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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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50/60

50.決闘

 僕が勝てば、フェルの事情を聞かせろ。暗にそう言った提案に、彼女は乗った。


「いいでしょう。そのくらいのサービスはしてあげてもいいわ」


 何を今更。ずっとサービスだらけじゃないか。


 僕が苛立ちながらため息をつくと、モーガンがバシバシと派手な拍手をしながら進み出た。


「いいねいいねぇ! 決闘とはアツいじゃないか! アタシが立会人になるから、存分にやりな!」


 ダッジが頭を抱えているのが見える。だがこれ以上ないくらいモーガン好みのイベントだ。乗ってくると思っていたぞ。期待を裏切らないでくれてありがたい。


 ……僕が勝った場合、モーガンが勝利を保証してくれるはずだ。逆に、負けたらフェルの為すがまま止めてくれないだろうけど。


 勝っても交渉を反故(ほご)にされたのではかなわない。条件を守らせるためにも、中立である冒険者たちの存在は必須だ。恐らくこの場で決闘を提案したフェルにも、僕の参加を促すために必要なギャラリーだと想定しているはずである。


 モーガン以外の冒険者たちは壁際に寄り、僕とフェルは距離をとって対峙する。コイツと戦うのは二度目だが、最初の夜は逃げるので精一杯だった。喫茶店で襲撃されたときは風属性の捕縛魔術を撃たれただけなので戦ったという感覚はない。今回は、


 ……勝てるはずだ。


 地上戦ならばドラゴンより強いという多脚戦車を相手にして、その全魔法を無力化して動きを封じたのだ。〈身代わり羊〉(ヒットポイント)により即死がない以上、長期戦になるがひとりでも勝てた内容だった。威力不足は感じたものの、装甲にワイヤーを食い込ませるところまではいっていたのだから、時間をかければ切断も可能だったはずだ。

 今回の相手は全身義体とはいえ人間サイズ。どんなに硬くても、腕や脚を切り落せば動きは鈍る。


 とはいえ()()()()()だ。油断は大敵である。


 そして恐らくだが、手加減は望めない。僕を助けるための提案はしてくれるが、だからと言っても彼女は僕を殺すべき立場にある。提案はしてやっているのだから、後は自力で助かれ。きっとそんなことを考えているに違いない。あの夜も躊躇なく部下に銃撃させてたし、軍の命令をねじ曲げてでも僕を救うような義理はそもそもないのだ。どっちつかずで他人任せの、板挟み。


 ……その半端も、終わりにしてやるよ。フェル。


 宮廷魔術師第六席が腰の左右に差した短剣に手を置き、脚を肩幅に開いて上体を半身にして構える。短剣に手を置いているということは、また白兵戦を仕掛けてくるつもりだろうか。

 僕は両手のひらをフェルに向け、足を揃えて真っ直ぐに立つ。ワイヤーが伸びる指先を最初から相手に向けておけば、先手が取れる。足を揃えると動きだしが辛いが、どうせこの場から動かなければならない状況になったら倒れこむようにして〈四足歩行〉(クワドロペット)を発動した方がいい。フェルがしゃがみ込まなければ対応できない低い位置をキープして移動し、反撃に移るという戦法だ。


「よーし、双方準備はいいか!?」


 モーガンが声を張り上げる。楽しそうだなあ。僕とフェルは互いに頷き合う。


「よし、では――始め!!」


〈神経加速〉(アクセルナーヴス)を使用しました】

〈鉤爪〉(クロー)〈単分子ワイヤー〉(ムラマサ・ブレイド)を使用しました】

〈短距離加速〉(ショートブースター)〈縮地〉(ワープロード)を連続使用します】


 視界がブレた。世界がスローモーションになり、十指から伸びるワイヤーが(くう)を駆ける。目に見えない凶器が奴を絡め――


「〈フィジカル・ブースト〉」


 フェルの声と同時に、喉に短剣が突き刺さった。


「ぁ――が!?」


【ヒットポイントが1減りました】


 目の前にフェルがいる。緑色の光を全身に纏い、薄く開かれた双眸(そうぼう)が僕を見据えながら、


 喉の短剣が引き抜かれて左肘に突き立てられ、もう一本の短剣が腹に刺さり、横に掻っ捌かれる。そのまま胴体を通り抜けて胸に刃が埋まった。肩を差し、また喉に突き入れ、右目と左目を順に抉り、耳を削ぎ、脇腹を斬り、太腿を差し、双剣の光跡は僕を切り刻み続ける。斬る。斬る。斬る。斬……


〈零距離助走〉(ロケットスタート)を使用しました】

〈単分子ワイヤー〉(ムラマサ・ブレイド)を解除します】


「うお――らぁッ!」


 なおも追撃の手を休めようとしないフェルに、飛び退きながら爪を振るうことで距離を空けた。しかし白兵戦の距離でなくなれば、そこは魔術師の射程範囲。


「〈エアリアル・スティング〉〈スリー・ウェイ〉」


 三本の風の(きり)が縦に螺旋を描くように迫る。いや実際に射線は渦を巻いて徐々に広がり、回避する者を困惑させようとしている。

だが〈射線予測〉(フォーキャストライン)のある僕は迷う必要はない。そっと身をかわして避けた。


 は、と息を吐いてフェルを見る。全身義体のエルフは、さんざんに僕を攻め立てたというのに、腑に落ちない表情で自分の短剣の刃を指でなぞっていた。


「――血の一滴も流れないの? 思った以上に化け物ね」

「お前が化け物だよ!!」


 身体強化は冒険者の基本。つまり戦闘を行う者の基本だ。当然、フェルもその魔術を修めているに決っている。だからと言っても、これはない。あまりにも速すぎる。悪夢のような強さだ。


『五十鈴、HPはどのくらい減らされた?』

『……最初の一撃を含めて23点です』


 ショットガンの直撃より酷い。一瞬でそんなにHPを減らされるとは。

 とはいえHPはまだ1000点弱もある。戦い続けても死ぬことはない、はずなのだが。


「原理は身代わりの魔術かしら。数は千、たぶん万はないでしょう。例え億あっても殺し続ければいずれストックが……」


 なんかブツブツ言ってらっしゃるんですけど。


 いや、そういえば喫茶店から逃げるときに〈身代わり羊〉(ヒットポイント)を見せている。銃弾を無効化しながら悠々と立ち去ったのだから、幾つか予想を立てていたのだろう。


 ならば当然、対策も準備されているに違いない。


 僕は背筋に汗をかきながら、再び〈単分子ワイヤー〉(ムラマサ・ブレイド)を起動した。

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