第一章 05.3話
今回は05.3話です。時間が足りず書ききれませんでした。すみません。
次で05話を終了させます。
帰り道、四十メートル先を三人の女の子が歩いていた。
一人は赤髪、ポニーテールの狼人。
一人は黒髪、ショートカットの熊人。
一人は紫髪、セミロングのエルフだ。
年齢は同じか少し年上だろうか?
狼人の子が二人をリードしていたので、この中では一番年上なのかもしれない。
(この子達なのかな? それにエルフもいる。うん、エルフ耳もいいね)
アキからは昨日、狼人、熊人、エルフの友達もいると聞いたばかりだ。
そうとは限らないのだが、話と同じ種族の獣人であったのと人族よりも長いエルフっ子の耳が気になり、不躾にもジロジロ見続けてしまった。
視線に気づいたのか、二人をリードしていた十歳位の狼人の女の子が向きを変え、五メートル程の距離まで近づいて来る。
「……なんですか? 私達に用ですか? それに、見たことない子ですね~」
一度、頭から足の先まで舐めるように確認し目を細めると、不審者に対するように威圧的に接してきた。
俺と狼人との身長差は二十センチ程の差があった。
整った顔立ちの女の子だ。睨まれるとそれが十歳位の女の子だとわかっていても、たじろぐように足を一歩後退させてしまった。
後ろにいる二人の女の子はというと、視線をこちらに向けて状況を観察しているようだ。
「あっ、ごめんなさい。用というわけではないのですが……」
言葉とは裏腹に三人というかエルフっ子の耳を見続けていたので次第に尻つぼみになる。
心臓の鼓動も早くなり、額には冷や汗も出てきた。
「シンリン、やめないか。この子はどう見ても年下だ。あまり怖がらせてはいけないよ」
たじろぐ俺を哀と思ったのか、それとも面倒だと感じたのか、エルフの女の子が助けを出してくれた。
目に入った表情は先ほどから変わらぬ無表情だったので、本心は判断できなかったが。
「そうよ。喧嘩してはだめよ」
少し遅れて熊人の女の子が言う。
この状況に戸惑っていたのか、おどおどしていたのでこちらは本心だろう。
「あ~、わかりましたよ! それに、喧嘩は売ってないですってば! もういいです。あなたも人をそんなに見るもんじゃないですよ」
シンリンと呼ばれた女の子は、他の二人の女の子になだめられると、興がそれたように言いたいことだけ言うとそのまま行ってしまった。
すれ違う際には狼人の行動のお詫びでもあるのか、エルフの女の子は軽く会釈し、熊人の女の子は深く頭を下げ、そのまま追いかけて行った。
「怖かった……。可愛い女の子でも、身長差があると、威圧感があるよ……」
去っていく女の子達の姿が見えなくなると、うっすらと浮かぶ額の汗を拭う。
熊人とエルフの女の子のおかげで助かったが、鼓動が落ち着くと元年齢を思い出し、情けなさで項垂れた。
「アキには言えないよな」
直前の情けない姿を思い返すと、シンリンと呼ばれた女の子がアキの友達ではないことを祈るだけだった。
気持ちを振り払いきれずに家へ戻ると、鼻歌を歌いながらリビングと台所を行ったり来たりと、ユキさんが朝食の準備をしていた。
いつもと違う雰囲気に気が付いたのか、一呼吸置いて何処に行っていたのかを聞かれたので、散歩していたと伝える。
起きた時に俺の部屋を覗いたのか、外へ出ていたのは知っていた。
そう? といつも通りの微笑を返してくれたが、疑問系のニュアンスから何かあったのは察しているのであろう。
情けないことに笑い話にできない俺は、三人の女の子との経緯は伝えられなかった。
朝食の時間になるとランドさんとユキが同時に席に着いたのだが、それぞれ俺の顔を見るなり何かあったのかと首を傾げていた。
俺は何か付いてるのかと顔に手をやるが、自分では気づいていないだけで僅かに顔が曇っているだけだった。
他人ではまず気づけない変化に気づいたこの反応は、ヒロのことを常に気に掛けている証拠だろう。
食事が終わると、三人はそれぞれ用事があるのか外出したので、考えをまとめてしまおうと自室から紙とペンを持ってくる。
始めは自室でと考えていたが場所がなかったので、椅子もテーブルもあるリビングで作業ができることは僥倖だった。
「さ~て、書いていくか」
この村だけでなく自分のためにも助けになりそうなものは思い付いていた。
井戸も見てきたことだしと書き始めると、一週間ほど前までは書くことは仕事になっていたことを思いだした。
当時は業務報告書を書くのなんて苦痛だったが、久々だとまた違った気持ちで取り掛かれる。
最近は常識外の体験が多かったので、慣れしたんだ作業にヒロは自然と口の端が上がっていた。
どのように明記していくか迷ったが、まずは必要な情報だけ書いていくことにした。
◆
■道具■
●井戸の改善(滑車の設置)
目的:作業の軽減。
状態:設置済みの屋根は一本柱で強度も十分にないので補強が必要。
跳ね釣瓶の設置には屋根が低すぎる。
※ポンプ式にできないか。水道の完備が必要になるか?
●リヤカーの開発
目的:狩の収集品と道具運搬での負担軽減。
状態:狩は籠を背負い、道具は手に持っての移動。道路整備が出来ていない。雨天での使用は足を取られて難しい。重量の軽減?
※一輪車があれば用途で使い分けられるか? この世界に馬車があれば用意に開発可能。
■環境■
●水道設備
目的:日々の負担軽減。
状態;北方の川から水を引き入れる必要あり。引っ張りこめるのか? 村での水路の確立。木か石で水路を補強? 多数の住民の協力が必要。
●学校施設
目的:文字の読み書きや計算を学ばせる。
状態:村の住民は多くの人ができないらしい。場所はどうするのか? 集会場を使えればすぐにでもできるのか? 子供が農作業を手伝わなくていいように村の食料事情の改善が必要。
※学ぶ目的も必要になるかもしれない。
■娯楽■
釣具、将棋、オセロ、トランプ、チェス、おにぎりの中身、鰹節、海苔 etc……
◆
まぁ、個人的趣味で関係ないのもあるが、まずはこんなものだろう。娯楽は活きる力の源だしね。
しかし、その場その場でメモを取っていないため思い出すのに時間が掛かってしまった。
要点だけを書き入れた紙を持ち上げると一息ついた。
ここ数日の行動範囲が狭いためまだまだ増えていくだろうが、頭で考えてるよりも書き出だすと違ってみえる。
ここからもっと欠点も考えなければいけない。
えっ? こんなのが? と思うものも今後出てくるだろうが、あると大抵が楽になるし。
他にも下水やトロッコ etc、といったものも浮かんでいたが複雑すぎるので、必要なら必要な時に考えようと今回は割愛した。
書いている途中には、材料や時間、人員のこともあったが後に回した。
考えていたら何も進まないからだ。
「普通に考えれば、井戸の改善からだよな」
ヒロは記入した紙を読み返すと、率直に感じたことを口にした。
日々の生活に一番直結するのが水だ。労働の負担が少しでも軽くなればそれだけ別の物事にも手を回す余裕が生まれてくる。
水道設備や学校施設なんて規模が大きすぎる。素人が思いつきでやっても失敗するだろう。大きなことにはそれだけのリスクが生まれてくるのだ。
特に勉学なんてのは必要がなければ、学ぶ必要はないと誰もが思うはずだ。
“必要性”とう諭すのか。
山岳を越えれば街はある。豊かにするには交易という手段もある。交易には文字の読み書きや計算ができなくては成り立たない。特産品も必要になる。それに、お金……。
「……お金?」
――。
ヒロはこの一言で一瞬思考を停止すると、今までの会話や村の状況を思い返してみた。
お金の話は一度もでていない。ダグザさんに経木をお願いした時にもお金の話はなかった。村を歩いている時には農作物を交換していたのを目にした。
(お金は存在しているよな? ……他の街も同じような生活じゃないよな?)
嫌な考えが浮かび頭に手を添えると、目の前が真っ暗になっていった……。
落ち込みつつある気持ちを押えていると、ランドさんとユキさんが帰宅した。
記入した紙を伏せると部屋の前を通った二人にお帰りなさいの挨拶をした。
ユキさんはお昼の準備があるといい台所へと向かい、ランドさんは仕事部屋にでも向かったのか三十分ほどで戻ってきた。
(食事の時にでも鍛冶職人さんへの依頼の方法を聞こう。後、お金の事も……)
一度自室に紙を置きに立ち上がり、置いて戻ると、食事の時間まで脱力し続けていた。




