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名もなき村の領地開発  作者: スズヨシ
プロローグ
2/25

プロローグ02 (改)

 ―――――。

 ―――。

 ―。


「……あれ?ここはどこだっけ?」


 目を開けるとそこには見慣れない部屋だった。

 男の子は小さな身体を起こし眠る前のやりとりを思い返すと今一度周囲を見渡してみる。

 横にあった空の器はなくなっていたので、一度は誰かが様子を見に来たのだろう。


「……何か訳解らない状況になってたんだ……」


 ふぅ……。


 溜息が漏れる。


「やっぱり夢じゃないよな……なんでこんなことになってるんだ……。――頭は……痛くないな」

 

 頭を振ると眠る前の痛みは消えていた。

 三日も寝ていたのだ。睡眠の取り過ぎからくるものなのだろうと気にするをのやめた。

 ここは先程会った男性と女性、アキと呼ばれた女の子の家なのか?

 目覚めつつある思考で現状を見直してみる。

 一つ一つ整理をしてみるが、答えは――出るはずがなかった……。




 ドタドタドタ


「起きてる? ご飯の用意できたよー」


 アキは遠慮? なにそれ? って勢いで駆け込んでくると、まずは目的の人物が起きているかを確認した。

 無事起きているのを確認すると、手を握り、起き上がる手伝いをするが、三日ぶりに力を入れた俺の足腰は膝が抜けてしまった。


「大丈夫?」


 引っ張り上げようと腕に力を入れるが、逆に引っ張られる形となり、男の子の状態を心配した。


「大丈夫だよ、痛い所はないし久々だから力が入らなかったんだよ」


 少々時間を置き立ち上がるのを見ると、アキはほっとした顔をした。


「じゃあ行くよ。ゆっくり歩くから。こっちだよ」


 アキの言葉と同時に、手と手を取り歩き出すと目的地はリビングだった。

 部屋には今は稼動していない暖炉があり、料理の並べられているテーブルには男性と女性が座っていた。

 料理の内容は、鶏肉と野菜の入ったスープ、白米、目玉焼きにベーコンが盛り付けられていた。


「まぁ、詳しい話は後にして一先ず食べようや」


 男性がそう言うとアキに促され席に着いた。

 この食卓に座っている順番は、俺とアキ、向かいに男性と女性で『いただきます』の挨拶で食事を始める。

 食前・食後の挨拶はこの世界でも同じだった。

 食事にはしっかりと味付けされており、味も美味しく先ほどとは雲泥の差があった。

 時折アキや女性から味付けのことや体調のことを聞かれたが、俺はこの後に待つ状況に上の空で答えていた。


「ご馳走様でした。とてもおいしかったです」

「お粗末様。あらあら、残さず食べてくれたのね?」


 食後のお礼を言うと、女性は返礼をし食器を片付けていく。

 片付けが始めるとアキが手伝いに入り部屋を出て行くが、数分するとミルクの入ったコップを持ち二人は戻って来た。

 その間、男性は瞼を閉じて考え事をしており、何を話して良いか分からない俺は流れに身を任せていた。


「始めるか」


 二人が席に着くと、男性が目を開き告げる。


「まずはお前さんの名前だ」

「……名前」

「どうした? 何か言えない訳でもあるのか?」

「いえ、そうではないのですが……。……名前が思い出せないんです」

「思い出せない?」

「……はい」

「そうか。……それならば何故あの遺跡にいたのか? それとここには何の用で来たのか?」

「それも信じてもらえないかもしれませんが解らないんです。ここが何処なのかも。どうやってここまで辿り着いたのかも」

 

 考えこむような俺の姿を訝しげに観察していた男性がどう思ったのかは今の表情からは分からない。

 思い当たる節があるのか、話が終わると女性に何か合図をしそれ以上は追求してこなかった。


 俺は、目が覚める前の最後の記憶では、日本の自分の部屋に居た。

 目の前の三人の服装は、普段着るようなものではないし、家の作りも質素だ。

 食事は同じような味付けをしていたし、知っている料理だったがここが日本だとは思えない。

 何より、二十二歳の容姿とはかけ離れている八歳ほどの背丈の俺がここにいる。……夢ならどれだけいいか。

 ―――何でこんなことになっているのか、こっちこそ誰かに教えてほしい……。


 その後、それぞれ何か思うことがあるのか口を閉ざしたことで静寂が広がった。




「じゃあ、ヒロってどう! 名前、思い出せないんでしょ? いつまでも名前がないと嫌だし!」


 突然発せられた言葉にその場にいたアキ以外の視線が一箇所に集まる。

 余程自信があるのか、まだ膨らみのない女の子が、どうだ! とばかりに立ち上がり胸を張っている。


「そうだな、お前さんはどうだ」


 どうなの? どうなの? と期待に満ちた目で見られれば断りきれない。


「……はい。大丈夫です」


 アキなりに真剣に考えてくれたのは表情からも判断できたので、素直に受け入れられた。



 アキが口にした言葉には、異世界で英雄ヒーローの意味合いがあった。

 本人は子供らしく素直な直感で思いついた名前であったが、この村やアキにとっても重要な意味となってくる。




「あらあら、ヒロって良い名前ね。そういえば自己紹介がまだだったわね。私は【ユキ】よ。ユキさんでもお姉さんでも好きに呼んでね!」


 目の前の女性はユキさんと言うそうだ。見た目三十代後半で百六十センチほどのストレートロング。

 何よりすごいのは、体も引き締まっていて、出るところはでる。

 ボンッ! キュッ! ボンッだ!

 見るといつもニコニコしている。


「お姉さんって年でもあるめえし。うげぇっ! …………おめえ、そこを蹴るか……」 


 急に叫び声を上げた男性は向こう脛を蹴られたのであろう、足元をさすり表情を歪め額には汗を浮かべていた。


「ユキさんって呼ばせてもらいます!」

「あらあら、そう? お姉さんでもいいのに……」


 お姉さんを期待していたのか、ちょっと寂しそうな表情をする。


「だから、お姉さんってとし……なんでもねえよ」


 鋭い視線を感じたのであろう、言葉の途中から横を向き、今は一呼吸置いていた。

 このやりとりからこの二人の力関係は判断できた。


(うん、ユキさんは怒らせないようにしよう!)


 そう心に決めた。

 男性は落ち着いてきたのか体勢を整えると。


「俺はこの村で村長をやっている【ランド】だ。ユキとは、まぁ、夫婦だな。村長といっても大きなことが出来る訳でもねえし纏め役みたいな感じだな。ランドって呼んでくれや」

「ランドさんですね。よろしくお願いします」


 男性はランドさんと言うそうだ。年齢は五十一歳。百九十センチほどの体格で見た目からも筋肉が付いているのが分かる。

 まだまだ現役を思わせる人だ。

 ユキさんとは夫婦で、先ほどのやりとりからもユキさんには頭が上がらない人みたいだ。



「私はアキだよ! 二人が呼んでたからもう知ってるかもしれないけど、よろしくね! ヒロ!!」

「うん、よろしくねアキちゃん」


「――ア・キ」

「ちゃんとかいらないし、呼び捨てでいいから!」

「わかったよ、アキ。これからよろしく」


 最後にアキだ。年齢は八歳。百三十センチほどのショートカットで将来有望な顔をしている。

 胸はまだ年相応でペッタンコだがとても笑顔が似合う元気な女の子だ。

 元の年齢が二十歳を超えていた為か、つい、ちゃん付けで呼んでしまうと頬を膨らませて抗議をしてきた。

 気を失う俺を助けてくれた子で名前の件もある。


(相当な恩ができてしまったな)


 自己紹介が終わると今後どうするかの話となった。

 アキはこの後何か楽しみなことでもあるのか“そわそわ”し、瞳は夫婦二人を伺っていて、何かを我慢しているようだ。

 話も終盤になり今後寝泊りするばしょの話に差し掛かると、アキが待ってましたとばかりに口を開く。


「一緒に暮らす! いいでしょ? 私が見つけたんだし、今から私の弟!!」


 突然の弟宣言!?

 見ると、身長も私の方が大きいし私がお姉さん。いいでしょ? いいでしょ? と、執拗におねだりしている。


 ヒロはまだ知らないが、三人は親子ではない。アキの実の母親は一年程前に病で亡くなっていた。

 普段は気丈に元気に振舞っているけども八歳の子供だ。村にいる親子を見て寂しげな表情をすることもある。

 記憶もない。帰る場所もない。一人になるヒロに自分を投影したのだろう。


 心情を察する夫婦は何かを相談すると、目覚めたのが今日だったのと経過をみるために十日間はランドの家で過ごし、問題がなければその後はユキと一緒に暮らすことを提案した。

 夫婦とアキは毎日のように食事をしており、近くに住んでいるので大丈夫だろうとの判断もあったし、打算もあった。

 ヒロを良いように使うことにはなるが、二人はまだ幼く間違いが起こる年齢ではないし、アキ自身が望んだのなら叶えてやりたい。

 それが少しでも溜まった不安さびしさを癒すことになれば、と。

 ただ、この十日間でヒロを監視する話もしていたがそれはアキには伝えていない。


 アキも何もできないことが分かっていたので素直に頷いた。


「いーい、ヒロ。身長は私の方が高いし私がお姉さんだからね? 困ったことがあったら何でも相談するんだよ!?」


 すでにアキの心では確定事項なのか満面の笑顔で伝えてる姿がそこにはあった。

 一人蚊帳の外で困るヒロは立ち尽くしていたが。


「あーそれとなヒロ、他人行儀な言葉はやめろ。緊張しているのかもしれねえがこれからはもっと子供らしくな。俺達二人には子供はいねえし、アキは俺たちの娘みたいなもんだ。アキと一緒に暮らすとなりゃ、お前さんも俺達の息子だ」


 席を立ち、俺の隣に立つと頭に手を置いた。


「いいな、ユキ?」

「はい。あなた」

 

 歯を剥き出しに今にも夢に出そうな微笑みを浮かべるランド。

 それを微笑みながら迎え入れるユキ。

 夫婦は互いに頷いていた。

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