氷炎の貴公子
蒼い光彩を放つ銀色の髪に目を奪われる。
マテウス王子から私を庇う背中に、私は思わず硬直してしまった。
部屋に何時、入ってきたのか分からない第三者とマテウス王子とのやり取りを、私は黙って聞いていることしか出来なかった………。
「き、貴様!一体いつこの部屋に入った!!私が誰だか分かっているのか!この無礼者!!!」
「貴殿が何者か、存じ上げていますよ。アバンギャルド国の第三王子マテウス様。しかしながら使者として我が国に訪れた貴殿が、何故、我が国の公爵家の方が手配なされた貴賓室にいらっしゃるので?」
あたふためいて怒鳴り散らすマテウス王子に、対峙するその人はいっそ慇懃無礼よろしく、淡々と返す。
「公爵家の手配した貴賓室だと!どうゆう事だ、舞姫よ!!ここはそなたの部屋ではなかったのか!?何故そなたが公爵家が用意した部屋にいるのだ!」
そ こ な の か ! ?
気にするべき所はそこなのか、馬鹿王子。まずは自分がこの国の公爵位にある貴族が手配した部屋に刺客をけしかけ自身も不法侵入したことのヤバさを理解しなさいよ!
銀髪の男性も同じことを思ったのか、彼から冷気が漂ってきた………さ、寒気が。
「………愚かだとは思っていたが、まさかここまでだったとは…………」
背中に悪寒が走る。彼が、どんな顔をしているの、マテウス王子の青ざめた表情を見れば何となく察しがつく。
庇ってもらっといてなんだけど、この人、怖い。
「そう言えばまだ名乗っていませんでしたな。私は王宮騎士第二団騎士長 アンドラーシュ・グランヴェル」
「グランヴェル……だとっ!?」
彼の名を聞いたマテウス王子は慄いて後ずさった。
私も聞いたことがある。
確か先の戦争でアバンギャルドの大将を打ち取った王宮騎士の名だったはずだ。
冷静沈着。
冷めた美貌。
鋼の意志。
洗礼された振る舞い。
だが、その全てを裏切るかのようなあまりにも苛烈な戦い方に、ついた渾名が 氷炎の貴公子。
「……どうやらこの部屋には賊が侵入していたようだ。隣国の使者である貴殿の安全が最優先のため、どうぞこちらで用意したお部屋で待機していてください…………貴女は救護室に来てくれ、怪我をしている」
すぐさまここから離れるための方便と気付いた神楽は彼の言葉に頷いた。どこから見ても私にはかすり傷ひとつも無いのだから。
「貴殿も早く去られよ。このような事態に、何時までも女性の部屋に留まれるのは醜聞となりかねませんし、貴殿の望みでもなかろう………配下の方々もいらしたようだ」
アバンギャルドの騎士が走ってくるのがドアの隙間から見えた。
この茶番も、これで終わりだろうか?
マテウス王子はアバンギャルドの騎士達によって部屋から連れ出されていった。
…………騎士達から逃れようと暴れているようだが、鍛錬している騎士とただ守られるしか能のない王子では逃げるのは無理だろう。
『王子!落ち着いてください!!』
『あなた様は我が国の使者としてこの国に招かれているのですよ!立場をお考えください!!』
『ええい!黙れ黙れぇ!!あそこには我が愛しき舞姫と我らが憎き仇、グランヴェルがいるのだぞ!?今こそ雪辱を晴らしもせず、引き下がるとは何事か!!』
『『本当にお止めください王子!!!』』
わめき散らす馬鹿を必死で止めながら引きずっていくアバンギャルドの騎士達。
マテウス王子を連れて行く騎士の1人に見覚えがあった。
あの人は確か彼の…………。




