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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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35/60

35.汚されたジネッタ

 幾つか情報をやりとりし、それも終わるとフェルは席を立った。


「私の連絡先は……知っているのよね?」


 端末を取り出しかけて、しかしそもそも僕らから連絡を取ったことを思い出してフェルは手を止める。そう、ジネッタがフェルのケータイのアドレスを割り出したのであった。

 ジネッタは勝ち誇るようにして笑みを作り、「まあね」と胸を張る。しかし続くフェルの言葉によって、その笑みが崩れた。


「じゃあ、貴方たちの連絡先を教えなさい」


 ……当然だよな。


 僕はケータイを持っていない。昨夜、GPSを警戒して折って捨ててしまった。自然、連絡先はジネッタのもつふたつの端末のどちらかになるのだが。

 個人情報を秘匿することに執念を燃やすジネッタが凄く嫌そうな顔で左手側の端末を取り出し、アドレスを交換した。


 すまんな。僕の〈電脳の探索者〉(ウェブコネクション)はウェブの閲覧はできるけど、電話機能までは持っていないんだ。


 〈電脳の探索者〉(ウェブコネクション):ウェブに接続する。ブラウザ画面は〈ホロウィンドウ〉で表示する。また〈手乗り侍女〉(ハンドメイド)を解除した五十鈴が実体化せずに操作することもできる。


 ウェブ上に掲示板でも設置してやりとりする方法もなくはないが、緊急の場合に困る。ことがテロリストの捕縛ともなれば、ちまちまとメッセージのやり取りをするよりも電話の方が早いはずだ。命がかかっているので連絡手段に手を抜くことはできない。


「それじゃ、吉報を待っているわ」


 それだけ言って、フェルはバーを出て行った。

 扉をくぐったのを確認してジネッタがアッカンベーしてるが、そんなにアドレス交換が嫌だったのかジネッタ。


「……向こうの言いなりになって働くことになったけど。大丈夫かな」

「う? そこは大丈夫だって。他に方法もないしね。人探しも得意分野だから、まあこのお姉さんに任せときなさい」

「十七歳設定、どこいった」


 ジネッタはペロリと舌を出して視線を逸らした。


     ◇


 バーを出ると、日が随分と傾いていた。ビルの合間に見える空が、『激情の秋』の腕章と同じ茜色に染まっている。


 ブラバスはこの空の下のどこかにいるはずだ。しかも遠くない場所に。


 ブラバスが空港や港に訪れた形跡はない。ましてや飛行船や旅客船に乗り込んで遠隔地に逃げた可能性もほぼ考えられない。そうフェルは断言した。

 とはいえ車があればかなりの距離を進んでいるはずだ。だが僕がここにいる以上、ブラバスも僕を狙って近くにいる可能性は高い。

 フェルの言葉を疑う理由はないし、なにより遠くに逃げられているようでは僕らの出番はない。


 近くにいるはず。その前提で探すのだ。


「とはいえ、何から手を付けたらいいと思う?」


 僕は逃亡中のテロリストを探すなどという経験は初めてだし、手掛かりもないのでは捜索のしようがない。任せろ、とか言ってたジネッタには腹案があるのだろうか。期待半分、不安半分で尋ねた僕に、ジネッタは「まず買い物しよう」と言った。


「買い物? 何を買うんだ?」

「端末がもう一台、いや二台欲しい。この端末は汚れちゃったから、新しいのを買いたいんだよ」

「……お、おう」


 アドレス交換を汚れとか言うなよ。本当にこの妖精は個人情報に関して潔癖症だ。


「それで、二台ってのは?」

「うん。わたし店では三台使ってたの、覚えてる?」


 そういえば無断でブースを開けたとき、左右二台に加えて正面のディスプレイに触覚を繋げていた光景を思い出す。


「そういえば、触覚あったよな。あの触覚ってなんなんだ?」

「う? あーあれも妖精族(フェイ)の身体的特徴のひとつだよ。昆虫の触覚と羽根が標準装備なの、わたしたち」

「じゃあ普段は触覚だけ変装で隠していて、今は羽根も隠しているってことか」


 だがすぐに「それは違うよ」と訂正された。

 実は妖精族(フェイ)の触覚と羽根は物質ではなく魔法により構成されているものなので、出したり消したりが自由なのだそうだ。更に触れられないようにすることも可能で、特に羽根はじゃまになることも多いので大抵は触れられないようになっているとのこと。


「服着るときとか、邪魔だもん」

「あ、そっか。そういやジネッタのジャージ、背中が開いているわけじゃないもんな」

「でも羽根を消すとそれはそれで窮屈なんだよね。触覚は可愛くないから消しとくんだけど」


 可愛いかそうでないかで決めているのか。その辺は個人の感覚の差が大きいのだろう。実際、妖精族(フェイ)の里ではみんな気にせず出しっぱなしらしいが、都会に出てくると仕舞うようになるのだとか。


「触覚と羽根のことは置いといて。で、ホテルには端末がないじゃない? だからもう一台欲しいなーってね」


 ロイヤルスイートとはいえ無いものは無い。ロビーに共用端末があったはずだが、誰が触ったか分からないようなものでは、ジネッタも満足できまい。


 だがジネッタは更に我儘で、携帯端末は左右のポケットに一台ずつしか入れたくないと言い出した。


「魔術の対象に右か左かで大まかに指定しているんだよ。だからどっちかに二台も入ってると上手く使えないんだよね」

「えーと。じゃあ結局三台目はどうするんだ?」

「ユウが持ってて」


 そうなるのか。


 ジネッタのプランではこうだ。普段は僕のケータイとして使っておいて、ジネッタが三台必要になった時は提供する。そもそも情報処理に集中しなければならない端末三刀流は歩きながらではできないので、ホテルで使うことが前提だ。僕もスペックでウェブは見れるようになったが、電話機能はないのでありがたい。

 まあ払いは全部ジネッタなので、文句があろうはずもないのだが。


 〈電脳の探索者〉(ウェブコネクション)を拡張して電話機能を持たせてもいいのだが、あいにくリソースに余裕があるわけではない。なにより常に自分に繋がる電話とか、それはそれで不便そうではないか。ジネッタではないがプライベートが侵害されるようで気分のいいものではない。掛ける一方にするとか、ドライブモード(運転中)にしておけるとか、きっちり考えておかなければ迂闊に会得できないのだ。


 そしてケータイショップで僕らはフェルとの連絡手段をこの時点で無くす訳にはいかないことに気づき、結局アドレス交換した一台を僕が使い、新しく購入した一台と元からある一台をジネッタが使うということになった。新しい端末を買ってほくほく顔のジネッタを見れたので良しとする。新しい電化製品ってワクワクするからな。

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