60.エピローグ
その夜。思わぬ事実が発覚した。
なんとジネッタの預金残高が急激に減っていたことに気づいたのだ。原因は、
「いやーロイヤルスイートって高いね。ふたりで一泊、20万YENだってさ」
「そんな高かったのかよ……」
コカトリス一匹分だ。ていうかひとり10万の部屋に連泊するとか、どんな経済観念してるんだ。ちゃんと値段見ろよ。
「それで……聞くのも何だけど、どのくらいあるんだ。ジネッタの口座」
「ネカフェを出たときには2千万YENくらいあったよ」
金に困らないと言うだけのことはある。でも同時に、億には届かいてなかったのか、とも思った。このままロイヤルスイートに泊まり続けると、衣食代は別だから三ヶ月ほどで底をつく計算だ。
「そんだけあれば、マンションの一室くらい買えそうだけど」
「ええー!?」
ジネッタが心底、嫌そうな顔で僕を見た。そんなに嫌か、居住地を定めるのが。
「うーんどうしよっかな。預金残高、何桁か増やせば事足りるんだけど」
「やめようぜ、そういうのは」
多分、そんな動きをする口座があったらどんなに偽装してもすぐバレる。第六席がジネッタの凄腕具合を知ってしまったし、奴が部下や警官隊を率いて追いかけてくるような事態は避けたい。
「えーじゃあ。キャッシュコーナーから、いくらでも引き出せる魔法のようなカードを作るとか」
「それもバレると命の危険があるから」
ていうかそんなカード作れるのかよ。マジでジネッタはんぱねーな。
「あ、分かった。ユウのスペックで紙幣を複製する!」
「なんで解決方法が犯罪ばっかりなんだよ……」
いや確かにできそうだけど。
『ご主人様。魔術具の羊を複製するより簡単なはずです。名づけて〈無限の紙幣〉……』
やめとけって。アンリミテッドにマネーをワークスしたら、経済を混乱させて僕は国家的に追われること請け合いだ。
しかし確かに僕ならばそのくらい簡単に出来てしまう。僕を企業や軍が追うのを諦めさせるのに、苦労するはずだ。今後も品行方正に過ごさないと、あっという間に危険視されてしまいそうである。
「うーん。まさかAIを作って売る、とか?」
「なんで“これは違うよね?”って顔しながら言うの」
ジネッタにとってはこだわりのAIだ。見ず知らずの奴に売るのは嫌か。いや、そういえば細部には魂が宿るとか言ってたな。もしジネッタのAIにも魂とかあるなら、身売りするようなものなのかもしれない。そう考えると、確かにいい気はしないか。僕に置き換えれば五十鈴を売れというようなものだ。
だがその後も出てくる案は犯罪か、そうでなければ犯罪まがいのものばかりだった。なぜそう社会の隙を突くようなことばかり思いつくのか。
「ジネッタが真面目に働く気がないのは分かった。じゃあ僕が稼ぐよ。今のペースで稼げば、マンションくらい買えそうだし」
「おや?」
ジネッタが目を丸くして僕を見る。今のまま難易度『C』の討伐依頼を受け続けられるか分からないけど、そうでなくても賃貸で良ければロイヤルスイートより経済的だ。保証人とかいないけど、ギルドマスターに頼めば部屋を借りるくらいはなんとかしてくれるだろう。
ニンマリと笑みを作り、ジネッタは言った。
「ふーん。つまりユウはわたしを養ってくれるってことかな?」
「そこまではちょっと……」
僕が難色を示すと、ものすごく味のある顔で妖精は眉間にしわを寄せる。え、なに。どういう感情表現?
『ご主人様。女性に同棲を切り出しておきながら、その反応はいかがなものかと思います』
え? そういうことになるの?
いやまあ確かに、一緒にマンションに移ろうという意味で言ったし。同棲、と言えなくはないけど。でもジネッタだよ? 今も同じ部屋に住んでるし、コイツ慣れてきたからか平気で見えるとこに下着吊るすようになってるよ?
『ジネッタ様の女子力の低さは置いておいて、ここはご主人様が寛大な心で甲斐性を見せるところかと思います』
酷い男女差別を見た。なんだそのオンナノコ理論は。ていうか寛大な心がなければ甲斐性とか出せる場面じゃないってことだよねそれ。
「……そんな顔するなよ。分かった、生活費は僕が全部出せるくらいに稼ごう。ジネッタは好きにネットしてていいよ」
「わたし、ユウについていくよ!」
打って変わってキラキラした瞳で僕を見上げるジネッタ。
「あ、でも僕の仕事をたまに手伝ってくれ。調査とかはジネッタ、得意だろ?」
「うんうん。分担だね! そういうのはお姉さんに任せときなさい!」
「ああ。アテにしてるよ」
よしよし。こうやってノセておけばジネッタも退屈しないで済むかな。
「……それでユウ。マンションを買うほど稼げそうなの? あと三ヶ月以内だよ?」
「なにがなんでもロイヤルスイートに泊まり続けるつもりか貴様」
節約とか倹約とか、コイツの頭の辞書には載っていないに違いない。
「大丈夫だジネッタ。僕はこの国で最強の魔術師を既に倒している」
「うー?」
「あっという間に『Rank A』にでもなって、ドラゴンとかバンバン倒して稼ぎまくるさ」
ドラゴンでも宮廷魔術師でも騎士でも核ミサイルでも、ぜんぶ蹴散らしてやる。どんなに高度に発達した異世界でも、
「無双してやるよ」
連載開始から2ヶ月弱。遂に『高度に発達した異世界では転生しても無双できないか』が完結と相成りました。ほとんどライブで書いていたので、どうなるか自分でも分からないという作者もドキドキしながらの処女作でしたが、楽しんでいただければ幸いです。実際に本作を書いて分かったことですが、次作はプロットを書こうと思いました。いやほんとに。展開を整理して盛り上がりを意識して、そのペース配分に気をつけるって大事だなあと実感しましたね。
本作を書き始めた時点での目標は「完結させる」ということでした。とにかく小説書くのが初めてだったので、どんなに拙くても後戻りせずに駆け抜けるのが肝要だと信じて突っ走ったわけです。コンセプトは「自分の好きなモノを片っ端からブチ込む」で、自分に何が書けるのかも分からないまま色々と書いてみた結果、こんな感じになったというのが正直なところです。好きなモノなら書き続けられるかなーとか思って定めた目標とコンセプトですが、割りと最初のハードルとしては適切だったのではないかと思ってます。
さて、次作は既に書き始めたものがあるので同時に投稿します。今度はもっとファンタジー寄りでヒロインとイチャイチャするのがメインという分かり易いものを書いてみました。ややこしいものを書く技量のなさを痛感したので、軽めのノリでお送りする予定です。でも分かり易い話が書くの簡単ってわけじゃないので、やっぱ作者要努力ですね。
それではここまでお読みいただき、ありがとうございました。




