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フレイ楽団との出逢い


 神楽が隣りに座ったのを合図に赤毛の少女が大鍋の中の汁物をみんなによそっていく。アーリアに渡し次にクロード、カムロ、短髪の男性、銀髪の美女、濃い茶髪の少年、そして私にもよそってくれた。最後に自分のをよそってパンの入ったカゴを大鍋の横に置く。


「さて、みんなに行き渡ったね。それじゃあ。いただこうか」

「「「「「「はい(うん)」」」」」」


 アーリアの言葉に他の人達が返事をする中、神楽は戸惑っていた。


(私も、食べていいの?)


 この世界に来てから飲まず食わずの上に獣道を歩き通し、トドメにイノシカゲに襲われるなどの不運に見舞われていた神楽はこの展開について行けてなかった。


 いや、でも、とりあえず………。


「あのー、遅くなりましたが、私は涼森神楽といいます……先程、イノシカゲに襲われていた所を助けてもらったばかりか、気絶した私を運んで頂きありがとうございました」


 ペコリと頭を下げる。自己紹介とお礼の言葉は人としての基本。この人達がどういった生業をしている人達かは分からないけれど、恩人であるのは紛れもない事実。


 危機感が無いとか考えて足らずかも知れないが………もし、彼等が人攫いや人身販売をするような輩ならその時はその時だ。


(たとえ先生との約束を破ることになってしまうとしても、その時がきたら私は全力・・で彼等から逃げよう)


 密かに覚悟を決めている神楽の頭をポンポンとアーリアが優しく叩く。


「気にしなさんな。渡り人のお嬢ちゃん。アンタもいきなりのことで驚いたろ。今は、ご飯でも食べて英気を養いな」

「………渡り人?」


 渡り人て何??


 そんな神楽の心の声が聞こえたのか、アーリアは事もなしげに言った。


「アンタ、ここではない別の世界から来たんだろ」


 告げられた言葉に息を呑んだ。


「どうしてそれを………」


 神楽の呟きにやっぱりね、とアーリアは苦笑している。周りが驚いた様子が無いところ、どうやらみんな、神楽が異世界から来たと察しているようだった。


「聞いたときは半信半疑だったけど、まさかホントに渡り人だったとは……あぁ、渡り人ていうのはアンタみたいに異世界から来た奴らのことを総じてそう呼ぶのさ。最も渡り人の話なんざ今じゃお伽話みたいなもんなんだけどね」

「俺も渡り人なんてホントにいるとは思わなかったぜ」


 短髪の男性がそう言うと何人かの人達も頷いている。


「……どうして、私が渡り人だと思ったんですか?」


 神楽の服装か外見か。いったい彼等は何を基準に私を渡り人だと判断したのか、何よりも───。


(この人達は私が怖くないの?)


 彼等からすれば神楽は得体の知れない人間だ。いや、異世界人である神楽を『同じ人間』だとアーリア達は思ってくれているのだろうか?


「クロードがそう言ったんだよ。『このお嬢さんは渡り人だ』て」

「クロード、さんというと………」


 チラッと紫髪の彼を見る。


「そういえばお嬢さん以外自己紹介が未だだったね。俺の名はクロード。このフレイ楽団のしがない奇術師さ」


 おどけるようにクロードが名乗るとアーリアはそういえば、と神楽に向かって名乗りだした。


「うっかりしてたよ。アタシはフレイ楽団ていう旅をしながら芸を披露する楽団団長のアーリアだ。そっちにいる赤毛の子はアタシの娘のマリー」

「私、歌い手をしているの!よろしくね!!」

「うん。よろしくね」


 元気のいい返事に神楽も返事を返す。


「そんでもってアッチにいるのが」

「俺はナイフ投げのリムだ。恋人募集中の25歳だ。よろしくな!」


 短髪の男性──リムを輪切りにみな次々と自己紹介をしてくる。


「私は踊り子のソヒィア」

「笛吹のアレンだ!!」


 銀髪の美女が微笑み、濃い茶髪の少年が偉そうに名乗り。


「…………ハープ奏者のカムロだ」


 最後に神楽を馬車から降りるときに助けてくれたカムロが名乗った。改めてみなの自己紹介が終わったところでクロードが続きを話す。


「で、俺がお嬢さんを渡り人だと思った理由だが……何となく、だな」

「はい?」


 何となくって、え゛!?


「ちょっと待ってください。皆さんクロードさんのそんな曖昧なもので私が渡り人だと納得したんですか!?」

「まあ、クロードだし」

「クロードですものね」

「クロードだからな!」

「クロードだもんな」

「………」


 何気なく言うもの、ため息混じりに言うもの、自信満々に言うもの、目線を逸らしつつ言うもの、無言で肯定するもの。


 誰が誰かは推して知るべし。


(…………クロードさんて何者?)


 みなのクロードだからで通じ合っている様子に神楽はクロードに対して警戒心が芽生えた。そういえば、イノシカゲの首をよく判らない方法で飛ばしてたなこの人。


 神楽が胡乱げにクロードを見るのも仕方ないだろう。


 アーリアの「クロードに関しては慣れな」の一言が妙に印象に残った。彼等と初めて出逢った時の優しくて温かくて懐かしい記憶だ。



 神楽がすべてを失った後、初めて手に入れたモノ彼女の人生を彩る最初の欠片。



 次回、窓辺での語らい


 次回から神楽の回想編から現在に戻ります。

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