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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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53.総力戦

 どのようにその大量の精霊を維持しているのかは知らない。どうせ他人から魔力を提供させるだとか、効率よく魔力を蓄積する電池のようなものがあるのだろう。だが、それでも無尽蔵では有り得ない。


 爪を振るいながら躍りかかる僕を、フェルは左手の短剣を向けて迎撃しようとする。そこに身体強化はなく、ただ精霊の爆発的な魔法の乱舞があるのみ。いやそれですら、術者本人を傷つけないようフェルの周囲は凪のように静かだった。まるで台風の目だ。


「思い切りがいいのね。でも、」


 手首のスナップを効かせて左の短剣を投げる。それは悪手だ、なぜなら僕には射線が見える。難なく避けた。


「私。戦いに負けるの、大ッキライなの」


 そうだろうとも。お前はそういう奴だよ。


 前腕に一筋の線が走り、短剣の柄がポップアップする。押し出される柄を握って、――いや違う。あれは短剣ではない。

 フェルが持ち手を握り、振るった。すると腕から折りたたまれていた多数の刃が、シュルリと伸びた。つづら折れになっていた他節の刃が、生き物のようにしなる。


 ――鞭か!?


「獣を(しつ)けるのに、何がいいかと考えたのだけど。準備が無駄にならずに済んでよかったわ」


『あれはブレードウィップです。多数の刃を連結し、それぞれを電子制御しているものです。鞭とは違って軌道を操れるため、思わぬ攻撃を受けないよう、お気をつけ下さい』


 武器マニアのありがたい助言に、涙が出そうになる。いや出ない。そんな余裕はない。


「我が精霊に命ずる、――〈狙い穿て〉」


 精霊の爆風が止む。と同時に、僕ひとりに焦点を絞った矢のような攻撃が始まる。


 更に接近する僕に対して刃の鞭が振るわれた。地面を這うように低い位置からの奇襲に、対応できるように足元を切り裂くための武器。


 だがそんなものが当たって減るHPはたかが知れている。1点や2点、くれてやればいい。


 ――代わりに、爪を突き立てる!


 凶器の連なる鞭の先端が空気の壁を弾く。滑らかに円弧を描く鈍色(にびいろ)の軌跡が、僕の肩を抉った。


 なおも続く魔法の嵐を受け続けながらも、遂に僕の爪が――届く。


 ここに至ってフェルの顔が苦渋に歪む。武器を振るっても魔法を雨あられのように叩き込んでも、止まらない僕に苛立っている。


〈破魔の霊撃〉(ゴーストブレイク)を使用しました】


 バチン、と爪が精霊を弾き軍服に突き立てられた。分厚いゴムのような感触に突き指しそうになるが、その痛みも〈身代わり羊〉(ヒットポイント)が引き受ける。


「くっ――」

「逃すかよ!!」


 魔力を削った。大量の精霊を使役し、魔術を使いまくった奴にとっては手痛いダメージになるはずだ。


 爪を振るいながら、飛び退こうとするフェルに追いすがる。鞭が下から上へ振り上げられ、なぜか先端が僕の鳩尾に突き刺さるが無視する。


 精霊の火矢が僕の顔に当たるが、ほんのりと温かみを感じただけで亜空間にある羊の人形がひとつ焼失した。


 風の刃が、水の槍が、僕にぶち当たる。どれも僕の歩みを少しでも妨げるため、1点でもHPを削るため、容赦なく攻撃を加え続けるが。


 ――関係ない。


「フィ、〈フィジカル・ブースト〉っ!」


 第六席の全身を薄緑色の光が取り巻く。魔術を使うための一瞬が、今の僕に取っては好機となる。


「――ッ!」


 だが距離が縮まった途端、フェルの蹴りが僕の接近を止めた。HPが減り、蹴り上げられた衝撃で身体が浮き上がる。だが追撃の余裕まではないらしく、飛び退き距離を稼ごうとする。


 ――いま逃したら駄目だ。攻めろ、もっと攻めるんだ!!


 だが精神論で距離が縮まるほど、目の前の敵は甘くはない。フットワークを使いながら僕の側面に回りこみ、精霊の起こす追い風に乗ってその速度を増し始める。地面にブロック状の土塊を用意して僕が進むのを妨害し、水たまりを作っては僕の足を滑らせようと画策し始めた。


 精霊に移動を支援させ始めてから手が付けられなくなってきた。まずい。何か手は――


 ――あった。


 躊躇したのは一瞬のこと。だがこれ以外に手はない。


『五十鈴、後のことは任せたぞ』

『お任せください、ご主人様!』


〈獣性解放〉(ベルセルク)を使用します】


 瞬間、僕の耳と鼻がフェルの位置を告げた。足音で分かる。匂いで分かる。なんでいままで、目で追いかけていたのか分からない。なんでいままで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あハハッ!!」

「――!?」


 思わず笑った。ビクリとフェルが反応したが、そうビビるなよ。


 目をやらずともフェルがどんな表情を作っているのか分かる。いま奴がどんな気持ちで僕と戦っているのか、分かる。


 楽しい。戦いってこんなに楽しいものだったなんて、知らなかった。


 怯える獲物を、ただ狩るだけ。僕が狩る側、奴が狩られる側。


〈単分子ワイヤー〉(ムラマサ・ブレイド)を使用します】


 爪から伸びるワイヤーをフェルに届く程度の長さに伸ばし、軽く巻き上げながら爪を振るった。


 すると振り子のように先端の錘がフェルに向けて走る。〈破魔の霊撃〉(ゴーストブレイク)を纏ったまま、精霊を薙ぎ払ってフェルに巻き付いた。触れた箇所から身体強化がほころび始める。


「――ッ!?」


 声にならない悲鳴を聞いた。フェルから驚きと焦りが伝わってくる。


 巻き付いたワイヤーを跳ね除けようと、精霊を出しながら僕から遠ざかろうとするフェル。だが逃がさない。そろそろ追いかけっこは終わりにして、僕が勝利をもぎ取ろう。


 手順は簡単だ。相手に隙を作ってワイヤーを巻き取るだけ。もう奴は詰みかけている。


「飛びかかれ、――――五十鈴!」

『承知しました』


〈手乗り侍女〉(ハンドメイド)を使用しました】


 フィギュアサイズのメイドが躍りかかる。唐突に目の前に現れた五十鈴にフェルは目を丸くし、その顔面にメイドがしがみついた。


「は、なによこれ!?」


 ――はい、僕の勝ち。


 ワイヤーを巻き取る。精霊を押しつぶし、不可視の妖刀は軍服ごと義体の胴体を両断した。

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