窓辺での語らい
あの時のような穏やかな夜だからだろうか。神楽は窓辺に肩肘を立てながら、初めて彼等と出逢ったころの思い出に、1人浸っていた……。
他の楽団員のみんなは神楽も含めて出番は終わっているので各自好きに過ごしている。
アーリア団長は他で雇われている楽団の団長と会談している。その娘マリーはめったに来られない貴族の邸を見学しに行った。リムは邸に仕えている使用人の女性をナンパしに向かい(今も恋人募集中)、ソフィアとアレンは共に広間での宴を後学の為に見学しに行った。クロードは……………怪しげな商人と商談していた(怖くて誰も近寄ろうとはしなかった)。
(クロード……今度は何を創る気なんだろ………)
クロードの趣味は物作りである。薬から旅の道具、料理まで彼は手掛けているが………出来るモノがなんとも独創的というかアクが強いというか、実用性の乏しいモノが出来上がるのが殆どだ。完成品の実験に付き合わされて団員全員が被害にあっている(神楽も経験済み)。
「良い夜だなー」
窓辺から入る穏やかな風と、広間から届く歓声を感じながら外の景色を神楽は楽しんでいた。
「………楽しいのか?」
──低く、されど耳に心地良い声が景色を楽しんでいる神楽に掛けられる。
「そう見える?カムロ」
少し離れた場所に陣取っていたカムロに、神楽は振り返る。
「………質問しているのは俺の方なのだが」
カムロは広間で使っていたハープの手入れをしている。……低くともよく通る声には若干、不機嫌そうな色が混じっていた。
神楽はクスクス笑いながら楽しいよ、と答えた。
「演舞の後でこんなに静かに過ごすのは久しぶりだから……なんだか昔のことを色々思い出していたんだ───」
「……昔のこと?」
「そう。………私が初めてフレイ楽団のみんなに会った時のことを」
カムロがハープから神楽に視線を移した。無言で続きをうながすカムロに神楽は穏やかに語る。
「憶えてる?私がアーリア団長に誘われてそのまま楽団に入団した日のこと」
「……あぁ」
「本当は渡り人という事を隠して近場の村に保護してもらう予定だったのを、アーリア団長たら……私が元の世界で芸事をやっていたと知るやいなや、実際に見せてみろって言って」
『異世界の芸だなんて面白そうじゃないか。カグラ、ちょいとアタシらに見せてくれないかい?』
神楽のカバンに入っていた衣装と小道具を見て興味を抱いたアーリアと、近くにいたソフィアがそれに加わった。
『私も観てみたいわ。異世界の踊りなんてめったに観れるものじゃないもの!』
『お?どうした、どうした。なんだか面白そうな事を話してるな』
近くにいたリムが加わり。
『ん~?どうかしたのかね』
更にクロードが加わって、最終的にフレイ楽団のみんなが神楽の舞を求めたのだ。
『分かりました。皆さんには助けてもらった恩もありますし、良ければ一舞、ご覧に入れましょう』
神楽も快く承諾し、カバンに入れていた練習用の衣装と領布を取り出して舞う準備を始めたのだ。
「あの時はカムロが演奏をしてくれたんだよね…」
「……」
最初にカムロの演奏を軽く聴いた後、神楽はその演奏に合わせて腕を翻し、舞始めた────結果。
「みんなポカーンとしているから駄目だったのかと思って焦ったんだよね。私」
しかし、その静寂の後のみんなからの拍手に神楽は気圧された。
そしてアーリア筆頭にフレイ楽団みんなから入団の勧誘を受け、私は応じたのだ。
次回、神楽の決意と決別
ちょこっとシリアスになります。
ご期待ください。