40.ベテランと中堅と
アスカリは目尻に涙を浮かべ、「どーしてくれるの、もう!」と怒鳴り散らした。
……ヤクザが市民登録証もなしに僕の登録を迫って、登録しちゃったもんね。そりゃ怒られるか。
まったくもって申し開きようもないので、僕は謝ることにした。
「すみません、アスカリさん。迷惑をおかけしたみたいで……」
「ほんとだよ! ユウくんのせいで、今月からかなり厳しいんだよ!?」
ジネッタとフェルが僕に注ぐ視線が冷たい。だが待って欲しい、僕に冒険者登録をさせたのはケーニッヒじゃないか。確かに身分証明証は欲しかったけど。いや……やっぱどう考えても僕も悪いよなあ。
だがそれはそれとして、目の前の怒りをどうやって鎮めようかと頭を巡らせていると、ギルドマスターがにこやかな笑顔で言った。
「市民登録証ないのに受理しちゃったのは、アスカリくんの落ち度だからね」
「はっ、すみませんでした!」
シュタっと飛び退き直立不動になるアスカリ。さすがに上司から注意されると強くは出られないらしい。
「それから、いま第二会議室って空いているか確認してくれるかな。これから使いたいんだが」
「はい。確認してまいります」
アスカリはお辞儀をして執務室を出て行った。
ギルドマスターは意地悪い笑みを浮かべ、僕に言った。
「いやすまんね。彼女に落ち度があったのは確かだが、一言くらいは文句も言わせてやらんとスッキリしないだろうからね」
「いえ、僕がルール違反をしたのは確かですし」
変装を解いてアスカリと話せたので、むしろありがたい申し出だった。ネコミミ美人に怒られるとか、ちょっとクセになりそうで怖い。脳内で五十鈴が『明日はネコミミカチューシャつけて怒りながら起こしますか?』などと聞いてくるが、順調に朝のバリエーションが増えていくなこの子。数カ月後くらいにはどうなっているのか不安だ。
しばらくして会議室が空いていることが分かったので、今回雇う予定の冒険者たちを呼んでもらって顔合わせをすることになった。
◇
二、三十人は余裕で入れそうな会議室に、屈強な冒険者たちが揃っていた。ただその中に『Rank C』と聞いて真っ先に思い浮かんだ人たちがいたので、なんとなくほっとする。ハマー、パノス、マーキュリーの三人だ。やっぱり知っている顔がいると心強いな。
会議室は長テーブルを四つ、正方形のような形で並べられていた。その一辺にハマーたち三人、もう一辺に恐らく『Rank B』の男女半々の四人組。そして僕ら三人が並んで座り、ギルドマスターはアスカリを伴って最後の一辺に座った。
全員が席に付いていることを確認し、早速、ギルドマスターが口を開く。
「さて急に呼び立ててすまなかったね。仕事の依頼だが、これから予定は空いているかい」
「おお、もちろんだとも。アタシらを呼んだってことは、生ぬるい依頼じゃないんだろう? え?」
応えたのは『Rank B』冒険者のひとり、両肩が異様に盛り上がったヒューマンの女性だ。肩にかからない長さで切りそろえられた髪をバックに流し、いかにも身体を動かす仕事をしてますって感じである。美人の部類に入るのは確かだが、例えばアスカリが日本のスレンダーなアイドルだとすれば、この女性はハリウッドの女優のような分厚いゴージャス感がある。
「まあね。じゃあまずは自己紹介しとこうか。そういえばまだ名乗っていなかったかな、私はシンジュク区冒険者ギルドのギルドマスター、エッティンガーだ」
そういえばフェルが名乗りもせずにいきなり用件を切り出したから、僕らはまだ名乗っていない。僕の名前は冒険者登録の件でバレているだろうけど。
「引退したが『Rank A』冒険者でもある。ただまあ、最後の仕事を終えてギルドマスターになるための箔付けに昇格させてもらったから、実力は『Rank B』なんだがね」
エッティンガーは肩をすくめて見せた。組織のトップに戴く以上、『Rank B』のままでは格好がつかなかったのだろう。それをわざわざ言う辺り、親しみやすい人柄なんだろう。顔は怖いが。
次にハリウッド女優ばりの美人冒険者が名乗った。
「アタシはモーガン。『Rank B』冒険者で、一応このパーティを率いていることになっている」
すぐに隣の男性が「ことになってるんじゃなくて、率いているんです」と訂正した。
「うっさい。依頼取ってくるのも決めるのもアンタがやってんじゃんか。……まあそれは置いといて。荒事なら任せな、ドラゴン相手だろうとブチのめしてやるから」
言いながらテーブルの下から右腕を持ち上げ、「コイツでな!」と拳を握りしめて見せた。モーガンの腕は明らかに機械、義腕だった。肩から先、おそらく両腕が機械化されているのだろう。握りしめた拳がミシミシと音を立てている。握力、何キロくらいあるんだろうか。リンゴとはいわず僕の頭くらいなら握りつぶせそうだ。
続いて威勢のいいモーガンとは真逆で大人しそうな雰囲気の女性アルピナ、生真面目そうな印象のダッジと同じく物静かなしゃべり方をするズィマーの男性二人組が名乗った。この四人、全員ヒューマンである。
「アタシらのパーティは『ニンゲン至上主義』ってんだ。まあ偶然、ヒューマンばかりになっただけだけどな!」
この国は人口比率の約半分をヒューマンが占めている。しかし冒険者は体を張った仕事であるため、頑丈な種族や魔法に長けた種族などが多くなるらしい。ヒューマンという種族の利点はなんといっても汎用性だ。言い換えればあらゆる物事に平均的な適正を示すともいえる。それだけに戦闘に対して突出した何かがある種族に比べて、弱い。
とはいえ剣も魔法も鍛えれば両方それなりにモノになるというのは、遅咲きになるのを覚悟すれば十分に冒険者としてやっていける。この場の高ランク冒険者の内、五人までもがヒューマンであるというのがそれを証明していた。
そしてパノスら三人が順に自己紹介し、僕らに回ってきた。まずは依頼主になるフェルが口を開く。
「宮廷魔術師、第六席フェルよ」
その一言だけで、冒険者たちは姿勢を正した。やはりベテランの冒険者、“第六席”と言えばどういう存在なのか色々な噂を聞いているのだろう。
……しかし密偵のような仕事もするだろうに、こんなに有名でいいのかコイツは。
フェルの自己紹介はどうやらその一言だけで済ませるつもりのようで、チラリとこちらに視線をやってそのまま黙ってしまった。名乗るだけでプロフィールが伝わっているみたいだからいいのか。
続いて僕の名乗る番になった。ちなみにさきほどアスカリのために変装を解いたままである。事情の説明のためにどのみち解いて顔を見せる必要があるし、ジネッタがダンジョンに同行しない以上、彼らには素顔を晒さねばならない。
「豊田ユウです。このまえ冒険者登録したばかりの『Rank E』です」
ハマーは「まさかお前がそんな大層な奴だとは知らんかったぜ」と軽い調子で応じた。パノスも訳知り顔で頷いているし、マーキュリーは相変わらず顔色ひとつ変えない。
そして『ニンゲン至上主義』の三人はニュースで僕の顔を覚えていたようだったが、モーガンは周囲の様子を見て「え、有名なのコイツ?」みたいな反応で面白い。きっと脳筋担当なんだろうなあ。
そして最後にジネッタが「ジネッタです」とだけ名乗った。今のジネッタに肩書きはない。もしかしたら自分の素性を知られたくないだけかもしれないから、ロイヤルスイート連泊妖精の闇は深い。そういえば今夜の宿はどうするんだろう。あ、僕はこれからダンジョン直行か。
アスカリは書記のような立ち位置で参加しているらしく、特に自己紹介もなく本題に入ることになった。




