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名もなき村の領地開発  作者: スズヨシ
プロローグ
3/25

プロローグ03 (改)

 話が終わり、ユキさんは蝋燭に火を点け持ってくるとテーブルの上に置いた。

 窓からは月明かりが差し込んでいるのが見える。


「それじゃ帰るとするか。アキも今日はここまででいいな?」


 ランドはヒロ、ユキの順に顔を見る。


「うん……わかった」


 寂しそうに頷くアキの頭をユキは慰めるように撫でていた。


「えっ、帰る?」


 ヒロが声を漏らしたのは、ここが三人の住まいだと思っていたからだ。


「そうだ。ここはアキの家で、俺らの家は別にある。お前えさんを拾って戻ってきたが、村人は狩や農作業でほとんどいねえ。でだ、すぐに寝かせられるのはアキの家だけだった、と言うわけだ」

「それにな、アキと俺らは親子じゃねえ。まぁ、近い感じだがな。よく飯は一緒に食ってるが、アキは今一人で暮らしてる」

「えっ!? それじゃあアキの両親は?」

「……その事は後でな」


 自己紹介された時にはランドさんとユキさんが夫婦だとの話はあったが、アキが娘だという話はなかった。

 俺が勝手に勘違いをしていただけだ。

 曇るアキの表情を見るランドさんの視線を追うとこの話題をやめた。


「大丈夫だよ。もう一人は馴れたし。それに、少し待てばヒロと一緒に暮らせるし!!」


 気丈に振舞っている部分はあるだろうが、ヒロとの暮らしを考えると表情も晴れていく。


(うん、やっぱり笑顔の方がいい)


 誰も寂しそうな顔は見たくない。それが元気いっぱいな少女であればなおさらだ。

 いつまでかは分からないが、一緒に暮らす間だけでもこの子の笑顔を見ていたいと思う。




 別れの挨拶が終わり外に出ると、今日は満月で、想像以上の月明かりに驚いた。

 街灯、コンビニ、車の明かりなど、今まで当たり前だと思っていた光は何もない。

 漆黒の中の月明かり。

 日本では感じたことのない情景。

 足を止めて見上げていると夫婦に呼ばれたので歩みを始める。

 追いつくと何を見ていたのかを聞かれたが、素直に月明かりに驚いた事を伝えると、夫婦はいつもと変わらぬ明るさに不思議そうに首を傾げていた。



 村長の家は歩いて一分程の所にあった。

 昔ながらの平屋は広さからも部屋はそれなりにあるのだろう、空いている部屋を使うように説明された。


「少しの間ここで暮らしてもらうが、遠慮はしないでくれ。まずはこっちだ」


 ランドはリビングへ案内すると、ユキは先に入り明かりの準備をしており、テーブルには蝋燭が立っていた。

 三人が席に着いたところで話が始まった。


「ヒロ、もう少し話はできるか? 今のお前さんがどの程度の記憶があるのか知りたい。起きたばかりだ、時間も長くは取らせねえ。ヒロも知らない事は知りたいだろ? 明日になれば村にも話が広まるだろうし、この村の事も簡単にだが話しておきたいしな」


 時間を置かずに頷く。


「何でもいい。覚えてることから話してくれ」


 ランドの言葉にヒロは悩んだ。

 悩んでいたのは、この村だけでなくこの世界の事。そして生活環境も一切分からないため、迂闊な事が言えなかったためだ。

 どう伝えればいいのかを悩み、日本での生活を伝えるわけにはいかないと結論付け、全ての有様が分からないと素直に答えた。


 常識的に考えれば、意思の疎通は出来るし言葉も話せる。普通の作法も問題ない中で何も知らないでは納得できないだろうが、何も言わず受け入れてくれた。

 ランドには傭兵時代に多種多様な人々との付き合いから、嘘か誠かを態度や雰囲気から察することに自信があったのも受け入れた理由だが、直感的に何か感じることができるアキがすぐに懐いたことも理由の一つだった。


 ここから先は、ランドが発する内容をユキが補足する形で進んだ。


“まずこの村は、三十年ほど前にランドが中心となり作った集落が元で、今は、竜人、人族、エルフやドワーフ、etc――、様々な獣人三百人程が住んでいた。

 村を中心に、北に湖、南や西には平原、東や湖の先には深い森と遺跡があり、周囲を囲むようそびえたつ山岳がほほ村を孤立化しているが、山越えはでき交易は可能になっていた。

 山岳の頂上付近にはドラゴンが住む集落があるが、村には竜人が住んでいて、こちらから手を出さない限りは危険はない。

 山岳の外には、王都や大小様々な都市や村々があり、この国の中心付近にこの村が存在する。が、山岳やドラゴンの影響で一部の限られた人にしか存在は知られていない。

 そして、この村には【名前】がないことだ。

 (名前がないのには意味はなかった。最初は一時的な安息の場所を作るつもりが結果として長く住むことになり、住民も増え、ただの村として確立してしまっただけだ。村と外との接触がないことが名前の必要性を失わせ、住民にはただの村で通じてしまうことも影響していた)


 ここまでで一息入れることになり、ユキさんが用意した飲み物でそれぞれが喉を潤した。

 ヒロは硬くなった表情を崩すと、緊張していたのか筋肉に張りを感じた。

 今の話だけでもドラゴンや獣人の存在など、漫画やアニメの世界だ。

 食事は農地の耕作や養鶏などを村で行い、動植物の狩もしていた。

 よくあるモンスターはいないみたいだがドラゴンがそうといえなくもない。

 危険な動物はいるし、冒険譚が好きな人は大はしゃぎかもしれない。……俺はお断りだが。

 踏み込んだ内容まで聞けば、もっと色々な……そう、常識外のことがわかるかもしれない。

 後は、母親の種族の性質を色濃く受けるために、この世界では、子供は母親と同じ種族で産まれ父親の種族で生まれてくることが極稀だという話などもあった。


 五分程経つと続きが始まるが、話は主にランドやユキそしてアキのことであった。


 ランドは竜人でこの村を作る前は傭兵隊長をしており、交友関係や情報にも精通していた。

 傭兵時代のメンバーは今もこの村に住んでおり、物資が不足すると、この元パーティーメンバーが中心で買い出しに行っている。

 次にユキだが、人族で見た目からは想像できないが、元はランドと同じパーティーに所属していた。

 個人で保存している食料以外のこの村の物資の管理は主にユキが行っているが、使用する際にはランドの許可が必要になる。

 そして、集落を作った際にランドと夫婦となったが子供ができず、アキを娘のように可愛がっていることを、本当に慈しみ深い顔で語っていた。

 

 その直後、ランドさんに年齢をばらされたユキさんは、ゴスッ! っと聞こえてきそうな勢いで鳩尾打ちを食らわし、悶えるランドさんを本当に……本当に冷たい瞳で見下していた……。

 ランドさんは回復に十分程時間を要していたがユキさんはというと、すぐにいつもの微笑みに戻り『何か聞こえましたか?』と言っていたので、俺は引きつった顔で首を振るしかなかった。


 ……少し間が開いてしまったが、最後にアキだ。

 竜人でヒロを助けたように勘が鋭く危険を察知することに長けていた。

 一年前に母親を亡くしたが、村での流行り病とそれに伴う不作で村の物資もなくなり、栄養が満足に取れず悪化したことが原因だった。

 村の外への買い出しも行ったが山岳を越える必要があり時間が必要で間に合わなかった。

 母親の死後には一緒に暮らそうと提案したが、おもいでから離れたくないと断られていたことも教えてくれた。

 それが、ここ三日間の看病やその直後の言動に少なからず影響してるのだろうと夫婦は言っていた。

 ちなみに、父親のことは教えてもらえなかった。


 夜も更け、ランドはヒロに疲れの表情を見ると、村の生活や住民のことは直に確認する方がいいだろうとのことで話は終わった。


 部屋まで案内されると、ヒロは次から次へと入ってくる内容に昼とは別の頭の痛みを抱えていた。

 布団に横になる際に見えた身体のサイズはこれからの事を不安に陥れる。

 元は二十二歳。たった二十二年の経験しかないし、社会人としても半人前だ。

 今は助けてもらったこの村で暮らしていくしか方法がないし、助けてもらった恩は返すべきだとも思う。


(特にアキの件もあるしな)


 別れる時のあの寂しそうな表情は頭に貼りついて離れない。

 一緒に暮らしたいと頼んでいた際の必死の顔も……。


「まぁ、俺にもできることはあるだろう。明日は、まず村を調べてみよう」


 営業時代は理不尽な事も色々あった。

 気持ちの切り替えが重要で失敗があればいつも心に言い聞かせてきた。

 でも、誰もこんな状況で役に立つとは思わないだろうな……。

 決意を声にしたことが張っていた気を薄めたのか、ヒロは眠りが襲ってくるとまどろみに身を委ねた――。

プロローグは完結です。

次からは本編に移ります。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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