114.
さて、と。
長さ80センチの小剣でもケットシーには長いんだよな。
でもあんまり短すぎるとミリーの解体用のナイフくらいになっちまうか。
う〜ん。
俺は顎に手を当てて、どうするか悩む。
「とりあえず長さは70センチでいいか。短すぎてもなんだしな」
俺はまず長さの数値を設定する。
「でも重いと振り回せないだろうから・・・そうだ、レイピアみたいにするか?」
とは言っても俺にはレイピアは細剣というくらいの知識しかないので、データバンクからレイピアのデータを検索する。
すると出てきたのは、フェンシングで使うような剣だ。
「あれ? フェンシングって、レイピアを使う競技だったっけ?」
でも違うみたいな感じもするんだよな。
ま、そんなの俺にしてみればどっちでもいっか。
「じゃあ、レイピアをベースにして、っと・・・・でもすぐに折れるような剣じゃあ意味がないから、コーティングして強度を上げるか?」
そういやスミレがなんかコーティングしてミリーの解体用ナイフを作ったっけ?
あのデータもどっかにセーブしてある筈だから、とそれも探してみると出てきた。
あれ?
「スミレ、ずりぃなぁ」
俺の魔力で強化した魔鉄とかっていうのを使ってた。
ヘルプで呼び出して魔鉄の詳細を読むと、チートメタルだよ。
「でもまぁ、俺でも作れるんだったらそれでいいか」
頑丈に越した事はないからな。
俺はブツブツ言いながらレイピアの写真の1つを選んでそれをベースにして長さを設定した数値にしたり、魔鉄コーティングをカスタムしたりして少しずついじっていく。
「よし、ま、こんなもんか。少し下がっとけよ」
俺はすぐそばで俺のしている事をじっと見ているケットシーに声をかけると、そいつは慌てて俺の背後に移動した。
「んじゃ・・・ポチっとな」
スタートボタンを押すと。既に展開されていた陣の上にある剣が白い光に包まれる。
その周囲を小さな光の粒子がクルクルと回っていて、暗くなった周囲を照らす明かりがとても神秘的に見える。
俺はちらり、と視線だけをケットシーに向けると、あいつは驚いたような顔のままじっと光を見つめている。
そして光が落ち着いた陣の上に、1本の剣が残っていた。
「よし、あれ、取ってこい」
「とっ、取ってこいって俺は犬じゃねえぞっっ!」
「知ってるよ、そんな事。あれ、お前の剣だから取ってこいって言ったんだよ。それともいらないのか?」
「いっ・・判ったよ」
なんだ、素直に取りに行っちゃったよ。
いらないって言ったら、騎士のくせに剣も持たないのか〜、って揶揄おうって思ってたのにさ、残念。
ケットシーは視線を剣に向けたまま、俺のところに戻ってきた。
「握ってみろ。手に合わなかったら直してやるから」
「わ、判った」
右手で握りしめて、少し開いてまた握る。それから少しだけ上下左右に剣を振る。
「なんかちょっと大きいみたいだな」
「べ、別にこのままでも大丈夫だ」
「馬鹿言え、お前の手に大きすぎたらちゃんと振れないだろう」
俺は手を差し伸べて、剣をよこせとアピールする。
ケットシーは渋々と俺に剣をよこす。
それから以前スミレがしたようにスクリーンの横に小さな陣を展開してから、その上に今作った剣のホログラムを浮かべる。
「それを握ってみな」
「これか? おっ、握れって言ってもなんもないぞ?」
「ああ、いいんだよ、それで。とりあえず握ったお前の手のデータを取るだけなんだから」
目の前に剣が見えるのに触れない不思議に動揺しながらも、俺に言われてそのままじっとする。
俺はそいつが動き出す前にとっととデータを取る。
「よし、もういいぞ。それからこいつを陣に戻してくれ」
「えっ? それ、俺の剣じゃないのか?」
「いいから言われた通りにしろって。ちゃんと修正してからお前にやるからさ」
「うぅ・・・判った」
俺のなのに、という空気をだだ漏れにして、足取り遅くケットシーは剣を陣に置いた。
それからまた渋々という感じで俺の背後に戻ってくる。
なんかこいつ、おもしれえ。
俺は吹き出さないように我慢しながら、修正開始のためのボタンを押す。
今度は修正だけだからか、白く光ってもクルクルと回る光の粒子はない。
それでも光が収まると同時にケットシーが俺の顔を覗き込んできた。
「もういいよ、取ってこい」
仕方ないなぁと頷くと、ケットシーは俺に返事をする事もなくバッと剣の元に駆け寄る。
ひょいっと持ち上げて陣から出ると、すぐに上下左右に振り回す。
「どうだ?」
「さっきより、しっくりくる。すごく持ちやすいし振りやすい」
「そうか、じゃあ、それがお前専用の剣だ」
「その・・・・いいのか?」
何が? と頭を傾げていると、ケットシーは言いにくそうに言葉を続ける。
「だって俺、態度悪かっただろ? それに・・・姫にも嫌われている。そんな奴の・・・」
「ああ、ミリーの事は自業自得だからな、俺にはどうしようもないな。でも、一緒に旅する仲間になったんだろ? じゃあ、武器の1つくらいは持っておいてもらわないと、何かあった時にこっちが困る。せめて自分の身は自分で守ってもらわないと」
そのための武器だ。
俺やミリーにはケットシーの事まで面倒を見る余裕なんてないからな。
「それよりお前、剣が使えるのか?」
「使えるっ・・・・多分」
「なんだよ多分って。頼りねえなぁ」
「しっ、仕方ないだろっっ。今まで剣使ってきたけど、誰も教えてくれなかったから、見よう見まねで使い方を覚えたんだっっ」
つまり、我流ってわけかよ。
「おまえ、じいちゃんと一緒だったんだろ? じいちゃんから教えてもらわなかったのか?」
「俺のじいちゃんは・・剣なんか握った事もねえよ」
「じゃあ何してる人だったんだ?」
「畑仕事をしてた。だから、鋤や鍬の扱いはすっげぇうまかったよ」
ああ、そりゃ駄目だな。いくら鋤や鍬の扱いが上手くても剣の扱いはまた別だもんな。
「ってかさ、おまえ、よくそんなんで騎士とかって言えたよなぁ」
「そっ、そんなの関係ないだろっっっ! 騎士っていうのはその精神が1番大事なんだよっっ! どんなに剣の扱いが上手くたって心が清くなければ騎士にはなれないんだっっっ!」
「ああ、そう」
でもさ、騎士道精神だけじゃあ、姫様は守れないと俺は思うぞ。
「おまえっ、いい加減な返事するなよっっ!」
「いやだってさ、どうやって剣の扱いを覚えるつもりなんだ?」
「そっ、それは・・・今までだってなんとかやっていけたんだっ、だからこれからはこの新しい剣で俺は騎士になるための訓練をするっ!」
ケットシーは勢いよく剣先を天に向けて叫ぶ。
「それよりさ、なんか仮の名前でもいいから呼び名をつけないか?」
「・・・それは俺の事か?」
「他に誰がいるっていうんだよ。もういい加減、ケットシーとかおまえとかっていうの面倒なんだよ」
「じゃ、じゃあ、姫に名前をつけてもらいたい」
「ミリーに? ん〜、どうかなぁ」
そばに近づきたくないような相手に名前なんか考えてくれるかなぁ?
「いや」
「ん?」
声がして振り返ると、丁度引き車の陰から出てきたミリーが立っていた。
「もう風呂、出たのか?」
「うん、コータのばん」
「それよりさ、こいつ、ミリーに名前をつけてもらいたいって言ってんだけど?」
「いや」
きっぱりバッサリ切り捨てるミリーに、目の前のケットシーはがっくりと膝をついている。
「でもさ、呼びにくいんだよな」
「わたしは、平気」
そりゃそうだ。ミリーはこいつの事完全に無視してんだもん。
「でもまぁ、なんかちょっとした呼び名があった方が俺やスミレが助かるんだよ?」
「・・・じゃあ、コータが決めればいい」
「でもさ、こいつはミリーに決めて欲しいって言ってんだぞ?」
「コータがいくつ、か考えてくれたら、それから選ぶ、よ」
ふむ、そういうのもありか?
俺は目の前でがっくりしているケットシーを見ると、そいつも俺を見上げて頷いている。
それでもいいって事か?
「ん〜、そうだな。じゃあ・・・ポチ? タマ? たろう? あとはミケ・・じゃないのか、こいつ」
他にペットの名前ってなんかあったっけ?
「ああ、そういや俺の従兄弟のところで飼ってた犬の名前はジョニーだったな」
「おまっっ!」
聞きなれない名前の羅列で頭をひねっていたケットシーだが、最後の俺の言葉でペットの名前を羅列していたと気づいたみたいで、思わず立ち上がるとその場で地団駄を踏んでいる。
「だって、おもいつかないんだよ。気に入らないんだったら自分で考えてくれよ」
「そ、それは・・・」
躊躇するケットシー。
そりゃそうだ。そうするとミリーに選んでもらえないもんな。
何かこいつらしい名前、ねぇ・・・
長靴をはいた猫の名前ってなんだったっけ? あれって名前がなかったんだったっけ?
じゃあ、と俺は昔読んだ絵本の中の主人公の名前を思い出す。
「ジャックっていうのはどうだ? ジョニーかジャックだ」
従兄弟の家の犬の名前か、ジャックと豆の木のジャックだ、二者選択ならいいだろ。
「ミリー、ジョニーとジャックのどっちがいい?」
「ちょっ、おまっ」
「じゃあ・・・ジャック」
「なっ・・・はい、姫、ありがとうございます」
あっさりと二者選択にした俺に文句を言いたかったケットシー、いや、今はジャックだな、はミリーにジャックと言われて満面の笑みを浮かべて恭しくお辞儀をした。
なんだよ、こいつ。
揶揄うと、おもしれえじゃん。
きっと今、俺は人の悪い顔をしていると思う。
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