
「これ、どう思う?」
「どう・・って?」
「お前の新しい剣じゃん。形とか何かリクエストがあれば今なら変えられるぞ?」
「そんな事言われたってさ、俺、剣の事なんかなんも知らねえよ」
「俺だって知らないよ。だから、見た感じどう思うか、って聞いてんじゃん」
「あ〜・・いいんじゃないかな・・・よく判らないけどさ」
よく判らないけどいい、ってか。なんだよそりゃ。
「まぁ、とりあえず作ってみるか。それで修正する点があれば直していけばいいんだからさ」
俺はとりあえず剣に使えるような鉱物の候補を探してみる。
「あれ、結構あるけど、知らない名前が多い」
見て判るのは鉄と銅くらいなもので、あとは何が何だかさっぱりだ。
しかもその内の半分くらいはスミレのストレージに入っているって事は、ここまでの旅の間に拾ったり買ったり、とにかくそうやって収集したものなんだろう。
俺としてはこれっぽっちも記憶にないのに、どうやって集めたんだろう?
「ま、いいや。じゃあ、データバンクに頼んで、どれが最適鉱物かを選択してもらうかな。選択肢は俺のストレージにあるものだけにして、っと。それから耐久性、切れ味、重さ、を基準にして選べばいっか」
と言っても選ぶのは俺じゃないんだけどさ。
ジャックのレイピアを作る時は、そんな細かい事まで考えないで鉄にしちゃったからな。
今度は素材からちゃんと真面目に選ぶつもりだ。
やっぱり思い込みで物作りはしちゃ駄目だって事だな。
「で、最適鉱物ってこれかぁ・・・」
トップ3の最適鉱物には鉄は入ってなかった。
そりゃまあそうだな。なんせ重いからな。
でも3つの鉱物はどれも聞いた事も見た事もない・・多分。
1番目は・・・読めねえよ。
2番目、3番目も同様だ。
それも日本語じゃあ発音ができないのか、そこに表示されているのはこの世界の言葉らしい。
「あれ? 依頼書は読めるのに、なんでこれは読めないんだ?」
『それはこの世界でもきちんと理解されていない鉱物だから、ですね』
「スミレ、ミリーの風呂はもういいのか?」
『はい、今は体を拭いているところですから、一足先にこちらに戻りました』
剣の形を決めてる間に結構時間がかかったって事だな。
「んで、なんで理解されていないんだ?」
『先日行った鉱山を覚えてますか?』
「もちろん。あそこは簡単に忘れられるような場所じゃなかったからな」
『あそこの鉱夫たちは基本鉄鉱石を探していましたよね。まぁ他にも希少金属も掘れましたけど、基本は鉄でしたよね。あの鉱石の中には今のこの世界の文明では取り出せない種類の鉱物がいくつかあるんです。それらはまだ誰にも認識されていないので、この創造神のつけた名前を知りません。ですので、きちんと発音が確立されていないので、コータ様には全く読めない言葉になっているんです』
「俺の言語チートだと神様の言葉は無理って事?」
『そうですね。コータ様の言語能力は、今使われている言葉を理解するものですから、これから将来もしかしたら使われるかもしれない言葉は含まれてません』
「つまり、それについては自分で勉強して身につけろよ、って事か」
ケチくさいなぁ。でもま、あの神様なら仕方ないか。
「んじゃ、スミレに質問だ。とりあえずジャックの剣を作るのに最適な金属はこの3つらしいんだけどさ、どれを選ぶのが一番ジャックに合うと思う?」
『そうですね・・・重くなく耐久性に富んで扱いやすい金属、ですか・・・この3つのどれでもいいと思いますけど、手入れが簡単という事も考慮に入れるとこれですかね』
これ、と言ってスミレが選んだのは2番目の金属だ。
「これ?」
『はい、手入れが簡単です。それに汚れを拭き取りやすくするための魔法陣を柄に刻んでおけば、さらに手入れが楽になりますね』
あ〜、なんとなくスミレが言いたい事が判った気がした。
理由はジャック自身だな。
あいつ、ケットシーだからか、それともあいつだからか、とにかくあんまり使ったものを綺麗にしないんだよなぁ。
一応拭いたりはするんだけど、丁寧に拭かないから汚れが残ってる事が多いんだよな。
「判った。じゃ、スミレが勧めるこれにするか」
俺は2番目の鉱物をポチッと押して選択する。
それからすぐに製作開始のためのボタンも押した。
ぅうん、という音がして、目の前に陣が現れる。
「スミレ、材料は?」
『ストレージの中に入ったものはそのまま自動的にあそこの陣に転送されますから大丈夫ですよ』
「そっかボタンを押してから材料の事を思い出したよ」
いつもならポーチから取り出してから開始ボタンを押すのに、今日はすっかり忘れてたよ。
ゆっくりと形の現してくる剣がようやく出来上がった時、ミリーが引き車の後ろから戻ってきた。
「コータ、あれ、なに?」
「ジャックの新しい剣だな」
「あれなら、ラッタッタ、切れる?」
「多分な。ま、使ってみなくちゃ判んないけどな」
陣の光が消えたのでジャックに取ってこい、と言おうとしたんだけど、あいつは既に立ち上がって小走りで剣を取りに行っていた。
「どうだ? 重すぎないか?」
「前の剣よりは重いけど、そんなに気にはならない」
そっか、少しくらいならこれから練習して体力もつければなんとか使いこなせるだろうからな。
俺はジャックがゆっくりと振りかぶって振り下ろすのを見ながら、ジャックが振り回されてない事を確認する。
これならなんとかなるか?
それにしてもあんな色に仕上がるとは思ってもみなかったよ。
「ジャック、ちょっと見せてもらえるか?」
「判った」
名残惜しそうに振るのをやめたジャックは、そのまま俺のところにやってきて剣を手渡した。
俺はそれをランタンの明かりを頼りに検分する。
刀身は80センチと、今までのレイピアとそう差はない。でも刃の幅は3倍になっているのでその分重く感じる。
そしてランタンの明かりに反射して光っている刀身は赤錆色とでも言うんだろうか、そんな赤っぽい茶色をしている。おそらくそれが2番目の金属の持つ色なんだろう。
「赤錆みたいな色だな」
「なっ、お前っ、錆びてるって言いたいのかっっ」
「違う違う、剣に使った金属の色が赤錆みたいな色だ、って言っただけだよ。誰も錆びてるなんて言ってないだろう?」
たまには人の話を最後まで聴けよな、ジャック。
『ミリーちゃんの色ですね』
「ん? ああ、そうだな、ミリーは明るい赤銅色で、ジャックの剣はそれより少し暗い赤錆色か。確かにそう考えるとミリーの色って言えるかもな」
「な、なんと・・・俺の剣は姫であるミ、ミ、ミリーさんの色をしているというのか・・・やはりこれは俺に姫であるミ、ミリーさんを守るための剣になれ、という神の思し召しなのかもしれない」
ミリーに似ている、と俺とスミレが言った途端、ジャックはショックを受けたような顔で剣を見てから、期待したような顔でミリーを見る。
でも、ミリーはジャックと視線が合う前に顔を横に向ける。
「やだ」
「姫・・・・」
「姫じゃない」
「あっ、すみません・・しかしっ」
ジャックがミリーの前に行こうとするから、俺はやつの首根っこを掴んで引き止める。
そんな俺に咬みつこうと口を開いたところで、ぐっと言葉を飲み込んだジャック。
おっ、成長してんじゃん。
「ジャック、焦るなって言っただろ?」
「そ、それは判ってるんだが・・」
「そんな事より今はこっちが大事だよ。握った感触はどうだ? 持ちやすいか?」
そんな事っていうなよ、と小声でボソッと文句を言ってから、ジャックは俺に手を伸ばしてきたから剣を渡す。
ハンドル部分を握ったり離したりして感触を確かめてから、ジャックは俺を見る。
「少し大きめだな。だからもう少し細くして握りやすくしてくれると助かる。それから握りの部分には皮を巻いて欲しい」
「皮? なんでだ?」
「皮を巻けば、爪を立てやすいんだ。このままだと爪を立てる事ができないから取り落とす心配がある」
「そうなのか?」
「ああ、ほら、こうやって俺たちは爪を出して剣を掴むんだ。だから、皮を巻いてあると、この時に爪を立てて固定する事ができる」
そう言ってジャックは猫の手を差し出してきたかと思うと、爪を出したりしまったりしてみせる。
そういや猫って手の爪を出し入れできたっけ。
ミリーの手が普通の人の手だからジャックの手が猫の手だって事、すぐに忘れちゃったよ。
悪い事をしたなぁ、と今更思っても遅いんだけどさ。
「判った、じゃあも少し細く仕上げてから皮を巻くよ、それだけでいいのか?」
「ああ、それで十分だ」
うん、と頷くジャックは嬉しそうに剣を見つめていた。
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