42.いや魔物と戦闘させてくださいよ
『Rank B』冒険者にしてパーティ『ニンゲン至上主義』のリーダーを務めるモーガンが「どらっしゃー!!」ともはや何を言っているのか分からない雄叫びを上げ、ゴブリンの頭を破砕した。
あれから幾度か魔物との遭遇があったが、だいたいあの女が真っ先に前に突っ込んで殺している。パノスたちは出る幕もなく、僕の周囲を守りながらそれを見守るだけだ。
モーガンの仲間たちも思い出したように彼女の支援をするが、基本的に手出ししないで済むならそれでいいと思っているらしい。公園で子供を遊ばせている母親のような温かい笑顔で、見守っていた。
「浅い階層だと、俺らには敵じゃねーんだよなあ」
「そうみたいですね」
暇そうなハマーに頷きながら、僕は五十鈴から彼らの武装などについてレクチャーを受けていた。
五十鈴にはウェブで戦闘に関する情報、特に武器や魔法について集めさせていたのだ。だから彼らの武器や戦い方を見て、それがどのようなものかを解説してもらえる。
『モーガンさんは単純に義腕で殴るだけですね』
『ときどき拳が音速超えてるっぽいんだけど』
『ご主人様、音速くらい超えて動けねば戦士とは言えません』
マジかよ。やっぱこの世界の戦士、化け物だったか。ちょっと僕、スペック使いこなせるようになっていい気になってたけど、実はまだまだ弱いんじゃないだろうか。
『ズィマーさんの拳銃は視神経とリンクしていますね。多分、眼球自体を機械に置き換えているのではないでしょうか』
『それはやっぱり、照準のためか?』
『そうです。ですがきっと、ご主人様の〈射線予測〉の方が正確ですよ』
僕は〈射線予測〉のことを銃を避けるための防御的なスペックだとばかり思っていた。だがこのスペック、僕が銃を撃つ側でも発動するらしい。むしろ優秀なレーザーポインターとして使え、発射時に銃口がブレたりしなければ確実に当たるとも言える。銃弾を見てから回避とかされそうなこの世界では未知数ではあるけど。
『こんなことなら、銃を買っておくべきだったな』
『ジネッタ様に買って頂く、の間違いでは?』
そこ、細かいこと気にしない。あと僕がヒモになってるみたいな言い方が地味に傷つく。
『ダッジさんは魔術で強化した剣術ですね。こればかりは技術の賜物、ご主人様も容易には再現できません』
『やっぱりスペックじゃ無理か?』
『剣閃を飛ばしたりすることは出来ますが、秀でた剣術の技量がなければ活かせないのではないでしょうか』
実際、僕も攻撃用のスペックを考えるときにまず思い浮かんだのは日本刀だった。しかし剣道の経験もないし、現状もっているスペックは〈四足歩行〉や〈鉤爪〉など、武器を持って立ちまわるのに向いていないものが目立つ。できれば全てのスペックを有効に使いたい。リソースを占有しながら、使わないのではもったいないのだ。
フェルとの交渉のために準備したが未だに使う機会のない攻撃スペック。そろそろ試しておかなければ実戦で使えるか分からない。ちょっと扱いづらいかな、と反省しているものでもあるので、早めに練習をしなければならないのだ。
「あの、もう大丈夫なので戦闘を試させて欲しいんですが」
バンバン殺すモーガンを見て、早くもゴブリンの死体は見慣れたものになってしまっていた。脳ミソが宙を飛び交う光景とか、夢に出そうだ。
僕の言葉にハマーが「おおい、ユウが戦ってみたいってさ」と声を上げる。
すると「ああん?」と返り血に濡れた顔で美人が台無しなモーガンが振り返った。怖い。ホラー映画の主演女優って感じだ。
「そういや『Rank E』だっけか。アスカリ脅して登録したんだっけ?」
なぜそれを知っているのか。しれっとバラしたモーガンの言葉に、隣のハマーがブチ切れた。
「……ユウ。どういうことだ、おい!?」
「いや、その」
頭一つ分くらい高い位置から睨まれ、僕は思わず腰が引けた。言い逃れは許すまいとハマーが腰の刀に手を掛け、叫ぶ。
「そんなに戦いたきゃ俺と決闘だぁ――ぶは!?」
その頭に水の塊をぶつけたのはマーキュリーだ。彼女はハマーに「護衛対象。分かる?」と僕を指さして言ってから、ハマーの襟を掴んで後方に引っ張っていった。仕事中なのでそれ以上の追求は無理と判断したハマーは、僕を睨むだけでそれ以上は何も言わないことにしたようだ。でも敵を作ってしまったような気がする。
モーガンが「めんごめんご」と呟きながら義手を縦にして謝ってくるが、「お詫びとしてゴブリン何体か回すから」ってのはお詫びとして有効なのかどうか。戦いたいのは確かなんだけど、嬉しくない。
まあ実際、アスカリの件については僕が悪い。半分以上はケーニッヒのせいにできるが、僕が悪くないとは言えないのだ。アスカリは給料を減らされたというし、何らかのお詫びはしなければならないだろう。どうしようかな、換金できるようなものだと売っぱらってギャンブルにつぎ込まれそうだけど。それとも好きにしてもらった方がいいのだろうか。
どうもアスカリのことになると冷静ではいられないハマーの傍では、僕が危険だという判断が下されたようで、僕の護衛を『ニンゲン至上主義』の四人が引き受けることになった。これから試しに戦闘に立つサポートも彼らの方が適任だかららしい。なんというか、事前の予想どおり迷惑かけてるなあ。
僕は軽く頭を下げながら、『Rank B』パーティの中に加わった。




