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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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13/60

13.酒席でとなりが水着女

「僕、まだ武器持ってないんですよね。その槍、パノスさんのですか」


 ブンキョー区で起きた銃撃事件とミホ・マギテクノロジーで起きた爆発事故。これらについての聞き込みがケーニッヒから僕に与えられた仕事だ。

 いきなり物騒な事件について聞くのは躊躇われるため、別の話題から入ることにした。


「うん? そうだよ。ほらハマー。あいつデカイから刀でもリーチあるんだよ。俺も戦士だから、アイツと歩調を合わせようと思ったら、リーチある武器じゃないとキツいんだよね」

「なるほど。そういうのも大事なんですね」


 着流しに刀を差した鬼人族(オーガ)の青年、ハマーを思い浮かべる。確かにあれの隣で戦うなら、ヒューマンは槍を構えるくらいじゃないと並べないかもしれない。

 さて、そうすると隣に座っているビキニ姿のマーキュリーはどう戦うのか。未だに一言も喋らないマーキュリーに話題を振ってみる。


「マーキュリーさんは武器を持ってるように見えないですけど。戦うときはどうされてるんですか?」

「わたし?」


 ひとり静かにグラスを傾けていたマーキュリーが片眉を上げた。どことなく大人びていて色っぽい雰囲気のひとだ。


「わたしは魔法使いだから。武器は持たないわ」

「そうなんですか。杖とかも要らないんですか」


 マーキュリーは頷いて、またちびりとグラスを傾ける。会話は終了してしまったらしい。

 苦笑しながらパノスが言った。


「普通の魔術師なら、焦点具やら術式媒体やらで杖が必要なんだが。マーキュリーはな、人魚族(マーメイド)なんだよ」

「へえ。人魚族(マーメイド)だったんですか」


 脳内百科事典によると、上半身が女性で下半身が魚の種族を人魚族(マーメイド)、上半身が男性の場合は半魚族(マーマン)と呼ぶ。これらは完全に別の種族だ。

 人魚族(マーメイド)は他の人類の男性と、半魚族(マーマン)は他の人類の女性との間に子供をなす。どうも互いに異性とは認識し辛いらしく、人魚族(マーメイド)半魚族(マーマン)が夫婦になる例は稀である。

 そして人魚族(マーメイド)半魚族(マーマン)は陸地に上がる際に、下半身を人間の下肢に変化させる能力を生まれつき持っている。

 また魔法が得意な種族で、系統立てられた魔術も習得できるが、生得の魔法と呼ばれる本能的に水を呼び出し操る魔法を使うことができるのだ。これは生まれつき持っているもので、杖などの道具を一切必要としない。

 なお半魚人といえば頭部が魚で人間の手足を持ったサハギンがいるが、これは人類に数えない。魔物である。


 改めてマーキュリーを見た。分からない、完全にヒューマンと見分けがつかない。

 僕が正直にそう言うと、パノスは笑って言った。


(おか)に上がった人魚族(マーメイド)はヒューマンと変わらないからな。そうと知らなきゃ見分けはつかん」


 自分の話題になっていても我関せずの態度を変えず、マーキュリーが口を開く様子はない。

 この話題も長く続くまいと判断すると、僕は昨日の銃撃事件について聞いてみることにした。さり気なさを装って、だ。


「それで武器なんですけど。僕ってあんまり腕力に自信がないんですよ。銃ってどうなんですかね。昨日もブンキョー区で銃撃事件があったとか聞いたし、あんまり良い印象がないんですが」


 どうか事件の話題に乗ってもらえますように、と祈るような気持ちをひた隠しにして反応を待つ。

 するとパノスは訳知り顔で頷いた。


「ブンキョー区の事件か。銃撃事件は珍しくないが、昨日のはちょっと違ったみたいだな」

「え。何が違ったんですか」

「ここだけの話、昨日の銃撃事件は国営企業群イセの工作員の仕業らしい」

「イセの? なんでまたそんな……」

「なにやら実験兵器の取り合いだかなんだかで、企業群同士の小競り合いだったそうだよ」


 実験兵器。それは魔人(ヒューマノイド)のことか。僕の話なのか。

 思わぬ重要情報が転がり込んできたことに、僕は拳を握りしめた。いきなりアタリを引いた。

 (はや)る気持ちをなだめながら、どうにかもっと詳しい情報を引き出そうと言葉を選ぶ。


「へえー。企業群ってのは銃撃戦をやらかすほど仲が悪いとこもあるんですか」

「そりゃそうさ。ひとまとめにイセと呼ぶことも多いが、別の会社である以上、競争もあるし足の引っ張り合いもするよ。血で血を洗うのは日常茶飯事さ」


 ひとまとめにイセ。そうイセとはそもそもどんなものなのか。僕は未だにそれが掴みきれいていない。

 前世は社会人経験のない高校生だった僕は、企業というものがどういうものなのか、ちゃんと知らない。異世界の企業となれば尚更だ。

 脳内百科事典にある知識を総動員して、会話を切らさないように言葉を紡ぐ。


「そもそも僕、企業ってのがよく分からないんですよね。確かイセが国との窓口で他の企業を管理している、とかなんとか」

「そう。企業群を統括しているイセをCLDサージェン皇国が管理している。イセ自体も企業のひとつだし、皇国が直接関与する企業もイセだけではないってことを忘れなければ、基本的にはそれで合ってるよ」


 やった。なんとか国営企業群イセのイメージも聞けた。さあここからが本番だ。


「しかし物騒ですね。確か……昨日は他にもありましたよね。どっかの研究施設が爆発したとか」


 するとパノスは身を乗り出して人差し指を口に当てた。


「その話、どこで聞いた? メディアには出てないはずだが」

「それは……」


 しまった。そうだ、そんなことをケーニッヒが言っていた。ニュースになっていないことをジネッタが驚いていたじゃないか。

 いや待て。じゃあそれを知っているパノスは、一体なんなんだ。


「……すみません、出処はちょっと。でもパノスさんもご存知なんですね」

「まあな」


 素早く周囲に視線を走らせ、パノスは低く抑えた声で言った。


 ……よし。対応は間違っていない。この情報は、知っている人は知っている。情報収集に余念のない冒険者なら、しかるべき筋から入手できる類のものなのだ。


 ふわふわと足元が浮いているような。綱渡りをしている気分で、僕は会話を続ける。


「なにか知りませんか」

「……驚いたな」

「え?」

「本当に『Rank E(新米)』か? そんな情報、知ってどうする」

「それは」

「いや言うな。聞きたくない。手に余る」


 そこまでか。知れば危険が及ぶ、そういうレベルの話なのか。

 自分の置かれている状況に改めて背筋が冷たくなる。


「パノスさんの手に余るくらいなら、僕じゃどうしようもないな。僕も忘れることにしますよ」

「……そうだな。そうした方がいい」


 ダメだ。これ以上は聞けない。不審がられる。

 冒険者になりたての『Rank E』が嗅ぎ回るような事件じゃない。金に汚いヤクザが目の色を変えて追いかけるような案件だ、半端無く危険(ブラック)に決まっている。


 神妙な表情で同意したフリをして、僕はオレンジジュースをひとくち飲んだ。味が分からなかった。

 ハラハラしながらもなんとか聞き込みを終えた主人公でした。事態が進行するような情報を入手して驚く場面は、書いてても楽しいです。

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