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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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20.汚い大人の悪巧み

 タブレット端末に表示されたエルフの研究者フォーデンが、派手なスーツに身を包むドワーフヤクザのケーニッヒに親しげに言った。


「やあケーニッヒ。待ち合わせの件は悪かったよ。謝る。途中でトラブルにあったんだ。……でもうまくユウを拾ってくれたんだね」

「当たり前や。誰が金の卵を産む鶏を見逃すかい。わしを誰だと思っとる」


 呆然としてふたりを見比べているのは僕だけだ。平然と会話を続けるケーニッヒ。宮廷魔術師フェルは呆れ混じりにしても、この関係を知っているかのように憮然としている。


「ケーニッヒさん。フォーデンさんと知り合いだったんですか」

「おう。いまさら気づいたんか。抜けとるのう」


 そりゃそうだ。ヤクザが何の利益も見込まずに行きずりの少年を拾うわけがない。利益は確定していたのだ。僕が国営企業群イセの実験兵器、魔人(ヒューマノイド)であるのだから。

 いや。だがそれを知っていてなぜ僕を自由に行動させたんだ。黒服たちに狙われているのに、危険ではないか。

 僕の疑問に「なにを当たり前のことを」とケーニッヒが呆れ顔で返した。


「お前を泳がせて交渉するためやないか」

「交渉? いったい誰と何を交渉するんですか」

「決まっとるやないけ。おうフォーデン……は無理そうやな。宮廷魔術師のフェルゆうたな」


 フェルは眉をフラットにしたまま突っ立っている。無言だ。まるで聞くまでもなく内容が分かるから、とでも言いたげな表情だ。


「お前さん、このガキをいくらで買う?」

「……な」


 僕は目を剥いてヤクザを見た。いやそうだ、ヤクザだよこいつは。車で突っ込んできて助けられたとでも錯覚したのか。何を期待してたんだ僕は。


 ……ヤバイ。


 この話がどう転んでも、僕にとってはロクな結末にならないのが目に見えている。危険は去っていない。むしろまるで悪い夢でも見ているように、更なる危険がすぐ傍で牙を向いた。


     ◇


 ドナドナで売られる牛の仔の気分を味わいながら、僕は会話の成り行きを見守るしかなかった。


「言ってる意味が分からないのは、わたしの頭が悪いのではないわよね?」

「せやな。むしろ優秀な娘さんだと、そこのロクデナシから聞いとるで」


 ケーニッヒは顎でタブレット端末を示す。


「自慢の娘やとも、聞いとるわ。ただ自分の体を大事にせん親不孝者やとも嘆いとったが」

「ロクデナシとは酷い言い草だ」


 フォーデンのモデルが苦笑を作る。


「今の私の身体だとむしろ説得力が皆無で、これからどうこの娘に小言を捻り出せばいいのか、それが目下の悩みの種だね」

「はは。そらそうや、一片も残さず電子化されとるお前の方が酷いくらいやないけ」


 何が楽しいのか笑い合うふたりの男たち。嫌な顔をしているのは僕だけじゃない。会話の渦中、オジサンとオッサンに挟まれたフェルが苦い顔をして黙っていた。

 どうやら宮廷魔術師第六席フェルはフォーデンの実の娘らしい。この親にして娘あり。肉体を軍用全身義体に置き換えたスパイの娘と、完全にタブレット端末に閉じ込められたいるマッドな研究者の父親。なんだ似たもの親子じゃないか。

 楽しそうに笑う壮年男性ふたりを黙らせるかのように、フェルは右手を上げて黒服に銃を構えさせる。半分ほど車に()ねられて動けなくなっているが、銃を持っているだけに半分もいれば充分な脅威だ。


「この状況で。わたしたちがお金を出して彼を買う理由があるかしら?」

「そのおっかない筒をこっち向けられると辛いんやけどな。どや1億ほどで買わんか」

「お話にならないわ」

「手間暇かけんと、金積めばお目当てのガキが手に入るんや。安いもんやないか」

「悪いけど。ここにある銃全部のマガジン撃ち尽くしても、そんなに(かさ)まないのよ。計算できて?」

「あかんあかん。金で()うとき。ヤクザにチャカ向けるとごっつ高くつくんやで。知っとるか、お嬢ちゃん」

「ヤクザの代紋で軍が止まると思っているの。吹き飛ぶのはそっちじゃないかしら」

「それや。なんでサラリーマンなんぞ率いとる。自前の部下はどないした」

「……、」


 ケーニッヒの言葉にフェルは唇を噛んだ。

 それをみてヤクザは畳み掛ける。


「お嬢ちゃん、まだまだ青いなあ。そんなんで陸軍情報部は大丈夫なんか」

「……」

「あかんやろ。軍に内緒で勝手しとったら、マズいのはお嬢ちゃんや」

「……」

「せやったせやった。お嬢ちゃんはフォーデンの娘やったわ。そんな奴でも親父は親父や、見捨てられんかったんやな」

「それで手詰まり?」

「……あン?」


 ケーニッヒの表情が消え、今度はフェルが不敵に微笑んだ。


「ブラフだけでよく舌が回るものだと感心していたのよ」

「……」

「人情話に持ち込もうとしたお手並みは面白かったわ。ヤクザの芸もたまには観賞してみるものね」

「……」

「つまり手札に役なし、――ブタなのね?」

「あかん、しくじった! ユウ、逃げろッ! 絶対に捕まったらあかんでッ!」


 ……へ?


 僕は話しについていけず、途中から呆けていた。

 え、なに。結局なにがどうなったの。

 ケーニッヒに逃げろと言われた。僕を逃していいのか。だが逃げていいというなら逃げたい。今すぐこの場から離れたい。


 脳裏のスペックを確認する。〈神経加速〉(アクセルナーヴス)はまだ再使用できない。この状態では逃げようにも逃げられないじゃないか。


 位置関係は最悪。背後は住宅の塀、右に行けばその身を軍用義体に置き換えた宮廷魔術師、左に行けば銃を構えた黒服たち。


「撃て!」


 フェルが叫ぶ。同時に黒服の持つ銃が一斉にマズルフラッシュを放つ。


 ――死んだ。


〈射線予測〉(フォーキャストライン)を会得しました】


 思うが早いか、脳内に響くスペックのアナウンスとともに僕は本能的に身体を捻る。最小限の動作だが、いくつかの銃弾が僕を避けて通るように住宅の塀に穿たれた。

 跳弾の軌跡が複雑な死を描く。それも避ける。分かる。銃口から伸びる線に触れてはならない。絶対にだ。


 死んだと思ったが、まだ世界は続いている。動いている。どっと全身から嫌な汗が噴き出た。


 顔の生ぬるい汗を手で(ぬぐ)う。べったりと手についた赤色に正気を手放したくなるが、僕の身体に痛みはない。

 横を見れば、ドワーフのど派手な黄色いスーツに赤い染みが幾つか出来上がっていた。口角を吊り上げて(わら)う様は悪鬼羅刹のごとし。ヤクザの悪相ここに極まれり。


「ケーニッヒさん……!」

「ボケが! はよ逃げんかい、このウスノロッ!」


 目を血走らせながらケーニッヒは叫んだ。そして地面に片手をつき、天に吠える。


「〈トンネル〉ッ! 〈サンドウォール〉ッ! ――〈インスタント・トレンチ〉ッ!」


 アスファルトがめくれ、僕の足元が陥没する。同時に目の前に砂の壁が高くそびえ立った。


「クソッ! こんなん時間稼ぎにもならんわ」

「ケーニッヒさん、血が……」

「うるさいクソボケがッ!」


 ケーニッヒは懐から手のひらに収まりそうな小さな拳銃を取り出し、僕に向けた。


「お前のせいや。なんでわしがこないな目にあわんといかん」

「……え?」

「金になると思ったんや。せやのに、なんで。なんで軍なぞが出てきよる」


 銃口から伸びる震える射線。僕はそっと身体を横に反らす。

 パン、と乾いた音と共に僕の足元を銃弾が跳ねた。


 ……撃った。撃たれた。


 この期に及んで悟った。このヤクザは徹頭徹尾、(カネ)のことしか頭になかったのだ。

 僕を連れて逃げるフォーデンから()()()算段だったのだろう。しかし僕だけがやって来たので、ひとまず手元において企業あたりに売ろうと考えたに違いない。

 そして今夜。僕が走り回った挙句に黒服たちに囲まれた。勢い込んで乗り込んでみれば、そこにいたのは宮廷魔術師、第六席。防衛省陸軍情報部に出入りのある全身義体の軍人。

 想定していた相手ではない。往生際悪く僕を金に変えようと足掻くも、他に何の手札ももっていないことがバレて交渉は破綻した。そしてこのザマだ。


 ああでも悲しいかな、それでも僕はこのヤクザを憎むことがどうしてもできない。

 車で突っ込んできて黒服をなぎ倒したのは、僕をタダでかっさらわれないためだったかもしれない。

 交渉が破綻したときに僕に「逃げろ」と言ったのは、僕が連中の手の中にない限りは交渉の可能性が残るからだったかもしれない。

 即席で作った砂の塹壕は自分を守るためで、たまたま僕が横にいただけかもしれない。


 それでもその逆の可能性がある。どうしても僕はこのヤクザが、実はひとのいい任侠なのだと、どこかで思いたくて仕方なかった。


 黒い影が音もなく舞い降りる。短いマントをはためかせて、仄かに緑色に光る風を纏って。

 ――宮廷魔術師、第六席フェル。


「あら。仲間割れ?」

「く、来るんやないッ!」


 二度の発砲音。ケーニッヒの小さな拳銃が火を噴いた。二発の射線は宮廷魔術師の顔面に注がれている。だが軍用の全身義体は伊達(ダテ)ではない。

 小さくフェルの頭が二度揺れた。銃弾が命中したのだ。しかし何事もなかったかのように、平然と彼女は立っている。


「狙うなら眼球にしなくてはダメよ。装甲のある部分は、その拳銃では貫けないから」

「な……バケモンやないか」


 ケーニッヒの顔が引きつる。そうだよ、そいつは化け物なんだ。

 纏った風を後方に噴射しながらフェルの身体が沈む。砂埃が舞ったと同時、フェルの突き出した拳がケーニッヒの鳩尾にめり込んでいた。

 ドワーフヤクザの手から拳銃が(こぼ)れて地面に落ちる。そして呆気無くケーニッヒは地に伏した。


「さあ『ボーイ』。第二ラウンドを始めましょうか」


 全身義体(サイボーグ)の宮廷魔術師が、魔人(ヒューマノイド)の僕の前に再び立ちはだかった。

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