103.
来た来た来た来た〜〜〜っ!
相変わらずカサカサとうるせえ連中だぜ。
とカッコつけたいところだが、それどころじゃない。
スミレの結界があるからまだなんとかパチンコで仕留める事ができているけど、無かったらとっとと逃げ出している事間違いなしだ。
「コータッ、そっち、いったっ」
「知ってるっ!」
とはいえ結界の中とはいえ、ゴキどもは結界の表面を走り回るんだよ。
これがまたキモグロい。
特に結界の天井部分を走るやつらは飛び降りてこれないと頭で判っていても、心の中じゃあいつ飛び降りてくるかとドキドキしてる。
それでも俺はパチンコ、ミリーは矢で仕留めるんだけどさ。
でも中身が漏れたゴキたちが結界の天井部分で御昇天されている姿は、正直直視したくない。
もうな、ウゴウゴぐちゃぐちゃデロンデロン状態だ!
仲間がそんな状態になっているっいうのに、こいつら次から次へとやって来るんだ。
「スミレッ、なんでこんなにやって来るんだよっっ!」
『あ〜・・・実はさっき、巣がありましたね』
「はぁっっ?」
『重なっていて数がよく判らなくて、気づくと探索の時の倍の数になってました。全部で15匹ですね』
マジかよ。
『あっ、でもあと3匹ですよ』
「ちっとも嬉しくないぞっ、っっと」
丁度真上にやってきたゴキにパチンコの弾を命中させて、俺は次の弾をセットして右斜め前からやって来るヤツに撃ち込んだ。
そんな俺の横でミリーもヒュンと矢を放つ。
『はい、以上です』
「スミレ、もう、いない?」
『もう探索にかからないので、これで全部ですよ』
「わかった」
まだまだ元気はミリーは頷くと弓を俺に手渡してきた。
「持ってて。しょっかく、集めて来る」
「お、おう」
既に俺が虫が苦手だと理解したミリーは俺に触覚を集めろとはいわない。
俺がゆっくりと結界の天井部分のゴキがいない位置まで後ろに下がると、スミレがそこの部分の結界を解除する。
途端にボトボトと落ちてくる残骸・・・・
やっぱ無茶苦茶キモグロい。
それでもミリーは腰から解体用のナイフを引き抜くと、ゴキたちから触覚を集めていく。
もちろんスミレが結界のラインを広げているからミリーが解体している辺りも結界の中だから安全だ。
『コータ様、ミリーちゃんに全部やらせるんですか?』
「い、いや、だってさ・・・」
『か弱い女の子が健気にカルッチャの触覚を集めているっていうのに、コータ様は後ろに下がってみているだけなんですねぇ・・・』
はぁ、とわざとらしいため息を吐いて俺の罪悪感を煽るスミレ。
『まるで奴隷を酷く扱う主人みたいで私はなんと言えば・・・・・』
「わ、判ったよっっ」
いきゃあいいんだろ、いきゃあ。
俺はポーチからミリーの持っている解体用のナイフに似たナイフを取り出すと、同じくポーチから取り出した手袋を嵌める。
これは特製の厚めの手袋だから、きっと感触は伝わってこないだろう・・筈だ、うん。
でもさ、やっぱりイヤイヤだから手際も悪いしトロい。
って事で、ミリーが集めた触覚は22本で俺が集めた触覚は8本だった。
おかげでスミレの視線の冷たい事冷たい事。
でもミリーは俺よりたくさん集めたって事ですごく嬉しそうだから、それを見てしまうとスミレも俺を叱りとばす事が出来なかった。
ミリーさまさまだな、うん。
ま、罰として触覚の入った袋は俺のポーチに入れさせられた。
「じゃ、先に進もうか」
『コータ様、提案があります』
「提案?」
『はい、昨日お話ししたルミネリアムの事を覚えてますか?』
「ルミネリアム・・・? ああ、鉱石に生えるってヤツだっけ?」
『はい』
確か特急魔力回復ポーションの材料だったっけ。
『あの時にお話しした魔力溜まりがこの先を左に折れたところにあるんです』
「スミレ・・・それってわざとその道を選んだのか?」
『いいえ、探索するための場所に行くための一番短距離を選びました』
しれっとした顔で言うが、素直に信じられないぞ。
「コータ、行くの?」
「ミリー? 行きたいのか?」
行かないぞ、と口を開きかけた俺の腕を引っ張るミリーは、どこかワクワクして見える。
「だって、昨日、とれなかったんだよ? じゃあ、今日、取る?」
「いや、危ないかもしれないだろ?」
「でもスミレ、きのうのアレ、もういない、言ってたよ。ね、スミレ?」
『断言はできませんが、きのう遭遇した事で探索のやり方が判りましたので、98パーセントの確率でいないと言う事ができます』
「いや、でもさぁ・・・今日中にはここ、出たいんじゃなかったのか?」
俺としてはこんな虫だらけの場所にはこれ以上長居はしたくないんだけどな。
「わたし、もう1晩、だいじょぶ、だよ?」
「ミリー・・・・」
『往復で45分ほど余分に歩くだけですから、予定通り今日中に鉱山を出る事ができる筈ですよ』
「ホントかぁ・・・? なんか似たような事言われた事あるんだけどさ?」
確かあの時はでっかいスライムボールが出てきたんだよなぁ・・・
「行こう、よ、コータ」
「ミリーはそんなに行きたいのか?」
「うん。めずらしい、ってスミレ、言ってたから、見たい、よ」
ミリーが強請る事は珍しい訳で。
そのミリーのお願いとなると、叶えてやりたくなるんだよなぁ。
俺は確信犯であるスミレをじろり、と睨みつけてから、ミリーの頭をポンポンと叩く。
「判った。その代わり何にもなくてもそこ以外は行かないぞ」
「わかった。ありがと、コータ」
にっこりと嬉しそうなミリーにホンワカしながら、俺たちは先に進む事にした。
スミレが言った通り、暫く歩くとまっすぐの坑道の左側に見落としそうなほどの小さな坑道が現れた。
その入り口は俺がかがんで歩く事ができるくらいの高さ1.2メートルくらいで幅は80センチもないくらいの、本当に小さな小さな坑道だ。
それでも中に入ってしまえば幅も1メートルほどに広がり、高さも2メートルほどに広がるので、なんとかスミレに結界を展開してもらっても歩くのに支障は出ない。
それでも入り口付近では結界を維持できないので、結界無しでランタンの明かりだけが頼りだった時は心配だったんだけどさ。
それでもラッキーだよ、ホント。
「ホントにこの先に魔力溜まりなんていうのがあるのか?」
『一応わたしの探索にひっかかりました。ただ、魔力の関係で何があるかとか何かいるかなんていう事は判りません』
「ちょっと待て、もし何かが待ち伏せしていても判らないって事か?」
『はい、でもわたしの結界があるから大丈夫ですよ』
「そういう問題か?」
「じゃ、だいじょぶ、だね」
『そうですよ、ミリーちゃん』
文句が言いたかったけど、ミリーが実にスミレにとってタイミングよく会話に入ってきた、ちくしょう。
『あ、その角の向こうですね』
「あそこ、か? でも何も見えないぞ」
あふれんばかりの魔力があるんじゃないのか?
『コータ様、魔力は不可視ですので、見えないですよ』
「そ、そうか・・・」
いや、実は俺もそうじゃないかな〜って思ってたんだよな、うん。
ランタンの明かりを追いかけて先に進むと、そこは小さな小部屋のようになっていた。
天井は3メートルほどになり中は5メートルX5メートルほどの広さで窮屈には感じない。
「スミレ、俺には魔力溜まりとかってよく判らないんだけどさ、どう違うんだ?」
『普通の空間の100倍以上の魔力が漂っている空間だと思ってください。体内で保持している魔力が少ない人であれば魔力酔いを起こしてしまう事もあります』
「えっ、マジか?」
『はい。ですがコータ様は魔力だけはたくさんありますから、魔力酔いになる事はありませんよ』
「んじゃ、ミリーは?」
『ミリーちゃんは私の結界の中なので強く感じる事はないですね』
「んじゃ、俺もスミレの結界の中なんだから感じないだろ」
『そうですね』
ふふふっと笑うスミレ。
こいつわざとだな、と思うけど、まぁこいつのこの性格は今に始まった事じゃないしな。
それよりも、ミリーが気になる。
すごく静かだから振り返ってミリーを見ると、彼女は黙って周囲を見回している。
「ミリー?」
『ミリーちゃん、何かありましたか?』
「ん? あのね、あそこが、きれい。それに、あそこも、きれい」
「綺麗?」
「ランタンの、明かりが、キラキラ」
ランタンの明かりを反射しているって事か?
俺はとりあえずミリーが指差す方へ近づいていく事にする。
その俺の後ろからミリーもついてきて、俺にどこかを教えてくれる。
「あそこ。ちがうよ、コータ。もうちょっと左・・・そう、そこ」
「俺にはどこも同じに見えるけどなぁ」
『コータ様、ツルハシで少し壁を削ってください』
「おっけー」
ミリーのいう違いは判らないが、彼女のいう辺りの石を削るくらいはできるぞ。
ガツン、と鈍い音がしてツルハシが岩面を削る。
ツルハシは5センチくらいしか岩面に突き刺さらないが、それでも少し削るくらいなら十分だ。
俺が1歩後ろに下がると、ミリーは足元にしゃがみこんで幾つかの石を拾っている。
俺も手伝おうとしたんだけど、それ違う、と言われたのでミリーにおまかせだ。
「はい、コータ、これ」
「どれどれ・・・う〜ん、キラキラ、してるのか、これ?」
「うん。コータ、わからない?」
「さっぱりだ。スミレ、スキャンして解析してくれ」
『判りました』
俺は部屋の真ん中あたりにミリーが手渡してくれたビー玉くらいの大きさの5個の石ころを置く。
後ろに下がった俺とミリーの前に陣が現れると、いつもの白い光が石ころを包み込んだ。
『スキャン完了、解析完了しました』
それだけ言うと、スミレがミリーの所に飛んできた。
『ミリーちゃん、凄いです。これ、天然の魔輝石ですね』
「天然の魔輝石?」
『はい、普段手に入れる事ができる魔石は魔獣や魔物から取れるものが殆どなんですが、たまにこういう魔力溜まりなどで輝石が魔力をどういう仕組みかで吸収する事により、このような天然の魔輝石が造られる事があるんです』
「それってさ、魔物から取れる魔石よりも質がいい?」
『そういう事が多いですね。輝石というものは透明度の高いものが多いんです。そういう透明度の高い輝石は魔力を取り込みやすいので、綺麗に研磨された輝石を使ったアクセサリーに魔力を込めて守護石を作ったりしています。ですのでこれも似たようなものですが、天然の魔石はそうやって人工的に作られた魔輝石に比べると保有している魔力量はもちろんの事、魔力の質も上質なので、高額で取り引きされます』
「マジか。じゃあこれ5個でどのくらいの金額で取り引きされると思う?」
『そうですね・・データによると、おそらくですがこの大きさの魔輝石の原石でしたら、1つ10000から15000ドランで取り引きされるのではないか、と思います』
俺はバッという音がする勢いでミリーを振り返った。
「よし、ミリー。キラキラするっていう場所全部教えてくれ。頑張って集めよう」
「うんっ!」
『・・・コータ様・・・・』
俺の言葉に、嬉しそうに尻尾を大きく振りながら返事をするミリー。
そしてそんな俺の名前を冷たい呆れたような声で呼ぶスミレだった。
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