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名もなき村の領地開発  作者: スズヨシ
第一章 やっぱり準備は大事(1年目8歳)
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閑話 01

お待たせしました。

今回はランド視点での話となります。

 俺はランド、この名すらない村の村長だ。

 元は、それなりに知名度のある傭兵隊の隊長をしていた。

 知名度が上がれば依頼を受けることも増え、様々な街に寄ることもある。王都にも。

 時には、大小に問わず地位のある者達との人脈を築くことも必要だ。

 人脈を築くには、それに伴う駆け引き(ちしき)が必要だということも経験している。

 だから、学べるだけ学んだ。仕入れられるだけ、情報も仕入れた。

 俺はその知識を持っていると自負していた。いや、していたつもりだった――んだが。


 ……ヒロとの話は、今思い出しても大変だった。

 いきなり『他の世界から来た』なんて言われても、そんなこと微塵も考えてなかったんだからな。

 本音を言えば今でも信じられんねえ。他の世界ってなんだ?想像もつかん!

 まぁ、ヒロも吐き出したことで、心に渦巻いていたものが晴れたんだ。これからは肩肘張らずに過ごせるんじゃねえか?


 目の前にある三枚の経木に手を伸ばし、思い返していた。


 この経木は一時間前にヒロが持ってきたものだ。

 あの話の翌日、ヒロと相談して滑車とリヤカー? と一輪車? とかいうやつを製作することにした。

 製作といっても滑車はまだしも、リヤカー? と一輪車? とかいうやつは、名前からじゃ俺には想像もつかねえから用意させた。

 道具は他にもあったが、あとは本人ヒロがやれる状況となった時期にやらせることにもした。

 俺は間違いなくヒロよりも早く死ぬことになるからだ。

 ヒロには伝えてねえが、直ぐには無理でも、いつかこの村を大切に感じ、骨を埋める決心をしてくれれば、次の長に任じたい。

 それには、村の人々との付き合いだけでなく、認められる結果も必要になる。

 あの知識があれば、守るだけだった俺なんかよりもこの村を住みやすくしてくれるはずだ。

 だが、今は――。


「ダグザへの依頼と村民みんなへの説明なんだよなぁ」


 ダグザはまだいい。村民への説明が一番難しいんだ。滑車を付けるなんてどう説明すればいいやら。

 壊れてもいねえ屋根や柱を取り壊し付け替えなきゃいけねえし、作業には人手もいる。俺だけじゃできねえ。

 変化を良しとしない者も多い。


「良いも悪いも、閉鎖的なんだよなぁ」


 これも自分が行ってきた結果だと、頭を掻き毟りながら考える。

 柱が古くなって危険だとかそこらから切り出すか。俺の親しい者だけ集めてとりあえず一箇所だけでも付けて様子を見るか……。

 何か良い手がないかと三枚の経木を丸めて持つと、目的の場所に向かった。





 カンッ、カンッ、カンッ


 建物から音が漏れてくる。

 今日は鉄物の何かを作っているのだろう。


「ダグザ、いるか?」


 扉を開けて入ると、音が大きく響き渡る。

 建物は高さが五メートル程もあり、用途により使い分けている二つの炉と今も作業中のドワーフ(ダグザ)がいる。

 炉の前は非常に高温らしく、ダグザは上着を脱ぎ、全身から汗が噴出していた。


 カァンッ、カァンッ、カァンッ――――ゴト。


「なぁんだあ? ――おランドか。今日は何の用だ?」

「作業中に悪りぃな」


 ダグザは入ってきた人影が俺だと気付くと、作業を止め、こちらに歩いてくる。


「今日はお前さんに依頼したい物があって来た。――これを見てくれ」


 まずは、滑車の書かれた経木を渡す。


「ふむ。――昔どこかで同じ様なのを見たことがあるのう。だがこれは、わしが知っておるのとは少し違うようだ。ロープの片側ではなく両側に桶を付ける? ……これ、お主が考えたのか?」

「そ――」


 俺は「そうだ」と伝えようとしたが、咄嗟にダグザは口が堅いことを思い出す。

 後で口止めをすれば誰かに話すこともねえだろう。

 丁度、俺だけでは荷が勝ちそうな気配を感じていたので、ヒロには悪いが巻き込んでしまおうと考えを改めた。

 ダグザが味方になりゃ今後ヒロも動きやすくなるだろうし、記憶のことをぼかせばそう悪いようにはならねえだろう、と。


「――いや、これはヒロが考えた物だ」

「ヒロ? ああ、あの坊主か? アキが見つけてお主の家に住まわせておる」

「そうだ。だが今は俺の家にはいねえ。少し前からアキと暮らしてる」

「アキと? 大丈夫なのか? ……お主が問題ないと判断したのだ、変な奴ではなかろうが」

「ああ、大丈夫だ。俺だけじゃなくユキも同じ判断をした」

「うむ、それならいいが……」


 アキのことを心配していたが、俺とユキが同じ判断したと聞くと、納得することにしたようだ。

 ダグザは意識を切り替えもう一度経木を見ると、作業中の物が終われば数日もしない内に出来上がると言った。

 それならばと、続けてリヤカーと一輪車が書かれている経木も渡す。


「う~む、これは馬車の荷台に似ているが、この村には馬はいるまいて。それに、少し小さいのう? 牛にでも引かせるのか? 引かせるのならもっと大きいのがよいのではないのか? 何に使うのだ?」

「これはな、リヤカーと言って人が引いて歩くものだ。こう後ろに荷物を積んでな」


 ジェスチャー交じりでダグザに説明する。

 今までは人一人が一つ籠を背負って狩に出るのを、このリヤカーなら一人で籠を何個も運んで行ける。

 農作業には重い道具を乗せて移動も出来るし、帰りに収穫物を載せて戻ってもこれる。

 それに、いちいち馬や牛などの家畜に引かせる必要がねえのがいい。訓練してねえんだ。一緒に連れて行くのに一番の苦労は、大人しくさせておくことだからな。

 まぁ、欠点としては、ぬかるんだ場所には向かねえことだが、些細な事だろう。雨の日には滅多に狩には行かねえしな。

 それに、数が揃えば付き添う人数を減らせるんだ。減らした分は別に割くこともできる。それだけでも結果として大きい。

 俺がリヤカーの事を説明していると、次の経木に興味が湧いたのか、ダグザの視線が動いた。


「――こいつは、さらに小さいな。車輪が一つしか付いてないが同じような物なのか?」

「そうだな、こいつは一輪車っていうんだ。こう取っ手を少し持ち上げるだけで動かすことができる。疲れたらストッパーがあるから下ろせばいいだけだ。まぁ、荷物を載せると少し挙動が乱れやすいらしいが」

「らしい、じゃと? これもお主ではなく坊主が考えたのか?」

「ああ、そうだ。聞いた限りじゃ、リヤカーと違って細い道や狭い所でも使える。鉱石の採掘には打ってつけの道具になるぞ! あんな重い物をいちいち持ち歩かなくて済むのだからな」


 ヒロは移動の時、重心が左右に傾きやすいと言っていた。

 物を載せる時に端に重い物を載せると倒しやすいと。

 二輪や四輪じゃねえから、何やかんやと訳の分からねえことも色々話してたが、鉱石の採掘に使えるのでは? と言われたのは覚えてる。

 採掘した鉱石は、坑道の中では一輪車を使い、採掘場から村までの運搬にはリヤカーを使えばいいんだから、とも。

 細かいことは忘れたんで、ダグザには適当に説明をしといた。分からなきゃヒロに聞けと最後は投げて。


「ふむ、わしもあの坊主には興味があったのでな、ちょうどよい。今度ゆっくりと聞いてみることにするかのう?」


 何かを思い起こすように言っていた。


 話が終わると、この三点を頼むと伝え、別れた。 

 後日、ヒロとダグザは何度か話をしていたみたいだ。

 そこにリリーも交えていたこともあったんで、ヒロを使って何かするつもりらしい。

 最近は鍛冶の手伝いもさせてるみてえだし、鍛えるつもりでもあるんだろうか?




 三日もすれば滑車とそれを取り付ける柱と屋根も完成した。

 村民には、まずこの井戸を付け替えることで様子を見て、要望があれば全ての井戸に設置することを伝えた。

 そして、今設置している柱と屋根との交換作業には、昔の傭兵仲間に村の者数人、アキやシンリンにカシム、ヒロにも手伝わせることにした。

 理解がある者だけで行うことで、反対者に反論させないためだ。

 特にヒロには、この作業を足掛かりに村の人々と馴染んでくれればとの願いもある。

 その為に子供がき共の纏め役になっている、シンリンとカシムを手伝いに入れた。

 まぁ、カシムは何か思うこともあるみてえだが、それは個人で解決してもらうしかねえがな。


 作業当日は何事もなく終わった。

 まぁ、ヒロとカシムの二人、というかカシムの方がギクシャクしていたが、アキが間に入ってたし大丈夫だろう。

 途中からはダグザとリリーも手伝いに来ていた。滅多にこんな作業に顔を出さないダグザが来た時は正直驚いた。

 ヒロの事がよっぽど気に入ったんだろうか?

 ダグザも鍛冶職人として同じ様な道具ばかり作ってて愚痴を吐くこともあったし、職人として未知の技術には目が無い。ダグザの無茶に付き合って、記憶のことがばれなきゃいいんだが……。

 後でヒロに注意するよう促すことにしよう。

 賑やかに楽しく作業をしていた光景みんなを思い返していると、俺の口元は自然と緩んでいた。




 その日の夜、一つ、たった一つだが歯車が増えたことで、村が変化していく夢を見た。

 今だけを見て未来さきを見なかった者が、自ら一歩を歩き出す夢だ。

 守るだけに囚われ遠い昔に忘れてしまった、年甲斐もなく心躍る、そんな夢を――。


 朝、目が覚めれば高揚感に溢れていた。

 俺にも渦巻いていたものがあったんだろうか?

 たった一つだが、古いものに別れを告げる行動が何かを吹き飛ばしてくれた、そんな気がしたんだ。


 外に出てみれば、昨日よりも明るく見える。

 朝日が照らす、この道が――。

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