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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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33/60

33.交渉再開

 今後の方針について検討する際、国外逃亡も可能性のひとつとして話題にあがる。だがこれがなかなか難しく、いくつかの問題があって見送られてきた。


 まずこの世界では人類の生存圏でなければ安全でないという認識がある。すなわち魔物の住む土地に鉄道は引けないし、上空を飛ぼうものなら飛行する魔物に襲われるというわけだ。


 航空路線はあるにはあるのだが、チケットが高価で利用客は多くない。ジネッタの財力があるお陰で値段はこの際問題にならないのだが、利用者が少ないため搭乗時に厳しく身元をチェックされるのが僕らにとってはマズイ。更に飛行機ではなく飛行船であり、甲板上で飛行する魔物の迎撃をするため常に一定数の護衛が待機しているのも厄介な点で、例えば空の上で彼らを敵に回す状況も考えられる。そうするとハイジャックしてまで国外逃亡するか、という話になるのだがやはり重大な犯罪に手を染めると後が怖い。どこの国へ逃げてもハイジャック犯を野放しにはしないだろう。


 海路は飛行船が船舶に変わるだけで同様の問題が起きる。むしろ空より長旅になる分だけ不利でさえある。


 ならば陸路はといえばこちらも厳しい。都市部を行けば現状は何も変わらないうえ、あいにくCLDサージェン皇国は島国だ。陸路だけでは国外に出ることすらできない。魔物の生存圏を逃げまわるのでは、平穏とは程遠い生活になるだろう。


 そして移動手段をどうにかして国外に逃げても、それだけで僕を追いかける連中が諦める理由にはならないというのが、問題に拍車をかける。連中、世界中どこへでも追いかけてくるかもしれないのだ。そりゃ広い世界を逃げ続ければ捕まりにくいとはいえ、そんな逃亡生活を一生続けるというのも想像するだに辛い人生である。


 よって逃げるという選択肢は、今ひとつ旨味に欠けるのであった。


     ◇


 現状の確認や今後の出方について小一時間ほど話し合ったところで、こちらに近づいてくる人影を見つけた。

 喫茶店で見たときと変わらない女性らしい服装を纏った宮廷魔術師第六席フェル。あんなことがあったというのに、服装には汚れひとつ見当たらない。


 僕は五十鈴の〈手乗り侍女〉(ハンドメイド)を解除し、ベンチから立ち上がった。戦闘になってもいいようにジネッタの手を取る。そして言った。


「よくここが分かったな」

「鬼ごっこやかくれんぼは昔から得意だったの」


 フェルはチラリと虚空を見てから、僕らに視線を戻して言った。


「……ちょうど今、襲撃してきた連中とその周辺に潜んでいた仲間の鎮圧が終わったそうよ」

「テロ組織『激情の秋』だな?」

「そうよ」


 まんまとフェルの仕事に手を貸してしまったわけだ。こちらには何のリターンもなく、ただ危険な場面に立ち会う羽目になった。やはり交渉は勇み足だったのだろうか。もっと慎重に行動すべきだったのだろうか。だが慎重という言葉で自縄自縛になっては意味がない。なんの行動もしないということは、ゆるやかに追い詰められていくのと同じことだ。

 考えの(まと)まらない僕に、ジネッタが僕の手を軽く握り直して助言をくれた。


「こうして出てきたってことは、交渉の続きをしたいってことだと思うよ」

「そうなのか?」

「だって向こうはこのまま姿を表さずに、わたしたちを監視すれば有利にことを進められるでしょ」


 そうか。フェルが姿を現さずに僕らを尾行して滞在しているホテルを特定すれば、向こうは楽に僕らを包囲できたはずだ。そもそも一直線にホテルに戻らずに、一旦別の場所に逃げたのは尾行を警戒してのこと。ならば逆に向こうがそうしなかった理由は、僕らと交渉を持つため以外にはあり得ない。


「フェル。僕らと交渉を続ける、ということでいいのか」

「ええ。まだ私の仕事は終わっていないもの。話の続きをしましょう」


 フェルは周囲を見渡し、「ここじゃ落ち着かないわね。今度は私が店を選ばせてもらいましょうか」と言って踵を返した。


     ◇


 駅の裏手にある繁華街。その雑居ビルの地下に一軒のバーがあった。

 酒を飲むには早過ぎる時間帯だ。とうぜん扉には「CLOSED(閉店中)」の文字。だがフェルは意にも介さず扉を開けて中に入っていく。仕方なく僕とジネッタもそれに続いた。


 中は薄暗く壁一面にグラスや酒瓶がならんでいる。バーカウンターには長髪を低い位置でくくった若い男が、開店の準備をしていたのだろうか、その作業を中断して入ってくる僕らを見上げて溜息を吐いた。


「フェルさん。開店はまだなんですけど」

「あら。人がいないなんて好都合じゃない。奥を借りるわよ」

「……まったく。ここはアンタの秘密基地じゃないっての」


 黒のチョッキに真っ白なドレスシャツ、ノーネクタイなのは開店前だからだろうか。二十代くらいのヒューマンの男は、なんだかんだ言いながら僕らを苦笑とともに迎え入れてくれた。

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