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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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39/60

39.ここはヤクザの事務所ではありません

 僕らはシンジュク区冒険者ギルドにやって来ていた。相変わらず綺麗に磨かれた床に、銀行のような静けさの受け付け窓口である。ジネッタは冒険者ギルドに入ったことがないようで、興味深そうに辺りを見渡していた。


 窓口に立っているのはネコミミ受付嬢アスカリだ。相変わらず美人である。背筋が伸びているから、見ていて気持ちのいい立ち姿なのだ。スラっとしているのに弧を描く尻尾がまたアクセントになっていてそこがまた(たま)らない。話しかけたいけど、いま変装してるんだよなあ。


 フェルは真っ直ぐ窓口に向かうと、「宮廷魔術師よ。ギルドマスターを呼んでちょうだい」と居丈高に言った。目を剥いたアスカリは「ただいますぐに」と言って手元の内線電話を手にした。凄いな宮廷魔術師、名乗るだけで偉い人が出てくるのか。


 しばらく待つと、アスカリが受話器を置いた。笑顔を浮かべて「執務室でお会いしたいとのことです。ご案内します」と言って立ち上がり、エレベーターに歩き出す。

 フェルが僕らに視線をやり、軽く頷く。ついてこい、ということだろう。既に周囲を観察し終えたジネッタと、後に続いた。


 フェルと一緒にエレベーターに乗る僕らを、アスカリが見た。しかし光学魔術で顔も格好も変わっているし、情報が薄められているためその顔も上手く覚えられないはずだ。僕には結びつかない。アスカリは二、三度ほど目を(しばた)かせた。気にしないことにしたのだろうか、アスカリはエレベーターの回数表示に視線をやった。もしかしたら違和感に内心で首を傾げているかもしれない。


 ギルドマスターの執務室は意外と低い階層にあった。二階である。そういえばこのオフィスビル、中にトレーニングジムやバーなど様々な施設が入っているのだった。二階がオフィスになっているのは、ギルド職員が事務処理をするために上階と行き来するのが無駄な手間になるからかもしれない。

 僕はそんなことを思いながら、パーテションで仕切られたフロアが物珍しくて見入っていた。前世でもこういう場所には入ったことがないので、新鮮だ。学校とオフィスってやっぱ違うな。机が大きいし端末置いてあるし、なんか書類が積み上げられてるし。会社ってこういう感じなのだろうか。


 アスカリに先導されるまま、オフィスフロアの奥まったところにある部屋の中に入る。扉は開け放たれており、プレートに『ギルドマスター』と書かれているのが見えた。横に広い木製の執務机に、手前には真っ黒い革のソファと低いガラステーブルの応接セットが置かれている。執務机に座っているヒューマンの中年男性が立ち上がった。


「これは驚いたな、第六席とは。シンジュク区冒険者ギルドへようこそ。どうぞおかけになってください」


 グレーの縦縞スーツにネイビーブルーのネクタイ、茶髪のパンチパーマに丸くて大きな昭和っぽいサングラスをしたギルドマスターは強面(こわもて)で、まるでヤクザだ。冒険者ギルドってまさか広域指定暴力団に数えられていないだろうな。急に不安になる。


 僕らがソファに向かうと、アスカリはお辞儀をしてから、扉を閉めて出て行ってしまった。ああ、もっと見ていたかったのに。

 名残惜しそうに見送った僕に、ギルドマスターは笑顔で言った。


「彼女、美人だろ? ……それとも君の世界の美的感覚ではそうでもないのかな?」

「……え」


 ハッとして僕はギルドマスターを見る。にこやかな笑顔は普通に怖い。

 またもや変装を見破られたジネッタが顔をしかめていた。実力者が相手だと変装の魔術では意味が無いのか。顔を形から変えるスペックはもう今更だし、大半の人には見破られないから良しとするしかない。大丈夫だよジネッタ、お前の魔術はこれまで役に立ってきたじゃないか。そんな顔すんなよ。

 特に返答を求めるでもなく、ギルドマスターはソファに座ってどうぞと手で促した。フェルは何事もなかったかのように座ったし、ジネッタもすぐに気持ちを切り替えたのか表情を戻して腰掛ける。ソファは三人が座っても十分に余裕があった。


 全員が座ると、フェルはおもむろに切り出した。


「迷宮探索のできる高ランクの冒険者を雇いたいの。彼を連れてシンジュク区の地下迷宮に入ってもらうわ」

「ほう。なぜ迷宮に入るか、お聞きしても?」


 ギルドマスターは一瞬だけ僕に視線をやり、すぐにフェルに向ける。どこまで事情を聞いていいのか手探りしているのだろう。僕のことを、そしてそこのエルフが第六席であると知っているならば、ことは国家レベルの大騒動。下手に深入りしたら命に危険があること請け合いだ。

 だがそこはフェルも心得たもので、簡潔に今回の目的だけを語った。


「『激情の秋』のメンバーが潜伏しているはずなのよ。浅い階層だと思うけど、間違いなく武装した集団を相手にすることになるわ」

「なるほど。しかし素人を連れて迷宮に入るのはオススメできないが、彼は連れていかなければならないのかね」


 そう、僕は素人なんです。足手まといになりますよ。もっと言ってやってください。

 内心でギルドマスターのことを応援したのだが、フェルはにべもなく言った。


「彼は連れて行ってもらうわ。向こうも餌を目前にして逃げたりはしないでしょう。それに冒険者登録もしているはずだから、迷宮に入るのはいい経験になるのではないかしら」


 また僕のことを餌にするつもりだったのかコイツ。いや確かに僕がのこのこと出て行けば、ブラバスも釣れるかもしれないけど。

 ギルドマスターは「ふむ……」とひとりごちて苦い顔で僕を見る。どうやら僕が冒険者登録をしていたことは知っているようだ。


「話は分かった。テロ組織の追跡に迷宮探索ということならば、我々の領分だ。協力はやぶさかではない」

「あらそう言ってくれると嬉しいわ。手間が省けるもの」


 宮廷魔術師の持つ権限は強く、冒険者ギルドへの圧力の掛け方も熟知しているのだろう。はなからフェルの依頼を断る選択肢は、ギルドマスターにはないのだ。さすが酷いぜ第六席、やることなすこと効率重視で僕も泣きたくなる。


「それで、いつ用意すればいい。話からすると早い方がいいだろう」

「そうね。じゃあ今すぐに用意できる冒険者はいるかしら?」


 今すぐ、と言われてはさすがのギルドマスターも苦笑するしかない。だが立ち上がって内線電話を取りに執務机へ行くところを見ると、早い方がいいという考えはフェルと同じようだった。


 ……ていうか、それだと僕が準備なしでダンジョンに入ることになるんですけど。


 いや何を準備していいかもパッと思いつかないが、水とかロープとかか? 水はともかくロープなんてあっても結び方が分からない。まあその辺は一緒に言ってくれる冒険者に任せればいいのか。


「今つかまるのは『Rank B』と『Rank C』のパーティがひとつずつだ。シンジュク地下の浅い階層なら彼らで余裕だが、テロリストの武装はどの程度だ?」

「ミネルヴァ製の銃、あとは不明ね。そのふたつのパーティを雇うわ」

「……『激情の秋』が国営企業群の銃を使うようでは噴飯物だからな。分かった、用意させよう」


 あれよあれよという間に話がまとまってしまった。プロが同行するとはいえ、僕のスペックにしいてダンジョン探索向けといえるものはない。単独で戦うことを想定したスペックだから、お荷物確定だぞ。リソースに余裕はないし。


 僕は脳内でスペックの一覧を眺めていると、ノックの後に「失礼します」と声がかかってアスカリが入ってきた。手にしたトレイにお茶の入った湯のみが四つ並んでいる。

 ネコミミ受付嬢にお茶を入れてもらえるなんて、今日は得をしたな、と先程までのいろいろをうっちゃって僕の口元が緩んだ。


 テーブルに置かれたお茶を飲む。普通の緑茶だ。でも美味しい。アスカリが入れたお茶ってだけで、きっとこの世にあるどのお茶よりおいしいに違いない。もはや舌で味わう必要もなく、僕の脳内が「うまい」と告げている。


 そんな僕の顔を見ながらギルドマスターが言った。


「君、変装を解いて顔を見せてやってくれないか」

「え? はあ……ジネッタ、頼めるか?」

「うー?」


 首を傾げながらも、ジネッタは「まあいっか」と変装を外してくれた。


「ども、アスカリさん。豊田(とよだ)ユウです」

「へ? ――……ああっ!?」


 僕の顔を見て、アスカリが目一杯驚いてみせた。いやあ嬉しいな、ちゃんと顔を覚えててくれるなんて。

 だがアスカリは、そのキリっとした目尻を吊り上げて言った。


「ちょっと! ユウくんのせいで私、減給処分くらったんだからね!!」


 僕は思ってたのと少し違う反応をもらって、笑顔のままで固まった。

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