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名もなき村の領地開発  作者: スズヨシ
第一章 やっぱり準備は大事(1年目8歳)
12/25

第一章 06話

 今日は草原へ――。


「ごめん……アキ」

「ううん、平気だよ……」


 眉を下げ、心配顔のアキが桶に水を入れて持ってきた。

 その後からは、ユキさんも様子を見に来てくれたようだ。


「タオル、変えちゃうね」


 アキがぬるいタオルを絞りたてのタオルに変えてくれた。


(おでこが冷たくて気持ちがいい)


 俺は、昨日久々に体を動かしたことで体調を崩したようだ。

 気付いてはいないが、精神的にも疲れが残っていたのかもしれない。

 体温計がないので詳しい体温は分からないが、体感から三十八度は超えているのではないだろうか。

 平時の子供の体温が高いといっても、これはキツイ……。本当にキツイ。


 この状態では体を動かさない方がいいとのことで、今日の予定はキャンセルとなった。


「安静にしていれば大丈夫だからね。アキ、あっち(リビング)に行ってましょう」

「……うん」


 ユキさんが促すと、アキの背中を押すように部屋を出て行く。

 部屋を出る際にアキはこちらを振り返り俺を見るが、眉を下げ口を結んでいた。

 本音は残っていたいのであろう。

 十秒ほど見ていると、ユキさんに見られているのに気付いたのか歩みを始める。

 そんな光景をおぼろげに見ながら、睡魔に抗えず目を閉じた。




 ――カサッ。

 ……紙の、音?

 耳に入る音が気になると、意識が徐々に覚醒していく。

 

「あらあら、起こしてしまったかしら?」


 声がした方を見ると、ユキさんは窓を開けている途中だった。何かに驚いたのか微笑みが僅かに強張っていた。

 窓から流れ込むそよ風は、足元の経木をゆらゆら揺らしている。

 見回すとアキは近くにはいないようだ。


「アキは今お手伝いに行かせてるわよ。三十分位前まではいたんだけどね」


 そのまま俺の状態を観察していたユキさんが教えてくれた。

 アキはさっきまでタオルを取り替えてくれていたらしい。離れそうにもなかったので、ユキさんが無理やり手伝いに行かせたそうだ。

 窓を開け終わると、ユキさんは俺に近づき額に手を当てると「まだ下がらないわね?」と眉をひそめた。

 その後は、用意してもらったお粥を食すともう一度横になる。

 ユキさんは食器を下げて戻ると、何か考えていたのか、いつもの微笑みを消していた。


「こんな時に言うのも酷だけど、ヒロには知っておいてほしいから伝えておくわね」


 一緒に暮らすことにもなるんだからと目の前に座る。


「アキはね、一年程前にお母様を病で亡くしてからはいつもこうなのよ。私や夫、親しい友人が軽い熱を出しただけでもすごく心配するの。それも過剰なくらい。多分お母様のことと重ねてしまうのね。食事が満足に取れなかったのもあるけれど……高熱が原因で寝たまま亡くなっているから……」


 俺は話を聞くと、瞼を閉じた。

 最初に心配されたのは寝たきりで起きなかった時だ。看病しているうちに母親の記憶が蘇り、それが目が覚めた時の反応に繋がったのだろう。

 そして、今日は過剰に心配をしてくれた。でもそれは一週間とはいえ、毎日顔を合わし親しく付き合うようになったからだ。

 病=死

 一年程前の体験が、自分アキと親しい人との別れを生むのではないかと、過度に恐れを抱いてるのだろう。

 幼少のころの出来事は心のトラウマになる。それに、まだ一年程前の出来事だ。

 いつか克服できるのだろうか……。


 ユキさんは最後に「ごめんね。ゆっくり休んでね」と部屋を後にした。




 二日も静かに寝ていると熱も下がった。

 お昼を食べると、アキと約束していた草原へ向かうことにする。

 この世界に来て今日で九日目。少しは慣れてきているのだろうか?


 村から北東に三十分程歩くと、目的の場所に到着する。

 柵の高さは二メートルほど、周囲を囲んでいるがかなり広そうだ。


(柵か。獣対策? それとも別の要因があるのか?)


 気になることは聞いてみることにしよう。 

 すると、アキは直ぐに教えてくれた。


 柵は害獣対策として建ててあり、同じ規模の土地が複数個所に存在していた。

 別けている理由は、一つが獣に襲われても別の土地が無事なら食料は収穫できるからだ。

 一箇所だけでは、そこが襲われると食料が収穫できなくなる。

 昔の住民ひとが被害を受け食料が収穫できずに苦しんだことで、別けることになった。


 歩みを止めずに聞いていると、目の前に入り口が見えてきた。「こっちだよ」とアキは手を伸ばし、開閉式の扉を開けた。

 目の前には広大な水田。水田は区画で分かれているが、奥行き数百メールはありそうだ。

 俺は一歩足を踏み入れ、ふと横を見ると、十メートル先には……三日目に会った三人娘がいた。

 ヒロには最悪な状況。三人は丁度この場所で休憩をとっていたのだ。

 即座に顔を隠すが時すでに遅し、狼人の女の子はすばやく尻尾を振ると、興味深い対象ヒ ロを見つけたとロックオンしていた。

 狼人の女の子はニヒルな笑みを浮かべると、身長の低いヒロに合わせるように顔を突き出し、ゆっくりと歩み出す。


「おや~、アキ~、この方はどなたですか~?」


 見ると、アキは不思議そうに首を傾げている。


「――? シン姉にも言ったでしょ? 私が拾ったヒロだよ?」


 ……あれ? アキ、“拾った””言った”って聞こえたんだけど、俺の事どう説明してるの?

 俺はシンリンの態度よりもアキの言葉が気になった。


「ああ、そうですか。あなたが噂の……私は【シンリン】、十歳です。始めまして、ではないですけど、よろしくですよ~」

「んもう、シン姉さんだめよ。ごめんなさい。私は【アイシャ】。八歳よ。よろしくねヒロさん」


 態度を見かねたアイシャがフォローをする。

 シンリンの態度は……いや、いいんだけど。前は俺がエルフっ子の耳を見続けたのが悪いんだし。


 まずはシンリンだ。赤髪ポニーテールの狼人で十歳。身長は百四十センチほど。

 犬耳に尻尾……興味の対象者があれなので、微妙だ……。でも気は強そうだ。

 次にアイシャ。黒髪で長さは短い。熊人で八歳、同い年だ。身長は百二十センチ後半位で、落ち着いているのか、大人しめの女の子だ。

 耳は熊耳なので丸っこい。これはこれでいいもんだ。この子には、シンリンの事で謝られっぱなしだ。


 挨拶をされた二人の事を考えていると、シンリンはアキとアイシャに嗜められ、打って変わって挙動を乱していた。


(あれ? さっきまでの威勢は?)


 どういう人なのか判断がつかなくなってきた。


「シンリンが迷惑掛けて申し訳ない。ボクは、【ルナ】。見ての通りエルフで九歳だ。君はボクの耳が気になるみたいだね。よろく、ヒロ君」


 最後にルナ。エルフで紫髪の髪は少し長め。百三十センチ中ほどで九歳。ボクっ子というよりも男装の美人という感じだ。しかし、表情の変化が少ない人だな。笑えば可愛いのに。

 それに、耳の事、ばれていたみたいです。


「よ、よろしくお願いします……ヒロです」


 今日も変わらず無表情で何を考えているかわからなかったが、とても気まずかった。


 一通り挨拶が終わったが、今日のシンリンの態度は、俺をからかっていただけだった。

 ルナからは俺が見ていたのは耳だろうとの話は聞いており、ただ前回の反応が面白かったからもう一度と実行したのだ。

 それを知ったアキや見かねたアイシャには、追加でお灸をすえられていたのだが……。


 三人は今手伝いの最中なので、すぐに別れることとになる。「ヒロッちには、今度は普通に話しかけますよ~」と、シンリン達は雑草取りに戻って行った。


「いつもこうなの?」

「うーん。からかうのが好き、かな? でも、しっかりもしていてみんなを見てくれるお姉さんだよ!」


(しっかり? いやぁ、無理でしょう?)


 先ほどまでの姿を見ていると、どうしても思えなかった。


 三人が離れていくと、アキに稲作の手順を聞きながら見物していたのだが、知っている通りの手順で行われていたので安心する。

 聞くと、この国にも四季があるので日本とそう変わらなかった。暖かくなった頃に田打ちを始め、暑さが落ち着着始めた頃に稲を刈る。

 原則は一期作だが、二毛作で小麦を生産する年もあるとの話だった。

 

 必要な情報を知ることができたので、邪魔をしないように帰ることにした。

 アキは三人娘に挨拶に行ったので、俺は先に外に出た。



 

 村に戻るとアキとは一度別れた。

 頼んでいた道具を受け取りにリリーのところへ足早に歩いて行ったからだ。


 ――しばらくすると夕食となる。

 食事が終わると、ランドさんから「明日が十日目なので昼食後に話がしたい」との話があった。

 ただその雰囲気は普段よりも険しく感じ、何かを心に無理矢理押し込んでいるようでもあった。


 明日は十日目。色々あって時間は早く感じた。

 体調については熱が出て二日程寝込んでしまったが、暮らしている最中に問題は出ていない。

 アキはというと、期待に目を輝かせている。

 この状況の中、明日の昼を待ちながらゆっくりと過ごすことにした。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次話で第一章は完結となります。

今日は時間が取れないので難しいかもしれませんが、

早いうちに投稿させていただきます。

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