悪夢と対峙
鮮やかな華のように飛び散る鮮血、何が起こったのか分からないというキョトンとした瞳……。
ゆっくりと倒れ落ちる小さな肢体───。
とっさに手を伸ばしても、その手は空をきるだけだった………。
『リリーーーーーーーーーー!!!!!」
少女の父親の叫びと、彼女自身の命の色が地面に注がれる。
私は衣装が紅く染まり重くなっていくのも気にすることなく少女を抱きかかえた。
絶望に染まった、父親の絶叫を聞きながら腕に抱えた少女の瞳から光が消えていくのを、私は見ているしか出来なかった…………──。
●○●○●○●○
二度と会いたくなかった。
神楽の目の前にいる男、マテウス・アバンギャルド第三王子。金髪金眼というアバンギャルド王家直系しか持たない証を持つ1人。しかも正妃腹なので王位継承権は第一位。
正式な王太子の位を襲名してこそいないが、次期国王に最も近い男だ。
「安心するがいい、我が舞姫。余が来た以上、そなたには指一本たりとも触れさせはしない………!」
「………」
部屋の中の状況なんて何のその。マテウスは左手を胸に、右手を神楽に伸ばすように向けながら1人で話しを進める。
「怖かったであろう。さぁ……我が胸に飛び込んでくるがいい!!」
「………………」
氷点下の視線を向ける神楽にさぁさぁと両手を広げて突っ立っている王子。
「自作自演の茶番が不発に終わったのが見て分からないんですか?この状況下でよくもまぁ……ぬけぬけとほざきますね。馬鹿だクズだ下衆だカスだ下劣だ外道だ、とは知ってましたけど昔と比べて更にふざけた方向に成長していることに心底驚きましたよ………。まさか更に下が在るだなんて、知りたくもない事実をこれ以上増やさないでくれませんか?…………………………………………お礼参りしたくなるので」
侮蔑に満ちた嘲りは、何故かマテウスは喜んだ。被虐嗜好にでも目覚めたのだろうか?この変態が。
「礼なぞ必要はない、愛しきそなたの為だ。余が駆けつけるのは当然のこと………しかしまぁ、どうしても礼がしたいなら、そうだな……そなたから余に口付けすることを特別に許してやろうではないか!」
……違った。自分にとって都合のいい方に解釈している(聞いていない)だけか、すこぶる面倒だな。マダオめ。お礼参りの意味も分かってないな。赤面した顔が気持ち悪い。
というより、襲撃犯はすでに神楽の手によって捕獲されているので一体この馬鹿王子になんのお礼をするというのか。礼は礼でもお礼参りする理由しか本当にない。
「消えろ、カス王子が………」
嘲笑しか含んでいない言葉が神楽の口から放たれる。普段の神楽は砕けた所もあるが基本的には礼儀正しい女性である。相手に対してあからさまな侮辱や暴言なぞ言うことはほとんど無いに等しい………そんな神楽がここまで言うのだ、4年前に見た悪夢は今もなお神楽を縛り、傷づけ続けている証拠だった。
アーリアが今回、神楽にカムロを付けたのはアバンギャルドの使者を気にしていたからだが、まさか元凶である王子が使者として訪れているとは思わなかったのだ。知っていればアーリアはシシル国から団員を連れてとっくに逃げ出していた。
……何故なら相手は仮にも一国の王子。どんなに向こうが悪くともこちらからは手出しが出来ない。逃げる以外の防衛手段が無い。
「照れているのか?愛いやつよ………」
「……………………………………………………」
言葉が通じないことがこれほどストレスを感じるとは知らなかった………。『消えろ、カス王子』のどこに照れを感じる要素があるのかまるで分からない!!!
マテウスは、いつまで経っても飛び込んでこないのは神楽が照れていると本気で思っているのだろう。マテウスは自分から神楽に近づいていく……。
「あぁ、我が舞姫………麗しの………」
恍惚とした表情を浮かべるマテウスに嫌悪感しか浮かばない神楽だが、下手に手出しする訳にもいかず、何時でも逃げ出せるように脚に力を込める。
(こうなったら隙をみてカス王子の横を抜けるしかないか。全く、カス王子のお守役とシシル国からの監視役は何をしているの!!)
心の中でおそらく居るであろう監視役達に罵声を浴びせつつマテウスを警戒心たっぷりの目で睨みつける。
マテウスの手が神楽に伸ばされようとした、その時────。
「何をしているのだ、アバンギャルド国の使者殿」
触れる寸前のマテウスの腕を掴み、神楽を庇うようにして男が立つ。
アンドラーシュ・グランヴェル。
これがシシル国王宮騎士、第二団騎士長を務める男と神楽との初めての出逢いだった。
次回 マテウスの目的
ところで今回のタイトル………ミスった感がある気がするのは何故だろう? (?_?;
『悪夢と対峙』、変更すべきか?
今日のお昼頃に更新します。




