閑話 02-1
今回の閑話は回想話になってます。
今後に関わる情報も所々に入れてみました。
※すみません、体調を崩してしまったので途中までになってしまいました。
投稿当初から毎週続けているこの時間での更新は続けたかったので、区切りが良い所までで申し訳ないです。
みなさんも体調管理には気を付けて下さい。
俺の名はカシム。
まだ見習いだが警備隊に席を置く、今年成人したばかりの十五歳だ。
警備隊に所属しているのは、近い将来に向けた準備でもある。
そう遠くない日に親父達について山岳を越える旅を行う予定なので、今の内に荒れごとに慣れ、見聞を広げろとの処置でもある。
外の世界に足を踏み入れれば、この村など問題にならないほどの困難が待つのは承知しているつもりだ。俺が不足しているもの、情報を見極める眼と判断する頭を養えと口煩く言われている。
旅をすることには不安もあるが楽しみでもある、その日が来るのを待ち遠しく思う。
そんな俺に振って湧いた出来事が起きた。
その現況となった昨日の集会、あの場を連れ出されるところから振り返りたいと思う。
◆
あの場でのヒロの行動には驚きを隠せなかった。
話が進むにつれ感情を剥き出しに険悪になる雰囲気、呆然と会話だけを拾う俺は、ランドさんが放つ怒気を含んだ気に当てられ動けずにいた。
そこに別人とも取れる形相を浮かべたヒロに腕を掴まれることで、我に返ることが出来た。
どこかに引きずり出そうとでもしているのだろうが、如何せん小柄で腕力も無い。
面倒だが抵抗する力を強めると、そうのうち悟ったのか力を弱め――。
「カシム、現場に行く。一緒に来い! ランドさんには許可をもらってる」
つい肯定したくなるほどの力強い言葉。
ヒロと一緒なんて心情的には断りたい、だがランドさんが許したとなれば意味があるのだろう。嫌でも意思を押え込んで付いて行くしかない。
観念し、ヒロの背について歩き出す決心をしたはいいが、当人は数歩分先で歩みを緩めると、足を止めていた。
俺は心の中で舌打ちしていた。来いというから歩みだしたのに、直後に歩みを止める。『こいつは、何をしたいんだ?!』と。
でも、その意味はすぐに判明した。
出口とは別の方向、ヒロの顔が向くその先にはアキの姿があった。
アキは俺がずっと気になっている女の子だ。以前は母親と二人で暮らしていのたが、その母親はすでに他界している。分け隔てすることなく、とても優しい方だった……事実を知った時は、酷く落ち込んだものだ。
俺はランドさんとユキさん繋がりでアキとは、アキが産まれた時からの付き合いなので、昔はそれこそ妹のように接していた。
それが母親が亡くなりアキ一人になると、寂しさを感じさせぬその健気な姿が眩しく映り、俺には出来ぬその姿が感情をも変えていた。恋なのか憧れなのか……俺は恋だと思っているのだが……。
この角度からではアキの表情は窺い知れないが、人の壁の隙間から見えたのは、ルナの裾を掴む震える腕。
俺はこの時、この会場にアキがいたのを、始めて思い出した。
ヒロは既に知っていたのだろう。俺には近づくヒロに気付く余裕すらなかったのに……。
その後は、会話も無くヒロの背を追いかけるだけだった。
村の外へ出る際には、門番は俺がいることですんなりと門を開けていたが、やはりヒロの状態に首を傾げていた。
「どうした?」と表情が語っていたが、俺もこの状況には戸惑っているのだから、肩を竦めるほかなかった。
――草原を歩くこと十五分。
唐突にヒロが口を開いたのだが、ぎこちなさを隠せていない。
微妙な空気を霧散したかったのだろうが、言葉に詰まるわ、もっと上手くやって欲しいものだ。
いつものように返してやると、ほっとした表情をしやがった。
まったく、なら始めからそうしておけというんだ。
そうこうしているうちに、別人ではないかとも思えるヒロの発言。集会の話から村の将来について、最後は協力まで求めてきた。
話が進めば進むほど、こっちは戸惑いを一層深めるだけだった。
俺の知るヒロというのは、失敗ばかりでアキに手間を掛けさせる、ろくでなし野郎。……アキがどれだけ走り回っていたのか、あいつは知ってるのか?
あまつさえ一緒に暮らしている、本当にムカつく奴。
……記憶がないらしいから失敗するのは仕方無いのかもしれんが、一緒に暮らしているのだけは許せん!! 見も知らぬ男が何故にしれっとアキと暮らしているんだ? ランドさんはどうして許可をした!?
ヒロのことを見る度、このことばかりが頭に浮かんでくる。
そしてもう一つ、俺がヒロに接する態度だ。
傍から八つ当たりに見られてるのは知ってはいるが、ヒロの姿を見るとつい出てしまう。なのにヒロはいつも平然と受け入れる。
その時の眼が気に食わないんだ、駄々をこねる子供の我侭を見ているような、あの眼が!
……話が逸れてしまったので元に戻そう。
ヒロの口から流れ出る内容は、いきなり村の確信に迫るものだった。
“分裂”の言葉を使っていたのだから、間違いなく何かを掴んでいるのだろう。……ニュアンスからは確証までには至らないようだが、ランドさんから何か聞いているのかもしれない。
この発言は、驚きで、俺から僅かばかり言葉を失なわせていた。
油断していたのは否めないが、つい本音を漏らしてしまったのは今でも悔やまれる。
その後もヒロからは矢継ぎ早に言葉が紡がれた。
ただ普段の姿からは想像すらできない内容を聞かされたことに、どうしても納得が出来ず、最後に一つ聞いてみた。
『……――何か、俺の知らないことがあるのか?』
「今はまだ詳しい事は話せないが、協力してくれれば……いつか、話すよ」
返答からは当たりだ。
ヒロは何かを隠している、それが何かは今の俺には知る由も無いのだが……。
俺は話が終わると、一度情報を整理するために瞼を閉じた。
ヒロを見ていると余計な感情が湧いてくるので、無駄な感情は遮断しておきたかったからだ。
だがいくら整理しようとしても、困惑が先に立ってしまう。
内容もだが、すでにランドさんとユキさんとアキの三人と、ダグザさんとリリーの二人。
……親父達にも話は伝わっているのだろうか?
そうだとしたら、知らされていない俺はどうしたらいいんだろうか? 協力するのか断るのか。俺が協力したとして、どれだけのことができるのか? 村の仲間はどう感じる? 本当に必要なのか? 孤立しないのか? 俺は、どうしたいんだろうか――……。
いくら考えても堂々巡りになる。
どのくらい考えていたのだろう、答えを見い出せないまま瞼を開けると、ヒロは悩むような求めるような微妙な表情をし、変わらぬ姿勢で待っていた。
そんなに俺を必要としているのだろうか?
表情からはそう思え、心は揺れていた。
これ以上待たせるのも悪いのでここまでにし、待たせたことを詫びて、目的地へと進んだ。




