46.多脚戦車ふたたび
八本脚に支えられた戦車の胴部、その上面装甲には複雑な模様が浮き上がり発光していた。その模様から光が傘のように広がり、冒険者たちに向けて放たれる。
放たれた光線が戦車を中心とした半球状のドームの中で乱反射する。その光が地面を穿ち、焼き、爆音とともに土砂をまき上げた。
光学兵器。光の波長を焦点に集中させて膨大なエネルギーで焼き切るというものだ。しかしこの世界において、光属性はそれ単独で照射するだけでも破壊力を持つ。正確には光ではなく「対象を破壊する」という効果の魔法が発光して飛んで行くだけなのだが。
『五十鈴、あのレーザーはなんだ!』
『ヤタノカガミの主砲だと思われます。最新式のデータはありませんが、旧式のものならば』
『それでいい』
『はい。結界内にて光属性の破壊光線系の魔術を乱反射させるというもので、広範囲を殲滅する用途に用います。自機を中心に発生させることもできますが、遠方に光線と結界を叩き込むことも可能です』
今回は周囲を薙ぎ払う為に使ったが、本来の用途ならば地面を含めずに反射させ続けるはずだ。そうすれば対象物に命中しない限り、光線は結界内で反射され続ける。魔法である限り、減衰は期待できないだろう。
【〈縮地〉を使用します】
戦場に向けて走る。どんな攻撃だろうと、僕は簡単には死なない。多脚戦車が魔法による攻撃をするというなら、その発動間際に〈魔の申し子〉で結界を浄化すればいい。
基本的に攻撃魔術は触れた瞬間、ダメージとなって効果を終了する。だから僕が触れても光線自体を無効化するようなことはできない。だが反射のために張られる結界は別だ。この結界にほころびを作れば、光線は反射されずにただ放出されるのみになる。これならばアルピナの〈プロテクション〉で耐えられるはずだ。
土色にけぶっていた戦場が晴れる。
先輩冒険者たちは無事とはいえなかった。前衛の三人は血を流し、装備に破損が目立つ。モーガンの右腕が変な方向にねじれ曲がっているし、留め具が壊れたのかダッジの鎧は足元に落ちていた。ハマーは元々が着流しの下に防御用のインナーを着こむという軽装だったため、ボロ切れを纏っているようにしか見えない。ただ頑丈な鬼人族だけあって、しっかりと立って刀を持っていた。
問題は後衛だ。離れた位置にひとり立っていたズィマーは片膝を突いている。重傷のようだ。アルピナとマーキュリーをどのようにかして庇ったのか、パノスは地に伏せていた。アルピナは杖を支えに立ってはいるが、意識がないのか項垂れている。マーキュリーはビキニが切れたのか、片手で胸を抑えているが軽傷のようだ。
一発で戦況をひっくり返された。アレをもう一発撃たれれば、彼らは全滅する。
【〈神経加速〉を使用します】
ギュルっと視界がブレて、スローモーションになる。
【〈単分子ワイヤー〉と〈零距離助走〉を使用します】
両手指から猛烈な勢いでワイヤーが発射された。
【〈短距離加速〉と〈縮地〉を連続使用します】
多脚の間を縦横無尽に縫い、円盤状の胴体にも巻き付ける。
――巻け、巻け。どんどん巻きつけろ!!
狭まった脚をぐるりと囲み、動きを制限する。脚の関節部や胴体との継ぎ目にも巻きつけた。無理な動作をすれば最も脆い間接が破断するように。
もはやこの段に至っては斬る必要はない。イメージは蜘蛛。ワイヤーでグルグル巻きにして動きを制限すればいいのだ。
ギシギシと音を立てて戦車が動こうとする。だが見えないワイヤーに阻害され、思うように脚を振るえないでいた。目の前の傷ついた冒険者たちは、あとひと押しで倒せるというのに、だ。
だからヤタノカガミが強化魔法を使うのは当然のこと。しかしその魔法も、発動する端から僕に触れて霧散する。
もうその巨体に引っ張られることはない。巻き上げない限り、僕の手指からは余分にワイヤーが伸びていくだけなのだから。
細すぎて顕微鏡でしか見えない糸が、何重にも巻きつけられて目に映るようになっていく。車体に食い込む糸が、するすると滑るようにして送られる。
……そうか。これ摩擦が少なくて上手く斬れてないのかも。
細い糸に相手の全体重が乗れば、確かにそれだけで斬れる。だがノコギリのように小さな刃を表面にびっしりと生やせば、摩擦による切断力が期待できるようになるかもしれない。
スペックの改良に考えを巡らせていると、血を滴らせたいい女が左腕を大きく引き絞りながら叫んだ。
「よくやった『Rank E』ッ!! あとはアタシに任せなッ!!」
防御障壁は全て霧散した。ならば後は、脳筋担当がなんとかしてくれるというわけだ。
引き絞られた義腕からは赤々とした魔力の迸りが漏れて見える。ドクン、とその魔力が収縮し、
「〈フィジカル・ブースト〉〈フィスト・バリア〉〈ハード・パターン〉。――〈イグニッション〉、〈バースト・ピアース〉ッ!!!」
爆ぜた。
真っ赤な杭が戦車のボディに穿たれる。防御障壁のない車体の装甲では突き込まれる義腕を止められない。モーガンの前腕がズブリと胴体に埋まる。
打ち込まれた熱と衝撃が行き場を探して荒れ狂う。戦車の表面がボコボコと泡がたつように膨れ、その巨体が浮き上がった。
ワイヤーを通じて感じる破壊の気配。その暴力的な高まりを感じて、僕はブルリと震える。
そうして多脚戦車は、内側から真紅の閃光を撒き散らしながら爆散した。




