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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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17.宮廷魔術師第六席参上

 宮廷魔術師フェル。第六席を名乗る彼女は、僕を『ボーイ』と呼び、あまつさえ迎えに来たと言った。


 宮廷魔術師とは、CLDサージェン皇国において魔術のエキスパートかつその実力を国家に認められた者達のことである。国益のために魔術の研究と研鑽を求められるが、それに付随する権力は大きい。こと魔術に関することとあらば各省庁は彼らに最大限に協力する義務を負っており、どこに行っても下にも置かない厚遇ぶりは貴族や国会議員もかくやという有り様だ。国防に関わるため防衛省が管理運営こそしているものの、実際の所属は宮内庁であり、皇族から直接叙任される名誉ある官職である。

 その選定試験は厳格で合格者は年に2~3人程度、総数は150人ほど。中でも上位10名は別格で、席次を付けて呼ぶのが習わしとなっている。

 即ち第六席とは、この国で上から数えて6番目の実力を持つ魔術師であるということだ。以上、脳内百科事典より。


「宮廷魔術師? 国営企業群イセじゃないのか」


 なぜそんな人物が自分の前に立ちはだかっているのか分からない。


「分からないの? あなたの逃亡は、既に国家の一大事だと目されているのよ」

「国家の……一大事?」


 そんな大事になっているのかよ。実験兵器の逃亡、確かに危険なワードだ。でも僕は、僕自身は兵器だなんて自覚はないのだ。兵器だから国に管理されろ、などと言われても御免被りたい。

 そもそも。フェルの背後にいる黒服たちには昨日、銃を向けられている。そんな連中を従えた奴の言うことを聞けるはずもなかった。


「昨日の連中と何が違う。僕には同じようにしか見えない」

「そこは同感ね。私も彼らを見分けられないもの。でもここにいる彼らの所属はイセよ。昨日、あなたを追いかけたミホの連中とは全く別の部隊なのよ」


 フェルは肩をすくめて見せた。

 イセ本社とミホ・マギテクノロジー。やはり国営企業群イセの中で、僕という実験兵器の取り合いをしているという筋書きなのだろう。ではそこにしゃしゃり出てきた宮廷魔術師の目的はなんだ。


「それで。あんたの目的はなんだ、フェル」

「目的はあなたを連れ戻すこと。戻る先は……そうね、イセじゃなくて防衛省の研究施設ね」

「……防衛省」

「そう。防衛省はイセから相応の額で『ボーイ(あなた)』を買い取る準備がある」

「買い取る? 僕を?」


 なんて勝手な言い分。イセから僕を買い取る。そこに僕の意見の入る余地はない。

 物を買うように右から左へ。


「人身売買かよ。国家が、それを率先してやるのかよ」

「国家だらかこそやるし、できるのよ。そもそも、あなたに人権とかあると思う?」


 ない。あるわけがない。人間と同じ文化文明を持っていても、人類と認められなければひとくくりで魔物とみなされるような世界だ。実験兵器として生まれ落ちた僕に、人権なんて贅沢なものが与えられるわけがない。

 腐ってやがる。この世界は最悪だ。最低だ。胸糞悪い。

 僕は諧謔(かいぎゃく)を込めて言ってやった。


「はは。人権なんて言葉、よく知ってたな」

「…………」


 フェルの口がへの字に曲がる。自覚は合ったようだ。人権を口にするには、彼女の仕事は汚れ過ぎだ。


「あなたの境遇には同情するけど、謝罪する気はないわ」

「どこかで聞いた台詞だな」


 そう。どこで聞いたんだっけか。これと似たようなことを言われたような気がする。

 するとフェルは背後の黒服のひとりからタブレット端末のようなものを受け取り、そのディスプレイを僕に向けた。


「その台詞、この人が言ったんじゃないかしら」


 ディスプレイには3Dモデリングで作られた壮年男性のバストアップが表示されており、僕を見ている。ポリゴンが粗いが、間違いなく見覚えのある顔だった。


「オジサン……」

「やあ。一日ぶりだね、ユウ」


 驚くべきことにそいつは喋った。3Dモデルがぎこちなく動き、オジサンの表情を再現した。

 僕がこの異世界に生まれ落ちて初めて見た顔だ。忘れようもない。エルフの研究員がそこにいた。


「そういえば名乗る直前でお別れしていたのだったね。改めて名乗らせてら貰おうか」


 もったりとタブレットの中のオジサンの口元が動き、言った。


「私はフォーデン。ミホ・マギテクノロジーの『高位人型』研究チームを率いている。いや正確には率いていた、だな」


 オジサンのモデルが肩をすくめる。


「なんせ見ての通りの身体だ。動かせる手足は現実にないし、ネットワークからもスタンドアロンだ。僕はこの端末の中に閉じ込められている。かろうじて生かされている形だが、実際はもっと酷い。いや君の境遇とどっちが酷いかと言われれば、迷うんだけどね」


 そして楽しそうに笑った。何が楽しいのか、面白いのか、僕には分からない。オジサンの場違いに空虚な笑いが、辺りに響いた。

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