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名もなき村の領地開発  作者: スズヨシ
第一章 やっぱり準備は大事(1年目8歳)
9/25

第一章 05.0話

今週は急に時間を取るのが難しくなったので、5話は2~3回に分けての投稿になります。すみません。

 日が昇り始めて一刻。

 辺りはまだ薄暗い。

 早朝、いつもより早く目が覚めてしまった俺は、ちょうど良い機会だと、気になることもあったので村にある三つの井戸を巡ることにした。

 この時間なら道行く人も少なく、誤って現代用語交じりの独り言を口走ってしまっても大丈夫だろう。

 経木……何か面倒だな、一人の時は紙と呼ぼう。

 ランドさんに頼んで紙を用意してもらったので、今日から快適村人生活がおくれるように考えてみるつもりだ。

 少なくとも、現代日本の知識があれば生活環境の改善に役に立つはずだ。

 例え、それがおぼろげな記憶でも。

 詳しいことなんて専攻して学ばなければ普通は知らない。

 それに、知らない部分は誰かに押し付けてしまえばいい。


「まぁ、一番の問題は、この体と記憶喪失となってると思われてることかな?」


 ヒロはどうにかなるだろうと、まず最初の目的地まで歩みを進めた。




 今は明け方五時半過ぎ。

 井戸を巡り始めた時に比べれば、太陽も僅かに顔を出し周囲も明るくなっている。 

 

 「やっぱりそうか……全て滑車が付いていない」


 一つ目、二つ目の井戸を調べ、初めて獣人と出会った三つ目の井戸の前まで来たのだが、ここも釣瓶井戸つるべいどではなかった。

 綱を取り付けた桶はあるので、これを投げ入れて引き上げているんだろう。

 三日前はダグザさんの鍛冶屋が気になり素通り。

 四日前は獣人……耳と尻尾に気をとられ。 

 村長宅い えではユキさんが家事をしているので、ここまでゆっくり見るのも初めてだった。


「これ、重くて大変じゃない? 獣人なら軽く上げられるのかな?」


 井戸と聞けば思い浮かべるのは”汲み上げ式”だろう。綱の先に桶などを付けて落として水を汲み上げるやつだ。

 井戸の深さも大小あるが、この村では竪井戸(垂直に掘るタイプ)で深さは三メートル以上の浅井戸だ。

 周囲の土砂崩れ対策で石組の井戸側も付いている。ただ掘っただけではなく安全対策もされているようだ。

 深井戸(数十メートルの深さのもある)に比べれば十分浅い浅井戸でも、何度も汲み上げると女性や子供では相当な重労働だろう。それが力のある獣人だったとしても。


「う~ん、どうする? 屋根は付いているからこれを利用できれば設置できるか?」


 腕力だけで引き上げるよりは楽だろうと滑車が取り付けられるか支柱に手を伸ばす。


「……いや、強度が足りないか?」


 八歳の力でも僅かにグラついてしまう支柱に顔を顰めてしまう。

 井戸の屋根は二メートルを超える一本の支柱に屋根が取り付けられていた。

 これでは、滑車だけ付けて終わりにできない。

 説明して耐えられるものに代えてもらうか傍に代用できる装置を作らないといけくなってしまう。


「跳ね釣瓶はねつるべなら大丈夫か? いや、屋根の高さが低すぎるか……」


 跳ね釣瓶とは、天秤のような形をしていて、その一端に石を、他端に釣瓶を取り付け、石の重みとテコの原理によって、女性でも簡単に水を汲み上げる事が出来るものだ。

 どちらにしろ規模が大きくなってしまう。

 今の俺は八歳のしょせん子供がきだ。それも村に来たばかりの見知らぬ。

 そんな子供の説明たわごとでどの程度信用を得られるのかも未知数だが、一番の懸念材料が。


「鍛冶屋って、この村ではダグザさんだけだよな?」


 経木の時に知り会えたのがダグザさんってだけで他にも鍛冶職人がいるのかもしれないが俺はまだ知らない。

 鍛冶屋が少なければ道具の手入れや製造依頼は必然的に増え、生活に直結する道具がまず優先される。

 村人の大半が食料の生産をしているこの村には余裕はない。

 不都合がなければ後にされるのは必然だ。楽になるかは使った事がなければ分からないのだから。

 紙は偶然ストックがあって分けてもらえたが、本来は一週間以上時間が掛かる品物だ。

 

「紙一つで一週間と考えると……どれだけ時間掛かるんだ?」


 現代のように機械を使って量産するのとは訳が違う。全て手作りだ。製作時間なんて想像もできない。

 一瞬リリーの顔が浮かぶが手伝いと言ってた。それに……。


「まだ昨日初めて話をしただけじゃないか……」


 友好なんて築けてない。

 こんな時、PCやスマホがあれば調べれるのに……。

 ここにはない現代機器の便利さを実感し、頼むのは無理だと項垂れ、別の手を考えることにした。


 しかしヒロは考え違いをしていた。

 経木は作業工程の中で乾燥(一週間程度)させる時間が必要なために時間も掛かるのであって、村で使っている道具程度では時間は掛からない。

 この時点では何も知らないので無理もないのだが、視野を狭くしていたと後に後悔した。


「はぁぁ、……井戸一つでこんなに苦労するのか?」


 頭の中には村の助けになりそうな道具は浮かんでいる。

 だが、一つ作るだけでも問題が出てきたのだ。

 先行きが見通せないことで既にぐったりしていた。

 誰でもゴールの見えない作業ほど辛いものはないというわけだ。

 

 周りを見ると村の住民も徐々に増えてきた。

 今日のところは別の道具のことで気を紛らわせながら帰ることにした。




 ただ、この現場を見ていたドワーフが居た。

 上半身には玉の汗、身長は百五十センチにも満たないが、無駄のない鋼の筋肉を纏っていた。

 徹夜作業で一息ついていた所、偶然にも窓から見えたのだ。

 見えたのは、数日前にこの鍛冶屋いえを覗こうとした坊主ヒロだ。

 この村では滅多に依頼がない経木を注文してきたことで覚えも強い。

 経木を依頼してきた坊主が朝早くから何をしてるかと思えば、井戸の深さや周囲、支柱の強度までも調べていた。

 始めはこの薄暗い中、こそこそ何かしてることで警戒を強めていたが、悪さをしている気配がなかったので次第に警戒から興味へと移っていった。

 まずこの村で経木に興味を示す人物は少ない。多くの住人が字を書けないのだから無理はない。それにランドからは己の記憶が無いとも聞いた。


「納得いかなかったのか、顔を顰めておったがの……」


 何を調べていたのかは分からないが、納得がいってないのは表情からも判断できた。


「ふむ、あの坊主。なぜあのようなことをしておったのか?」


 興味が湧いたが既にこの場からは姿が見えなくなっていた。

 男は今度訊ねてみるかと心に留め、作業場へと戻って行った。

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