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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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52/60

52.新しい魔術

 ワイヤーがブツリと切れて舞った。


 冒険者達が口を開けて(ほう)けている。


 そりゃそうだ。滅多に見れない精霊魔術を使う宮廷魔術師第六席と、この世界での技術の粋を集めて造られた魔人(ヒューマノイド)とのガチバトル。見ようと思って見れるものじゃない。


 そしてフェルから爆発的に広がる何かは、


『恐らく精霊……だと思われます』


 五十鈴の声も困惑気味だ。ワイヤーを押しのけて膨れ上がる精霊の群れ。エルフの伝統的な儀式で一体と契約するという精霊を、こんなに沢山出せるなど異常が過ぎる。


『五十鈴、精霊とは複数持てるものなのか?』

『考えられる可能性としては、なくもないですが……』


 歴史上繰り返されてきたかの種族の悲劇――精霊を奪うために起こった虐殺は、しかしはじめは上手くいくものではなかった。なんせ精霊はエルフの生涯の友にして相棒であり、いくら魔力を提供されようともその伴侶を殺した者に従うことはない。大抵はエルフが共に死ぬまで戦うことを精霊に強いるため、虐殺を図った側が虐殺されるのも当然の流れだった。

 ならばとエルフの虐殺を行う実行犯と、彷徨う精霊と契約を行う者とを別にすることを考える者もいたが、進んで死にたがる者などいない。とはいえ精霊を確実に得るならばその方法しかないのだから、幾度もそれは行われてきた。


『だが最近は精霊を生み出せるエルフが希少なはずだ。殺してでも奪えるほど、純血種のエルフがいるのか?』

『いいえ。考えられません。他に精霊を得るならば……』


 精霊魔術師は自分の精霊を弟子に継承することができる。死ぬ前に別人に譲渡するのだ。現在の希少な精霊魔術師はこのようにして生まれる。だが精霊を譲渡できずに失うことも多くあり、結局のところ奪えるほど精霊はこの世に存在しない。


「――純血種のエルフがいないなら、造ればいいじゃないの」

「!?」


 フェルの冷たい声に、僕はギョッとして顔を上げた。

 そうだ。純血種がいないなら造ればいいのか。遺伝子組み換えエルフを。


 ゾワリと首筋に鳥肌が立った。精霊を生み出せるエルフを造って、洗礼の儀式を行い、そして殺して奪う。その過程でどのくらいの命が失われたのか。


「あら、想像してしまったかしら? ……でも残念。そんなことする必要はないわ」

「何? じゃあ、その大量の精霊はなんだ!?」


 深緑色の軍服を纏ったフェル。その周囲に、見えない何かが群れている。濃厚な魔法の気配。チラチラと火の粉が舞い、風が巻き、砂がこぼれ、水が滴る。光がまたたき、影が揺れる。雷光が地面から柱のように立ち上る。


「宮廷魔術師にはね。新しい魔術を研究し、開発することが求められているのよ。伊達に十席以内に入っているわけじゃないの」

「新しい、魔術だと?」

「そう」


 左手を持ち上げ、そこにいる見えない精霊を撫でながら、フェルは言った。


「初めは純血種のエルフを生産しようとも考えたのだけど、よくよく調べてみれば、悪いのは儀式の方だっわ。洗礼の儀式は効率の悪い変換術式だったのよ。材料が魂ならば、別に純血でもエルフでもなくて良かったの。ちょっと効率重視の濾過器を作って、魂を加工すれば――人工の精霊の出来上がりというわけ」

「人工の精霊……」

「そう。もちろん、今のところは国家機密に指定されているけど。いずれ死者は魂を国家に差し出し、加工されて永劫、この世で精霊として奉仕活動することになるんじゃないかしらね」


 便利な世の中になるわね、と事も無げに言い放つフェルを見て、僕は背筋が冷たくなる。

 魂の一片すら効率よく社会に還元すべし、という考え方が怖い。そしてなにより、()()()()()()()()()()について考えざるを得なくて怖い。


 僕の存在は魔法そのもの、その仕組は精霊を模倣していると五十鈴も言っていた。ならば人工の精霊を造り出す魂の加工方法は、僕の製造に深く関わりのある魔術だ。


 ……いや。今はそんなことを考えている暇はない。


 目の前の敵を倒せ。フェルへの不審と嫌悪は置いておけ。


 精霊を倒す術は、既に得たのだ。ならばどれだけ大量の精霊が阻もうとも、


 ――全て殺し尽くす。


〈単分子ワイヤー〉(ムラマサ・ブレイド)を使用し直します】

〈短距離加速〉(ショートブースター)〈縮地〉(ワープロード)を連続使用します】


 ワイヤーが走る。先端の錘だけでなく糸全体を加速させ、より多くの精霊に触れるように前へ送る。


〈破魔の霊撃〉(ゴーストブレイク)を使用しました】


 バチバチと光が弾け、精霊が砕ける。だがフェルとの距離は遠い。彼我の距離は15メートルほどあるが、その10メートルをも精霊の群れが行く手を阻んでいる。


 ぞろり、とフェルから溢れ出す魔法の気配。一体どれだけの精霊をその身内(みのうち)に蓄えているのか。

 右腕を失っても顔色一つ変えない全身義体の女軍人は、僕を睥睨しながら唱えた。


「我が精霊に命ずる。――〈滅ぼせ〉」


 カミソリのような小さな風の刃ではない。ひとつひとつの精霊が放つ魔法の弾幕が吹き荒れる。

 火炎にあぶられ、水流に押し戻され、土砂に阻まれ、暴風が制御を狂わせる。ワイヤーは思うように進めず、攻撃の嵐が僕にも降り注ぐ。


【ヒットポイントが5減りました、8、14……】


 恐るべき勢いでHPが減少しはじめる。再び始める死へのカウントダウン。


 軽すぎる。ワイヤーでは魔法の嵐に耐えられない。極小の武器であるからこそ、質量の波に抗うことができない。


 目の前を埋め尽くす数々の魔法をワイヤーだけで切り抜けることは不可能。ならば、どうする。


 手札は己の身があるのみ。ならば答えは考えるまでもなく、


 ――僕が突っ込むしかないだろう!!


 片腕を失ったとはいえフェルに接近戦で勝てるかは未知数。いや分が悪いはずだ。それでも精霊を相手にするならば、この方が早い。


〈単分子ワイヤー〉(ムラマサ・ブレイド)を解除します】

〈四足歩行〉(クワドロペット)〈獣形態〉(ビーストモード)で使用します】


 全身を地面に投げ出し、〈短距離加速〉(ショートブースター)で飛び出す。〈縮地〉(ワープロード)で目の前の空間を縮め、〈破魔の霊撃〉(ゴーストブレイク)で精霊を薙ぎ払いながら、僕はフェルに飛びかかった。

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