54.決着
ゴトリ、と第六席が地面に転がる。腹部を真っ二つにされたフェルは、顔に五十鈴を貼り付けたまま倒れた。
【〈獣性解放〉を解除します】
勝負が決まったと見た五十鈴が、僕の〈獣性解放〉を解除してくれる。…………しかしなんだこの、さっきまでの万能感というか、イケイケな状態は。ちょっと恥ずかしいじゃないか。
「な、な――」
フェルがわなわなと震えながら立ち上がろうとするが、そんな状態で起き上がれるわけがない。第六席が動けないのを見て取ったモーガンが、つかつかと僕らに歩み寄る。そして僕の手を取って言った。
「勝者、ユウ!」
だが〈四足歩行〉のせいで上手く腕が上がらない。こっちも解除してくれ五十鈴。
【〈四足歩行〉を解除します】
二本足で立ち上がった僕は、改めて腕を上げた。
◇
部下を呼んで運ばれていったフェルを見送り、僕は冒険者たちからの賞賛を浴びていた。
さっきからずっとテンションの高いモーガンがバシバシと僕の肩を叩いて痛い。
「いやあ! すげー戦いだったな! ありゃ語り継ぐしかないね!」
「や、やめてくださいよ……」
いつもはモーガンの横暴を止めているだろうダッジは、しかし今回に限って何もせずに言った。
「確かに語り継ぐべき戦いでした。あの第六席に勝利をおさめるとは……」
その場の全員が頷いている。だが僕は照れ半分、本気で嫌な気持ち半分で遠慮した。
「やめましょうよ。かなりやり込められてたし……それに、皆さんだって多脚戦車を倒したじゃないですか。あれ『Rank A』でも勝てるかどうかって相手でしょう?」
「そうなんですけどね。第六席を倒すのと比べれば幾分か見劣りするでしょう」
は? なんで多脚戦車を倒す戦果が見劣りするんだよ。どんだけ暴虐の化身だったんだ奴は。
しかし首を傾げている僕に、アルピナが伺うような表情で言った。
「もしかしてユウさんは知らなかったんでしょうか。第六席は、対人戦においてCLDサージェン皇国最強と目されているのですが」
「え、あいつが?」
こと人間サイズの個人戦闘においては、第六席は無類の強さを誇るとされている。戦場では多脚戦車をはじめとした兵器に劣るものの、近接から中・遠距離まで幅広く対応できるその強さは、皇国の正騎士もが恐れる戦闘狂いなのだとか。
「席次に興味がなかったにも関わらず第六席にあるのは、確か第十席だった頃に挑んできた当時の上四人を返り討ちにしたからだとも聞いています」
ほんと酷い逸話がゴロゴロと出てくるな奴は。
「……だから、ユウはこの国で最強の冒険者だということだ」
珍しく発言したズィマーに、周囲がギョッとした。
その微妙な空気を壊すように、パノスが言う。
「あー、ほら。だから詳しい事情は知らんし聞かないが、第六席に勝ったってんならどんな交渉も成立間違いなしってことだよ」
おお、それは重要だ。確かにフェルの実力が国内でそれだけ認められているなら、僕の強さは明らかだ。そう考えると、奴が決闘という形をとったのも頷ける。なんだかんだで僕のために戦いの条件を整えてくれたわけだ。最後はかなりムキになって殺し合いになってたけど。いや最初からか?
……ちゃんと交渉、してくれるだろうか。
不安がよぎるが、こればかりは信じるしかない。新型精霊魔術という天敵のような存在も克服したようなものだし、次にまた戦うようなことがあっても勝てると確信できる。少なくとも数日あれば増えたリソースで新しいスペックも習得できるはずだし。約束を反故にされるようなことがあっても立ち向かえばいいだけなのだ。
ともかく。僕らは地上に戻ることにした。




