48.僕は神様じゃないので
生きているテロリスト三人を連れ、僕らは地上に向かっていた。
ブラバスの死体は持って帰らなければならないため、ダッジとズィマーが死体袋に納めて引きずっている。用意がいいなと思っていたら、珍しい魔物の死体を回収するのは日常茶飯事らしく、常に一人一枚は持っているとのこと。冒険者の標準装備なのだ。
なおブラバス以外の死体はケータイで顔写真を保存し、持ち物だけを回収して休憩所の近くに埋めてきた。魔法で穴を掘って埋める作業なので時間はかからない。
死体といえば、道中のゴブリンの死体は放置してきたが、本当なら解体して肝を採取するものらしい。乾燥させてからすり潰すと薬になるそうで、ひとつ500YENくらいで買い取ってもらえるそうだ。微妙な額だが、ゴブリンは大量に現れるので馬鹿にならない稼ぎになる。特に低ランクのうちは修行がてらゴブリン狩りをするのが恒例なのだとか。
「運悪く囲まれて死ぬ奴がいるんだよ。まあゴブリンに囲まれて死ぬようなら、どうせ冒険者として続かないんだが」
パノスが肩をすくめて言った。出てくるゴブリンを確実に殺し、背後を取られないよう工夫して戦えばそのような事態に陥ることはないそうだ。それができなければランクアップは厳しいし、できるようにするためにもゴブリンとの戦闘は良い訓練になるのだとか。
だが僕には必要ないだろう、とも言われた。地上への帰り道にゴブリンの集団に三回ほど遭遇したが、全て僕が倒したからだ。防御障壁も金属製の鎧もないので、〈単分子ワイヤー〉で面白いほどよく斬れる。摩擦が足りないから切断力がイマイチかもしれない、などと思っていたがそうでもなかった。そもそも理論上はドラゴンの鱗を斬れるだけの威力はあると五十鈴が言っていたのだから、足りないわけがない。多分、戦車の装甲が分厚すぎたのだろう。
だから戦車についてパノスに聞いてみることにする。
「実際のところ、あの戦車とドラゴンだとどっちが強いんですか?」
「戦車だろ。地上戦に限定すれば、だけどな」
あの多脚戦車は地上戦用なので、空を飛ぶドラゴンとは単純に比較はできない。例えば地上で殴り合えば戦車が勝つそうで、武装もろもろ含めてその強さは『Rank A』でも状況次第で勝てるかどうか、といったところらしい。げに恐ろしきは人類の技術である。
「本当ならな。モーガンの復帰のために時間を稼いでから、撤退しなきゃならない相手なんだよ。でもユウが障壁を薄めたから、モーガンが張り切って殴り始めてしまってなあ」
「あ、そうだったんですか」
僕が援護したせいで、脳筋をやる気にさせてしまったのか。普通ならば強力な障壁があるために歯が立たないのだが、僕の浄化コンボは発動中の魔法を解除する。同じく発動した魔法を打ち消す〈ディスペル〉という神聖魔術があるのだが、これは魔法を上回るだけの術者の魔力が必要になるため難易度が高く、なんでもかんでも無効化できるようなものではないそうだ。
「〈ディスペル〉は使えますけど、最新鋭の戦車の障壁を消せるほどの魔力はないですね」
僕らの会話を聞きつけたアルピナが眉を下げて言った。ガトリングガンを防ぐのも精一杯だったうえ、出力の高い戦車の障壁を打ち消す仕事まで彼女が担うのは無理がある。戦闘後の治療までこなしたし、神聖魔術師はパーティの潤滑油のような存在だ。モーガンはアルピナがいなければ、銃撃を食らってうっかり死んでしまいそうなくらいである。
「神聖魔術って色々できますよね。アルピナさんは決まった神様を信仰してらっしゃるんですか」
「いえ。最近の神聖魔術師にありがちな、ちゃんぽんですよ。使う魔術ごとに祈る先を変えるんです」
神殿ではなく専門学校に通って習得したそうだ。車の免許や資格の勉強のようなもので、魔術を扱えるだけの下地があれば大丈夫なのだとか。
『なあ五十鈴。僕も学校に通ったら、魔術を習得できるのかな?』
『魔術を使うのに支障はないはずです。ですがご主人様の場合、リソースの増加を待った方が早いかと思われます』
一生懸命に勉強して火を灯す魔術を憶えるくらいなら、数日待って手元の物体の熱エネルギーを増加させて火をつけるスペックを会得した方が早いということか。
しかし僕も呪文を言いながら魔法を使ってみたい。リソースにも限りがあるのだから、魔術で出来ることは魔術でやった方が良いと思うのだ。
『そこまで仰るなら止めません。……魔導書もありますし、そもそも異世界の魔術を再現することを期待されていたのですから。ご主人様がこの世界の魔術を学ぶことにも意義はあるでしょう』
そうだった。僕には魔導書という名の「魔法とはなにか」的な専門書が搭載されていたんだった。あれまだ読んでないんだよなあ。
『五十鈴はあれ読んだのか?』
『いえ……私が読んでも魔術が使えるようになるわけではありませんので。ですがそうですね、新しいスペックの提案時に参考になるかもしれません。読んでおきたいと思います』
『ああ。僕も時間があれば読みたい。分からないとこがあったら、五十鈴に聞くよ』
『それは責任重大ですね』
ふとアルピナが僕を見て、「あの、こんなとこを聞くのもなんですけど」と前置きをしてから言った。
「ユウさんに祈ったらどんな魔術が使えますか?」
「いや残念ながら、僕は神様じゃないので……」
そもそもこの世界の神様って壁じゃないか。だが冗談ではなく割りとマジな口調で聞いてきたということは、「実は壁の向こうに神様がいるのではないか」派だということだろう。壁の学説も完全に神がいないと証明できているわけでもないので、仕方のないことかもしれない。実際に祈って魔術が使える世界だし、神様の実在は前世の世界よりも信じられているはずだ。
やがて地上へ続くスロープが見えてくる。そこで待ち受けていたのは、軍服に身を包んだ宮廷魔術師第六席だ。部下を引き連れ、テロリストの身柄を引き取る準備は万端といったところか。
……ようやく出口だ。ダンジョンも、僕を狙った一連の事件も終わりが見えてきた。




