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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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58.冒険者トヨダ・ユウ

 ジネッタと外でランチをとった後、僕は冒険者ギルドに行くことにした。仕事をするのだ。ジネッタはネットがしたいとか言いながらホテルに戻ってしまったが、調査とか厄介な依頼のときは手伝って貰いたいなあ。ジネッタも冒険者登録してくれないだろうか。いやしないか。ギルドマスターに顔を覚えられたから、偽名とか即バレるもんな。


 ジネッタがいないので変装魔術が解けるが、冒険者として戦闘を前提にするならスポーティーなジャージ姿は悪くない。この格好で街を歩くのにも慣れたから、要はTPOなのだろう。これが僕の戦闘服なのだ。


 冒険者の依頼はギルドに置いてある端末か、ウェブ上で確認もできる。だが依頼についての詳細な情報は受付に聞かなければならなかったりするので、やっぱりギルドに直接行くのがスマートだろう。なによりアスカリの顔が見れるのが嬉しいし。


 前世を含めて、僕がこれまで見てきた誰よりもアスカリは可愛い。もちろん僕の主観において。つまり好みなのだ。端正な顔立ちにシュッとした顎のライン。ややツリ目がちでまつげは長く。モデル並にスリムで足が長くて、更にネコミミと尻尾が完備されているというのだから、もうこれは僕を萌え殺す気に違いない。


 などとアスカリのことを考えながら冒険者ギルドのあるビルに入ったところで、パノス、ハマー、マーキュリーの三人に会った。


「お、『Rank Z(規格外)』のお出ましか」

「からかわないでくださいよ……」


 パノスが「悪い悪い、ついな」と笑った。ハマーも笑みを浮かべて言う。


「だけどユウ。ほんとにお前、有名になってるぜ。昨日はコカトリスを倒したって?」

「ええ、まあ……」


 コカトリスは巨大な雄鶏にトカゲのような脚と尻尾がついた魔物である。全長は三メートルほどもあり、口から石化の息を吐く強敵だ。息を浴びると文字通りの石に変わってしまうので、解呪できる神聖魔術師がいなければ危険度は跳ね上がる。その討伐難易度は『Rank C』だ。


 人里近くに出没するようになったコカトリスの討伐をしたのは、ハマーの言った通り昨日のこと。真っ赤な鶏冠(とさか)のある鶏の顔は愛嬌すらあるが、それが巨大になるだけであんなに怖いものになるとは思わなかった。ちなみに石化の息は魔法の毒なので、〈衛生体質〉(クレンリネス)〈浄化免疫〉(ピュリフィケイション)で僕の場合は自然治癒する。とはいえ一時的に身動きできなくなるのは怖いので、離れた位置からワイヤーで斬り殺した。先手必勝である。


 ちなみにハマーとはこの前、和解した。というかカラっとした性格のハマーなので、尾を引かなかったのだ。僕がアスカリと仲の良いところを見せれば、すぐにまた険悪になりそうなので、きっと繰り返すのだろうけど。


「でもよく知ってましたね。昨日のことですよ?」

「ばっかオメー。『Rank E』冒険者が難易度『C』の強敵をソロ撃破したなんて話は、あっという間に広まるんだよ」


 単独で『Rank C』に数えられるコカトリスは、すなわちワイバーンと同格である。パノスたちがパーティを組んで倒すような魔物をひとりで倒したのだから、そりゃ目立つか。


 多脚戦車を相手にナイスアシストしたり宮廷魔術師第六席に勝利をおさめるというのは、どうも冒険者にとっては分かりづらい指標だったらしい。快挙であるのは確実だけど、実際にどんな感じで戦ったのかは、あの場にいたメンバーしか知らない。又聞きしたような冒険者にとっては、眉唾ものだっただろう。しかし具体的にコカトリスを撃破した、というのは分かり易い強さのバロメーターだ。なんといっても冒険者ギルドが撃破を認めて報酬を出しているのだから、後は自分の実力と比較して「うわ、そいつはヤベえ」ってなるわけだ。


 ……ううん。でもなあ。


 思うところがあったので、僕は「コカトリス、強かったですよ」とお茶を濁しておくことにした。


 マーキュリーが「ほんとにそう思ってる?」と怪訝そうな瞳でこっちを見てくるが、ここで余計なことを言うわけにはいかない。相変わらずビキニな胸元に目が行きそうになるのを(こら)えながら、視線を逸らした。


 とはいえ僕の強さを実際に目にした三人だ。深く追求せずに「ユウなら倒せてもおかしくない」というところに落ち着いたらしい。あっさりと解放されて三人はバーに向かった。また昼間っから飲むんですか先輩方。仕事しなくて、大丈夫なんですかね。


 僕は依頼を受けるため、窓口に向かった。


     ◇


 受付にはアスカリがいた。この人はギャンブルさえ絡まなければ仕事熱心で真面目だ。


「あ、ユウくん。今日もお仕事する?」

「はい。なにか受けられそうな依頼はありますか」


 実は僕の受ける依頼は昨日からアスカリが決めている。コカトリスもそうだ。この受付嬢、()()()()()()()()()()()ので、『Rank E』の僕に『Rank C』の討伐依頼を振っているのである。


 事の起こりは一昨日のこと。冒険者として働くことを決め、最初の討伐依頼を果たした直後の事だった。


 僕は難易度『Rank E』のコボルド退治から始めていた。

 コボルドは狗頭に毛深い人間のような身体をもつ魔物だ。割りと可愛い犬種の頭部をもつ個体も多いが、群れをなして人間に危害を加えるため危険である。とはいえ知能も戦闘力もゴブリンと同程度。『Rank E(新米)』が相手にするのに丁度いい魔物というわけだ。

 ちなみに人類と魔物の境界は、顔が人間かどうかで見分けられる。だから犬の頭を持つコボルドやくしゃくしゃの顔をしたゴブリンは魔物だし、角や触角、長耳や獣耳があっても人間の顔があるならば人類なのだ。魚の顔をしたサハギンは魔物で、人間の上半身に下半身が魚の人魚族(マーメイド)半魚族(マーマン)が人類であるのも、この見分け方が有効である。また人類には共通語があるため会話が通じるかどうかで見分けるられないこともないが、人類共通語を憶える魔物もいるため絶対ではない。


 ゴブリンと同程度の強さしかないから、僕には余裕の仕事だった。都市の外に集落を作っていたコボルドの群れを処理した僕は、意気揚々とギルドに戻って報告をした。コボルド自体に金になる部位はないので、殺したという報告をして報酬を受け取って終わりだ。それが虚偽であったり、取り逃した数が多ければ後々になって問題になるのだが、逆に言えばそれだけのこと。ひっそりと僕の査定が下がるだけらしい。まあきっちり殺し尽くした自信はあるので、やましいことは何もないのだけど。

 ともかく僕は報酬である1万YENを受け取り、アスカリに聞いたのだ。「減給にしてしまったお詫びに、何かおごりましょうか」と。


 これが失敗だった。アスカリに「じゃあ週末にユメノシマに行こう」と言われたのだ。


 人工浮島ユメノシマ。空に浮かぶリゾート地で、高級ホテルや遊園地、スポーツ施設等がある観光地だ。もちろん、アスカリの大好きなカジノもある。

 僕はそのことを知らず、単にアスカリの休日にデートをする話だと早合点してしまった。いやデートと言えばデートなのだけど。行き先がカジノであると知ったのはOKしてからのことである。

 慌てて「そんなお金はない」と断ろうとした僕に、「ないなら稼げばいいじゃない。私、ユウくんが強いの知ってるよ」などと言って高ランクの討伐依頼を積み上げられてしまったというわけだ。


 冒険者登録をした日に、自分と同じランクの難易度の仕事をこなしながらひとつ上に挑戦するのがいい、とか言っていた張本人が言を(ひるがえ)してこれである。そんなにギャンブルが好きか。


 だけど「すごく強いのに受けてくれないなんて、私にお詫びするんじゃなかったの?」「私と一日デートするのがそんなに嫌?」「(僕の二の腕を抱きながら)お金、稼いでくれるよね?」などと迫られると僕も逆らえない。だって可愛いんだもん、アスカリ。


 地道にランクアップしていこうぜ、という当初の方針を投げ捨てての裏切りに、五十鈴が非難の声明を読み上げたりもしたが、僕はアスカリの言うがままに討伐を始めたのである。


 ……結果、かなり儲かった。昨日のコカトリス一匹で20万YENである。


 ユメノシマに行くためのフォーマルな服装と、カジノの資金にするにはまだ少し心もとないが、冒険者は稼げる仕事だと分かったのだ。命がけだし、当然のことかも知れないが。


「実はユウくんのために、討伐依頼を見繕っておいたのよ」


 アスカリが出してきたのは難易度『Rank C』の討伐依頼が十件ほど。『B』以上がないのは、流石に自重しているらしい。


『コカトリスほどの相手が危険にならないと分かったのは収穫でしたけど。本当に欲望に忠実な猫人族(ワーキャット)ですね』


 五十鈴も稼げるなら稼ぐという方針には納得済みだ。ただツーランクも上の討伐依頼ばかりこなしていても、僕の冒険者ランクはきっと上がらない。冒険者に求められるのは魔物退治の腕ばかりではないのだ。


 ……カジノデートが終わったら、地道な仕事も受けないとな。


 五十鈴に魔物の情報をウェブで調べさせながら、目の前に積まれた依頼に目を通していく。さて、今日は何と戦おうかな。

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