神楽の決意と決別
舞を舞った後に待ち受けた勧誘の嵐。怒涛の勢いとはまさにあの事だと神楽は思った。
「あの時は、あんなに気に入られるとは思っても見なかったよ」
ほんのお礼代わりに舞っただけなのだ。それが認められるだけで無く、勧誘までされるとは神楽にとっても嬉しい誤算だった。
なにしろ村に保護してもらったところで神楽が馴染めるかどうかは別の話だからだ。
明らかに異国人にしか見えない神楽を村人たちとて扱いに困るだろう。下手に関わり馴染もうとして失敗した場合は…………最悪、神楽は村には居られまい。
それに比べたら神楽を渡り人と知っているフレイ楽団は神楽にとって最善の居場所なのだ。
何故なら普通なら知っている筈の常識なども彼等になら簡単に聞くことが出来る。いざとなればフォローだってしてもらえる。
私が世界の常識を知らないことを知っている。危害を加えない。この2つが私にとって異世界で生きていく上で必要なことだからだ。
…………元の世界に帰りたい。その思いが無いわけではない。だが、どうやって帰るというのだ。こちらの世界に、どうやって来たのかすら分からない状態で見たこともない危険な生き物や環境の中で帰る術を探すことが出来るとでも?
………答えは否だ。出来るわけがない。
ライトノベルの中でなら主人公や登場人物達はこの状況に歓喜したり、帰還の方法を探す旅に出たりするのだろう。だが現実は生きるのに精一杯だ。あるかどうかも分からないモノに固執して時間を費やしたとして、どれだけのモノを得ることが出来るのか?
これは単純に損得の問題だけでは無い。
これが同じ世界だったとしても自分の知らない場所で生きるということは決して楽なことではないのだ。それが異世界ならば尚更である。
生きる場所に適応していくということは、いままでの自分を捨てる………いや、殺して創り変えると言ったほうが正しい。同じ世界ならばまた違っただろうが───。
一度創り変えた自分を、仮に帰れたとして異世界に来る前と同じように生活していくことが出来るだろうか………?
私には、無理だ。
精神が、耐えられない………。
他の人が聞けば『親兄弟、友達だって心配している』『元の生活が出来るかなんてやってみなければ分からない』『帰る方法は探すべきだ』『決めつけるのは早い』とか言われそうだが、そんな当たり前のことは分かっているんだ。
分かっていて帰れない、帰らないと決めたのだ。
「………お前が、楽団に入団を決めた時は、嬉しかった」
「……え?」
私はこの時、少し驚いていた。
カムロとは初めて逢った時から私と組むことが多かったが、彼が心情を吐露することはなかった。
楽団の中でただでさえ無口なカムロは自分のことを話さない。私が知っていることはハープ奏者としての腕が一流であり、器用で几帳面な性格をしていて私より一つ年上であることぐらいだ。
「……お前の舞に合わせて演奏するのは、楽しい」
普段無愛想に見えるカムロの鉄仮面に優しさという熱が灯っているように見えた。
「カグラ、俺は「いま戻ったぞー!!」……………」
カムロの台詞を遮ってリムが帰ってきた。
「「………」」
空気を読まず登場したリムのせいで神楽とカムロの間に微妙な空気が漂っている。
するとリムはカムロの肩に腕を回して引き寄せた。
「はっはっは!な~に、固まってんだ?お前らせっかくの貴族の邸だぜ?もっと楽しんだらどうよ!!」
カムロは鬱陶しそうに顔をしかめ、神楽は、あははと苦笑いした。
と、リムはなんだか嫌な笑みを浮かべながらカムロに何事か囁いた。
神楽の距離からではリムが何を言ったのかは聞こえなかったが…………カムロの瞳には明らかな怒気が籠もっていた……………。
リムはカムロに何を言ったんでしょうねー。分からないなー。(白々しい)
次回、其は天上の舞姫
カムロ視点でお送りしま~す。
お~た~の~し~み~に~ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ