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10.

 てくてく

 


 てくてくてくてく

 




 てくてくてくてくてくてくてくてく






 てくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてく









 黙々と森を左手に歩き続けて約2時間。

 そろそろ神様(カー⚪︎ルおじさん)からの手紙に書いてあった村に着いてもいい頃なんだけどな。

 背中の革製のリュックサックをよいしょっという掛け声で掛け直す。

 俺としてはポーチだけで十分物を入れられるからいらないと言ったんだけどさ、スミレが魔法マジックのポーチを持っていると知られない方がトラブルも減るっていうから作ったんだ。

 まぁリュックサックの中に入っているのは、1日分の俺の着替えと森で集めた木の実や果物なんかのおやつが入った小さい皮袋だけなんだけどね。

 それにしても足が疲れたなぁ、なんて考えながら俺は右手の杖で地面を付きながらも歩き続ける。

 杖、ってバカにするなよ?

 距離を歩くのって結構大変なんだよ。

 ちゃんと舗装された道ならまだしも、こんなただの草原だと足元が意外とデコボコしているのだ。

 俺も最初のうちはのほほんと歩いていたが、何度も躓くうちに足が疲れたんだよ。

 そこでポーチから杖を取り出したって訳だ。

 スミレが杖を作るって言った時、何言ってんだこいつ、って思ったけどさ。

 さすがスミレ、ちゃんとこういう状況になるって判っていたんだな。

 と、ぼーっと視線を前に向けると、遠くにやぐらのようなものが見えた。

 「おっっ」

 あれが神様(カー⚪︎ルおじさん)が言っていた村かな?

 目的地が視界に入ると、現金なもので俺の足取りも軽くなる。

 とはいえいくら視界にやぐらが見えたと言っても、それからやっと塀に取り囲まれた村に着いたのはそれから更に20分ほど経ってからだった。

 「おい、何者だ」

村から20メートルほどまで近づいた俺に、櫓の上から声がかけられた。

 「旅の者です。今夜泊めてもらいたいと思って」

 「旅? 身分を証明するような物はあるか?」

 「いいえ、初めて旅に出たので、そういったものはまだ持っていません」

 「ちょっと待て」

 男は頭を引っ込めた。どうやら俺の事で話し合っているようだ。

 けれどそれも推測していた事だからそれほど心配はしていない。

 この辺りのやりとりは、スミレとシミュレーションをしたのだ。

 スミレは俺のスキルのサポートのための存在らしいのだが、神様(カー⚪︎ルおじさん)が全く知らない世界に来る俺のために少しだけ仕様を変更してくれたとの事で、彼女は最低限のこの世界の知識を持っていた。

 俺としては言葉の不安があったのだが、言葉に関しては新しい身体を作る時に言語理解を設定してくれていたとの事で、その心配はしなくてもいいと教えてくれた。

 実際こうやって言葉が通じると、俺としてもホッとした。

 今まで話し相手はスミレしかいなかったわけだから、言語理解っていうのを試す機会はなかったのだ。

 「門のところで待て、中に入れる前に少しだけ質問をさせてもらう」

 「判りました」

 俺は言われるままとりあえず門の所まで足を運ぶと、そのままじっと動かないで門が開けられるのを待った。

 少しするとゴトゴトと内側から音がして、ゆっくりと人が1人通れるくらい開き、そこから2人の男が出てきた。

 「どこから来た」

 「向こうの森の先にある小さな集落です」

 「・・・あんなところに集落なんかあったか?」

 「いや、俺は知らないな」

 そりゃそうだろう。そんなところには集落なんてないんだから。

 「森からの恵みで細々と暮らしていた集落です。他の集落とはあまり関わりを持たない事にしていたので、知らない人の方が多いと思います」

 「そうなのか?」

 「それにしても誰も知らないっていうのはおかしくないか?」

 目の前の男たちは不審者を見るような目で俺を見るが、その疑問も当然だと思う。

 俺だってそんな訳の判らないところからやってきたなんて言われて、はいそうですか、なんて言えない。

 だ〜が、その点も抜かりはないのだ。

 ま、スミレが、だけどな。

 「村の長老の方に聞いてみていただけませんか? その人たちであれば、私のいた集落の事を知っているかもしれません」

 「ふん、で、その集落の名前は?」

 「アーヴィンの森のローデンの集落と言えば、記憶に引っかかるのでは、と思います」

 「ローデン? 聞いた事ねぇな」

 「そうだな、でもまぁボン爺に聞いてみるか。ちょっと行ってくるから、そいつを見張っといてくれ」

 「おうよ」

 胡散臭いと思いながらも、男のうちの1人は聞きに行ってくれるようだ。

 もしかしたら聞きに行く事もせずに追い出される事もあるんじゃないか、と思っていたので俺は少しだけ安堵する。

 ローデンの集落、というのは実際に存在した集落だ、というのがスミレの話だった。

 彼女の話では10年ほど前に最後の住民一家が死んで以来、誰もそこに住んでいないのだとの事で、年配の村人であればローデンの事を知っている人がいるだろう、と言っていた。

 そうして待たされたのは多分10分くらいだろうか?

 閉められていた門が少しだけ開かれると、そこから先ほどの男が顔を出した。

 「おい、ボン爺が中に入れろって言ってる」

 「・・・いいのか?」

 「ああ、その代わり、ボン爺のところに直行だ」

 「判った。じゃあ、ついてこい」

 「判りました」

 顎をしゃくって中に入れという男に小さく頭を下げて、俺は先導する2人の男について行った。







 ボン爺、と呼ばれる人の家はこの村の中でもかなり奥まった位置にある。

 年寄りだからなんだろうか?

 そんな事を思いながらも案内されるままボン爺の家に入る。

 「ボン爺、連れてきたぞ」

 「おお、ご苦労じゃった」

 奥からヒョコヒョコと歩いて出てきたのは、身長が150センチくらいのちんまい爺さんだった。

 「本当に2人きりでいいのか?」

 「ああ、大丈夫じゃ。ローデンの人間なら心配はいらん」

 おぉ、信用されてるのか、俺?

 まぁ、信用しているのはローデンの集落の人間であって、俺じゃあないんだろうけどな。

 「お邪魔します」

 「なんもないところじゃがな、まぁ座ってくれや。ワシはボンドラールという。まぁ村の人間はボン爺と呼んでおるがな」

 「俺は幸太と言います」

 窓代わりの木戸が開けられていて、明かりがなくてもそれなりに室内の様子をみる事ができる。

 質素な生活をしているようで、調度品と呼ぶようなものは全く無い。

 「まぁ、お茶でもどうだ?」

 「お願いします。ずっと歩いていて喉が渇いていたところなので助かります」

 ボン爺は身長150センチほどの小さな老人で、俺を座敷にあげるとその足で土間に降りてお茶の用意を始めた。

 家の外観はそんな事ないけど、なんだか昔の日本の家のような作りだな。

 でも土間にはテーブルが置いてあるし、俺が上がった座敷もテーブルと椅子が置いてある。ただ1段高いだけだ。

 「変わった家じゃろう?」

 「えっ、えーっと、そうですね」

 「元々は土間しかなかったんじゃが、年を取ると冷えが堪えるようになってな。3年ほど前に座敷というのを村の連中が作ってくれた。今はそのままじゃが、冬になると座敷の下を温めるようになっているんじゃ」

 なるほど、床下暖房ってヤツかな?

 ボン爺はお盆にお茶の入った木のカップを2つ載せて座敷に戻ってくる。

 「で、あんたはローデンの人間か?」

 「はい・・・」

 「なんで集落を出た? あそこの人間は集落を出ん筈だが」

 「それは・・・集落は魔獣に襲われて壊滅しました」 

 俺は少し俯いてから小さな声で答えた。

 「なんとっ・・・それはいつの事じゃ?」

 「3年前です。生き残っていたのは俺と俺のおばあの2人だけで、どうしても集落で最後を迎えたいっていうおばあのために、ずっと2人で暮らしていました」

 「たった2人でか。それは大変じゃったろう・・・それで、そのおばあは?」

 「先月亡くなりました」

 「なるほど・・・それで集落を出る事にしたんじゃな」

 「はい」

 俺は小さく頷いた。

 ま、というのがスミレが考えたシナリオだ。

 いきなり知らない人間が現れても怪しいだけで、おまけにこの世界の常識を全く知らないとなると、怪しいどころじゃない、というのがスミレの話だった。

 だったらどうすればいい、と言う事になり、スミレが周辺の記録を神様(カー⚪︎ルおじさん)からもらっていたデータで調べたところ、俺が暫く過ごしていた場所から更に20キロほど村とは反対方向に行ったところに、集落があった事が記録にあったのだ。

 運良くその集落は人との交流を忌避する集落だった上に、魔獣の襲撃によって既に人が住まなくなって3年以上経つ。

 俺の出身地としては丁度いいのではないか、という事になったのだ。

 いや〜、ほんと、スミレがいてくれて助かってるよ。

 「そうか・・・それで、これからどうするんじゃ?」

 「判りません。正直そのまま集落に留まろうかとも考えましたけど、たった1人では生きていく事も難しいですから。なので、これからあちこち旅をして定住の地を探そうと思っています」

 「なるほどのう・・・この村に住んでもいいんじゃが・・・まぁここも閉鎖的な村じゃからの。もっと色々な村や町を見て回ってから決めるのがいいじゃろうな」

 確かに閉鎖的な村なんだろうな。

 門のところで誰何すいかされた時の事を考えると、ここにはあまりよそから人が来ないんだろうって思える。

 「それで今夜はどうするつもりじゃったんじゃ?」

 「どこか宿に泊めてもらおうと思っていました。お金は持っていませんが、売れるようなものを村から持ってきたので」

 「ほぉ、何を持っとる?」

 「大したものは持ってません。村で使っていたナタとか、ナイフとか、そういったものです」

 「見せてもらえるかの?」

 ほぉほぉと頷きながら俺の話を聞いていたボン爺は、好奇心丸出しで身を乗り出してくる。

 俺は苦笑いを浮かべて頷いてから、背中に背負っていたリュックサックを下ろすと、中から布に包んだものを取り出した。

 「ほぉ、なかなかいいナタじゃの。よく手入れされておる。それにこのナイフは見事なものじゃ。ローデンには腕のいい鍛治師がおったんじゃな」

 「これ、売れると思いますか?」

 スミレ曰く、絶対売れる、との事だが不安で聞いてみると、ボン爺は大きく頷いた。

 「もちろんじゃ。というよりわしに譲ってくれんか? 譲ってくれるなら、好きなだけうちに泊まればいい」

 「それは・・ありがたいですけど、迷惑じゃありませんか? その、俺、私は集落から来た人間だから、常識を知らないと思います。その事で迷惑をかける事があると思います」

 「いいや、どうせジジイの1人暮らしじゃ。ちょっと家の事を手伝ってくれたら食事も一緒に食べればええ。で、うちにおる間にわしに聞けばええ」

 よっしゃ、俺は心の中でガッツポーズを取る。

 凄すぎるじゃん、スミレ。読みが当たりまくりだよ

 スミレのシナリオ通りに話が進んでいく事に驚きながらも、それを顔に出さないように俺はボン爺に頭を下げる。

 「そういってもらえると助かります。やっぱり何も知らないまま町や村へ行く事がちょっと不安だったんです。集落ではお金は使わないで物々交換だけだったから、お金の価値も知らないので・・・」

 「おぉ・・・そうじゃのう。確かにローデンの集落におったら金の使い方は知らんじゃろうの」

 「はい・・・できれば騙されないように最低限の事は知りたいと思います」

 「判った、わしがその辺の事も教えてやろう」

 じゃからそのナイフはわしに譲ってくれ、と手を出してきたボン爺に俺は思わず声を出して笑った。

 こんな爺さんと一緒だったら、楽しいかもしれない。

 俺はそんな事を思いながら、ナイフを差し出したのだった。

 





 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 04/10/2017 @ 03:29 JT 誤字の指摘をいただきました。ありがとうございました。


  身長が159センチくらいのちんまい爺さん → 身長が150センチくらいのちんまい爺さん

この後に150センチと説明が入っていて、150センチが正しいです。9と0のうち間違えです。


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[気になる点] スミレの話では10年前に滅んで誰もいなくなった集落っいってるけど、説明するときは3年前ってなってるよ?
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