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名もなき村の領地開発  作者: スズヨシ
第二章 古い考えと新しい風
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第二章 03話

今回もお待たせしてしまいすみません。

しばらくは、このペースになってしまいそうです。

 一人、また一人と去って行く――。

 威圧に負け、誰も彼もが言葉を発せぬ眼前の光景は、俺の感情を逆撫でる。まるで自身を省みるように……。

 その打ち付けられた感情は、極端に視野を狭くしていた。


 俺はランドさんに退席する旨を告げ、強引にカシムを連れ出していた。行き先は被害を受けた水田、村から北に三十分ほど歩いた場所だ。

 何故連れ出そうとしたかは定かではない。強いて言えば、カシムに向けた強い想いが思考を遮断し、体を動かしていたからだろうか。

 カシムの腕を掴むと最初は抵抗したが、ランドさんから許可をもらったと告げると渋々付いて来た。もちろん、ランドさんには許可などもらってはいないので、話が漏れれば愛の鞭という名の叱責は必須だろう。

 そんな単純なことすらこの時点では気付けないほど、頭も心も沸騰していた。

 いつもとは違う態度にカシムは戸惑っていたようだが、感情がコントロールできないので、勘弁して欲しい。

 それでもあの場を去り歩いていれば、景観が変わったからなのか、青空に当てられたからか、沸騰していた心も徐々に落ち着きを取り戻していた。心が落ち着けば思考を取り戻す。思考が戻れば、現実を見据えるための思考へと切り替わってゆく――。


(強引に連れ出したことにはなるが、せっかくのこの機会だ、カシムの本音を聞いてみたい)


 現在まで腹を割って話したことがないので本音を話してくれるかは別としても、未来を憂いている素振りが見られれば協力関係にもなりたい。とは聞こえがいいが、俺なんかより顔も広く人脈もあるんだ、手足として動いてもらえると助かる。

 年齢が離れていると与し易いと良からぬことを考える輩もいる、それならよく知りもしない奴よりも、年齢も近く実直なカシムがいい。個人的な八つ当たり先の感じも否めないが、若ければ将来性にも期待できるしな! ……ということにしておこう。

 まだ心の隅では絶賛沸騰中なのか、思考が支離滅裂なっているようだ。




「なぁ、カシム……お前さ――」

「お前は年上に対する礼儀を知らんのか?! 人にものを尋ねるならカシムさんと呼べ!」


 良かった。いつもの調子に戻ったようだ。

 俺の気持ちが落ち着くまでに道半ば、十五分ほどの時間を要した。

 その間、カシムは直ぐ後ろを付いて来ていたのだが、ずっと戸惑いを隠せずにいたので、場が和めばと呼んでみたんだが意を汲んでくれたのだろう、いつもと変わらぬ返しをくれた。


「いいじゃないか。カシムもしょっちゅう突っ掛かって来るだろう?」

「――分かった。もういい!! ……それで、なんだ?」


 カシムは一呼吸置くと、無駄だと諦めたみたいだ。


「お前さぁ、この村ってこのまま……違うな」


 俺は村の将来について聞くのはまだ早いと思い直し、集会の結果を尋ねることにした。


「あの集会、さっきのままで終わっていいと思うか?」

「さっきのままとは?」

「俺は今日始めて出席したけど、最近はあんな感じなんじゃないのか? 何も決まらない、無意味な時間だけが過ぎていく。これじゃあ、いつか不満は爆発するぞ?」

「……」


 周辺に何もない小さい村だ。

 せめて娯楽環境が整っていれば違うのかもしれないが、娯楽らしい娯楽はない。みんな生活が全てになっている。

 同じ様な災害、いや災害だけじゃない。何かの拍子で箍が外れれば、いつか感情が爆発してしまうのではないか? その火種が村中に燻っているんのではないか? そう思えてならない。

 俺があそこまで感情をあらわにすることは滅多にない。それがアキのあの姿を見たからと言っても、ここまで直接的な行動を起こしたことに驚いた。急な環境の変化や失敗がストレスを溜めているのは事実だろうが、でもその発散方法がなかったことに気付かされたんだ。

 生きるだけではストレスは溜まる一方だろうし、いくらこの世界で生まれたからといっても、楽しみが少なければ発散できるとは思えない。

 戦国時代の一揆の原因は色々あるが、不満が一挙に爆発したから起きている。不満の捌け口、それがなければ何時不測の事態が起ころうとおかしくはない。

 今はランドさんが上手く調整しているのだろうが、不満が募ったところで誰かが煽れば――最悪の結果もありうる。

 カシムの無言はこのことを解っているが故か? となれば……。

 

「カシム、気付いてるんじゃないのか? このまま行けば近い将来行き詰るってこと。村が分裂するかもしれないってことを」

「……ああ、そうだろうな。親父達も言ってた。ランドさんは守るものが多くなって『冒険者時代と同じような無茶は出来なくなっている』ってな。だけど、親父やランドさんにどうにもできないことなのに、俺に何が出来る? 俺にできることがあるなら……」


 言葉は最後まで続かなかった。

 後ろを付いて来る足音が途絶えたのを感じ振り返れば、カシムは足を止め、瞳だけをこちらに向けていた。だが、俺を見てはいない、目の前のヒロいう存在は見えてはいないのだろう。心ここにあらずという感じだ。

 カシムの両親は、元はランドさんと行動を共にしていた冒険者仲間だ。もしかしたら、俺の知らない内情も聞いていたのかもしれない。……表情には深刻さがありありと浮かんでいる。

 この深刻さを見ると、カシムへの対処は考え直した方がいいのかもしれない、かな? カシムにも抱えているものがある、なら。


(協力させてこき使う? それで上手くいけば一石二鳥になるか?)


 光明が見えればカシムも気が楽になるだろうし、俺の気も晴れる。

 カシムの俺に向ける態度には、心に何か抱えているからこその憂さ晴らしも含まれてたんじゃないか? とも思えてきた。俺がそうしようとしてるからだが……邪推かなぁ?

 でも、こちらに引きずり込むことには決めた! 渋るなら、俺が転生してきた者だと伝えてもいいのではないか? 信じるかは別として……。

 俺は考えをまとめ、口を開く。


「――変えたいか? 本心からそう思うのなら、俺に手を貸さないか?」

「……お前に?」

「ああ」

「田畑も耕せない、草原での狩もろくに上手くいかない。これは……いや、今はお前に思うことがあって言ってるんじゃない。事実だ! そんなお前に何ができるというんだ?!」

「――多分、お前が想像もできない程の知識を持っている。確かに身体を使う作業は苦手だ、経験がなかったんだからな。それでも出来る事はある!」


 俺の言葉に、カシムは一層戸惑いの表情を浮かべている。

 営業トークではないが、ここだと直感で感じ、続けて畳み掛ける。


「だけど、今日来てた年寄り連中はもう無理だ。ランドさんの言葉を信じてなかった訳じゃないが、身にしみた(自身の不甲斐なさもだけど)。お前は子供とはいえ、男子連中の纏め役だ。お前が協力してくれれば、反応を見せる子もいるはずだ! そう、親の言いなりじゃない、自身で考え、未来への一歩を踏み出してくれることが重要なんだ!! シンリンにも同じ相談をしてみるつもりでいる。……それに、ランドさんやユキさん、アキは協力してくれる(と思う)。ダグザさんとリリーは、まぁ、別の意味でもう協力してくれている?(のかな?)」


 前半は勢い良く伝えることができのだが、後半は不確定要素もあり尻つぼみになってしまった。でも煽りも交えたが、これは事実だ。

 この世界には魔法や種族特性など、まだまだ知らないことも多いが、この世界では発達していない、遥か先を行く科学の一面を知っている。

 専門で勉強はしてないし不明なところも多々あるが、それでも協力してくれる人がいれば、この知識は十二分に役に立つはずだ。


「なぜ? ……なぜ、お前に協力している? 俺から見れば、お前はただ足を引っ張っているだけじゃないか。――何か、俺の知らないことがあるのか?」

「今はまだ詳しい事は話せないが、協力してくれれば……いつか、話すよ」

「……考えさせてくれ」

「了解。返事はいつでもいいからな。――あっ、でも、あまり遅いと困るかもしれないなぁ~」


 カシムは積み重なる情報に戸惑いから困惑へと変化したのか、瞼を閉じ情報を精査しているかのようだ。

 この場で転生してきたことを伝えるのは止めにした、混乱に拍車を掛ける結果になりそうだからだ。

 俺は邪魔をしないようこの体勢を維持し、伝えた内容を思い返すと――背中に冷や汗をかいていた。


 あの場から直ぐに出て来た俺は、ランドさん、ユキさん、アキには何も話していないのだ。

 カシムを説得するのに、三人は協力してくれるものと希望的観測を過分に含めて説明していた。もし賛同してもらえない場合は、カシムが俺に協力することはまずないだろう。

 それ以前に、計画自体がご破算になるんだけどね。

 

(改めて思い返すと、これって村を二分することを結果的に煽ることにならないか? ……大丈夫か、これ?)


 カシムとの会話で熱くなっていたが、冷静になれば、突き進む先に待つ未来がそこには見えていた。賽は投げられた……いや、自ら投げ込んだのだから。

 

(協力してくれるよね? みんな、助けてくれるよね?)


 カシムに気付かれないよう村の方角を向くと、ここには居ない人達に向け、向こう見ずな子供がしでかした後に助けを求めるような願望を飛ばしていた。


 数分もすれば整理が付いたのかカシムは瞼を開けると、「待たせたな」と一言述べ、目的地に向けて歩き出した。

 カシムが俺の知らない情報を持っているのは理解できた。これだけでも十分な収穫だが、高まった感情をぶつけられなかったのは少し残念にも感じている。


(今までが今までだ。少しはやり返しても罰は当たらないだろう)


 ……ん~、ちょっと黒いかな?

 どうにもモヤモヤする気持ちを持て余し、先を進むカシムを追いかけた。

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