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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 鉱山に行こう
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99.

 う〜む、手が詰まってしまった。

 なのに、アレは俺たちを獲物と定めてしまっているからどこまでも付いてくるとミリーが言う。

 外に出ればこっちの勝ちなんだけど、そうなると鉱夫たちが仕事をしている場所を通る事になるから、下手をすると今度は彼らを獲物と見定めるかもしれない。

 そうなると彼らのここでの仕事に支障が起きるのは目に見えているし、そんなヤバいヤツを連れてきたと言って責任を取らされるかもしれない。

 そう考えるとアレを後ろに従えて逃げる事もできなくなってしまった。

 でも、なんで俺たちだったんだ?

 「ミリー、なんでアレは俺たちを獲物と定めたんだ?」

 「わかんない。でも、わたしたちを見て、あたたかい、と喜んでた」

 「あったかい、かあ・・・どういう意味だろうな」

 ミリーはアレの考えている事は判るが言葉による疎通でないから感覚的なものしか伝わらないのだろう。

 だから、あたたかい、とアレが『あたたかい』と感じるという事は判っても、その『あたたかい』というのがどんな感情を指しているのか判らない。

 「何があたたかいんだろうなぁ・・・ってかさ、俺たちを獲物にしたっていうけど、食って栄養にするのか? それって俺たちの身体?」

 「ちから、だと思う、よ」

 「力? どんな?」

 「自分が、持ってないちから、栄養になる、そう感じてる、みたい?」

 持ってない力ってなんだ?

 要領を得ない説明に俺の頭の中はハテナマークでいっぱいだ。

 俺の頭に浮かぶ力といえば体力。これは筋力でもいいのか? でもアレはヘドロみたいだから筋肉はないだろう。

 瞬発力? アメーバみたいな身体に瞬発力なんかいらないだろ。

 記憶力なんて手に入れても使いようがないだろうし、学力なんて知力がなさそうなアレに必要だとはまったく思えない。

 後は何があったっけ? 元いた世界にあってこの世界にないのは科学力? でもそれって力って言えるのか?

 じゃあ、元いた世界になくてこの世界にあるのは?

 「あっ、そういやさ、スミレ、アレ、魔力あるのか?」

 『魔力ですか?』

 「うん、鑑定できないから魔力値は測れないけど、魔力を持ってるかどうかくらいは判らないかな?」

 『試してみます・・・・やり直します・・・やり直します・・・方法を変えます・・・やり直します・・・』

 何度も繰り返し手を変え品を変えしてなんとかして調べてくれているが、なかなか結果がでないようだ。

 まあこればっかりは仕方ない。なんせスミレの鑑定で文字化けしか出てこない相手なんだからさ。

 そのうちスミレは陣をアレの真下に展開させた。

 「スミレ?」

 『陣を使ってスキャンしてみます』

 「できるのか?」 

 『判りません。でも試してみない事にはできるかどうかも判りませんからね』

 まあそりゃそうなんだけどさ。

 でも大丈夫なのか?

 俺とミリーはアレの下に展開された陣とアレを交互に見ながら、それでも警戒だけは忘れないようにパチンコと弓をいつでも使えるように握りしめる。

 いつものように白い光が発生したか。でもアレが一瞬白い光に包まれたかと思うとすぐにその光が収まってしまった。

 「ひかり、消えたね?」

 「失敗か?」

 『いえ、スキャンの光はあっという間に吸収されましたが、少しだけアレを鑑定が出来ました』

 「マジ?」

 『あまり期待しないでくださいね? 判ったのは3つだけですから』

 期待するなというスミレの顔はどこか憮然としている。

 って事は本当に大した鑑定は出来なかったんだろう。

 「いや、なんでもいいよ。この状況を打破できるならどんな情報でもありがたいからさ」

 『1つ目、パラリウムという名称が見えました。2つ目、なんでも食べる原生生物に近い生態を持っているようです』

 なんでもかぁ・・・だから俺たちを餌として見定めたのか?

 『それからこれが最後の情報です。アレのステータスが少しだけ見えましたが、魔力は全くないです』

 「魔力がない? でもさ、確かこの世界の生き物は雑草でも魔力を持ってたんじゃなかったっけ?」

 命あるものは微量でも魔力を有している、そんな話をきいたような?

 あれ? 気のせいだったっけ?

 『ほぼ全ての生物は微量でも魔力を持っています。でもアレは持ってませんね』

 という事は。

 「あのさ、俺の推測なんだけど、スミレの探索は魔力がベースになってんじゃないのか?」

 『どういう意味ですか?』

 「だからさ、スミレの探索機能は魔力を辿る事で探索ができてたんじゃないかなって思ったんだよ。もしそうなら魔力を持たないアレを探索できなかったのは仕方ないかな、って」

 『・・・なるほど。それはありそうですね。でも今は時間がありませんので、この件が片付いてから色々と実験してみます』

 うん、そうだな。今すぐに検証するとかって言ったら、俺は叱り飛ばしていたぞ。

 「それでさ。もし魔力がないんだったら、やってみたい事があるんだよ」

 『やってみたい事、ですか?』

 「うん。まぁ試しだけど、アレに石をぶつけてみる」

 『はっ・・・?』

 「だから、アレに石をぶつけてみる」

 『でも物理攻撃は効かなかったですよね?』

 スミレは今更何を言ってるんだ、と言わんばかりの視線を向けてくる。

 「うん。俺のパチンコ弾もミリーの矢も効かなかったよな」

 『それなのに、石をぶつけるんですか?』

 「うん、実験だと思ってやらせてくれよ。まあ石を投げるのはミリーだけどね」

 「わたし?」

 「うん。俺は検証したいからさ。ミリー、投げてくれるかな?」

 「うん」

 よく判ってないといった顔をしているものの、俺に言われると素直に頷いたミリーはその辺に転がっている握り拳(にぎりこぶし)程度の大きさの石を拾い上げた。

 「スミレ、ミリーが投げる石は結界をすり抜けられるようにしてくれよ」

 『判りました』

 「よし、ミリー。投げてくれ」

 「うん・・・えいっっ」

 俺よりもコントロールがいいミリーが投げた石は真っ直ぐにアレに向かって飛んでいく。

 そしてそのままゴンという音を立てて当たった。

 「あたった?」

 あれ? といった顔で振り返るミリーに俺は頷いた。

 「俺の推測は、大当たりだったって事だな」

 『どういう事ですか?』

 「アレを攻撃する時に俺が使ったパチンコ弾もミリーが使った矢も、どちらもプリンターのスキルを使って作り出したものだよな? って事は俺の魔力を使ってるって事だ。理屈はよく判らないけど、アレには魔力を使って作ったものは効かないんだよ」

 『魔力を持たないから、ですか?』

 「その辺は俺にも判らないよ。たださ、魔力を持ってないからそれが効かないだけかもしれないし、魔力に対しての抵抗力を持っているから、アレ自身は魔力を持つ事ができないのかもしれない。ただの俺の憶測だけど、ミリーが投げた石は当てる事ができたって事はなんとかできるかもしれないって事だよ」

 かもしれないかもしれないって、本当に推測でしかないけど、それでもどうにかできるかもしれないと判っただけで十分だ。

 「スミレはこのまま結界を展開してヤツの足止め。ミリーは俺と一緒に石をぶつけてくれ。やっつける事ができるかどうか判らないけど、石なら当てる事ができるんだ。なんとかなるかもしれない」

 「判った」

 『判りました』

 「スミレはついでにアレの様子も確認してくれよ」

 『当然です』

 俺とミリーは早速手当たり次第に石を拾ってはアレめがけて投げる。

 ミリーは俺の握り拳くらいの石、俺はそれよりも大きめのミリーの頭くらいの大きさの石だ。

 とはいえあっという間に手頃な石は投げ尽くしてしまう。

 俺はポーチからピックを取り出して手近な石壁を削る。

 「うっわ、硬え」

 『その辺りは含有率は低いですが鉄鉱石のようですね』

 「そりゃ硬いのは当たり前か・・・って、じゃあ丁度いいって事だな」

 俺はポーチから体力回復ポーションを取り出して一気に飲むと、そのままの勢いでガツンガツンと石壁を削っては鉄鉱石の塊を作る。

 ミリーは少し離れたところで俺が削った石を掴んではアレめがけて投げている。

 「スミレ、少しは効いているか?」

 『判りません。でも動きは鈍くなった気がしますね』

 「少し、苦しそう?」

 『結界を抜ける事ができる繊毛も長く伸ばす事ができなくなってきているようです』

 そりゃ朗報だ。

 結界の向こうのアレに視線を向けると、確かにさっきまでだったら結界にへばりついていたのに、今は地面にデロンとなったままで前に付いている繊毛がワサワサと結界を触っているだけだ。

 「スミレ、火薬を使って小さなダイナマイトみたいなもの、作れないかな?」

 『ダイナマイトですか? デデータバンクの検索開始します・・・終了しました。その、作れますけど、スキルで作ったものは効かないんじゃあ』

 「俺にも考えがあるんだよ。作れるんだったら2個くらい作ってくれないかな?」

 『・・・判りました』

 という事でミリーに石投げを任せて、俺は旧坑道の天井を見上げる。

 どこかに窪みみたいなのが・・・っと、あったあった。

 現在のスミレの展開している結界から5メートルほどのところに、丁度いい大きさの窪みを見つけた俺はニンマリと笑みを浮かべる。

 『できました。導火線は長さが判らないので長めにしてます』

 「ありがとうな」

 俺はスミレが俺の前に持ってきてくれた直径3センチ、長さ15センチくらいのダイナマイトもどきを受け取ると、早速それを見つけた窪みに差し込むために前に出た。

 「コータッ、危ない、よ」

 「ちょっとこれだけだよ。これをあそこに差し込みたいんだ」

 『コータ様、私が行きますよ』

 『いいからいいから、俺にさせてくれよ』

 俺は2人を安心させるために笑みを浮かべて見せてから、窪みの真下までやってくると手を伸ばしてみる。

 うん、なんとか届きそうだ。

 導火線が手前に来るようにダイナマイトもどきを差し込む。

 「スミレ、アレの移動時間を予測してくれるか?」

 『どこまでですか?』

 「この真下に来るまでにかかる時間だよ」

 『おそらく2分程度かと。ですがきちんとした時間は予測できませんよ』

 「うん、まあそれはそうなんだけどさ。だとしたらギリギリまでここで待ってから導火線に火をつけるか? いや、それだと危ないからなあ」

 どうするかな?

 「ああ、そうだ。スミレ、結界をこのダイナマイトもどきのすぐそばに展開してくれ。もちろん結界の外だぞ。んで、導火線だけ結界のこちら側に来るようにすれば、近くで爆発しても安全だろ?」

 『それはまあ・・・でも、それだけアレに近づく事になりますから危険ですよ』

 「大丈夫大丈夫。とにかく結界をここまで移動してくれ。俺はアレがこのすぐそばにきたら導火線に火をつけるからさ」

 『コータ様』

 「今は迷ってる時間はないだろ? アレをどうにかしないと俺たちは坑道から出られない」

 『それはそうですけど・・・』

 「頼むよ」

 『・・・・判りました』

 しぶしぶ頷くスミレの横で、ミリーがすごく心配そうに俺を見ている。

 でもさ、いつまでもここで石をぶつけていたって、アレをどうにかできないんじゃあどうしようもないだろう?

 『それでは結界、展開しますので導火線を持って少し下がってください。結界、展開しました。それから、アレがいる結界は今解除しました・・・・』

 結界が解除された事が判ったのか、アレがゆっくりとこっちに向かってくる。

 俺はそんなアレが近づいてくるのをじっと観察する。

 ゆっくりと蠢きながらやってくるそれは繊毛があるアメーバみたいで、正直動きがとてもキモい。

 それでも導火線を放置する事も出来ないし、火をつけなかったらダイナマイトもどきの意味がない。

 とはいえいくら結界があるとはいえ、アレとほんの1メートルほどの距離で対峙するのはあまり気持ちのいいもんじゃないぞ。

 『コータ様、結界の手前まできましたよ。そろそろいいんじゃないですか?』

 「うん、そうだな」

 俺がそろそろライターを、と思っていたところにスミレから声がかかって苦笑する。

 本当に心配性だなスミレは、なんて事を思いながら導火線を確認してから火をつけるためにライターを近づけた。

 「2人とも、ちゃんと下がってろよ?」

 「だいじょぶ」

 『コータ様こそ、早くしてください』

 「判ってるって。すぐに戻るっっ--うぎゃっっ」

 丁度導火線に火をつけたところで、俺の左ふくらはぎにもの凄い激痛が走った。






 読んでくださって、ありがとうございました。


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